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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十五章 迫り来る変化と終演編
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裏幕 出会い

アクセスありがとうございます!



 精霊力を回復させる為に森林地帯で眠っているところを、通りかかった商人に少女は囚われてしまった。

 しかし目覚めた少女は封じの枷をものともせず破壊。捕らえた商人を馬車もろとも精霊術で吹き飛ばすことで危機を脱するも、ただでさえ消耗していた精霊力を怒り任せな精霊術によって枯渇寸前。


「やっと目を覚ましたのかい」


 自身の失態に悔いながら意識を失うも、目を覚ました少女が最初に聞いたのは老婆の声。

 見えるのも年期のある木造の天井で、全身を包む柔らかな感触と温もりから布団だと思われるがとりあえず。


「……ここは?」


「わたしの家だよ。少し待ってな」


 いまいち思考が巡らない少女は声のする方に問いかければ老婆は適当に返すなりどこかへ行ってしまう。


「なんな――あれ?」


 老婆の対応に不服を抱きつつ、少女は身体を起こそうとするも目まいに襲われ失敗。

 無理な精霊術は起き上がるのもままならないほど負担だったのか身体に力が入らず、布団の中でもぞもぞするのが精一杯で。


「……なにをしてるんだい」


 そんな少女の耳に再び老婆の声が。


「それが……身体が動かなくて」

「だろうね」


 再度問いかければ呆れながらも傍らまでやってきたお陰で老婆の顔が見えた。

 声の印象通り気難しげな顔つきで、眉間以外のシワの付き方や結い上げた白髪から大凡七〇才ほどか。

 もちろん少女が探している御子とは違い年齢を重ねた白髪。感じ取れる精霊力から精霊術士と呼ばれる部類だろう。


「ほれ、これを腹に入れれば少しはマシになるよ


 などと見極めている間に老婆が口元に匙を近づけてきた。

 先ほど退室したのは食事を用意する為か、匙の上には小麦を梳かしたような食物が湯気を立てている。また微かに匂う香りが空腹を思い出させて無意識に唾を飲み込ませた。


「別に毒なんて入ってないから安心しな」


 ただ老婆はせっかちなのか、それとも捻くれているのか、口を開かないのを警戒していると勘違いして面倒げに急かしてくる。

 意識を失う前の出来事も踏まえて人間に対する印象が悪い。しかしこの老婆が害するつもりなら眠っている間に拘束なりしている。わざわざ目を覚ますのを待ち、食事を与えるのなら少なくとも敵意はない、くらいは少女も理解できる。


「……ありがとう……あむ」


 故に口を開く少女に老婆は匙の食物を流し込むよう与えてきた。

 どろっとした食感でもほどよい温もりで、胃に入るなりじんわりとした温かさが全身に行き渡っていくのを感じる。

 同時に食欲を促進させたのか、もっと欲しいと無意識に口を開ける少女に老婆は追加の匙を近づけてくれた。

 

「口の中に含んでゆっくりと飲み込むんだよ」

「うん……あむ」

「なんせ十日も眠っていたんだ、胃がびっくりするからね」


 注意を受けて今度は口に含み少しずつ喉に通す。

 十日も眠っていれば身体を動かすのも億劫になる。なら老婆は十日間も自分を見守ってくれたのか――


「十日!?」


 などと納得しつつ老婆の看護を受けていたが、ようやく回り始めた思考が少女を起き上がらせた。

 意識を失ってから十日も経過しているのなら、あの厄災はとっくに目覚めている。


「ダラードはどうなったの!? そもそも……あ――」


 なら厄災はどこにいるのか、ダラードにいるかもしれない御子を心配するも再び目眩に襲われ倒れ込む少女に老婆はため息一つ。


「たく……無理するんじゃないよ」

「だって……だって……っ」

「ダラードなら無事だよ。霊獣の大群やら精霊種の出現で大騒動だったらしいけど、王国最強の精霊術士さまが見事討伐してくれたお陰で死者もでなかったそうな」

「王国最強……?」

「ラタニ=アーメリ、あんたも名前くらいは知ってるだろ」

「……そう、なの」


 正直なところ老婆の言うラタニ=アーメリは知らないが、あの厄災を討伐する可能性がある精霊術士など一人しか思いつかない。

 そして死者もゼロならロロベリア=リーズベルトも無事。厄災を討伐するラタニ=アーメリは想像以上のバケモノと身震いするも、少なくとも最悪の結果にならずに済んだと安堵する。


「ん……? ダラードで騒動が起きたのはあんたを拾った翌日……なんであんたがダラードを心配するんだい」

「……あ……その、それは……」


 だが老婆の訝しむ眼差しに少女は口ごもる。

 厄災が目覚めた頃、ここで眠っていた自分がダラードの安否を気にするのは矛盾している。かといって事情など説明できるはずもないのだ。


「まあいいか。わたしには関係ないことだし、あんたの事情なんて興味もないからね」

「…………」

「それよりもあんたが元気になってくれないと困るんだよ。だからさっさと食べな」


 そんな少女を他所に老婆は首を振り匙を近づける。

 お陰で難を逃れたが老婆の行動こそ矛盾している。


「……アタシに興味が無いなら、どうしてアタシを助けたの」


 倒れていた自分を偶然見つけたとしてもわざわざ自宅まで運んでくれた。

 加えて精霊術で周囲を更地に変えている。先ほどの失言も踏まえれば自分を不気味に感じるだろう。

 奇妙な状況で見つけたのなら善し悪しはともかく興味は抱くはず。

 本当に興味が無いなら放っておけばいい。

 なのに興味がないと突っぱねるくせに目を覚ませば元気になるよう食事を与えてくれる老婆の真意が分からない。


「こう見えてわたしは医者でね。息も絶え絶えなおこちゃまを見つけたら、面倒でも無視するわけにもいかなかったのさ。まあ職業病みたいなもんだよ」

「おこちゃまって……」


 疑問に対し老婆はよく分からない理由を口にする。医者として無視できなかったとしても、利のない面倒事を受け持つはずがない。たださえ不審な状況下で見つけたのなら尚更だ。

 それとも善人に思わせて自分を油断させて、何かに利用するつもりか。

 人間に対する印象が悪いからこそ再び沸き上がる警戒心のまま睨み付ける少女だったが老婆はどこ吹く風。


「だからってわたしを善人とは思わないことだね。食事代や滞在費、治療費も含めてきっちり払ってもらうよ」

「…………それは善意の押し売りというんじゃないの」

「善人と思わないように言ったばかりだろう?」


 とても意地悪な笑みを浮かべる老婆の言い分に妙な納得をしてしまうがそれよりも。

 要求される金額以前に、お金になるような物はローブに入れていた。そのローブも商人らと一緒にどこかへ吹き飛んでいるはずで。


「でも……アタシ、お金ないし……」

「なら働いて返すんだね。その為にも元気になってくれないと困るんだよ」


 つまり手持ちが無いと正直に答えれば老婆からとんでもない要求が。


「分かったならさっさと食って、わたしの為に働きな」

「…………あむ」


 しかし他に方法も無いと少女は口に含んだ食物と共に文句を飲み込む。

 正直なところ勝手な要求など無視すればいい。ある程度回復さえすればこんな所に用はないのだ。

 ただどんな理由だろうと老婆に恩が出来たのなら返さなければ主君が悲しむ気がする。

 なによりロロベリア=リーズベルトが無事と分かった。傍に厄介なラタニ=アーメリというバケモノが居るのなら、万全な状態に戻さなければ対策もとれない。


「あんた名前はなんて言うんだい」

「……ミライ」

「ならミライ、しっかり働いてもらうからね」

「仕方ないわね……」

 

 そんな言い訳で自分を納得させながら少女――ミライは奇妙な老婆の要求を受け入れた。




鍵を握る少女の続編でした。

謎の少女改め、ミライを助けた経緯も判明しましたが老婆との出会いがミライにどんな影響をもたらすかは今後の裏幕をお楽しみに!


ちなみに時系列的にはロロがサクラさまに事情を明かした辺りの出来事です。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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