式典に備えて
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王都の屋敷に帰省してすぐ始まったカイル、ティエッタ、フロイスの先輩方との模擬戦。
ティエッタは約束していたミューズとの再戦もあるが、カイルと同じくロロベリアとの手合わせ目的でもあった。
結果はカイルに続いてティエッタも敗北。
「ロロベリアさんも真の強者道を着実に進んでいるようですわね。お陰で気を引き締めることができましたわ」
「さすがお嬢さまです」
真の強者道はさておいて、敗北しても前向きに捉えて次に繋げる二人の姿勢はやはり尊敬できるわけで。
一通りの対戦を終えた後は、ある種三人が最も楽しみしていたアヤトとの模擬戦。
一対一から組み合わせを変えての一対二、更に一対三の連戦の結果は言うまでもなくアヤトの圧勝に終わったが、久しぶりの時間を三人は終始楽しんでいた。
また久しぶりと言うことで三人を誘って一緒に夕食を摂りつつ談笑を楽しみ解散。帰宅する三人を見送ってからは各々で時間を過ごすことになった。
「待たせたか」
「問題ない」
そして事前に打ち合わせした通り、ニコレスカ邸近くで馬車を停めていたカイルの元にアヤトが合流。
もちろんロロベリアたちには出かけてくると伝えているが、アヤトの奔放はいつものこと。まあだからこそ勘繰られるもカイルとの合流が目的と知られなければいいだけ。
故にカイルから合流を聞かされていた御者もアヤトが馬車に乗るなり走らせた。
「それで、ラタニの現状はどうなっている」
「カルヴァシアの想像通りだ」
元より内容はラタニ関連と気づかれているだけにカイルは無駄話もせず切り出した。
若くして王国最強となり、その類い稀なる才能や奔放な振る舞い、平民人気の高さからラタニは敵が多かった。
しかし精霊種の単独討伐によって立場は大きく変わっている。特に霊獣の大群に参加した者たちを始め、ミルバを認めさせたこともあり軍内でも味方が増えている。
お陰でこれまで冷遇されていた環境だけでなく貴族からの評価も変わった。それだけ精霊種討伐の功績は大きい。
つまりラタニの振る舞いに目くじらを立てるよりも、友好的に接した方が有益との判断した見事な手のひら返しなのだが、それだけならまだ良かった。
「問題は先生を敵視していた派閥が今回の功績でより意固地になっていることだ」
「ラタニと仲良くすることで得られる利益よりも、古くさい風習を重視する奴もいるからな。そう言った連中ほど力を持っているだけに余計に質が悪い」
カイルが取り上げた問題をアヤトが受け継ぐよう、手の平を返した者たちはラタニの才能に対する嫉妬心から敵視していた。だが王国最強の称号を持つのが平民という部分に拘っている者たちは違う。精霊力を持つ者と持たぬ者、貴族と平民のような差別は現国王になってから少しずつ取り払われていようと、未だ拘る者は当然いるわけで。
要はラタニとの繋がりで得る利益よりも、血筋に価値観を抱くからこそ敵視する。加えて今まで共にラタニを叩いていた貴族が擦り寄る光景は更に面白くないのだ。
ラタニの勲章授与に最後まで異を唱えていた者たちは、自分たちとの繋がりよりも先生との繋がりを優先されれば面子も潰れる。
ただでさえラタニの存在を疎ましく感じていた中、自分たちの権力も軽視された状況となれば強硬策に出る可能性はある。ラタニを相手にどうこう出来なくとも、式典を潰すくらいの愚行を実行しかねないとカイルは懸念していた。
「もちろん陛下も警戒しているが、カルヴァシアの言う通り相手が相手だ」
「侯爵家の先輩の耳にも届いているなら国王もそれなりに情報は掴んでいるだろうが、そもそも実害が無ければ安易に手も出せないか」
「最近よく集会をしている、程度の情報ではさすがにな」
「つまり、その連中が仲良くお話ししている様子を俺に探れと」
学院に訪れる前は国王からの依頼で諜報活動をしていたアヤトとの接触を試みたが、今までのやり取りでカイルは気になることが一つ。
「話が早くて助かるが……陛下から依頼されていないのか」
アヤトの能力を知るからこそ既に国王も依頼していると思っていたが、反応を見る限り詳しい情報までは知らないようで。
それとも国王からの依頼を外部に漏らさない為か、元々表情などで心中を読み切れないアヤトなだけにカイルは判断に悩んでしまう。
「今のところされてねぇよ」
「……そうなのか?」
「先ほど王都に来たばかりだ。これから呼び出される可能性もあるか」
訝しむカイルに肩を竦めつつもっともな理由を返すも、実のところ国王からの呼び出しは基本ラタニ伝手。更に言えばラタニからマヤを経由してアヤトに届く手段だ。
なら今回の件を国王は依頼するつもりがないのか、それともラタニが敢えて伏せているのか。
「とにかく国王の考えは知らんが、先輩が気になるなら暇つぶしに探ってやるよ」
「もちろん礼はさせてもらう……俺に出来ることであれば、になるが」
「先輩には卒業前に良いお勉強をさせてもらったからな。そのお返しで構わん」
「……そうか。なら俺が知る限りにはなるが、警戒して欲しい連中の情報を伝えておく」
真相は後ほどラタニに直接確認するとして、今はカイルの依頼として受けたアヤトは反ラタニ派の家について教えてもらうことに。
「もし何か分かれば俺ではなく陛下に直接伝えてくれ。その方が対策も取りやすいだろう」
「先輩が出しゃばったと国王に知られるぞ。ま、そんなものにいちいち目くじらを立てる国王ではないがな」
「構わん。先生は俺にとっての恩人だ……だからこそ、先生の晴れ舞台を愚かな連中に台無しにされたくない」
今まで冷遇されていたラタニが正当な評価を受け、変わりつつある状況を邪魔されたくない。故に国王から既に依頼されてるか分からなくともカイルはアヤトに持ちかけた。
それだけの恩義がカイルにはある、例えラタニが名誉に拘らなくとも輝かしい舞台に立って欲しい一心で。
「なるほどな。なら念のため俺の方から国王に接触してみるか」
「……カルヴァシア?」
「元より面倒な状況とは予想していた。茶を飲むついでにそれとなく持ちかけてやるよ」
カイルの想いに対する配慮なのか、万が一に備えてアヤトは自発的に行動する旨を伝えてきた。
「国王からの依頼なら依頼料も遠慮なくふっかけられるからな」
「……感謝する」
「必要ねぇよ」
まあ捻くれた理由を付け足すのもアヤトだが、カイルは礼を告げて馬車を停めるよう合図を送った。
「頼むぞ、カルヴァシア」
「へいよ」
馬車を降りたアヤトはおざなりに返すなり、早速行動に移るべく姿を消した。
環境に変化が起きようと、全てが上手く行きませんからね……面倒な派閥はどうしても存在します。
なのでラタニを敵視する勢力を懸念したカイルはアヤトの力を借りることにしました。
果たして式典は無事に行われるのかは置いといて、国王は面倒な勢力をどう捉えているのか、アヤトが予想した通りラタニさんが敢えて伏せているだけかなのかは後ほどということで。
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