久しぶりの客人
アクセスありがとうございます!
学院が再開して十日目。
「わざわざ送ってくれてありがとう」
「気にするでない。みなと一緒の方が妾も楽しいからのう」
ラタニの勲章授与式に出席するため、王都に向かう馬車に乗せてもらったサクラの配慮にロロベリアは感謝を告げる。
もちろんニコレスカ姉弟やカルヴァシア兄妹だけでなくミューズも同席していた。
王都滞在中は帝国から派遣された研究者の宿泊施設を利用するサクラに対し、ミューズは先日同様ニコレスカ邸でお世話になる予定。これはクローネの配慮で、ランやディーンも同じようにお世話になるも二人は明後日王都で合流予定。
というのも授与式は三日後、つまり今日も学院があるので前日の移動。皇女というより精霊種の精霊石の再調査で早めに王都入りするサクラに道中や王都滞在中の相手として五人を指名した結果。
お陰で五人とも学院を休んで早めに移動しているのだが、この五人を指名したのは別の理由もあった。
「それよりもミューズ殿。妾も爺やもお主の秘密を口外せぬと約束しよう……今さらかもしれんがな」
「ありがとうございます」
まずサクラがミューズに約束したのはアヤトやマヤの関係やロロベリアの精霊力について説明を受ける中で知ることになったミューズの異質性。
打ち明けて以降、話す機会が無かっただけに遅れてしまったがミューズも信頼している。
「早速じゃが、ロロベリアに浄化してもらった精霊石について話しておこう」
そしてラナクスを出るなり切り出したサクラの話題こそ五人を指名した理由。
サクラは白い精霊力について調べている。また王都ではラタニやツクヨとの時間も作り、改めて情報交換をするつもりだ。
つまり秘密を知る同志としての時間を作るため。出発まで時間がなく、こうしてミューズを踏まえた場も作れなかったこともあり配慮してくれたわけで。
皇女の利用する馬車ということもあり車内は広く、また防音効果もあるので御者にも聞こえない。レムアを始めとしたミューズの使用人数名も別の馬車で移動しているのならここで話しても問題ない。
なにより早くロロベリアが知りたいだろう。現に話題を持ち出すなり前のめりで。
「なにか分かった?」
「さすがに数日で調べられるものなど僅かじゃ。屋敷の研究施設では出来ることも限られとるしのう」
故に逸る気持ちにサクラは苦笑。王都滞在中も職員に気づかれないよう施設を使い研究は進めるつもりだが屋敷の設備では限界があり、時間も足りなさすぎた。
しかし少ない設備や時間でもそれなりに成果を出す辺りが才女と呼ばれるサクラだ。
「今のところ分かったと言えば、ロロベリアが浄化する前と後では精霊力の保有量が減少したことかのう」
「……減少?」
「一割程ではあるがのう。それともう一つ、浄化した精霊石は他の精霊石をも浄化する効果があるようじゃ」
「……?」
黙々とあやとりをしているアヤトや楽しげに微笑んでいるマヤはさておき、矛盾した結果に首を傾げるロロベリアたちにサクラは順を追って説明する。
限られた時間で成果を上げるなら研究内容を絞って行う必要がある。その中で保有量は当然として、サクラが目を付けたのは精霊種の精霊石を透明化した際、ミューズが視認した浄化という表現。
一般的に霊獣から採取された漆黒の精霊石が時間経過によって浄化されアメジストのような輝きになるのなら、白く変化した精霊石には浄化作用があるかもしれないと試したらしい。
「浄化前の精霊石が紫に変化するまでは平均で十日。しかし白い精霊石の近くに放置するだけでその浄化が速まったんじゃよ」
「それってどれくらい?」
「妾の屋敷に保管してある中で最も鮮度の高い精霊石は採取されて二日目の物になるが、側に放置したら三日後には浄化されておった。しかも白い精霊石を粉状にして埋めておけば翌日には浄化できたぞ」
「……結構な速さっすね」
「従来の精霊石も微細ながら精霊力を放出される。まあ放出された精霊力を利用して精霊器が使えるんじゃが、触れる面が多ければ多いほど干渉するからのう。ただ普通に浄化された精霊石を粉状にして埋めても浄化速度は増さなんだ」
つまりあくまで白い精霊石でなければ浄化速度は増さないが、サクラの仮説には続きがあった。
「そして精霊石の浄化はより自然の多い場所、世界に満ちる精霊力の濃度が高ければ高い程浄化速度は増すとツクヨが言っておったのなら、あながち世界に満ちる精霊力は白、という仮説は正しいかもしれん」
「……どうして?」
「精霊力を測定する装置では自然界の精霊力を計測できんからじゃよ。つまりロロベリアが浄化した精霊石の保有量が減少したのは自然界の精霊力を検知できなかったのかもしれん」
測定器は従来の精霊石や精霊士、精霊術士の精霊力を元に研究して作られた物。それ以外の精霊力に反応しない、という可能性はある。そもそも自然界の精霊力は測定器だけでなく精霊士や精霊術士でさえ感知できない。
「白く変化したのは自然界の精霊力が凝縮されたことで視認できるようになった故……なんじゃが、問題はなぜ精霊種の精霊石に限り透明化したのかじゃな」
ただあくまで仮説の域。そもそも霊獣の精霊石と精霊種の精霊石では変化も違う。
マヤのヒントから精霊種ノア=スフィネは従来の霊獣とは異なる存在なら当然と言えばそれまで。
しかし今のところ霊獣の精霊石を元に研究しているのなら、ノア=スフィネの精霊石も研究すれば更なる成果も期待できる。
「ならツクヨさんが所持してる精霊石も調べみないとダメか……」
「妾もそうしたいんじゃが……難しいようじゃ」
……のだが、ロロベリアの期待に対しサクラは呆れたようにため息一つ。
「マヤ伝手にツクヨに精霊種の精霊石を借りる交渉をしたら、もう無理だと言われておる」
「……なんで?」
「理由までは聞き出せなんだが、少なくとも研究材料としては役に立たないと謝罪されたぞ」
ツクヨは精霊石をどうしたのか疑問はあるも、現在王都の研究施設に保管されている精霊石の欠片でもいいから研究材料として持ち出せないかサクラは交渉するらしく。
いくらサクラでも果たして貴重な精霊石を持ち出せるかも疑問だが。
「もし借りることが出来ればその浄化も頼む」
「……うん」
自身の謎を解明する協力をロロベリアが惜しまなかったのは言うまでもない。
◇
サクラの成果を聞いた後も色々と考察はしたが、合間に談笑も楽しみつつ昼過ぎには王都に到着。
「落ち着いたら一度そちらにもお邪魔させてもらうぞ」
「歓迎するね」
「お袋も喜びますよ」
「楽しみ」
「送って頂き、ありがとうございました」
ニコレスカ邸の前で下車したロロベリアたちはそのまま研究施設に向かうサクラに手を振り見送った。
「さてと……早く入りましょうか」
からのロロベリアは早々に移動を提案。
ただでさえ皇族の馬車で送ってもらった上に、ミューズやレムア以外の使用人が二人も居る。いつまでも門前にいれば目立つわけで。
加えて馬車移動もしたので早く一息吐きたいと屋敷へ入ったのだが――
「ニコレスカ姉弟以外は久しぶりか」
「お久しぶりですわ」
「急な訪問失礼します」
「……お久しぶりです」
客人として応接室で待っていたカイル、ティエッタ、フロイスと不意打ちの再会にロロベリアは一息吐く暇も無かった。
僅かながらもサクラさまが成果を上げましたがまだまだ謎は多い段階、またツクヨが持ち帰った精霊石で何をしているかは後ほどして。
ラタニの勲章授与式が迫る中、王都に到着したロロやアヤト、ミューズにとっても久しぶりの先輩方三人がニコレスカ邸に訪れた理由はもちろん次回で。
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