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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十五章 迫り来る変化と終演編
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ラタニの苦悩

アクセスありがとうございます!



 合同訓練をカナリアたちに任せたラタニが向かったのは王都から少し離れた森林地。

 街道からも離れていることもあって周辺に人気はなく、静けさの漂う森林地の中央でラタニは仰向けに寝転がっていた。

 一見サボっているように思えるが、ラタニは制御の基礎訓練を行っている。従来は坐禅を組んで行うもこの体勢が一番集中できると自分なりに模索した結果で。

 時折精霊力の解放と解除を繰り返し、出来る限り精霊力を一定に保つようにと、様々な方法を取り入れつつ既に二時間は経過している。

 加えて忙しい身が故に訓練に費やす時間が取れない分、普段から解放、無解放時に関わらず暇があれば常に基礎訓練を行っている。つまり分割した時間も総合すれば一般的な精霊術士の四倍近く基礎に費やしていた。

 ただ集中的に基礎訓練をするなら王都でも可能、現に今までは就寝前など自室で行っている。

 にも関わらずなぜこのような場所で行っているのかは理由があるからで。


「…………ふう」


 納得のいく基準まで制御コントロールが出来るなりラタニは小さく息を吐きつつ目を開ける。

 いつもなら基礎訓練を終えるも、そのままの体勢で詩を紡ぎ始める。


『領域を脅かず・手を取り合うように・弾かれず・溶け込むように』


 紡ぐ詩は精霊虚域(ディメラジン)。ラタニを中心に微細な翠の煌めきが周囲に帯び始め、最後は森林地全体を包みこんだ。

 張り巡らせた精霊力によって森林地内での出来事が手に取るように感じ取れる状態を維持したまましばし。


「ほんじゃ続いては……と」


 精霊虚域を解除、ゆっくりと立ち上がり意識を集中。

 解放状態のまま意識的に制御を緩めていくとラタニの精霊力が爆発的に膨れあがり、体全体に焔のような翠の煌めきが帯びた。

 その膨大な精霊力の圧は森林地の危機を察知して無秩序に逃げ纏うほどで。


「やっぱ……きついねぇ」


 しかし僅か数秒で従来の解放に戻ったラタニの表情は苦痛に歪んでいた。

 基礎訓練とは別に、精霊虚域の使用と本来の保有量を引き出すからこそ人気の無い場所を選んだのが大きな理由。

 精霊虚域は精霊力の範囲を絞れば自室でも行えるが、全力の解放は桁外れの圧が故に精霊力持ちだけでなく持たぬ者ですら反応してしまう。要は周囲に迷惑をかけない為に人の居ない場所を選んでいるだけ。


 そして両方の訓練に時間を費やしているのはロロベリアを探す謎の少女を意識してのこと。

 謎の少女が精霊力を秘めている以上、神に近い存在だろうと対応する自信はあった。しかしノア=スフィネ戦を通じてその自信は傲りだと痛感した。現に精霊力の防護壁に苦しみ、確実に仕留める方法が自爆以外に思いつかず最後はアヤト頼りという情けない結果。

 特にロロベリアの精霊力を知る上で近づくなら、マヤのように不可思議な存在の可能性が高くなっている。故に自身の切り札の精度を上げるだけでなく改良できないか、更なる切り札を編み出せないかを模索するために訓練時間を増やした。

 

 また全力の解放を維持できる時間を伸す為の訓練でもある。

 なんせ今のラタニでも一分持つかどうか、ある意味では精霊虚域以上にリスクが高い。心身に掛かる負荷も大きいからこそが地道に制御訓練を続けていたが、今後を見据えれば必要な力になると。

 ただ他にもう一つ、自身の状態を確かめる目的でもあった。


「……でもま、問題はなさそうか」


 軽く身体を動かしつつ、ラタニは精霊力を解除。

 本来の保有量を引き出した弊害で全身から感じる脱力感はあるがその程度。引き出している最中も、特に異常は感じられない。

 ただ負担が大きいのは変わらないので身体を休める為に再び地面に寝転がる。

 もちろんここ数日の間に試した際も同じく負担以外は特に異常はない。つまりノア=スフィネ戦以降、心身のみならず精霊力にも違和感が見付からなかった。


「気のしすぎなら良いんだけど、相手はマヤだからにゃー」


 しかしまだ安心するのは早いとラタニは親指に輝く神気の指輪を眺める。

 ノア=スフィネ戦後、この指輪を授けに訪れたマヤの言葉。


『形が違うだけでブローチと変わりませんよ。ただ今後のラタニさまはとっても興味深いので、うっかり無くされてはわたくしが楽しめないと思いまして』


 ()()()()()含みある言い分から予想できるのは自身の問題。

 故に長く維持するとは別に、こうして本来の保有量を引き出すことで異常が無いかを確かめていた。

 自身の問題――重大な秘密を知るのはアヤト以外ではレグリスとマーレグの三人のみだが、当然マヤも知っている。むしろ自分よりも把握しているだろう。

 だからこそラタニの未来にこれまで以上に興味を示した。

 自分でも気づけない何かを把握してあの言葉を残したのなら助言とも捉えられる。


 しかし相手はマヤ()なのだ。


 マヤの言動、行動は何らかの狙いが多分に含まれている。全く真意の掴めない、一筋縄ではいかない存在だからこそ安易に結論づけるのは危険。

 

 思い過ごしならそれでいい。

 元より逃れられない運命と覚悟も出来ている。

 ただ願わくば時間の許す限りアヤトの成長を見守りたい。

 最期を迎えるその日まで笑顔で過ごしたい。

 それがアレクとの絆を捨てたラタニの残された唯一の夢で。


「なーんて……贅沢な話だよ」


 決して叶わぬ夢だと自虐的に笑った。



 

ノア=スフィネ戦を通じて己の不甲斐なさを痛感したラタニさんは今後を見据えた訓練を始めました。

ただマヤさんの意味深な言葉を切っ掛けに苦悩しています。

ただ振り回して楽しんでいるだけなのか、それともマヤさんにしか分からない何かがあるのか。

それこそ神のみぞ知る、ですね。



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