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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十五章 迫り来る変化と終演編
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環境の変化

アクセスありがとうございます!



 ダラードの一件がようやく一段落付き、ラタニの勲章授与式の日取りも決定。

 元より平民人気の高いラタニ、発表を受けた王都では既にお祝いムードになっていた。


「ほんとにさぁ……なんとかしちくれよ」


 結果、隊長室のディスクでラタニはグッタリしていたりする。ただでさえ周囲の称賛を素直に受け取れない天の邪鬼(シャイとも言う)、街を歩けば住民に囲まれるので飲みに出ることもできなくなっていた。


「私としては隊長が大人しく業務に勤しんでくれるので助かりますけど」

「わたしは嬉しくないのだ……」


 つまりサボりも減ったのでカナリアは上機嫌。特に書類業務を嫌がりラタニと一緒に抜け出していたジュシカも大人しくなったので尚更だ。

 お陰でカナリアが捜索に掛ける時間も減り、業務が遅れないよう書類業務を受け持っていたスレイやモーエンの負担も減って良いこと尽くめ。


「隊長はともかくぼくなんか感謝される価値のない人間なのにみんなが褒めてくれるんだ。申し訳なくて表を歩けないよみんなを騙してるみたいで辛いんだ――」

「スレイは気にしすぎだが……同感だな。俺たちは隊長のオマケみたいなもんなのに、ああも評価されるのは後ろめたいもんがありますよ」


 変わりの苦労はあるとスレイはともかくモーエンは肩を落とす。

 精霊種討伐の功績で勲章を授与されるのはラタニのみ。しかしそんなラタニの奮闘を最後まで見守り支えた小隊員も軍内のみならず平民の間でも好感を持たれていた。

 まあ霊獣の大群を退ける作戦では他の部隊以上に活躍しているので正当な評価でもある。ただ最も大きな功績ともいえる精霊種討伐でラタニと共闘したアヤトの功績を知るだけに気後れするのも無理はない。


「いやいや、モーちゃんたちの評価は正当さね。四人が居たからこそあたしも部下の前で無様な姿見せられるか、みたいな気持ちでアヤチンが来るまで耐えられたってもんだ」

「そう言ってくれると助かりますけどね」

「それに奥さんも喜んでたでしょうに。なんせ約束通り自慢できる格好いい旦那になったんだからにゃー」

「まあ……それも隊長殿のお陰ですよ」


 しかしラタニの冷やかしにモーエンは照れくさそうに頭を搔く。

 一時は引退を考えていたモーエンが全盛期を過ぎて尚、軍内でも評価されるようになったのはラタニのお陰。最強の小隊員を目指したいとの気持ちを快く受け入れ、背中を押してくれた妻の期待に応えられたのは照れくさくも嬉しいもの。


「それに比べて……あたしゃ困りんこよ。どこ行っても感謝されまくりだし、大人しくしてれば別の面倒事に巻き込まれるしで休まる場所がなくなっちったよ」


 対してラタニは自身の境遇にぼやきが止まらないのは理由がある。

 と言うのもある意味で軍内でも居場所が無くなったからで――


「もしかしなくてもこの後の予定を言ってますか」


 その理由を思いつくだけに書類整理をしていたカナリアが指摘するは下位精霊術士の訓練に講師として参加するもの。

 今まで軍内で煙たがられていたが、ダラードの一件からラタニ小隊の地位は大きく変わっている。作戦に参加していた者は当然、若い術士からもラタニの訓練を受けたい、または共に霊獣地帯の調査をすることで学びたいと要望されるよういなっていた。

 特に若い術士にとって元々王国最強は憧れの存在。純粋な憧れを抱きながらも、上層部や有力貴族に目を付けられたくないと避けていた者は多くいたのだろう。

 しかしラタニの評価が一転したことで軍内の空気も変わり、周囲の圧が緩まったことで教えを受けようと接触してくる者が増えていた。


 若い術士の見事な手のひら返しにもラタニは気にせずアドバイスをしている。元々自分の評価に興味がないのもあるが、若い術士が成長すればそれだけ国力も上がる。なにより一人でも多く生き延びて欲しいのだろう。

 故に文句を言いながらも対応しているがそれはさておき。


「他になにがあるんさね。もちね、色んなタイプの術士との訓練はあたしらにとっても良い経験になるけどさ、どいつもこいつも過大評価しすぎなんよ」

「むしろようやく正統な評価になったと思いますけどね」

「あたしはお気楽で面白いこと大好きなラタニさん、どこが正統さね」

「少なくとも実力は正統な評価でしょう」


 いくら周囲の評価に興味がないにしてもラタニは自分を過小評価する傾向がある。普段は大天才と自信ありげな発言が目立つのに周囲が評価すれば否定する。

 天の邪鬼と言えばそれまで。ただここ最近のラタニは特に自分を認められるのを嫌がっているように感じるのは気のせいか。

 今まで不遇な扱いを受けていただけにカナリアとしてはラタニが認められて嬉しく思うのだが、逆を言えば不遇な扱いだからこそ軍という組織に所属してもラタニはそれなりに自由を与えられていた。その時間を利用して軍では対応できない様々な問題を解決したり、特別講師として学院生の実力向上に協力している。そうした配慮も怠らないからこそ平民人気が高いのだ。

 出世すればするだけやれることも増えるが、しがらみも増えてしまう。

 なら普段の素行も敢えて評価されないよう振る舞っていたのかもしれない。しがらみに囚われないようバランスを取り、自由だからこそ貢献できる場に手を伸ばせるように。

 それはそれでラタニらしい在り方とカナリアも納得――


「てなわけで合同訓練は四人に任せるよん」

「なにがてなわけですか!」


 ……しかけたが前触れもなく予定を丸投げされてまず突っこんだ。


「そもそもあちらは隊長の訓練を希望しているんですよ」

「人に教えるのは四人にとっても良い経験。あたしばかり出しゃばるのも違うからねん」

「……ただサボりたいだけでは?」

「それもある」

「あるんですか!」


 更に肯定されて、単に出世することで仕事が増えるのを面倒くさがっているのではと疑ってしまうがラタニは止まらない。


「たださっきの理由も本音さね。つーわけでちょいと用事が出来たから後は任せたよん」


 カナリアの疑心も無視、ケラケラと笑いながら隊長室を後にしてしまう。


「……隊長殿の用事ってのは坊主のことかねぇ」

「マヤさんと連絡が取れないので何とも」


 急な退席にマヤを通じた連絡手段を知ったモーエンは勘繰るも真相は不明とカナリアは首を振る。

 とりあえず用事が出来たと言うのなら別行動をする個人的な理由があるのだろう。

 現にラタニのいい加減な対応や別行動も、終わってみれば何かしら意味があるものばかりだった。


「それよりも最近の隊長は一人になろうとしていませんか?」


 故にカナリアも不平不満はあろうと追いかけず見送ったが、最近のラタニは妙に感じるわけで。

 これまでも別行動はあった。ただその頻度が増えているのは気にしすぎなのか。


「隊長殿も周囲の変化にうんざりしているからな。息苦しさから一人になりたくもなるんだろう。それよりも隊長殿の代わりだ。俺たちも恥じないように若い子の面倒をみますかね」

「モーエン先輩、わたしたちも充分若いのだ」

「ジュシカ……それを言うな」

「ぼくなんかが参加したらみんながっかりするよね。だからぼくは大人しく掃除をしてようと思うんだ。もちろん綺麗にしたら最後にぼくというゴミも捨てるから安心して――」


「……ですね」


 モーエンの言い分も一理あるとカナリアも気持ちを切り替え訓練の準備を始めた。



 

ロロたちがラナクスで行動を起こしている一方で、王都滞在中のラタニ小隊の状況でした。

大きな功績を挙げたことでラタニはもちろん、カナリアたちも評価されてこれまで置かれていた状況が大きく変化しました。

ただカナリアさんとしてはラタニさんの態度に違和感を抱いていますね。そんなラタニさんが一人で何をしているかは次回で。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

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読んでいただき、ありがとうございました!



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