はじまりの精霊
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自身の精霊力を知る為にサクラとエニシに協力を求めたロロベリアに手掛かりらしき情報が舞い込んだ。
「はじまりの精霊力……」
サクラの母、ツバキが語っていた御伽噺に白い輝きを放つ精霊力があるらしい。
白い精霊力と言えばジンの仮定では自然界に満ちる精霊力。
またノア=スフィネの精霊石に流した際、ミューズは漆黒の精霊力を白い輝きが塗りつぶすように視えて、霊獣の精霊石が白に変化した後はツクヨも精霊力が白く視えるように言っていた。
「御伽噺では『原初の精霊力』と呼称されておりましたが、その精霊力が存在しない白い精霊力なのです」
「御伽噺の内容を教えて頂けますか」
「むろんでございます」
もし白い精霊力が自分の精霊力に関係しているなら知りたいと懇願するロロベリアにエニシは覚えている限りの内容を語ってくれた。
掻い摘まんで纏めれば、ツバキの御伽噺はレーバテン教の教典に記されている世界の始まりを着色したようなもの。
教典には一日目にレーヴァ神がこの世に降り立ち、二日目に地と草木を産み、三日目に火と熱を産み、四日目に水と実りを産み、五日目に風と安らぎを産み、六日目に自然を管理する精霊を産み、七日目に精霊の友として人間を産んだとされている。
しかし御伽噺ではこの世に降り立った神さまはまず世界を管理する精霊を産んだという。
そして最初に産まれた精霊が二日以降の過程を行い、六日目に自然を管理する為に火、水、風、土の四大精霊を産み、七日目に精霊たちの友として神さまが人間を産んだことになっていた。
御伽噺ではレーヴァ神ではなく神さまと呼称されていたこと、また世界を創造する上で重要な役割をはじまりの精霊が担った部分は精霊信仰の強い帝国が故の改変なのか。
とにかく世界を創造した神さまとはじまりの精霊は、今も人と精霊が仲良く暮らしているのを見守っているという感じで締めくくられているわけで。
「はじまりの精霊力は白き輝きを放つ、というのは暗闇に閉ざされた世界をはじまりの精霊が照らした最初の光を差しております」
「だから原初の精霊力ってわけか」
「またミューズさまが精霊種の精霊石を透明化する際に視た現象、霊獣の精霊石が白い精霊石に変化したのが浄化、という現象によるものだとすれば御伽噺の原初の精霊力と酷似しているのですが大本が御伽噺なので」
「教典の文言を元に精霊信仰を強く示すものとして創作されただけでしかなく、はじまりの精霊の精霊力が白きいというのも四大精霊よりも特別なものとして表現したかっただけかもしれんが……」
「史実を元に創作された御伽噺って可能性もある、ですね」
これまでの情報も踏まえれば酷似している部分があるだけ完全に否定はできない。
ただ御伽噺だからこそ原初の精霊力がロロベリアの精霊力と関係しているとも言い切れないもどかしさからユースは肩を竦める。
そもそもロロベリアは水の精霊術士。ツクヨが視る限り他の精霊術士と変わりは無く、せいぜい体内で循環している精霊力がロロベリアは他に比べて圧倒的に綺麗なことだ。
「だいたい教典そのものが創作の可能性だって捨てきれないし……実際のところどうなの? って神さまが居るのに気安く聞けないんだよなぁ」
「対価次第になりますからね」
「……その条件だす時点でマヤちゃんは話す気ないでしょうに」
どことなく楽しんでいるようなマヤを尻目に嫌味を込めて嘆くも、お約束の返しにもどかしさが募りながらもユースは切り替える。
「ならその御伽噺は出所が不明だそうだけど、書物として残ってないんですか」
「少なくとも私の知る限り帝国内には出回っていませんが、ご実家の書庫に保管されている書物をツバキさまか、他の誰かが読み聞かせていたかもしれません。ツバキさまのご実家は東国から移住し、功績を挙げたことから領主となっておりますゆえ」
「東国の書物がそもそも希少、王国や帝国に出回っていないのも当然か」
書物のあるなしでツバキの創作か否かの判断が出来る。
またあれば実際に読むことで他の情報が得られるかもしれないと、そう言った意味での確認と分かるだけにサクラも提案。
「もし気になるのなら父上に頼んで確認してもらうぞ。他にも関連する書物があれば送ってもらうよう手配もしてやれるが」
「どうする? 姫ちゃん」
「もちろん……お願いします」
「爺や」
「畏まりました」
故にエニシも準備のため退席、後は待つしかない。
そして残されたサクラはお茶を一口、別の形で協力することに。
「ロロベリアが透明化した精霊石や、白く変化した精霊石はツクヨが所持しておるんじゃな」
「そうだけど……何か気になることがある?」
「気になると言うより、変化した精霊石を調べてみようとな。研究施設に頼めんが、妾なら問題ないじゃろうて」
「言われてみればそっか。なら王都に行ったら貸してもらうようお願いしてみるし、もし精霊石があるならここで精霊力を流すけど? さすがに精霊種のは無理だけどね」
「さすがにな。じゃが普通の精霊石なら研究用に保管しておる。では後ほどその変化も含めて観察させてもらうとしよう」
精霊学の観点から調べてもらえれば新たな情報に繋がるとロロベリアも了承。
「しかし精霊種の精霊石が従来の精霊石と違うというのは妾も納得じゃ」
「王都の研究で何か分かったの?」
「詳しくは未だ不明じゃが、精霊種の精霊石を調べる者が次々と体調不良を訴えておるんじゃよ」
続けて王都で保管しているノア=スフィネの精霊石についてサクラは教えてくれる。
元より研究成果は他国にも開示される情報、何よりここに居るメンバーは更に深い情報を掴んでいる。
「正確には時間が経つにつれて精霊力の保有量が少ない者から順に影響を受けておるらしい。故に妾も遠くから眺めるのが精々じゃった。後は精霊力の保有量は上位種を軽く凌駕しておるから既存の装置では計れぬ状況じゃ。それと本来は十日ほどで浄化されるはずなのに、未だ漆黒のままじゃぞ」
「影響を受ける精霊力ってネルディナって子の精霊力と同じみたいだ」
「欠片でもずっと所持してたアヤトがその影響を受けなかったのも……やっぱり関係があるのかな」
「それも妾が調べてみればなにか分かるかもしれん」
だが初耳の情報もあり、サクラやエニシに協力を求めた成果は上々で。
「その為にも爺やが戻り次第、ロロベリアには精霊石の浄化をしてもらおうか」
「任せて」
異質な精霊力の話題も前向きに捉えていたロロベリアだったが、エニシが戻り精霊石を保管している研究室に向かおうとしたが――
「白いの。ラタニに治療術を施したことはあるか」
「は?」
これまで静観していたアヤトから意味不明な確認をされて間抜けな声が漏れてしまう。
「は、じゃねぇ。あるのかないのか聞いてんだよ」
「ある……けど」
しかし面倒げに再確認されて肯定を。
訓練でラタニが怪我をすることはまずないが、日常生活では机の角に足の小指をぶつけた、資料の紙で指を切った、みたいな理由で治療術をお願いされたことは何度もある。
「それがどうかした?」
ただ急な質問に問いかければそこはアヤト。
「気になるならラタニにでも聞け」
「……だからアヤトに聞いてるんだけど」
お約束のさあなではなかったが、どれだけ構ってちゃんを発動しても同じ返答だったのは言うまでもない。
ツバキさまの語っていた御伽噺、原初の精霊力はロロベリアと関係しているのか。
それともただの御伽噺か……は後程ということで。
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