些細な手掛かり
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ロロベリアの呼びかけに堪えるようテーブル上に顕現したマヤに、事情を知らないサクラは茫然自失。
「なんて、それ以前に皇女殿下を前にテーブルの上でご挨拶は非礼ですね。失礼しました」
そんなサクラを他所にマヤは楽しげにテーブルから飛び降りるも、その体は羽毛のようにゆっくりと床に着地する。
「では改めて、サクラさまにわたくしと兄様の本当の関係についてお話しさせて頂きます」
一連の出来事を呑み込めず固まるサクラに構わず自身の正体を打ち明けた後、アヤトとの出会いを語り始める。
非合法な実験で幽閉されていたアヤトを見つけ、気まぐれで契約を持ち出したこと。
その契約によってアヤトは記憶の一部、ロロベリアと関わった時間を失ったこと。
「アヤトさまにそのような過去が……」
ただ非合法な実験についてはエニシも知らないのか悲痛な面持ちに。
「……爺やは知らなんだのか」
「私はマヤさまの正体と、神気について伺ったのみです……が、よろしいのですか?」
やはり知らなかったようでサクラの問いに頷き、エニシは相変わらずあやとりに興じるアヤトに視線を向ける。
アヤトの過去は王国の闇、帝国の皇女に話すのはリスクが大きいので当然。
「よろしいもなにも俺が神さまの好き勝手を止められるかよ」
……なのだがアヤトはしれっと反論。
「つーか内密にしてくれるなら何も問題ないとは思うが。それとも先の話を持ち出して王国を糾弾するか」
「「…………」」
しかし顔を上げ挑発的にほくそ笑まれて二人はぐうの音も出ない。
そもそもアヤトはマヤの好き勝手を止められるかと反論したがこの場を決めた際、事情説明にマヤを指名したのは他もでもないアヤトの判断。
王国の闇だからこそ自身の過去は簡単に打ち明けられない。しかし神の判断なら仕方ないとの屁理屈になる。現にミューズに打ち明けたのもマヤだったらしい。またロロベリアの用件にはマヤの正体や神気に関する情報のみで良いはずなのに、敢えて自身の過去を打ち明けるよう促した。
つまりサクラとエニシに対する信頼の現れであり、今まで事情を隠していたアヤトなりの捻くれた誠意でもあるわけで。
「それは妾とお主らの友情を捨てると同意。するものか」
「アヤトさまを敵に回すほどこのエニシ、無謀ではありません」
何となくでも意思が酌み取れたのかサクラは語気を強めて、エニシは冗談交じりに否定。
裏事情を知るロロベリアとユースも苦笑する中、リースのみ理解していないようだがそれはさておき。
「では続けさせて頂きます」
改めてマヤからサクラが目撃したアヤトの変化は神気による擬神化や、友情の証として送ったブローチも神気を象った物と知ることに。
ただサクラの所持しているブローチは居場所が分かるのみ、他はマヤを通じてアヤトだけでなく神気のアクセサリーを持つ者と連絡が取り合えると説明。
「現在所持しているのはロロベリアさまやエニシさまの他にラタニさま、ツクヨさま、カナリアさま、ミューズさまとなっていますが、サクラさまが宜しければ今後は同じように致しますが如何なさいますか?」
「……では頼むとするか」
「ただ連絡が出来るのはマヤちゃんの気分次第だから」
ロロベリアから忠告されるも距離関係なく連絡が取れるのは魅力的なのは間違いない。故にサクラもブローチの使い方を教わることに。
「しかしなるほどのう……ようやく不可思議な出来事が全て繋がったわ」
そしてマヤの正体や神気を知ることで帝国での出来事やアヤトの異質性なども理解できたが、未だ理解できない部分もあるわけで。
「して、ロロベリアの相談とはなんじゃ?」
アヤトやマヤの秘密を打ち明けたのはアヤトなりの捻くれた友好の証とは確認せずとも伝わった。しかしこの秘密を打ち明けた上でロロベリアが何を語るのか。
「その前に教国で起きた事件を話すから」
ただ本題に入る前に今度はロロベリアが必要な情報を伝えることに。
まず教会で起きた騒動、同じく非合法な実験で生まれたネルディナの異質な精霊力から裏で教会派を操っていたマヤ曰く神の存在。
もちろん教国の内部事情を話すのも独断ではなく事前にラタニと相談して決めたこと。また今日は別件で同席できなかったミューズにも了承を得て、彼女の特異性について明かしていく。
次々と知る不可思議な能力、出来事に驚きながらも耳を傾けるサクラやエニシに続いてダラード騒動で精霊種ノア=スフィネはラタニとアヤトが協力して討伐したことを。
その際、アヤトが持ち帰っていた精霊石の一部を使った確認で分かった自身の精霊力について。先日ニコレスカ邸で行われた詳細も明かした。
「明確な理由があるだけに、アヤトよりもお主やミューズ殿の方が不可思議じゃな」
「否定できないか」
一通り話し終えたところでサクラが苦笑いするのも当然とロロベリアも笑って返す。
アヤトの強さは過去の実験、白銀の変化などもマヤという存在が関係している。
しかしロロベリアの精霊力やミューズの特異性はなにも分からない状況なのだ。
だからこそロロベリアはこの場を設けた。
現在事情を知る者は王国と教国出身ばかり。帝国にのみ伝わる伝承や知識の情報を集めたいのもあるがサクラは精霊器開発の権威。精霊学に精通している者は王国内でも探すのは難しい程の才女だ。事情を打ち明けるだけの信頼もあるのなら自身の精霊力を解明する為に協力を仰ぐべき。
加えて謎の少女は帝国から来たと口にしている。そう言った面でも何か情報が得られないか。神気のアクセサリーを所持しているエニシには謎の少女と遭遇した際、協力を仰ぎたいとお願いする。
ただ謎の少女が現れるのを待つのではなく様々な状況に備えた準備、自分の精霊力について調べるのがロロベリアの相談で。
「爺や、頼めるか」
「むろんでございます。このエニシ、いついかなる時でもロロベリアさまとミューズさまの呼びかけに駆けつけることを誓います」
「ありがとうございます」
応援要請に快く了承してくれたエニシにロロベリアは感謝を伝え、謎の少女や自身の精霊力について質問しようとしたが――
「ただ白い精霊力に関してじゃが……」
「なにか心当たりがあるの!?」
先に話題を持ち出されて前のめりになるロロベリアに対し、持ち出したサクラは微妙な面持ちで。
「あると言えばあるんじゃが……のう、爺や」
「確かに。あれは御伽噺なので出所が不明ですから――」
「それでも構いません! 教えて下さい!」
「……畏まりました」
例え御伽噺というあやふやな情報でも、ようやく見つけた手掛かりに興奮を隠せないロロベリアを落ち着かせるようエニシは咳払いを一つ。
「お嬢さまの母君、ツバキさまが語られていた御伽噺に白い精霊力に関係するものがあります。はじまりの精霊力は白き輝きを放つ、と」
アヤトの捻くれたサクラさまに対する交友の証はさておいて、ロロらしく行動に移したことで御伽噺とはいえ手掛かりが見付かりました。
その御伽噺、はじまりの精霊力については次回で。
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