日常と非日常
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学院が再開して五日目。
特別休暇を終えた学院生も復帰したことで学院も完全に日常が戻っていた。
しかしある意味で遠征訓練の名残もあったりする。
「私たちが勲章授与式に出席ですか?」
学院生会室でエレノアの話を聞いたレガートは思わぬ事態にキョトンとなる。
ちなみにレガートの実家はダラード方面、つまり特別休暇を利用していたので今日から学院生会に復帰したのだがそれはさておき。
ダラード騒動、特に精霊種討伐の功績でラタニに勲章が与えられるのは国内中に広まっている。ただ大きな騒動が故に国の中枢や軍関係者は多忙を極め、式典の日取りは未定となっていた。
これまでラタニを冷遇していた軍上層部や有力貴族も今回ばかりは勲章授与に異を唱えることができず、むしろ過去の態度を棚に上げて擦り寄っている者も多い。
もちろん全員ではない。未だラタニを敵視する者、醜い嫉妬心からより反感している者もいるのだが、彼女の立場が大きく変わりつつあるのも確か。
今回のみならずこれまでの功績も踏まえてかなり大々的に祝われるらしいが、王族のエレノアや皇族のサクラはともかくなぜ学院生会や序列保持者まで出席するのか。
「先生直々のお誘いだ。学院生会の他にも序列保持者、それとサクラにも出席の声が掛かっている」
「なるほど……自分で言うのも何ですが、学院生会や序列保持者は今後の王国を担う人材。アーメリ特別講師は教育熱心な御方です。ご自身の雄志を間近で見てもらうことで、次世代の奮起を促すつもりでしょう」
しかしエレノアの追加情報でレガートも腑に落ちたのか、ラタニの狙いを饒舌に語る。
「というのは建前で、恐らくアヤトさんに対する嫌がらせでしょう」
ただ前者の狙いは周囲を納得させるための方便、真意はいかにしてアヤトを出席させるかだと纏めた。
「さすがレガート、よく分かったな」
「でもアヤトだけ出席させるわけにもいかないもんね。だからあたしたちは巻き込まれたわけ」
既に話を聞いていたディーンやランが返すよう、今回の出席はレガートの読み通りだったりする。
つまりこの手の式典を嫌うラタニがアヤトを道連れにして少しでも留飲を下げようと考えた嫌がらせに過ぎないわけで。
「建前としては筋も通っていますから。国王陛下はどう反応させていましたか」
「先生の提案に笑って了承したそうだ。お父さまも悪ノリが過ぎる」
ラタニの真意を知った上で、チェスで連敗中の腹いせも兼ねてレグリスも了承したとエレノアこそ笑うしかない。
名誉ある式典で私情を含みまくっているが、お陰で良い経験ができるのも確か。
「せっかくですし楽しむです」
「ワタシもわくわく」
「緊張はするけど興味もあるからあたしやディーンはもち了承。レガートは?」
「言うまでもないでしょう」
「決まりだな」
せっかくの機会でもあり、日頃お世話になっているラタニの晴れ舞台を間近で祝えるならとレガートも受け入れたのは言うまでもない。
「それで肝心のアヤトさんの返答はどうでしたか。他の面々が断るとは思いませんが、アヤトさんですからね。アーメリ特別講師の真意を読み取っているでしょうし、国王陛下の招待であろうと彼には関係ないですから」
ただアヤトは別とレガートは苦笑い。なんせ自分ですら読める程度の思惑、相手が国王だろうと気分で行動する自由人なのだ。
強制出席でなければ学食の仕事を持ち出して断りそうなだけに、話は進んでいるのか興味津々なレガートに対しエレノアは肩を竦める。
「条件付きではあるが出席する」
「正装の拒否でしょうか」
「ほんとレガートはさすがだよ」
ディーンが称賛するよう本来は制服で出席のところアヤトは普段着を条件に了承している。
まあ武器を所持さえしなければ構わないと許可が降りたのは、たんに国王が式典で恭しい振る舞いを見せるアヤトを楽しみたいだけと、どこまでも私情まみれな理由だった。
◇
一方、ラタニやレグリスの式典における密かな楽しみにされているアヤトと言えば、学院が終わるなりロロベリアやニコレスカ姉弟と共にサクラの屋敷に訪問していた。
訪問理由は昼頃、学院に訪れたサクラの従者から夕食の誘いを受けたからで、従者を使いに出したのも今日まで学院を休んでいたからだ。
仕官クラスの一学生でもサクラは帝国では精霊器開発の権威。精霊種の精霊石に関する意見を聞きたいと研究者から申し出があった。
王国と帝国は技術協定も結んでいる。元より精霊種の情報は他国に公表するのなら、現在帝国から派遣されている研究者にサクラが加わっても問題はなく、アヤトたちと入れ違いで王都に滞在していた。
遠征訓練や公国行きで留守をしてたこともあって、久しぶりにゆっくり話したいのだろう。アヤトというよりロロベリアもちょうど用件がもあったので快く了承、ただ自宅で留守番をしているマヤを迎えに行くとの提案は断った上で学院が終わると同時に四人で向かった。
「待っておったぞ……と言いたいが、マヤはよいのか?」
事前に従者から迎えを断ったと聞いていただけに、応接室に招いたサクラは訝しみの表情で出迎える。
夕食込みのお誘いにも関わらず一緒に暮らすマヤを抜きにして、一度自宅に戻るでもなく四人で訪れれば当然の反応。
もちろん迎えに行くだけ無駄ではあるが、エニシはともかくサクラは何も知らないのだ。
「それよりもサクラに相談したいことがあるんだけどいいかな」
「妾に相談じゃと?」
そして対面でニコレスカ姉弟に挟まれる形で着席したロロベリアもマヤを抜きにするつもりはない。故に一人でドア横の壁にもたれ掛かりあやとりを始めるアヤトを一瞥。
「良いよね?」
「好きにしろ」
面倒げな相づちを受け、ならばとロロベリアは深呼吸を一つ。
「今から話すことはサクラとエニシさんだけの秘密にして」
「内容によるが……なるほどのう。ようやく妾も仲間外れから抜け出せるわけじゃな」
僅かなやり取りで察したのかサクラは納得しつつも嬉しげに笑う。
「お主らとの友情に誓い口外せぬと約束しよう。今まで妾にすら秘密にしておったんじゃ。爺やも構わぬな」
「むろんでございます」
だからこそ追求せずエニシにもクギを刺してくれた。
嫌味を含んだ物言いに一礼するエニシも察したようで、心なしか安堵の表情。仕方がないとはいえ今までサクラに隠し事をしていたなら気持ちが楽にもなるだろう。
とにかくここからの用件はあくまでロロベリアの判断。サクラとのやり取りは自分主導になるのだが、まずは打ち明ける秘密がある。
「じゃあ……マヤちゃん」
「――かしこまりました」
故にロロベリアが呼びかければ何故かテーブルに降り立つようマヤが顕現。
「……なん……じゃ」
「お久しぶりですサクラさま」
同時にサクラの瞳が大きく見開かれるもマヤはクスクスと笑いながら優雅に一礼。
「そして今まで正体を隠していたこと、心よりお詫びしますわ」
学院生会も日常が戻った裏で、サクラさまの屋敷では非日常的なことが起きましたねはさておいて。
予想されていた展開かもですが、ミューズに続いてサクラさまもマヤさんの正体を知る仲間入りです。
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