裏幕 苦難続きの世界
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厄災の目覚めを前に決断を迫られていた少女は霊獣地帯から離れていた。
「濃度からしてまだ時間はあるハズ……なら今の内に少しでも……」
ただ逃げを選択したのではなく、僅かな可能性に賭けて精霊力の回復に努める為に最適な場所を探すのが目的。霊獣地帯の精霊力は高濃度ではあるも穢れすぎて回復に適さない。むしろ自身の精霊力が蝕まれて堕ちてしまうだけに、出来る限り近づかないようにしていたほどだ。
加えて自分が万全でも蹂躙は確定。アレが不完全だろうと対処できないが、ギリギリまで回復させてから全精霊力を込めた一撃なら少しでも核を削れるかもしれない。そうすれば僅かだろうと力も削ぐ可能性もでてくる。
所詮は一の可能性を二にする程度の助力。しかし自分可愛さに逃げてしまえば御子を託してくれた主君に顔向けできないのだ。
そもそもアレを完全に浄化できるのは主君か御子のみ。浄化でなくとも滅するには主君と同等か更に上位の力が必要で。
「あんな人間頼りなんて屈辱しかないけど……今はなりふり構ってられないわ」
しかしダラードで対峙した、異形の精霊力を秘める人間ならば滅することが出来るかもしれないと苦渋の決断を選んだ。
精霊を冒涜するような力だろうと頼る他に道はない。
もしロロベリア=リーズベルトが本当に探している御子なら他にも道はあったのだ。守護する対象に助力を願うのは本末転倒、しかし最も確実な方法でもある。
問題はロロベリア=リーズベルトには不明な点が多いこと。
この際年齢はいい。それよりも水の精霊術士だというのが不可解で。
それとも主君から受け継いだ精霊力の一部分が解放されたのか。
御子も理から外れた例外的な存在だからこそ、自分の基準で計れないが故に可能性はある。
ならばやはり守らなければならない。
同一人物の可能性があるのなら。
ダラードに居る可能性があるのなら。
例え屈辱な選択だろうと命に代えても――
「……あった」
決意を固めていた少女は目前の景色に安堵の表情。
街道から大きく外れた山岳付近の森林地帯。
視える精霊力も霊獣地帯とは違って穏やかなもの。
「ここなら穢れも少ない……他に比べればマシ程度だけど、贅沢は言ってられないわ」
そのまま中心地まで歩を進めた少女は一本の樹木に体を預けて目を閉じる。
精霊力の濃度は霊獣地帯より少なくとも、ダラードに辿り着くまで穢れ混じりの精霊力を取り込んでいただけに、体内を巡る優しい温もりが少女に安らぎを与える。
「……ぐす」
この世界で目覚めてから苦難続きだと、少女の瞳から涙が零れる。
あの優しい微笑みを向けられることはもう叶わない。
優しく包む精霊力をもう二度と感じられることはできない。
更に御子を探し出して守り切れるか。
本当にロロベリア=リーズベルトが託された御子なのか。
寂しさや心細さに押しつぶされそうになる。
「ローゼアさまの為にも……やるしかないのよ」
それでも主君と交わした約束を守るべく、言葉にして気持ちを奮い立たせて。
「だから……何としてでも……」
久方ぶりの安息から気が緩み、目覚めてから蓄積していた疲労と消耗した精霊力も相まって少女は深い眠りについた。
その気の緩みが少女の覚悟を台無しにするとも知らずに――
「こんなところでお休みされているとは、無防備なお嬢さんですね」
しばらくして部下から話を聞いた男は樹木に寄りかかり眠っている少女を起こさないよう見定めていた。
公国へ向かう途中、馬を休ませる為に森林地帯に立ち寄てみれば良い拾い物をしたと笑みが浮かぶ。
ただ裏で公国貴族と繋がり、人身売買にも手を染めている商人に見付かってしまった少女は不運でしかなく。
「僅かながら精霊力を感じられますね。だからこそ高額にもなりますが……道中暴れられては面倒ですし、封じの枷をしておきなさい」
「かしこまりました」
また眠っている間は精霊力を制御できず、貴族が横流しした精霊力を封じる枷を商人が所持していたことで。
「起こさないよう丁重に馬車まで運ぶのですよ。大切な商品ですからね」
商品として乗せられたと知らないまま少女は公国へと向かっていた。
十四章の幕間後、鍵を握る少女に起きた出来事でした。
僅かですが少女の目的や色々な事情も明かされましたが今は触れずとして、これから先に少女の身に何が起きたのか、行方も含めて今後も裏幕で描いていきます。
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