幕間 継続と反故
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ニコレスカ邸での話し合いを終えたラタニは祝勝会に戻るべく王城へ。
「隊長……どこへ行っていたんですか!」
言うまでもなくラタニを待っていたのはカナリアのお小言だった。
なんせ祝勝会が始まって間もなくトイレへ行くと告げてから一時間以上経過している。しかも国王主催で祝われる本人が居なければ大騒ぎなので当然。
加えて精霊種討伐の功績で軍内のみならず貴族間でもラタニの評価が変わりつつある大事な時期、変わり始めた風向きを無駄にする態度を改めて欲しいわけで。
「だからトイレだって言ったじゃまいか」
にも関わらずラタニはどこ吹く風。
元よりアヤトたちと合流する約束をしていたのもあるが、出世に興味がないだけに周囲の評価に興味が無い。また自分の評価が落ちようとカナリアたちの功績に影響がないなら、むしろ望むところでもある。
故に予定通り抜け出したのだが、カナリアが心配するほど祝勝会に参加していた有力貴族は好意的に接していたりする。
それだけ精霊種討伐という功績は大きく、結果的にラタニは褒め称える貴族らの対応に追われて疲労困憊することになった。
「それで、お主はどこへ行っておった」
「……国王さままでなんだよー」
のだが祝勝会終了後、応接室に呼び出しを受けたラタニはレグリスの追い打ちに辟易していた。
「いくら国王さまでもレディのトイレ事情に踏み込むのはどうかと思いますよ」
「ラタニ、陛下の心情を察してやれ。精霊種と戦闘した後だ、急に姿を見せなくなったとなれば心配するだろう」
しかし軽口で交わそうとするラタニに流されず、レグリスの背後に控えるマーレグは真剣な表情を崩さない。
「報告を聞く限り精霊種と対峙した際、本気を出したのだろう。なにか影響は起きてないのか」
「なるほろねぇ……」
マーレグの追及に納得したラタニは姿勢を正す。
どうやら個別で呼び出した本題はこちらのようだ。
アヤト以外で自分の秘密を知るのはレグリスとマーレグのみ。抜け出したお叱りを理由に直接確認をする為だったのか。
「心配させてすみませんでした。ぶっちゃけ祝勝会が面倒で逃げただけですからご安心を」
なら紛らわしい行動をしてしまった自分に非があると、謝罪ついでに問題なしと伝えれば二人は途端に安堵の表情。
「陛下主催の会を逃げ出したのは安心できないが……良好であれば目を瞑ろう」
「しかしいくらお主でも精霊種を相手では負担も大きかったであろう? 一度くらいは検査を受けてはどうだ」
「国王さまは心配性だにゃー。でもさ、検査なんて受ければバケモノ染みたラタニさんがガチのバケモノってバレるかもでしょ」
「「…………」」
「もちお気遣いは嬉しいし、心配させて申し訳ないとは思ってますよ。ただ、それを覚悟でお二人はバケモノを飼うことを決めたんでしょうに」
だが続く提案に自虐を返すなり二人は強張ってしまうがラタニは素知らぬ顔。
王国軍にスカウトする際、ラタニなりの誠意で秘密を打ち明けている。その上で二人は引き入れたのだ。
「とにかくだ。ご心配をおかけしますが、今後もラタニさんを良くして下さいな。それにご心配せずとも何かあればちゃんと報告しますし、万が一迷惑かける事態になったらちゃんとくたばるつもりなんでご安心を」
まあ他にも理由はあるが、信頼して生かしてくれている以上ラタニも誠意を見せると契約時に交わした約束を持ち出せばレグリスは了承の意味を込めて頷いた。
「異変があればすぐに報告せよ。出来る限りの配慮をする」
「国王陛下に誓って」
「……お主にとってそれは誓いにならんだろうて」
「そんなことありませんよ。これでもあたしは国王さまに感謝してるんで……と、お話しが終わったならもう帰っていいですか。手のひら返しの祝福でゲロ吐きそうなんで早くおねんねしたいのですよん」
「お主という奴は……まあよい。下がれ」
「ありがとでした」
とにかく報告と確認が終わるなり席を立つラタニを呆れながらもレグリスは見送った。
「――ラタニさん」
「今後はなんさね……」
が、応接室を後にして間もなく、背後から呼び止められたラタニはうんざりしつつ振り返る。
声でアレクと察していたが王族相手でも不敬な態度は今さらで。
「つーかこんなところでなにしてんだい」
「……個人的にお祝いを伝えようと思いまして」
「そりゃわざわざあんがとねん。でもお祝いはいらんから、むず痒い通り越して胸焼けしてんのよ」
どうやら祝勝会で言葉を交わせなかったので応接室から出てくるのを待っていたらしいが、レグリスにも伝えたように祝いの言葉は遠慮したい。
故におざなりな対応をすればアレクは寂しげに目を伏せてしまう。
「あなたは先に行ってしまうのですね……」
「あん?」
漏れ出た呟きを理解できず眉根を潜めるも、視線を合わせてアレクは弱々しく笑った。
「精霊種討伐という偉業までも成し遂げ、今では王国の英雄……なのに私は約束を未だ守れず――」
「だったら泣き言ほざく暇なんざないだろ」
その弱音を最後まで聞くことなくラタニは強い口調で遮っていた。
「そもそも約束のためにあんたは国王になるつもりかい?」
「それは……」
「あたしはね、あたしにも守れるもんがあるから守っただけ。つまり怪物退治も約束なんざ関係ない。つーかもう忘れろって何度言ったよ」
「ですが…………っ」
たたみ掛けるような批判にアレクは反論しようと口を開くも、最後は悔しさを露わに口を閉じてしまう。
ただ拳を握る様子から何かを必死に耐えているようで。
「てなわけで、あんたはあんたの為に頑張りんさいな。そんじゃあたしは行くよん」
「……お気を付けて」
か細い声で見送るアレクに普段の明るいノリでラタニは背を向ける。
しかし別れ際、ラタニもまた苦痛に耐える表情をしていたのだが。
アレクのみならずラタニ自身も気づいていなかった。
アレクさま久しぶりの登場……ですが、レグリスさまやアレクさまとのやり取りで何か察したかもしれませんが敢えて触れません。
そして次回から久しぶりに舞台はラナクスに戻ります。
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