奇妙な関係
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自分の秘める異常な力を知りショックを受けていたロロベリアが調子を取り戻したところで今後の対策について話し合いが行われた。
と言ってもこの場はロロベリアの精霊力を調べる為であり、特異な力を持つミューズにマヤを通じた連絡手段を教えた上で、謎の存在について明かして警戒を促すのがメイン。
もちろん危惧していたよう警戒しすぎて不自然にならないように、また独断専行しないように注意するのも忘れない。
「つまり先走るんじゃねぇぞ。特にリスはだ」
「「……はい」」
まあミューズはまだしも、普段から暴走しがちなロロベリアやリースが心配なのでアヤトからクギを刺されたのは言うまでもない。
またロロベリアには今後の身の振り方についての確認も。
ノア=スフィネの精霊石を透明化させただけでなく、霊獣の精霊石を白く変えた精霊力を研究施設で調べてもらう道もある。さすがにマヤから得た情報やノア=スフィネ討伐にアヤトが関わったことは伏せるとしても、ロロベリアの精霊力は精霊学の発展に繋がる可能性がある。自分の力を解明する意味でも選択の余地はあるわけで。
「……変に騒がれるかもだし、今はいいかな」
「だろうな」
ただこの身の振りをロロベリアは苦笑しつつ拒否。いつかちゃんと向き合う日は来るだろうが、それよりも自分の力について何か知っているであろう謎の少女から聞き出す方が良い。
なにより異常な力だからこそ実験対象として扱われる日々が待つだけ。
人体実験に利用された経験のあるアヤトも茶化すことなく、ロロベリアの意思を優先してくれた。
故に当面は様子見をしながら謎の少女が接触してくるのを待つ。相手側が探しているなら自ずとその日は来る。
「分かってるな」
「何かあったらアヤトかあたしに連絡ねん」
「マジで頼むぜ」
「「……はい」」
なのでラタニやツクヨも加わりロロベリアとリースが再度注意を受けて解散。
「そうだそうだ。白いのちゃん、悪いけど精霊種の精霊石を浄化してくれねーか」
「はい?」
ただ祝勝会を抜け出したラタニが王城に戻るに合わせて帰宅するツクヨに妙なお願いをされてしまった。
本当に浄化したのかはさておいて、先ほど透明化しているだけに意味が分からないロロベリアを他所にツクヨはアヤトに視線を向ける。
「浄化終わったやつと、白い精霊石もアタシがもらっていいよな。実験も終わったなら構わねーだろ」
「構わんが何に使うんだ」
「いいもんにだよ……っと」
するとアヤトはコートのポケットから先ほど浄化した二つと、漆黒の精霊石を取り出してツクヨに放った。
よくよく思い返せば先ほどの精霊石は斬り取ったサイズの半分ほど。要はロロベリアに渡したのは更に半分に斬ったものだ。
そして半分にしたのは事前にツクヨが精霊力を流すためらしい。ノア=スフィネの精霊石が霊獣の精霊石と違う可能性があるのなら、ツクヨやラタニの精霊力でも変化が起きるかもしれないと試したのだが漆黒のままなら何も起きてないわけで。
「視るだけでもきついのに手に持つとか気分悪くて大変だったぜ……だから早くしてくれねーか」
「いいですけど……」
急かされるまま片割れの精霊石に精霊力を流したが、やはりロロベリアなら透明化させられた。本当に不思議だが今は考えても仕方ない。
とにかくラタニとツクヨを見送った後はそれぞれで過ごすことに。
リースは早速ユースを問い詰めるも、ロロベリアは一足先に自室へ。色々な情報を一度に知ったからか、ゆっくりと整理するつもりでいたのだが――
「ロロベリアさん、少しお付き合いして頂けませんか」
「……ですね」
客間に戻らず追ってきたミューズのお誘いにロロベリアは快く了承。
色々な情報を知ったのはミューズも同じ。こう言ってはなんだが異常な力を持ち、謎の存在に狙われている仲でもある。
それにロロベリアも確認しておきたいこともあるわけで。
「ミューズさんはアヤトとどんな話をしたんですか」
故に自室に招き入れ、ベッドに並んで腰掛けるなりまずはロロベリアから質問を。
「アヤトさま……というより主にマヤさんとでしょうか」
質問に対しミューズは個人訓練の出来事を話してくれる。
二人きりになるなりアヤトがマヤを呼び出してからは、マヤが正体を偽っていたお詫びも兼ねてブローチをロロベリアたちと同じように使ってもいいこと。
今までカナリアの作り上げたアヤトの過去も、真実を元に囚われていたアヤトに興味本位で契約を持ち出したことを。
契約による対価として大切な時間を失い、ロロベリアと過ごしていた記憶を失っていたこともマヤから聞いたらしい。
その後精霊力の視認についてニコレスカ姉弟に明かしても良いか、理由は夜にラタニとツクヨが来た時に分かるとアヤトから確認された。もしミューズが拒めばニコレスカ姉弟抜きであの場を設けるつもりでいたかもしれないがとにかく。
「……アヤトさまにとって、ロロベリアさんは本当に大切な存在だったのですね」
「アヤトと言うよりクロが……ですけど」
事実を知ったミューズは自分たちの絆をそう捉えているが、シロを大切に思ってくれたのはクロであってアヤトではない。
記憶を失おうとクロとアヤトは同一人物。しかしロロベリアにとってクロとアヤトは別人と捉えている。だからこそ涙と共にクロとお別れしたのだ。
もちろんアヤトはアヤトで自分を大切に思ってくれている……とは感じている。現にクロのように世界を守る大英雄を目指す自分をアヤトは守ると約束してくれたが、理由が分からないだけにいまいち自信がないわけで。
ただ話を聞く限り契約で得た時間操作の能力についてミューズは知らないように感じる。なら今後の言動には注意しなければならない。
時間操作はまだしも対価としてアヤトは寿命を削っている。教皇を救う為に使用したとミューズが気づけば心を痛めるだろうし、アヤトも知られたくないはず。
そう言った意味でも事前に確認して良かったとロロベリアは内心安堵。
「どうやらわたしはまだアヤトさまの秘密を全て知らないようですね。しかも重要な秘密のようです」
「え?」
「ロロベリアさんが抱いている悲痛の感情から予想しましたが、どうですか?」
「…………」
……したが、感情が表に出やすい以前に感情を読み取れるミューズに隠し事は難しかった。
「ですが構いません。今お話しして頂けないのであれば、いつかアヤトさまが全てを打ち明けても良いと信頼されるわたしに成長すれば良いのですから」
それはさておき、返答に窮するロロベリアを追求することなくミューズは隠し事をされても前向きな決意を示す。
「わたしは教国でも、今後もアヤトさまに頼ってばかりです。ならばアヤトさまから頼られるようなわたしになればいい、ですね」
「それは私も同じです」
その決意を前にロロベリアも同意しつつ右手を差し出す。
自分たちは同じ人を好きになった者同士であり、互いに特異な力を持ち未知の存在に狙われる可能性がある者同士でもある。
奇妙な関係になったが、少なくとも目指すべき背中は同じなら。
「守られるだけでなく、いつかアヤトさまの背中を守れるほどに」
「一緒に強くなりましょう」
ミューズも同じように考えていたのか差し出した右手を握り替えす。
恋敵でありながら友人になった二人は、新たに同志としての握手を交わした。
「とりあえずわたしはお爺さまやお父さまから教典以外の神について記された書物や、精霊力に関係する神話なども送ってもらうようお願いしてみます」
「確かに神に関連する書物は王国よりも教国の方が豊富にありますからね」
そして今できることを話し合う。
互いの特異な力はおいそれと外部に漏らせないなら、出来る限り調べてみるのもいい。先に謎の少女が接触してくるかもしれないが、とにかく行動に移すべきで。
アヤトたちに頼らず自分たちにも出来ることを。
こうした積み重ねも大事だが――
「話は変わりますがロロベリアさんに聞きたいことがあります」
「なんですか?」
「その……クロさんだった頃のアヤトさまとの思い出などを聞きたいなと……」
「……ああ」
おずおずと質問してくるミューズにロロベリアは苦笑を漏らす。
言われてみればアヤトに関係する話は秘密が多く今までロロベリアは自重していた。
またミューズも聞きづらかったのか余り聞こうとしなかった。
しかし時間操作以外ならもう隠す必要もない。
以前にも増して積極的なミューズに恋敵として危機感はあるも、好きな人について少しでも知りたい気持ちはロロベリアもよく分かる。
「ならお返しにミューズさんの知るアヤトについて教えてください」
「ロロベリアさんほど知りませんが、それでよければ」
恋敵としては本当に妙な関係でも気にすることなく、二人は今まで話せなかった思い出話に花を咲かせた。
同じ人を好きになったロロとミューズですが、共に特異な力を持ち、未知の存在に狙われる立場で、同じ目標を持つ者同士でもあります。
もちろん二人の為人もありますが、お互いに置かれている状況を知ったことである種の協定を結びました。なので今後の二人に注目ですね。
そしてロロの謎についてはここで一区切り……中途半端ではありますが今後の展開で知って頂ければと。
また学院生活に戻る前に、一つ幕間を挟みます。こちらは今章のメインに関係する内容となっているのでお楽しみに!
ちなみに浄化された精霊石をツクヨさんが持ち帰った理由についてはオマケで描く予定です。
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