なにも変わらない
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「つーか白いの。随分と大人しいが、普段の構ってちゃんはどうした」
普段とは違って物静かなロロベリアに対してアヤトは変わらず辛辣な物言い。
もちろんロロベリアもこれまでの情報に思うところはある。
ノア=スフィネが霊獣でなければ何だったのか。
教会派を裏で操っていた存在は本当に神なのか。
普段は秘密主義のマヤがなぜこれらの情報をアヤトに漏らしたのか。
ただ今は解明された自分の力に頭がいっぱいいっぱいだ。
霊獣の精霊石を白く変化させ、あの凶悪なノア=スフィネの天敵となる力を秘めていた。
しかも謎の少女はこの力を知った上で探している可能性がある。
謎の少女は本当に知っているのか。知っているとすれば何を知っているのか。
目的はなにか。そもそもどうしてこのような力を秘めているのか。
急に突きつけられた現実に戸惑いばかりが先行して。
自分のことなのに何も分からないからこそ気持ち悪くて。
他者と違う力が徐々に怖くなっていく。
「……だって」
最後は自分自身にすら疑心暗鬼を抱き始め、ロロベリアはどう答えればいいか分からず口を閉じてしまう。
不安から目を伏せるロロベリアの態度にアヤトと言えばため息一つ。
「他者とは違う力に自分が何者か、なんざ考えてんじゃねぇだろうな」
「…………っ」
まさに抱いていた疑問を言い当てられたロロベリアはビクリと肩を振るわせる。
「つーかお前の精霊力が他と違うのはネルディナの一件で承知済みだろ。なにを今さら」
にも関わらずアヤトは苦笑交じりに視線をロロベリアからリースに移す。
「どうも白いのは思春期を拗らせているようだ。リス、お前は今の話を聞いてどう思った」
「今の話ってロロのこと?」
「他に何がある」
「むぅ……どうと言われても困る。ロロにはすごい力がある、くらいしか分からなかった」
その問いにとりあえず他と違う何かがある、くらいは理解していたリースは頭を捻りながら端的な返答を。
「でもロロはもともとすごい。だから思ったのはそれだけ」
しかし理解した上でリースは何も変わらない。
「後はすごいロロにすごい力があるなら、わたしはもっと頑張らないといけないと思った」
「……リース」
「だってわたしはロロよりも強くなって、わたしの大切を守るって決めた」
とても単純な胸の内にロロベリアは伏せていた目を隣りに座るリースに向けていた。
「これ以上置いて行かれないように頑張る、それだけ」
リースも視線を向けて言い切った。
自分を見詰めるその瞳は選考戦の最中、医療施設で初めて真剣勝負を挑まれた時と同じ強い決意が込められていて。
「オレは姉貴みたいに単純には受け入れられないけど、少なくとも姉貴が変わらず慕う姫ちゃんなら良いかって思うくらいか」
また逆隣りにいるユースも正直な気持ちを伝えてくれる。
「それにアヤトが言うように、元々なにか違うなって疑問視してたわけだし。つまり疑問はあるけど姫ちゃんは姫ちゃんってわけだ」
「ユースさん……」
「なんて、結局姉貴と同じで単純だったわ」
戯けつつ笑うユースも変わらない。
自分が異常な力を知っても変わらず接してくれる。
「らしいが、これでも思春期を拗らせるか」
二人の意見を聞いてほくそ笑みつつアヤトは茶化しを入れた。
「だいたいここに居る連中はまともじゃない奴ばかりだろ」
「まるで自分が希少なまとも人みたいな言い方するじゃまいか。一番まともじゃないのは神さまに取り憑かれたあんたさね」
「少なくともバケモノのテメェに言われたかねぇよ」
「あたしこそバケモノのあんたにだけは言われたくないよん」
からのラタニの茶化にどっちもどっとな二人はお約束の言い合いを始める始末。
ただ神と契約したアヤトも、精霊術士として別格な力を秘めたラタニも、異常な力を周囲にどう思われようと構わず磨き上げて今の次元に到達している。
またミューズも他と違う力を受け入れ成長しようと前を向いた。
なによりここに居る人は、知ったところで向ける瞳は変わらない。
リースやユースだけでなく、ツクヨもミューズも怖がらず受け入れてくれたなら。
「たく……とにかく、これでも自分が何者か分からないと立ち止まるなら、賭けは俺の勝ちでいいな」
あまりに衝撃的すぎて狭くなっていた視野が広がったところで、アヤトが嘲笑と共に確認してきた。
それは初めて遊びという名の模擬戦をした際、互いの勝利条件を確認した時に交わした約束。
アヤトに掠り傷でも負わせれば自分の勝ち。
自分が世界を守れる強さを撤回すればアヤトの勝ち。
つまり大英雄の道を挫折した瞬間、ロロベリアの負けが確定する。
「……その賭けはいま関係なくない?」
「かもな」
懐かしい約束を持ち出すアヤトにささやかな批判をするがどこ吹く風。
それでも捻くれた優しさが伝わっただけに、ロロベリアの表情に笑みが戻っていた。
疑問はあろうと今の自分に余計なことを考えている暇はない。
他者とは違う異常な力を秘めているなら、より強くなれる可能性があると捉えればいいだけだ。
むしろ謎の少女が何か知っているのなら好都合だ。捕まえて全て聞き出せばいい。
なんせよそ見をして追いつけるほど目指す背中は甘くないのだ。
「どちらにしても賭けは継続。私が挫折する理由はないもの」
「相変わらず白いのは悪足掻きがお好きなようだ」
故に難しく考えるのを止めて目指すべき相手を追い続けるとロロベリアは切り替える。
「リース、ユースさん……ありがとう」
「? なにがありがとうか分からないけど、どういたしまして」
「お気になさらず」
そして異常な力を知っても尚、変わらず受け入れてくれた家族に感謝の気持ちを伝えた。
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(姉貴を同席させたのはこのためだったわけだ)
ロロベリアに感謝されたユースと言えば、アヤトの意図を理解して内心笑っていたりする。
今まで情報を伏せていたロロベリアとリースに全て明かすと聞いた時、リースを同席させるとアヤトが決めた理由が分からなかった。
そもそも二人に情報を伏せていたのは謎の存在を知れば挙動不審になると危惧して。
当事者のロロベリアはともかく、伏せたままに出来るならリースには伏せるべき。なんせリースは短絡的で猪突猛進、現に謎の少女と対峙したときも考え無しで突っ走り怒りを買ってしまった。
しかしロロベリアが自身の力を知った際、リースが最も支えになる。
現にリースの素直な気持ちがロロベリアを立ち直らせる切っ掛けになった。
ある程度事情を知る自分たちより、同じように何も知らされて無くても尚、変わらず自分を受け入れてくれる存在こそロロベリアには必要だった。
要はリースが全てを知るリスクよりも、ロロベリアを立ち直らせるのを優先しただけで。
ただアヤトのやり方に一つだけ文句がある。
「それよりもユースは後で詳しい説明。もちろん隠し事も全部話す」
短絡的だからこそ、事情が事情とは言え今まで秘密にしていた弟を果たして姉は許してくれるかどうか。
「……だから、覚悟してるって」
後の展開が想像できるだけにユースはうな垂れるしかなかった。
今回の話し合いにリースを同席させた理由でした。
急に自分が他と違う異常な力を秘めていると知れば、さすがのロロも衝撃から迷走しますからね。そういったときだからこそ、リースのように純粋な気持ちを伝えてくれて、変わらず受け入れてくれる近しい存在というのは、今後のロロにとっても大きな支えになると思います。
なのでリースの役割を察したユースも乗っかり、最後はアヤトの挑発でロロも立ち直ったわけですが……果たしてユースは許してもらえるでしょうか。
ちなみにマヤがアヤトに情報を漏らしたことや、そもそもアヤトが条件とは言え教国でマヤに言われるまま神さま(?)を白夜で斬ったのは二人なりの理由がありますがその辺りはもちろん後ほど。
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