二人の評価
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「あれまあ、レイちゃん。まだ居たのかい」
訓練場を後にしたラタニは屋敷に入るなり学院に向かったはずのレイドと出くわした。
いや、出くわすというより待ち構えていたのだろう。
でなければ訓練場以外に何もないここで会うはずがない。
「パートナーの予定もあって、今日は午後から訓練なんです。なので学院生会の仕事をしてました」
「ふ~ん」
それでも偶然を装うレイドにラタニは嘆息するも追求しない。
アヤトからレイドと秘密裏で模擬戦をしたこと。擬神化を見せたことまでは報告を受けている。
しかしレイドは二人の報告義務までは知らない。
つまりラタニが知っているとレイドは知らないわけで。
「そりゃご苦労なことで。で、ご苦労ついでにロロちゃんを介抱してあげて」
これ以上不審な行動を取る第二王子へ情報を与えるつもりはないと、いつも通りの対応を。
ラタニは軍所属、レイドは王族と身分ではレイドが上。
ただ師事を受けた先生という間柄以上にラタニは王国内でも重要な存在。王国最強との肩書きを持つ精霊術士となれば存在価値はそれこそ王族以上。
現にラタニの実力を知る者は、彼女なら精霊種にさえ対抗できると噂するほど。国家戦力と同等の戦力ならば当然の評価で王国に対する忠誠心もある。
なのでアヤトとは違い、公の場関係なく普段からこの調子なのでレイドも気にしない。
だからこそ敵も多いが、やはり能力を考えれば簡単に手は出せないのだが。
「意識を失っている女性をボクがというのも……」
とにかくラタニの物言いにレイドは不快もなく首を振る。
昨夜の状況はエレノアと同じく従者伝手に聞いているからこそ気が引けてしまう。
「だいじょぶじょぶ。ロロちゃんへばってるだけで意識はハッキリしてるから。でなけりゃ放置しないし」
「ああ、そうなんですか」
しかし手をひらひらさせるラタニの言葉に、レイドの気遣いも払拭された。
「ただ今日はもう訓練無理そうだし、目的は達成したからお終いってことで。ならお仕事に戻らんとね……今回の予定も無理したから」
「……つまり、本当にこの短期間で言霊を習得したと?」
だが続く情報にさすがのレイドも驚愕を隠せない。
自分やカイルでもラタニの教えから一年かかった言霊の習得を、本当に一日足らずで習得したロロベリアの才覚に。
そして、それを可能としたラタニの手腕に。
「強くなるのに必要なのは能力や才能じゃない。単純に強くなりたいって気持ちだ。ロロちゃんにはそれがある」
そんなレイドの心情を見透かすようにラタニは告げる。
「褒めるならロロちゃんの想いってことだね。とにかく、うかうかしてるとその想いに喰われちゃうよ? 今は学院最強の序列一位さま」
ささやかな発破をかけて話は終わりとその場から去った。
残されたレイドはしばらく呆然としていたが、大きなため息と共に思考を回し始める。
どのような訓練でこの短期間で言霊を習得したのか興味は尽きない。
しかしそれ以上に興味深いのは彼のこと。
この才覚を見いだし、ロロベリアを特別視しているのか。
ならあのような申し出をしたのはこの状況を見据えてか。
「本当に……分からないなぁ」
知れば知るほど予想すらさせてくれない。
ただ確実に分かっていることもある。
「さてと、彼の大事な大事なロロベリアくんを介抱してあげないと……殺されちゃうからね」
ラタニの指示よりも従うべき理由にレイドは訓練場へ向かった。
◇
訓練場で満身創痍で倒れているロロベリアを見つけるなり驚きと呆れをレイドが感じている頃――
「やれやれ、驚きびっくりだ」
念のため従者にも訓練場へ向かうよう頼んで屋敷を出たラタニは苦笑ながらも純粋に驚いていた。
ロロベリアの実力なら一日あれば言霊を習得するとの見解も本当。
天才が故に感覚に頼りすぎて微調整が必要と判断したのも本当。
比喩ではなく命がけの状況に追い込むことでコツを掴むと予想したのも本当。
ただ一つだけ嘘を吐いた。
ラタニの予想では昨夜の内に微調整を完璧にして、翌日は更に細かな制御を要求することで言霊を習得するはずだった。しかしロロベリアは昨夜の内に言霊を習得してしまった。
つまり変換術ありきで初めて習得との説明は嘘。
そもそも昨夜の微調整にしてもロロベリアは自分の要求を予想以上の速さで達成してしまった。面白いほどの上達にラタニはどこまで伸びるのかと夢中になり、結果的にやり過ぎたのだ。
そして先ほども。
変換術を組み込んだ言霊をわずか二時間で習得しただけでなく、実戦レベルまで扱えるのは予想以上で。
やはり夢中になり、最後の模擬戦と称した遊びもやり過ぎてしまったのだが。
自分の予想を超える上達はレイドに話したように想いの強さがあってこそ。
しかし純粋な才覚もまたあってこそ。
それこそ戦いの申し子がアヤトなら、精霊術士の申し子はロロベリアだと言い切れるほどに。
あの子こそ学院で最も才があると予想していたが、ロロベリアの才能を目の当たりにしたことでラタニは認識を改めてしまう。
だからこそ惜しいとも感じる。
制御力、想像力は十二分、しかし精霊力の保有量が足りない。
せめてリースほどの保有量があれば、自分のとっておきも習得できるのにと惜しくて。
なんせロロベリアはアヤトと同等な興味をマヤに抱かれている。
神が興味を向けるほどの運命だ、それこそ予想は出来ないがロクな未来は待っていないだろう。
ならば少しでも切り札は多い方が良い。
その為には運命を切り開く強さがロロベリアにも必要で。
二人にはいつか争いと無縁の、平穏な日々を送って欲しい。
これはラタニの純粋な願い。
少なくとも自分の未来はロクでもないからこそ、似た境遇を持つ生意気だが可愛い弟分はせめてもとの自己満足だ。
「ま……長い目で守ってあげるかねぇ」
精霊力の保有量は個人によるが、ロロベリアの年齢ならまだ充分増える可能性はある。
もしその時までに生きていたら、とっておきの切り札を教えようと。
「それまではお姉ちゃんが頑張るか」
ラタニは一人気合いを入れた。
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