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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十五章 迫り来る変化と終演編
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【年末SS 月光の下で迎える一年】

大晦日のお約束となったSSを更新しました。

本編ではロロの謎に迫る展開になっていますが、こちらは作者の作品を読んでくださっているみなさまへ一年の締めくくりのご挨拶と、感謝の気持ちです。


それではアクセスありがとうございます!



 風精霊の三月も残り僅かとなった王都では――


「もうすぐ今年も終わるねぇ」


 ロロベリアの自室でお茶を飲んでいたユースは時計を確認しながら伸びを一つ。

 立場上の付き合いから二時間ほど前に外出した両親に付き添った使用人以外は全員休みが与えられ、今ごろ年越し祭に参加しているだろう。つまり現在ニコレスカ邸には現在三人しか居ない。

 年越し祭は街の広場や商店などに集まり、みんなで新年を迎える鐘の音を聞くのが風習。しかしロロベリアとニコレスカ姉弟は四年前からどこにも行かず、三人で新年を迎えるのがお約束となっていた。

 これはロロベリアが幼少期に想い人と交わした約束から年越し祭に参加しなくなり、ニコレスカ姉弟が付き合っている形で。

 故に今年も変わらず両親や使用人を見送り、三人でお茶を飲みつつまったりとその瞬間を待っていた。


「……眠い」


 のだが、まったりしすぎたようでリースが睡魔に負けかけていた。


「なら眠気覚ましも兼ねてバルコニーに出ましょうか」

「外は寒いけど……だからこそか」

「そうする……」


 正直なところ無理をせず休んでもらいたいところだが、せっかくここまで起きていたのなら今年も三人で鐘の音を聞きたいとロロベリアが提案。

 寒さ対策に重ね着をしてから窓を開けてバルコニーへ。


「寒っ!」

「大丈夫……愚弟の洒落ほどじゃない」

「それはどういう意味ですかねぇお姉さま!」

「まあまあ……でも少しは目が覚めたでしょ」


 そんなやり取りを楽しみながら手摺りに手を掛けロロベリアは空を見上げた。

 遠くに見える商業区の明かりに反して周囲は薄暗く、だからこそ夜空を彩る星々がよく見える。また淡い月光と自身の吐く白い息が合わさり、より優しい輝きに感じる。


(クロもどこかで見てるかな……)


 ただその優しい輝きに照らされながらもロロベリアは哀愁を帯びた瞳で見上げていた。

 風の便りで亡くなったと聞いても必ず生きていると信じて。


(いつか一緒に参加しようね……クロ)


 一緒に年越し祭を楽しもうと約束をしたゆびきりを改めて交わすよう、立てた小指を月に向けて伸ばした。



 ゴーン――



 同時に新しい一年の始まりを告げる鐘の音が響き渡り、伸ばしていた腕を下ろしてロロベリアは隣りにいる二人に視線を向けて。

 二人もロロベリアに視線を向けて。


「「「今年もよろしくお願いします」」」


 三人の挨拶が綺麗にハモり、それがなぜか可笑しくて三人は笑った。


「さてと、お約束も叶ったしそろそろ寝ましょうか」

「ロロ、今日は一緒に寝よう」

「つまりオレはボッチかよ……」



 ◇



 風精霊の三月も残り僅かとなった教都では――


「もうすぐ時間ですよ」

「ミューズさま、大丈夫ですか」

「問題ありません」


 レムアやクルトに声を掛けられたミューズは白い息を吐きつつ微笑みかける。

 三人は年越し祭を迎える為にレイ=ブルク大聖堂に居るのだが、本来イディルツ家子女であり枢機卿の孫娘でもあるミューズなら大聖堂内奥の聖域で迎えられる立場。

 しかしミューズは毎年湖畔周辺を囲むように集う教徒と共に迎えている。まだ神子として未熟という意識もあるが、聖域には従者のレムアやクルトが入れないからだ。

 また庶民気質もあるのだろう。故に形式よりも普段からお世話になっている大切な人と迎えたいとの意向でもあった。

 もちろんギーラスもミューズの自由と許してくれているからこそ。


「ミューズさまにとってこの一年はどうでしたか」

「とても素敵な一年でした。王国に留学したお陰で、たくさんのご友人とも巡り会えましたし、なによりエレノアという親友ができましたから」

「それはなによりです」


 鐘の音までの間、レムアやクルトと談笑を楽しむミューズにとって言葉通り今年は良い出会いに恵まれた一年だった。

 ただ一つだけ心残りがあるとすれば父との関係か。

 物心ついた頃から素っ気なく、ろくに親子の時間を過ごした記憶が無い。

 今年も留学を反対されて、帰省しても滅多に顔を合わせず、合わせてもやはり素っ気なくされてしまう。そして今回の帰省では未だ挨拶すら出来ていないのだ。

 立場上忙しい人なので仕方がない。それでも寂しさは拭えない。

 父が何を思っているのか。いつも精霊力の輝きが不安定で感情が読み取れず、向き合っている際に自分がどう思われているか不安で。

 そんな不安を紛らわせるように、また周囲の精霊力の輝きを視認し続けていた目を休めるようにミューズは夜空を見上げた。

 大聖堂から照らされる明かりで星々は見えなくとも月はよく見えた。


(いつか……あのような優しい輝きが視られるでしょうか)


 その力強くも優しい輝きを父の精霊力の輝きに求めるよう、自然とミューズの手が月光に向けて伸びていく。



 ゴーン――



 同時に新しい一年の始まりを告げる鐘の音が響き渡り、伸ばしていた腕を下ろしたミューズは両手を組み目を閉じる。

 教国では鐘の音に合わせて最初にレーヴァ神へ新しい一年を迎えられる感謝を込めて祈りを捧げるのが通例で、初めて他者と言葉を交わすことが許される。

 故に今年もレーヴァ神に祈りを捧げた後、ミューズはまず大切な家族に最初の挨拶を。


「レムアさん、クルトさん、今年も一年よろしくお願いします」


「「こちらこそよろしくお願いします。ミューズさま」」



 ◇



 風精霊の三月も残り僅かとなった帝国領土内では――


「たく……予定ではもう着いていたんだがな」


 月光に照らされた街道を歩きつつアヤトはぼやいていた。

 公国経由で昨日帝国領に入ったものの、予定では夕刻ごろ次の町に到着していたはずが面倒ごとに巻き込まれたお陰で大幅に遅れていたりする。


「不満があるのなら先ほどの町で過ごせば良かったのではないですか?」


 そんなアヤトの隣りに顕現したマヤがクスクスと笑いつつ問いかける。

 と言うのも遅れた理由は道中で襲われた賊の処理に時間が掛かったからで。

 最初に出会った賊をボコボコにした後、根城を聞き出しわざわざ壊滅するまでが旅路でのお約束。そして賊の無力化と根城の場所を綴った手紙を近くの町村の詰め所に残すまでがお約束。

 つまり帝国領に入って最初に滞在した町に戻って手紙を残したわけで、そのままもう一泊すれば良いだけの話。にも関わらず次の目的地に向かっている。


「先ほどの町はそれなりの規模だろう。年越し祭もあるなら騒がしいんだよ」


 そんな疑問もアヤトはしれっと一蹴。

 確かに次の目的地は小さな村、年越し祭だろうと住民が少なければ賑わいもささやかなもの。

 

「では擬神化をして走れば良いのでは? 兄様の足なら夕刻には充分間に合ったでしょう」

「面倒だ」


 更なる疑問もやはりしれっと一蹴。


「それに新しい年を静かに迎える、というのも乙なもんだ」

「それは何ともボッチ気質な兄様らしいと言いますか、相変わらず興味深いお考えだこと」

「そりゃどうも」


 ゴーン――


 マヤの茶化しに肩を竦めると同時に、どこからともなく鐘の音が響いた。


「どうやら思っていたよりも近くに居たようだ」

「そのようですね」


 立ち止まることなく言葉を交わすが周囲の静けさと異常な聴覚だからこそ聞こえただけで、実際にはまだかなりの距離があるのだがそれはさておき。


「人間の風習ならば、ここは今年もよろしくとご挨拶するべきでしょうか」

「俺としてはお前とよろしくなんざしたくないんだが」

「兄様ったら酷いですわ……と、ラタニさまから兄様に今年もよろしくねん、と連絡が入りました」

「へいよ」

「そこは今年もよろしく、ではないでしょうか……カナちゃんがアヤチンの年越し料理が上手く再現できないと嘆いてるよん、あんたはいつ帰ってくるのかにゃー、とも来ましたが」

「ならアヤチンを止めれば今年中に帰るんでよろしくな、と伝えておけ」

「はーい」

「つーかお前はいつまで一緒に歩いてんだ」

「せっかくの年越しですし、兄妹水入らずで過ごそうと思いまして」

「それは何ともお優しいお気遣いで」


 などと軽口を交わしながら二人は歩き続けた。




時期的にはロロとアヤトの主人公二人が再会、またヒロインのミューズがアヤトとで会う前の年末の一コマでした。

三人とも別の国で、しかし月明かりの下で鐘の音を聞きながら新しい年を迎えましたが、ロロやミューズの願いは叶えど、アヤトは変わらずマヤさんとよろしくな一年を過ごしましたね(笑)。

ちなみに作者は家で好きなアーティストの歌を聴きながら迎えるのがお約束です。


また澤中雅として今年の更新はこれで終了となります。

来年も面白い! 続きが楽しみだ! と思って頂ける作品になるよう執筆を続けていくので温かく見守って頂ければ作者はとても喜びます。


読んでくださりありがとうございました!


それではみなさま、良いお年を!

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