つかの間の日常
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遠征訓練のためダラードに滞在していた中で起きた騒動後、精霊種の精霊石と共に学院生が王都に戻って四日目。
本来なら本日王都に戻り遠征訓練も終了予定だが、ダラード遠征をしていた学院生らは一足先に終了している。
対して別の遠征先に赴いていた精霊学クラス、騎士クラス、仕官クラスは予定通りのスケジュール。三クラスの遠征先がダラード方面ではなかったお陰で騒動は知れど危険はなく、また同日に脅威を排除できたこともあって続行したらしい。
変わりに遠征訓練終了後の二日間の休暇とは別に、ダラード方面に実家がある学院生の希望者には特別休暇を設けられた。被害報告が無くとも家族が心配だろうと一時帰省が出来るよう配慮した結果で、一足先に終了した学院生らも安全確保が出来るまでは馬車も動かず王都待機を言い渡されていた。
故にダラード方面の馬車が再開に合わせて学院生らが一時帰省する中――
「みんなお昼にはラナクスに帰っちゃうのね。寂しくなるわ」
「実家のお手伝いもありますから」
「それにお世話になりっぱなしも申し訳ないし……」
「元より一度実家に顔を出す予定だったので」
「滞在のお礼は改めてさせていただく」
ニコレスカ邸の食堂でクローネと朝食を摂りつつ、恐縮げに頷くランとディーンの他にルイやディーンもいたりする。
四人は王都に戻って以降ニコレスカ邸に滞在中。王都待機を言い渡された者には遠征訓練と同じく国が宿泊施設を手配しているが、討伐訓練が中止になり消化不良な序列保持者はニコレスカ姉弟やクローネに勧められ、屋敷で寝泊まりしながら自主訓練に明け暮れていた。
そして王都に戻った翌日の夜、アヤトたちも王都に戻っていたりする。
「お礼なんていいわよ。わたしも子どもたちのお友だちがお泊まりとか新鮮で楽しかったもの。でもミューズちゃんは明後日まで居てくれるのよね」
「クローネさまさえよければお世話になります」
つまりロロベリアは当然ミューズも滞在している。
ちなみに港でアヤトたちと合流したレムアはラナクスの屋敷にいる使用人たちへ帰国報告をするために一足先に戻り、フロッツはそのまま教国行きの船に乗り帰国。
そしてミューズが滞在しているのは他の序列保持者と同じく自主訓練に参加するため……以外にも理由があると察している面々は苦笑い。
なんせ帰国後、アヤトやマヤもニコレスカ邸に滞在している。
理由はロロベリアを狙う謎の少女。
未だ捕まっていない謎の少女を知るだけに、クローネは屋敷の警備を強化したがやはりアヤトが居れば心強いと頼んだ結果だ。
なのでツクヨと一緒にラタニの住居で留守番をしていた体のマヤもお世話になっているのだが、アヤトの滞在でより過激な自主訓練になろうと序列保持者としては望むところ。むしろ序列保持者での合宿的なノリで楽しんでいたほどだ。
まあ王族として宮廷に戻らなければならないエレノアはとても残念がっていたがそれはさておき。
レムアからアヤトたちと一緒に戻ってくるよう勧められたとは言え、公国へ行く前よりも積極的になミューズに理由を聞くのも野暮。
またクローネやランたちは知らないが、実のところアヤトとロロベリアがダラード付近の町で一泊したミューズやフロッツと無事合流した後、アヤトの故郷ルルベルに移動している。
両親の墓が公国に移される前に一度ご挨拶をしたいとミューズが希望し、海路で帰国するレムアと合流するまで時間もあるならとアヤトも了承。そして墓参りを終えた後はルルベル付近の町で一泊、翌日港でレムアと忙しない流れで王都に戻っていた。
ミューズにしては珍しいわがままも含めて、積極性が増したのはフロッツの助言があってこそで。
「もちろんオッケー。遠慮なくお泊まりしてね」
「ありがとうございます」
とにかく娘の恋敵だろうと関係なく、友人として扱うクローネが笑顔で了承したのは言うまでもない。
◇
「じゃあまた学院で」
「お世話になりました」
「お気を付けて」
先に家の馬車が迎えに来たジュードとルイに遅れて、寄り合い馬車で王都を出発するランとディーンをお見送り。
「少し出かけてくる」
「……どこに行くの?」
……するなり早速別行動を始めるアヤトにロロベリアが構ってちゃんな質問を。
「王都内には居る、心配するな構ってちゃん」
アヤトがまともに返してくれるはずもなくそのままどこかへ行ってしまう。
まあクローネから護衛を頼まれているが常に一緒というわけでもない。
「いってらっしゃい……」
「みなさま、わたくしは少し休ませてもらいます」
現に今日まで何度か外出しているので追求せず見送れば、早々にマヤは屋敷へ入っていく。ミューズが居る手前、同行こそ申し出ないが客間に居る体でアヤトの後を追うのだろう。
「どこで何してるんだろう」
「どこだろうねぇ。でもま、姫ちゃんは大人しく留守番してような」
屋敷に戻りながら首を傾げるロロベリアに肩を竦めつつユースはクギを刺すよう、不用意な外出を控えれば一先ず安全は確保されるのだ。それに王都内ならマヤを通じた連絡でアヤトも即座に駆けつけてくれる。
もちろんロロベリアも理解しているし弁えてもいる。ただ自分を探している謎の少女というのは不気味で。
しかも不可解な点が多く、持たぬ者クラスまで精霊力を抑えられ、新解放の状態で言霊使わず精霊術が使えて、保有量は上位精霊術よりも上らしい。
加えてユースが聞いたローゼアという名前。
少女の目的は何なのか。
なぜ自分を探しているのか。
見た目の特徴から全く心当たりがないだけに、みんなから話を聞いて困惑ばかりが募っている。
ただ少女と接触した時期からアヤトの様子がおかしく感じた理由は腑に落ちた。
恐らくラタニから少女の情報を聞いたのだろう。故に警戒してくれた。
敢えて伏せていたのも旅路を楽しんでもらうため……というのはユースの臆測だが、アヤトは自分を守ってくれていたのは確か。
なら外出しているのも少女が関係しているのかもしれない。
だとすれば嬉しい反面、悔しさがある。
もっと強くなって早く守れる側に立ちたい。
ラタニのように対等な立場で、信頼される自分でありたい。
「不安よりも悔しい、ロロベリアさんらしいですね」
「……読み取りました?」
そんな心情を察してか、微笑みかけるミューズにロロベリアはニコレスカ姉弟に聞かれないよう耳打ちを。
的確な指摘は精霊力から感情を読み取ったのか。もちろん別に構わないと――
「それ以前に表情で伝わりました。なのでわたしだけではありませんよ」
「訓練するなら付き合うぜ」
「一緒に強くなる」
「あはは……」
戯けてみせる前にニコレスカ姉弟から誘われ苦笑い。
ただ感情が表に出やすいのも自分なら、立ち止まらず前に突き進むのも自分だ。
「もちろんわたしもお付き合いします」
「じゃあお言葉に甘えようかな」
そして切り替えの速さも自分らしさと気合いを入れて練武館へ向かった。
しかし数時間後、ロロベリアは新たな問題と向き合うことになる。
前章後のそれぞれの状況でした。
ニコレスカ邸で序列保持者(エレノアを除く)合宿や謎の少女の存在と完全とはいきませんが、全員が揃っている日常が帰ってきましたね。
ただそんな日常もつかの間、次回からロロが様々な事情を知り、自分自身と向き合う展開となります。
どんな事情かはもちろん次回で。
ちなみにミューズたちのお墓まりの様子はオマケで描かれる予定です。
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