序章 追憶の目覚め
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『らーちゃんすごい!』
それは幼き頃の楽しい時間。
自分の精霊術を見て褒めてくれる――くんのキラキラとした目が大好きで。
その目を向けられるのが嬉しくて、一緒にいることが楽しくて。
ずっと一緒に居たいと――くんも思ってくれて。
約束を果たす為に本気で強くなろうとした。
しかし次に映し出されたのは絶望の瞬間。
両親から向けられる期待に満ちた目。
その光景を最後に世界が真っ白になって。
両親と一緒に家族同然だった人々も全て吹き飛んだ
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「…………あ~ね」
目を覚ましたラタニは腕で目元を覆いつつ乾いた声を出す。
断片的にではあるが寝起きとは関係なく夢の光景をハッキリと覚えている。
なんせ夢の光景は過去の経験で。
それは自分の世界が眩く色付いた瞬間。
それは自分の世界が絶望に染まった瞬間。
歩んできた人生の中で最高の時間と最悪な時間を同時に夢見るとは、何とも複雑な寝覚めでしかなく。
ただ普段は滅多に夢を見ないタイプのハズなのに、今さらこんな夢を見たのはノア=スフィネ戦で数年ぶりに本来の力を引き出した影響か。
それとも昨夜ミルバと飲み明かした時に語った昔話の影響か。
あの時から少しずつ諦めて、割り切っていく内にアヤトと出会い、考えを改めるようになって。
カナリア、モーエン、スレイ、ジュシカという大切な部下やロロベリアやニコレスカ姉弟といった後進の成長を見守っていく日々に少しずつ満たされて。
あの頃の自分なら躊躇わずに選べた死を、躊躇うほどに今という時間が尊いものに変わっていたはずなのに。
結局のところ選べなかったのは、幼き頃に抱いた感情を未練がましく引きずっていただけかもしれない。
「だとしたら諦め悪すぎなんだよ……いい加減にしろっての」
ふと頭を過ぎった可能性にラタニは自虐的にカラカラと笑う。
しかし室内に響くのは普段の彼女が発しているとは思えないほど虚無な笑い声を一頻り続けた後、深いため息を一つ。
「バケモノがいつまでも夢なんざみるんじゃないっての……クソが」
自身の笑い声に不快を露わに吐き捨てた。
約束は二度と果たせない。
諦めて突き放したのは自分なのだ。
故にせめてもの償いとして、残された時間を後進の為に使う。
そして大切な約束を一方的に破って。
大切な家族を最低な約束で縛り付け。
罪のない多くの命を奪った自分に相応しい最悪な結末を自ら選ぶと決めたのだ。
「……忘れるんじゃないよ、ラタニ=アーメリ」
覚悟を改めながらゆっくりと起き上がるラタニの耳にノックの音が。
『隊長、起きてますか』
ドア越しに聞こえるカナリアの声に合わせて時計を確認すれば七時を少し過ぎたくらい。
予定では九時にナーダへ最終報告を済ませてダラードを発つことになっているが、昨夜は飲みに行ったので様子を見に来たらしい。
それにしても早すぎるが、これはこれで世話焼きなカナリアらしいと笑って。
「起きてるよん。カナちゃん、おはー」
「おはようございます……また着替えもせず就寝ですか」
「だって眠かったんだもん」
「はぁ……ではさっさとシャワーを浴びてさっさと着替えて下さい。私は荷物の整理をしておくので」
「いつもすまんねぇ、カナちゃんや」
「本当にすまないと思っているなら少しは自分でやってください。荷物の整理など昨日の内に出来たでしょう。だいたい隊長は――」
などと小言を口にしながらも片付けを始めるカナリアにラタニはまた笑って。
「ではでは、ラタニさんはきれいきれいしてきますかねぇ」
軍に所属して最初に出会ったのが彼女で良かったと心から感謝していた。
今はまだラタニさんの見た夢に触れません。
そしてラタニ編なだけにラタニさんスタートとなりましたが、基本はいつもの感じで主人公二人(主にロロですが)を中心にストーリーは進んでいきます。
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