建前と本音
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精霊地帯から精霊種の大群が溢れ、更に精霊種の出現という未曽有の出来事から十日。
公国では元首のシゼルとスフィラナ家当主アドリア、ヒフィラナ家当主ダイチの三人が官邸に集い話し合いを行っていた。
三人のみの会談は半月前に行われた秘密裏の会談から二回目。もちろん三大公爵家当主として個々で顔を合わせての協議はしていたが、ダイチやシゼルと距離を置いていたアドリアが急に歩み寄ればスフィラナ家の派閥が不審に思う。
ガイラルドと共に派閥の意識改革に着手し始めたばかり、慎重に事を運ぶためにアドリアは今も表向きは二人と距離を置く必要があると控え、現当主三人が手を取り合っていると子どもや孫たちにも明かしていない。
しかし今は幸か不幸か三人が集っても不自然ではない大義名分がある。
なんせ王国で起きた未曽有の出来事は公国の領地にまで及ぶ霊獣地帯が発端。ただ公国側で王国のような現象は観察されていなかったりする。
まあ両領土に伸びる霊獣地帯は広大、王国からの報告によれば霊獣が溢れた地域も国境からずいぶん離れていたのなら、公国側に影響はなかったのだろう。
故にシゼルたちも王国の報告を受けて驚愕、すぐさま調査部隊を編成して霊獣地帯の調査を始めさせたりと休む暇もないほど慌ただしい時間を過ごしたものだ。
とにかく霊獣地帯に異常は見られなかったが当面は人員を増やして監視を継続、王国への調査結果も済ませているが問題は山積みで。
「――私としては無意味な疑惑を抱かれる可能性が少しでもあるのなら、今は静観するべきだと思いますね」
「……じゃな。ワシも同感じゃ」
その問題の一つ、ある意味この三人でしか出来ない議題について話し合う中、アドリアの意見に神妙な面持ちでダイチも同意する。
「むろんワシらの目的は別じゃ。しかしそう捉えてしまう者は公国のみならず他国にも出てくるじゃろう」
「それに王国側の事情も考慮しなければなりません。今回はタイミングが悪かったと諦めるしかないでしょう」
「……仕方ありませんね」
元より厳しいと理解していたのもあり、二人の説得にシゼルも渋々受け入れる。
今回の問題はシゼルが最も乗り気だったので仕方ない。
(間接的にだろうともう関わりたくありませんから……ほっとしました)
(シゼルには申し訳ないが、とりあえず良しとするか)
ただアドリアやダイチはそれぞれ別の理由で内心安堵していた。
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「せっかく準備を進めてたのに…………はぁ」
「事情が事情です。仕方ありませんよ」
「俺も楽しみにしていただけに残念だが、今回は見送るしかない」
その結果、シゼル以上に落ち込むサーシャをクアーラとラストが励ましていたりする。
と言うのも三家当主の間で進められていた三人のマイレーヌ学院への留学が、昨日の会議で中止が決定したのだ。
なんせ先日の出来事で王国内は事後処理に追われている。そんな中で三大公爵家の子息子女が留学するとなれば余計な仕事を増やしてしまう。
また精霊種の精霊石を有しているのも懸念の一つ。王国側は精霊地帯や精霊種の情報だけでなく、精霊石の研究成果も他国に公表を約束している。要は貴重な情報を独占せず、他国との友好を優先したのだ。
それほどの誠意を見せている中、半端な時期に公国が三大公爵家の子息子女を王国に留学させれば他国も含め、研究成果を盗むために刺客を送り込むカモフラージュと疑われてしまう。
もちろんシゼルたちにそんな意図は全くない。そもそも留学の計画は精霊種の出現よりも前から始まっていた。
だたタイミングからして謂われのない臆測が飛び交う可能性がある。精霊種の情報はもちろん、精霊種の精霊石はこの世に二つとない貴重な研究資料なのだ。
なにより本来の意図を伝えたところで信じてはもらえないだろう。
表向きの留学目的は未来の公国を担う三人に他国を学ばせることで広い視野を身に付けるとしているが、実際はアヤトを大層気に入ったシゼルが何としてもサーシャの婚約者にするべく接点を作る為だった。
ちなみにサーシャ本人が乗り気なのは言うまでもなく、だからこそラストも留学すると譲らず、お目付役としてクアーラも巻き込まれた形なのだがそれはさておき。
シゼルやサーシャがアヤト目的で留学するなど他国が信じるはずもなく、むしろ私利私欲な理由など正直に伝えられないわけで。
ただ王国側の配慮や謂われのない臆測を懸念してシゼルを説得したダイチやアドリアの本心も私利私欲があった。
アドリアとしては例え息子だろうと、出来るだけアヤトとの接点を持ちたくない。
ダイチはアヤトの為人を知るからこそ、シゼルの計画やサーシャの想いが届かないと分かるだけに元より消極的。
故に二人にとって今回の一件はタイミング良くシゼルを説得する材料を手に入れ、無事中止に出来たことに安堵していたわけで。
「せめて私だけでも王国に行かせてもらえないかな……」
「わがままを言うな」
「僕たちは同志ではないですか」
(とりあえず一難去ったか……しかしアヤト=カルヴァシアめ……っ)
(サーシャさんには申し訳ないですが、アヤトさんを知るだけに僕としては助かりました)
落ち込むサーシャを慰めてはいるが、ラストやクアーラも今回の留学が中止になったことを内心安堵していた。
十三章の後書きで予告していた公国というより主にサーシャさまの今後でした。
残念ながらサーシャさまたちの留学は実現せず、まあ王国の現状を考えれば仕方ありませんという建前でダイチさまやアドリアさま、そしてラストさまとクアーラさまの本音は中止になって万歳でしたけどね。
とにかくこれもラタニさんやアヤトくんに振り回された被害者……もとい関わりあるキャラとして、これにて外伝も本当に終了。
なので次回更新から新章突入! 前回予告していた通り、次章からはラタニさんにスポットを当てたストーリーが始まります。
本作の主人公がロロとアヤトなら、裏の主人公は間違いなくラタニさん。それだけにラタニ編はメインストーリーにも大きく関わっています。
その前編に当たる第十五章『迫り来る変化と終演編』をお楽しみに!
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