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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 それぞれの物語
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終章 二人の約束

アクセスありがとうございます!



「言うことが、あるん……はぁ……じゃねぇか」


「へいへい……降参、だよ」


 夕日によって朱く染まる闘技場で首元にナイフを突きつけるアヤトの催促にラタニは苦渋に満ちた表情で両手を挙げた。


「たく……ようやく終わった」

「疲れた……ねぇ」


 同時に二人はドサリと倒れ込む。全身は汗まみれの傷まみれ、アヤトのコートやラタニのローブはボロボロと満身創痍の二人が遊んでいたのは三〇分ほど。

 両者ともバケモノ染みた体力をしているも、常に動き回る上に、相手を挑発しながら神経を極限まで研ぎ澄ましていれば疲労困憊。そもそもラタニやアヤトをここまで追い詰める相手は他にいないのだ。

 そして遊びという名の模擬戦はアヤトの勝利に終わった。これまで微妙な判定はあった物の、ラタニにとっては初めて擬神化を見せた時以来の完全敗北で。


「負けると余計に疲れるわ……これであたしの五〇〇勝二敗かにゃー」

「四八二勝だ……盛るんじゃねぇ」

「あんた細かすぎ……つーかよくもまあ覚えてるもんだ」


 相変わらずの記憶力はさておいて、引き分けも含めてアヤトと数えるのもバカらしい対戦をしてきたが、ついに追い抜かれてしまった。

 ただこの結果をラタニは素直に受け入れている。半端に終わった最後の遊びからアヤトはエニシやダリヤという他国の強者と対峙した一方で、ラタニは霊獣や部下の訓練相手をするくらい。

 加えて朧月と同類の精霊術を斬れる月守を手にしているのも大きい。戦いの最中で見せた朧月と月守の二刀流、恐らく本人なりに納得のいくレベルまで磨き上げたからこそ勝てると遊びを持ちかけたのだろう。

 朧月のみでも厄介なアヤトが月守を手にすれば戦術のバリュエーションは広がる。それでも読み切りながら互角に持ち込んでいたのに、最後は発動前の精霊術を朧月と月守を投げつけて制御を乱し、一瞬の隙を衝いてナイフでチェックメイトだ。

 とにかく場数と新たな武器の熟練度による差が出た。擬神化の不意打ちよりも納得のいく敗北、これで王国最強はアヤトのものだ。


 しかしあくまで遊びの範疇でしかない。


「そんわけで遊び人最強はあんたのもんだ……おめでとさん」

「いらねぇよ……そんな称号」


 アヤトも理解しているからこそ表現と関係なく受け入れを拒否。

 模擬戦としても素の状態なら僅かでも確かにアヤトはラタニを越えた。

 それでもアヤトに擬神化や白夜があるように、ラタニには精霊虚域(ディメラジン)以外の最悪な奥の手がある。

 つまり本当の意味でラタニを越えるにはアヤトも時間操作という最悪な奥の手を使わざる得ない。故に勝利しても達成感など微塵もないだろう。

 アヤトの心情を察するだけにラタニは話題を逸らすようにケラケラと笑った。


「にしてもお互いボロボロなのは困ったねぇ……。着替えもだけど、治療を医療施設に頼れば遊んでたのバレるからどうしたもんか」

「その心配なら気まぐれな神さまが何とかしてくれるらしいぞ」

「マヤが? それは――」


 質問するより先に互いの身体を一瞬白銀の輝きが包み外傷が消え、衣服が遊ぶ前の状態に戻っていた。


「面白い遊びを見せてもらったご褒美と、ついでに俺の勝利をお祝いして、らしいぞ」

「そりゃありがとさん……だけど、どうせなら体力も回復してくれりゃいいのにねぇ」


 どうやら時間を操り元の状態に戻してくれたらしいがあくまで見目のみらしい。

 つまり疲労はそのまま、どこからともなく聞こえるクスクスとの笑い声に向けてラタニは嘆く。

 ただ遊んでいる間の人払も含め、マヤのお陰で闘技場の無断使用もばれることなく終えられたわけで。


「なんにせよ、久しぶりに満足できた」

「そりゃなによりだっと」


 互いに起き上がりつつ服に付いた土を払えば帰るのみ。

 元より一緒に帰宅などしないがラタニは講師としての仕事があるのでこのまま別行動。


「アヤ――」


「まだまだ遊び程度でしか越えられないが約束は果たす」


 最後に初勝利をネタに弄ろうとラタニは口を開くも、背を向けるアヤトから先に声を掛けられ言葉が続かない。


「むろん残りの人生を消費せずにな」


 それはアヤトを縛るために自分の弱さが交わした――


「誰かを殺める前に()()()()()()()()()()()()()()


 今となっては後悔しかない最低最悪な約束。


「故に心配するな」


 皮肉めいた言葉を残してアヤトは去って行く。

 もしかすると人知れず遊びに誘ったのも約束を果たせる可能性を示したかったのか。

 確実に追いついていると安心させる為に。

 自分が抱く恐怖を少しでも和らげようと。


「……そっちの心配はしてないんよ」


 闘技場から姿を消したアヤトに向けて弱々しくぼやきながらラタニは再び地面に寝転がる。

 もし約束を果たす機会が訪れた時、自決する覚悟は出来ているのだ。

 しかし伝えたところでアヤトは歩みを止めない。恐らく本人も最後の手段として胸に秘め、果たすために越えようとしている。

 結局のところ自身の弱さを明かした時点でラタニはアヤトの人生を歪めてしまったのだ。


「つってもあたしが原因なんだけどね」


 故に背負わせてしまった申し訳なさと後悔に嘖まれながら。


「自業自得なんだよ……クソッたれ」


 自分自身を責めるよう夕焼け空に吐き捨てた。



 

擬神化による不意打ちではなく、真っ向勝負でついにアヤトが初勝利しました。

ですが内容にもあったように遊びという模擬戦でしかなく、本当の意味でまだラタニを越えていません。

そして序章の後書きでなぜこの外伝を挟んだかの理由ですが、次章を始める前に改めてラタニやアヤトの深掘りをする為でした。

また第四部は主要人物のルーツに関わる内容をメインに本作のストーリーが進んでいくとお伝えしたように、十三章のアヤト編に続き十五章からはラタニ編が始まります。

つまりアヤトは当然ながら、二人の交わした約束がラタニ編のストーリーに大きく関わっていくからなんですね。もちろんロロを探す謎の少女も含め、十四章で出てきた新たな謎についても触れますが、メインはラタニさんのルーツ。

これまであやふやにしていたラタニさんの秘密が全て明かされていくのでお楽しみに!


……ですが次回更新は外伝のオマケを予定しています。もちろん次章に関わる内容と、ある意味二人に振り回された……もとい関わりのあるキャラのお話しです。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

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読んでいただき、ありがとうございました!



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