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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 それぞれの物語
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守る手のひら 中編

アクセスありがとうございます!



 シスターとケーリッヒはヒルデマ商会からやって来た男たちを追い払ってくれた少年を教会に招いた。

 本人はあくまでよく分からない主張で否定するが、ケーリッヒからすれば助けてもらった側になる。また少年の名前はアヤト=カルヴァシア、年齢はまだ十五才らしい。

 なぜ十五才の少年が旅をしているのか、屈強な男を一発で吹き飛ばしたことも踏まえてケーリッヒは不気味さを感じているが、約束したなら守らなければならない。


「俺は水を一杯と軒下でも貸してもらえれば充分なんだがな」

「せっかくのお客さまを外に閉め出しているようで私が申し訳なく思うわ。それにビラージュに来たばかりでしょう? ゆっくり休んで」


 なによりシスターがアヤトを気に入ったようで、予想通り雨も降り始めたこともあり食堂で歓迎していたりする。

 正直なところ不気味さや態度の悪さも踏まえてケーリッヒは余り良い印象はないが、助けられたのも確か。恩着せがましく何かを要求する素振りもないなら少なくとも悪い人ではないのだろう。


「後は少し話し相手になって欲しいの。旅人さんなんて珍しいもの、お婆ちゃんのわがままに付き合ってもらえないかしら」

「カリを作るだけなのも落ち着かんし、俺でよければ構わんぞ」


 故にシスターに言われるままケーリッヒは作り置きしていた茶菓子とお茶を用意する。


「シスター。僕は子どもたちの様子を見た後、壁の修理をしてきます」

「お願いね」


 ただアヤトに苦手意識があるだけに、男達の訪問に怯えていたであろう子どもたちのケアや、壊された壁の補修もあるので早々に退散。



 したのだが――



「精が出るな」

「……アヤトさん」


 二十分後、壁の補修を始めたところでアヤトが声を掛けてきた。


「シスターにビラージュ滞在中、ここで寝泊まりしろと勧められてな。だが何もせず好意に甘えるのは落ち着かんと手伝いに来た」

「そうですか……ありがとうございます」


 なぜと問う前にアヤトから理由を聞かされてケーリッヒは素直に感謝を述べる。

 真意不明でもわざわざ水を飲ませて欲しいと教会を訪ねたのなら路銀に余裕も無いだろう。心優しいシスターなら感謝の意も込めて勧めてくる。


「礼を言うのは俺の方なんだがな。この端材を使えば良いのか」

「はい……あの、シスターは善意であなたに宿泊を勧めたと思います」


 故に補修を手伝うアヤトに先回りの忠告を。

 二人がなにを話したかまでは分からないが男達の様子から少なくともこの教会が危機的状況なのはアヤトも察しているはず。

 そしてアヤトは屈強な男達を簡単に追い払った。素性も知れず、持たぬ者だろうとその強さに目を付けて用心棒代わりに引き留めたと思われるかもしれない。さすがに精霊力持ちが来れば太刀打ちできなくても、嫌がらせにヒルデマ商会も精霊力持ちを出したりしないだろう。

 精霊士や精霊術士が自己防衛以外で精霊力を解放して持たぬ者を傷つければ重罪、関与した者にも問答無用で重い罰が下る、商会もそんなリスクは犯さない。

 とにかくケーリッヒもアヤトの存在は心強いと内心感じているも、シスターにはそんな邪な気持ちはないのだ。

 幼い頃、両親に捨てられて絶望していたケーリッヒを温かく迎えてくれた。既に巣立った者、同じ境遇を持つ今いる他の子どもたちもシスターの優しさに救われたのだ。


「心配せずとも勘違いなんざしてねぇよ」


 だからシスターの善意を勘違いして欲しくないと続ける前に、アヤトも先回りして苦笑を漏らす。


「これでも人を見る目はそれなりにある。ま、いま補修を手伝っているようにカリを返す程度に手を貸すのはやぶさかではないが、所詮は一時凌ぎだ」

「…………」

「教会の状況についてはある程度は聞いてはいる。しかし俺が数日滞在したところで状況は変わらんだろうよ」

「……ですね」


 完全に他人事と一蹴されるもケーリッヒとしてはむしろ清々しいと笑った。

 アヤトは強い。しかし教会が抱えている問題は一個人の強さで解決できるものではないのだ。

 それでもシスターの善意を勘違いせず、例え一時凌ぎだろうとアヤトには助けたい意思がある。

 今の口振りからそんな不器用な感情が伝わり、思っていたほど悪い人ではないかもしれないと改める反面、ケーリッヒの表情は曇っていく。


「僕もあなたのように強ければ、みんなを守れるのでしょうね」


 アヤトが再び旅に出た後、みんなを守るのは自分の役目。だがみんなを不安にさせないよう振る舞える強さすらない。

 もっと力があればと両拳を握るケーリッヒに対し、アヤトはため息一つ。


「俺が強いとの評価はいいとして、は聞けばお前は長年ここでみなに料理を振る舞っているらしいな」

「……そうですが」


 突然の話題転換に首を傾げつつもケーリッヒは頷く。

 確かに幼少期からシスターの手助けをしたいと調理場に立つようになり、元より料理を作るのも性に合っていたので料理はケーリッヒが担当している。


「美味い飯でみなを笑顔にするのも守るという一つの形だ。相手をボコれる力よりもよほど尊いものだと俺は思うがな」


 ただなぜ料理の話になるのかと視線を向ければアヤトは肩を竦めて説いてくる。

 大切な人を守る為の強さはケーリッヒにはない。

 しかし料理という形だろうと大切な人の笑顔を守っている。相手を傷つける強さよりも誇れる力だと。


「先ほどの菓子もなかなかの出来だった。それだけの腕があれば料理人としてもやっていけるだろうよ。要は誰かを守るのに必要なのは力だけでもねぇよ」


 また教会の継続が苦しいのなら調理師として働きながら支援すれば良いと、今のケーリッヒにも可能な守り方を教えてくれた。

 料理の腕でみんなを守れる道が歩めるならケーリッヒも歩んでみたいが、支援するほどの稼ぎを得るなら王都のような大都市で成功しなければならない。

 そんな伝手がない以前に、今の状況で教会を離れるわけにはいかない。例え戦う力が無くても、少しでも不安を和らげる為にシスターや子どもたちと一緒に留まるべきで。


「僕の料理がそこまで評価されるものかはいいとして、腕だけで成功するものではないでしょう。特に僕のような平民には中々チャンスは訪れません」

「違いない」


 ちょっとしたお返しを込めた言い回しで反論すればアヤトも同意。

 ただ今の綺麗事や、守る道筋を提案したのは自分の悔しさを感じ取ったからこその励ましとは察したのは、この数分でアヤトの印象が大きく変わったからか。


「だがま、何をするにしても身体を鍛えるに越したことはないぞ」

「ですね……」


 故に今さら鍛えたところで遅いが、もっともな忠告にケーリッヒは頷くしかない。

 せめて今できることをしようと少しだけ前向きな気持ちになれた。



 ◇



 アヤトがしばらく滞在すると聞いたに子どもたちは困惑を通り越して怯えていた。まあ誰が相手でもぶっきらぼうな対応をしていれば当然の反応。

 しかしシスターやケーリッヒが好意的に接している様子や、教会の雑用を進んで受け持つ姿、そして意外にも僅かな食材でも美味しい料理を作る腕前もあり。

 なにより懸念したヒルデマ商会の嫌がらせでも活躍したのが大きく、徐々にではあるが子どもたちも受け入れていた。


 お陰でここ数日、一時的とはいえ教会は平穏な時間を過ごしていた。


「――兄様はいったい何を考えているのでしょうか」


 夜更け過ぎ、滞在中に利用させてもらっている一室であやとりに興じるアヤトの前にわざわざ顕現したマヤが問いかけていたりする。

 なんせアヤトの目的地はビラージュではない。天候を理由に立ち寄っただけで、教会でのいざこざを目撃したのも本当に偶然なのだ。

 にも関わらず国王からの依頼を無視して滞在いる。国王の依頼を遂行するのに普段は目立つ行為を控えているが、教会の問題に自ら足を踏み込んだのは単に放っておけなかったのだろう。

 しかしここまで深入りしている理由がマヤとしては実に興味深い。


「美味い菓子と茶を馳走になった上に、わざわざ寝泊まりさせてもらってんだ。カリを作ったまま立ち去るわけにもいかねぇよ」

「本当にそれだけでしょうか?」

「ま、ヒルデマ商会が関わっていると聞いて楽に依頼を済ませられる、程度の期待込みでもあるか」

「ヒルデマ商会……確かクローネさまが以前お話ししていましたね」

「上手く行けばクローネにも恩が売れる。国王を待たせてはいるが、依頼遂行の為なら少しくらい構わんだろう」


 マヤの問いかけにほくそ笑むアヤトの狙い通り、ヒルデマ商会では――


「あなたたちはいつになったら朗報を持ち帰るのですか」


 痺れを切らした会長のグリア=ヒルデマ自らがビラージュに赴き、担当している幹部を問い詰めていたりする。

 王国では珍しく信仰心の深い前領主が隠居したお陰で、元々目を付けていた教会の土地を手に入れやすくなり、現領主を唆して窮地に追い込んだはずなのに計画は一向に進まない。

 物の行き来が豊富なビラージュは重要な拠点、教会のように不要な施設よりも儲けを得る使い道はいくらでもある。また暮らしている者が孤児ばかり、使い方によっては充分金になるのだ。

 ケーリッヒの予想通り、元よりグリアは真っ当な保証などするつもりは微塵もない。


「それがですね……妙な子どもが住み着いているそうで……」

「妙な子ども……?」


 故に幹部の言い分を聞いたグリアは最悪な手段を思いつく。


「少しは頭を使いなさい。その子どもを利用すれば簡単に事が運ぶでしょう」


 子どもたちで儲けられないのは残念だが、今は欲していた土地を優先した。


 アヤトの狙い通りの展開になっているとは知らずに。


ケーリッヒとアヤトの交流やヒルデマ商会の動向が少し簡潔になりましたが、二人の出会いは国王の依頼が切っ掛けでした。

まあマヤさんが推測したように、偶然とは言え教会のいざこざを見てしまったアヤトが何だかんだで放っておけず、後付けで依頼遂行を狙ったんですけどね。この子はほんと捻くれてるというか……普通に困っていそうだから助けたで良いと思うんですけど……アヤトくんには無理か。

とにかくヒルデマ商会の会長さんが思いついた最悪な手段をアヤトがどう利用するのか。

後にケーリッヒが王都で調理師として働いていた理由も含めてお楽しみに!


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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