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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 それぞれの物語
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世代交代 中編

アクセスありがとうございます!



 ナーダの頼みで静養を終えたラタニの復調を確認する為に、王国最強の精霊術士と謳われるワイズは屋敷に赴いたのだが――


「ラタニ嬢、今から私とお出かけしましょう」


「……あん?」


 精霊術を撃つなり突然外出を誘われたラタニもさすがにキョトン。


「いきなりなにを言い出すんだ!」


 対するナーダはこの提案に焦り詰め寄るもワイズは笑みを絶やさず反論。


「ナーダ、私は黙認をお願いしましたよ」

「だが急に外出など言われては――」

「もちろんあなたが同席しても構いません。ですが今は私の希望を叶えてください。お願いします」

「……しかしだな」

「……それとご心配なく。ラタニ嬢の精霊術に異常は見られません……あくまで私の判断ですが」


 しかしワイズにしては珍しいわがままや、耳打ちされた情報にナーダも冷静さを取り戻す。

 少なくともラタニが復調しているのなら悪い提案ではない。またワイズが変な場所に誘うはずがないとの信頼もある。

 なによりラタニを連れてどこへ行こうとしているのか純粋に興味があった。


「……後で説明してくれるな」

「わかりました」


 故に条件付きで了承すれば約束してくれて、成り行きを見守るナーダに感謝しつつ改めてラタニとの交渉を始めた。


「それでラタニ嬢。どうでしょうか」

「どうもうこうも……そもそもどこに行くんよ」

「それは行ってのお楽しみにしましょう」

「……お楽しみねぇ。ちなみにそこでは美味しいお菓子とか出たりするん?」

「あなたのお口に合うかは分かりませんが、お願いしてみます」

「んじゃ、あたしも気になるしお誘いに乗りましょうかね」


 そして訝しみながらも興味津々とラタニが誘いに乗ったのは言うまでもない。



 ・

 ・

 ・



「ここなら美味しいお菓子もあるだろうけど……さすがのラタニさんも驚きびっくりだ」


 しかし三〇分後ラタニは呆れを通り越して笑っていたりする。

 なんせ今いるのは王城内の一室、応接室らしいがまさかの目的地。しかもこれから国王と謁見するそうだ。

 さすが長く王族直属の精霊術士団長を務めているだけあり、ナーダやラタニを連れて訪れてもワイズが話を通せばすんなりと案内してくれた。強引なお誘いもこの時間なら国王も謁見の余裕があると把握していたかららしいがそれよりも。


「つーか国王さまに会わせてなにするつもりさね。だいたいあたしは作法とか全然知らないんよ」


 初めての王城、初めて国王との謁見だろうと緊張するラタニではない。むしろ出された茶やお菓子を堪能する余裕すらあるがワイズの目的が掴めずジト目を向ける。

 また約束した手前、同席したナーダも口にこそしないが疑問視するもワイズは変わらず微笑を携え返答を。


「礼儀作法についてはご心配なく。私のような者の不躾な願いを叶えて下さるように、陛下はとても心の広い御方です。それに今回の謁見は公的な場ではありません。むしろあなたのようなタイプは気に入られると思います」

「ふ~ん……なら安心しときますかねぇ」

「そして理由については後ほどとしましょう」

「……ならそっちもお楽しみにしときますかねぇ」


 ワイズの対応からなにを聞いても交わされると理解したのか、それとも面倒になったのかラタニはおざなりに返して茶菓子を堪能。まあナーダは気が気ではなくお茶も手に付けず強張ったまま過ごすこと数分。


「待たせたな」


 開かれたドアからファンデル王国国王、レグリス=フィン=ファンネルと宰相のレグリスが入室するなりワイズとナーダは即座に傅き出迎えた。


「ほ~ん。あんたが国王さまですか」


「……ラタニ! 陛下に対して失礼だぞ!」


 ……のだが、変わらずソファに座ったままなだけでなく、あんた呼ばわりするラタニを即座にナーダは叱責。


「だって王国最強さまが普段通りでいいって言うもんだから。つまり悪いのは王国最強さまってことで」

「……っ。だからと言っても限度があるだろう!」


 それでもラタニはどこ吹く風。さすがのナーダも場を忘れて声を荒げていたが、当のレグリスと言えばラタニの発言や態度に唖然とするも不快感はなく。


「くっくっく……ナーダよ、構わん。今は私的の場よ」


 むしろ含み笑いをしつつナーダを宥め、一人傅いたままのワイズに視線を向けた。


「ワイズもくつろいで構わん。にしても面白い娘を連れて来たものだ」

「お気に召したようで何よりです」

「して、お主がラタニ=アーメリか。噂以上に愉快な娘よ……そして中々に強かのようだ」


 許可を得てソファに腰掛けるワイズを他所に、対面に着席したレグリスはラタニに向けてニヤリとほくそ笑む。


「ワイズから聞いた予についての情報が本物かどうか、見定めようと敢えて先のような態度を取ったのだろう?」

「……こりゃ一本取られたなと」

「まあワイズからなにを聞いたかまでは知らぬが、改める必要はない。マーレグも良いな」

「私的の場ならば目を瞑りましょう」


 更にラタニの狙いを読み取った上で楽しげにクギを刺すレグリスに宰相のマーレグも了承。

 双方の許可を得たならナーダも叱責できず、後ほど軽く説教すると誓いながらもソファに座るしかなく。


「ところでワイズよ、今日はなに用だ。少々お主らしからぬ希望故、予は気になって仕方がない。さすがにラタニ=アーメリと会わせて、予に愉快な時間を過ごさせるだけではないであろう」


 ようやく場が落ち着いたところで早速レグリスから質問が。

 目的を聞かされていないラタニやナーダも注目する中、ワイズは穏やかな表情のまま首肯を。


「ある意味ではその通りでございます」

「……なに?」


 意味深な肯定に眉根を潜めるレグリスに対し、ワイズは再び席を立ちその場に傅いた。


「陛下、私に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ◇



 宮廷精霊術士団長としてワイズの力は王族の、延いては国王のために振るわれるもの。

 だからと言って国王の許可がなければ後世の育成や模擬戦、当然自身の身を守る為に振るのを許されてないわけでもない。

 故にラタニと対戦するためにわざわざ王城に赴き、レグリスの許可を得る必要はないがワイズの希望は真剣勝負。


『私はラタニ嬢の精霊術に光るものを感じました。故に一介の精霊術士として、彼女と本気で争ってみたいのです』


 要は私的な理由としてラタニと戦いたいと望むからこそ、こうして許可を得たとワイズらしい誠意ある行動で。


『そして陛下にもご覧頂きたいのです。ラタニ嬢の実力を是非とも存じて頂きたい』


 また王国の未来を担う可能性を秘めたラタニを、レグリスにも知って欲しいとの切実な願いでもあった。

 ワイズの対戦希望にナーダだけでなくラタニも呆気に取られる中、突拍子もない願いを聞き届けたレグリスはしばしの思案はあったものの許可を出した。

 元より偉才と噂されていたラタニの実力に興味があった。

 しかしそれ以上に長年国のため、王族のために尽力してくれているワイズの希望を叶えたい気持ちがあった。


 故に希望通り審判役としてナーダも立ち合う形でラタニとの御前試合が決定。

 レグリスの予定もあるので早々に城内の屋外訓練場に移動したが――


「……あたしの意思は無視かい」

「勝手に決めてしまい、すみませんでした」


 あれよあれよと決まった対戦に不服を漏らすラタニに対し、向き合うワイズは申し訳なさそうな表情で謝罪を。


「もちろんお付き合いして頂いたお礼は後ほど必ず。それとこちらはお礼になるかは分かりませんが、私に勝利すれば王国最強の称号はあなたのものになりますよ」

「それは何とも嬉しいオプション付きさね。つってもあたしごときひよっこが勝てるわけねー」


 ただ逃がすつもりが無いのは見据える瞳から伝わるだけに、ラタニは肩を竦めつつ観覧席でどことなく楽しみにしているレグリスを一瞥。


「でもまあ、国王さまには失礼働いちゃったからにゃー。今さら嫌とも言えんか……手加減して下さいよ、王国最強さま」


 せめてもの抵抗か、そのまま握手もせず距離を取るラタニに変わってナーダがワイズの元へ。


「……いったいなにを考えている」

「黙秘の約束をしたはずでしょう?」

「それとこれとは話が別だ。少しは理由を教えてもいいだろう」

「全てが終わればお話ししますとも約束しましたよ。では、公平な審判をお願いします」


 真意を問い詰めてもワイスは最後まで口を割ることなく背を向ける。

 そのらしくない強情な態度や現状に一抹の不安を抱きながらも見送ることしか出来ず、二〇メルの距離を空けて向き合うワイズとラタニにナーダも覚悟を決めて。


「これよりワイズ=フィン=オルセイヌとラタニ=アーメリの御前試合を始める! 試合開始――!」


 宣言に合わせて両者共に精霊力を解放。


『現れなさい』


 同時にワイズが精霊術は発動、頭上に顕現されたのは十メルを越える炎の鳥。

 その姿は御伽噺に出てくる鳳凰のようで、あまりの造形美に誰もが魅了される美しさがあった。


「まさか……本気でやるつもりかっ」


 だが旧友として、学院生時代はライバルとして競っていたナーダはワイズの手札は熟知しているだけに魅了よりも戸惑いが先行していた。

 言霊で顕現したとは思えないほどの鳳凰、また全身が燃え盛る炎で象られているが熱は一切感じられない。

 しかしこの精霊術こそワイズが王国最強まで登り詰めた象徴。

 鳳凰その物が放たれる威力は当然、羽ばたきは無数の火球を生み出せる、しかもワイズの精霊力が枯渇しない限り意のままに操れるのだ。

 これほどの精霊術を言霊で顕現されれば精霊術士は精霊術を放つ暇も無く、精霊騎士は近づくことも出来ないまま敗北する。

 まさに霊獣の上位種すら凌駕する保有量と、他を圧倒する精霊術の技量を持つワイズ以外には不可能な切り札で。


「あなたの精霊術を先に拝見させて頂いたので、私の精霊術もお見せしたのですが如何でしょうか」


 だがワイズは先手を取らず、鳳凰を従えたままラタニに問いかける。

 言葉通りお返しに手札を見せただけなのか。


「私としては満足のいく精霊術なのですが……さて、()()()()()()()()()()()()()()()()


 それとも別の狙いがあるのか、含みのある質問にラタニは冷めた視線を向けたままため息一つ。


「……やれやれさね。さすが王国最強さまか……ちょいと舐めてたわ」

「その返答が出来るのであれば、もうすぐあなたのものになりますね」

「王国最強の称号かい?」

「もちろん私は本気で戦います。ですがあなたは実力の半分も出す必要は無いでしょう」

「たく……その称号はあたしにとって()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ワイズの精霊術、そして今のやり取りで確信したラタニは面倒げに首を振り。


「終わったら答え合わせに付き合ってもらうぜ」

「あなたには全てをお話ししましょう」

「ナーダさまにも話してやれよ……くそったれが」


『パン――ッ』


「な……っ」


 悪態を吐きつつラタニは柏手で両手足に竜巻を顕現。

 なにが起きたのか理解できず驚愕するナーダに対し、ラタニが音で精霊術を発動させたと察してもワイズは動じることもなく。


「最後まで王国最強に恥じぬよう、少しは抵抗できれば良いのですが」

「あたしに面倒なもん受け継がせるなら期待してますよ」


 長年無敗を誇っていた王国最強(ワイズ)は言葉通り全力で抗うも。


「今はまだ王国最強さま――っ」


 新たな王国最強(ラタニ)の前に一分も持たず敗北した。




理由はどうあれレグリスに対してとった態度に、ラタニさんもアヤトくんに何も言えませんねはさておいて。

ワイズさまの目的はラタニさんとの真剣勝負と、つまり二人の対戦はワイズさまが仕組んだ出来事でした。二人の対戦は割愛しましたが、ワイズさまの実力が充分王国最強に相応しい物と分かって頂けたでしょうか……(汗)。

またラタニさんが自分よりも圧倒的に強いと察していたからこそワイズさまは挑んだわけですが、その真意も含めて次回をお楽しみに!




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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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