並び立つ為に 中編
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選考戦終了後の翌日。
序列入りしてルイは浮かれていたが、ランの向上心や悔しさを知り己の弱さと向き合うために、同じ序列入りを果たした中で唯一選考戦で戦えなかったリースに再戦を希望した。
結果は手も足も出ない完全敗北。それこそアヤト戦なみの秒殺、プライドは完全に崩れ去ってしまった。
しかしだからこそ吹っ切れたのもある。自分は序列内で最も弱く、ギリギリで序列入りを果たしたに過ぎない。
故に気持ちを新たに、自分は弱者としてこれから本物の強者を追う側になる決意と覚悟を秘めて。
単純かも知れないが姿を変えれば生まれ変われたような気持ちになると、自慢の髪をばっさり切った。
ルイの変貌に取り巻きの女学生は騒然となったが、ランだけは褒めてくれただけでなく、今までのようなとげとげしさがなくなった。むしろどこか嬉しそうにしていたのが印象的で。
もしかすると一昨日発破を掛けてくれた際、精霊騎士クラス二強の一角に相応しくなろうとの覚悟を喜んでくれているのか。願望かもしれないが、彼女が今まで向けてくれなかった無邪気な笑顔を向けてくれただけでもルイは嬉しかったのだが――
「ところでアヤトとはもう遊んだ?」
「遊んだ? ああ……訓練のことだね。いや、昨日はリースくんとの再戦が終わったら彼女の訓練が始まってね、つまりまだなんだ」
「そっか。なら遊びの誘いがくるのを楽しみにしてなさい」
今まではお土産持参で自宅に行けば遊びという名の訓練をしてくれていたが、序列入りしたことで今後はリースを中心に学院終了後、序列専用の訓練場で行われるらしい。もちろん本人が望めばだが言うまでもなくルイは望むところだ。
「もち、アヤト先生の授業はめっちゃきついから地獄だし……うん、相手はアーメリさま並みのバケモノだから覚悟も必要よ」
「……しておくよ」
ただ遠い目でアドバイスをしてくれるランから相当過酷な訓練になると分かるだけに、寒くもないのに悪寒が走った。
それでも最後のアドバイスはとても興味深く。
「でもアヤトの訓練はあたしたち精霊士にとっては本当に有意義だから。ルイはまだ遠目でしか見たことないけど、実際に立ち合えばマジで分かる。まさに近接戦の理想像であたしやフロイスさんにとっての目標なのよ」
確かに選考戦では一瞬で決着がついたので立ち合ったとは言えないが、目をキラキラさせて語るランの表情から本当に憧れているんだと感じるだけに嫉妬してしまう。
しかしそれ以上に期待感が募り、アヤトの訓練を楽しみにしていた。
◇
「……まさか早速とは思わなかったよ」
のだが同日の学院終了後、自身の序列専用訓練場でアヤトと向き合うルイは苦笑い。なんせここへ向う道中で早速遊びに誘われたのだ。
ちなみにリースは現在自主訓練中、学院生会が終わればエレノアも合流する予定で、アヤトもこちらが終わり次第向かうらしい。
またジュードも誘おうとしたが、ミューズと共にラタニの元へ行っているので今回は除外。やはり精霊術士なら自分よりもラタニを優先した方が伸びるとの理由と。
『ルイ先輩の熱が冷めない内に約束を果たそうと思ってな』
要は選考戦での約束を果たすついでに唯一まともに立ち合っていない自分の実力確認や、髪を切った決意も踏まえても確かめたいようだ。
ならば断る理由もなく、改めてランが絶賛するアヤトの実力を知りたいと了承。訓練相手を頼むつもりでいた従者をリビングルームに待機してもらった。
アヤトの噂を知るだけに従者はしぶしぶながらも従ってくれたがとにかく――
「開始の合図は」
「お好きなように」
高揚感が抑えきれず剣を抜くルイに対し、選考戦と同じくアヤトは月守を肩に乗せる。
「じゃあ遠慮なく――」
精霊力を解放するなり駆け出すもアヤトは変わらず気怠げなまま。
「は!」
対するルイは気にせず剣を振り下ろすも、ステップを踏むかのように悠々と回避されてしまう。
続けて連撃を繰り出すがやはり空を斬るばかり。
(……ランくんが憧れるのも分かるね)
にも関わらずルイは焦りよりも関心が上回っていた。
遠目で見るよりも実際に立ち合えば嫌というほどアヤトの実力を痛感する。数ミリメルというギリギリでの回避は完全に自分の剣筋を見切っているからこそ可能な芸当。
加えて無駄が一切ない動きは流水のような美しささえ感じてしまう。
そしてもう一つのアドバイスも痛感した。
「――そろそろか」
「げはっ!?」
回避一方だったアヤトが呟いた瞬間、腹部に重い衝撃を受けてルイは悶絶。
「やはり精霊騎士さまは違うな。得物を簡単に離さないのは精霊術士さまにも見習って欲しいものだ」
「げほ……っ」
などと称賛する声にルイは回復に努めながらも必死にアヤトの動きを分析していた。
緩やかな動きを見せる回避に対して反撃だと視認すら出来ないのは緩急による錯覚もあるが選考戦での詰め寄り方に然り、アヤトの動きが事前に読めないのは恐らく初動に移る際の予備動作がないからで。また今の膝蹴りも持たぬ者とは思えない重い一撃。短い間合いでも速度を出せる脅威の瞬発力が成せるものか。
相手が格下だろうと振るわれる剣を前にしても自然体でいられるメンタルと、まさに全てにおいてバケモノ染みている。
しかし技能面、精神面共にこれほどお手本になる相手はいない。
「で、まだ続けるか」
「もちろん……だ」
まさに近接戦の理想との言葉に偽りなし。ならば簡単に終わらせてなるものかと、腹部の痛みに耐えてルイは立ち上がった。
「僕はキミと剣を交えるのを楽しみにしていたからね……!」
「ならリクエストに答えてやるか」
からの三分後――
「こんなもんか」
「はっ……うぅ……は……っ」
大の字に倒れたルイは三度ランのアドバイスを痛感していた。
基本回避に徹するアヤトをひたすら追いかけつつ剣を振るい体力は限界。戯れに体術だけでなく月守の峰で何度も打たれて全身痣だらけと満身創痍。
手加減してくれたはずなのに今までの模擬戦や訓練とは比較にならない地獄のような時間を過ごした。
「さすがひよっこ序列とは言え八位まで登り詰めただけはある。剣術や体力だけでなく、立ち回りの工夫もそこそこ出来るようだ。むろん序列内では話にならんレベルだがな」
なのにアヤトは息も乱さず平然としたもので、月守を鞘に納めながら嫌味を踏まえた評価を口にする。
「ま、今のお前には言う必要もないか。とにかく今後も遊んで欲しいなら相手になるが、どうする」
「もちろん……お願い、するよ……」
「決まりだな。では改めて今後ともよろしくな、ルイ先輩」
そしてルイの即答に苦笑を返したアヤトは事前に伝えたよう、リースと合流するべく訓練場を去ってしまう。
「は……はは……」
残されたルイといえば天井を見上げたまま自然と笑っていた。
全身の痛みや疲労と笑える状態でもないのに笑みがこぼれるのは充実感から。
僅か数分の立ち合いでも充分理解した。
前序列保持者の先輩方やジュードを除く現序列保持者が、アヤトの訓練を受けて短期間で飛躍したのも納得できる。
ただ先を行く面々と同じように訓練を受けたところで一向に追いつけない。
なら序列最弱の自分は誰よりも己に厳しく、出来ることを模索していかなければならない。忙しくなるが、今まで不抜けていた自分に活を入れる意味でも丁度良い。
今は彼女に並び立つ為にも、がむしゃらに突き進むだけで。
そんな前向きになれた自分の変化に嬉しかったのだが。
「ル、ルイさま!?」
なにか勘違いしたのか訓練場に現れた従者が、ボロボロになりながらも笑っていたルイを見るなり悲鳴を上げたのは言うまでもない。
◇
主をボロボロにしたまま放置したアヤトを批判する従者を宥め、今後も彼の訓練を受けると説得するのに苦労したルイは治療を終えるなり早速行動に移した。
まずは学院に従者を残し、自らの足でサクラが暮らしている屋敷を訪ねた。
三度目の訪問でそれなりに面識はあれど相手は公国の皇女、単独での訪問の上にアポ無しとなれば緊張は相当。
それでもランに連れられた際、ルイにも遠慮なくとの言葉を信じて訪問すれば、簡単に面会してもらえたが。
「やはり爺やは人気者じゃのう……」
訪問理由にサクラは落胆、なんせルイの目的はランと同じようエニシに訓練をして欲しいからで。
あの時はあくまでランに頼まれて同席したのみ。自らお願いするのが筋と、サクラに申し訳なく感じつつルイも頭を下げた。
結果、さすがにサッちゃんや呼び捨ては無理と交渉して何とかサクラくん呼びに留めてもらい、翌日からランと共にエニシの訓練を受けさせてもらった。
ただエニシの訓練はサクラの都合もあり、アヤトの訓練もリースを中心に他の序列保持者も受けるので頻繁ではない。
また訓練後、エニシは懇切丁寧に教えてくれたがアヤトは基本模擬戦をしながら端的なアドバイスをするのみ。心身共にボロボロにされるので治療術を施す従者を控えさせた方が良いと教わった。
それでも充分得るものがあるので期待して良いと言われていたが――
「お前の剣には他の序列保持者、特にリスやランに比べて怖さがねぇんだよ」
アヤトとの訓練初日、その端的なアドバイスにルイは悩まされることになった。
改めてルイがアヤトと再戦したことで色々と痛感しましたが、端的な指摘もある意味アヤトからの洗礼ですね。
ランと並び立つ為に必要なアヤトの指摘とどう向き合いルイは解決するのか、最後までお楽しみに!
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