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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 それぞれの物語
653/784

並び立つ為に 前編

アクセスありがとうございます!



 序列選考戦九日目、午後の部。


『――両者入場!』


「……よし」


 東口で待機していたルイは審判の宣言に覚悟を決めた。

 選考戦残り三試合を残して現在の戦績は九勝五敗、他メンバーの戦績を考えれば序列入りはほぼ確定。

 しかしルイの目標は序列入りは当然、一つでも上に行くこと。去年に続いて既に序列入りが確定しているランに少しでも近づく為には一戦も落としたくない。

 加えて九勝中の一勝は午前の部で当たるはずだったリースが棄権しただけに過ぎない。もちろん始まる前から相手が序列入り候補でも負けるつもりはなかったが、昨日の一戦を見る限り勝てる要素が見当たらなかった。


 つまりおこぼれの一勝、悔しいと思う反面棄権と知って安堵もした。そんな弱腰な自分が情けなくて、だからこそ実力でランに近づく為にもこれ以上は負けられない。

 だが次戦の対戦相手が相手なだけに、必要以上に覚悟を固めてフィールドに足を踏み入れてしまう。


 西口から気怠げに中央へ向かってくるのは選考戦初の騎士クラスから出場を決めたアヤト=カルヴァシア。


 現在六勝十敗と戦績だけ見ればルイが圧倒している。しかし彼の白星は全て既に序列入りを決めた者ばかり。また敗北全ては棄権と意味不明な戦績。

 更に去年の選抜戦では補欠とは言えリースと組み、やはり騎士クラス初の王国代表入り。決勝では現在全勝中のロロベリアと互角以上に渡り合い、なのに自ら棄権した変わり者。

 そもそも学食の調理師として配属して以降、アヤトに関する噂は意味不明なものばかり。その噂もろくなものではなく、学院内で彼を良く思う者を探す方が難しいほどだ。

 故にルイの心証も多数と同じ。ラタニ=アーメリの弟子とは言え、持たぬ者でありながら持つ者を越える実力は不正によるものだと思い込んでいた。


 ただその少数派が去年の序列保持者、つまりランもいる。精霊祭で彼の出し物に協力していたのが良い例だ。


 果たしてランが不正をするような相手と友好関係を築くだろうか。

 アヤトとの関係を噂されているロロベリアはまだしも他の序列保持者、特に王族のレイドやエレノアが彼の存在を良しとするのか。

 そう言った疑問から噂や不正についてルイは僅かながらに違和感を覚えていた中で、今回の選考戦。なにより昨日行われたリースとの一戦だ。

 序列入りを決めた面々を秒殺、または時間を掛けてあしらう姿に。

 リースを相手に圧倒するその実力に。

 アヤトの実力は本物ではないかと改めつつあった。


 反面、やはり持たぬ者が持つ者を越えるという事実が信じられなくもある。


 だからこそ、この一戦でアヤトの実力が本物か否か。

 これまで序列入りを確実にしている面々以外の試合を棄権していた彼が、なぜ自分との試合を棄権しなかったのかも含めて確かめればいいと。


「昨日の疲れはもう癒えたのかな」

「おかげさまで」


 フィールド中央でルイは初めて対峙したアヤトに声を掛ければ、噂通りの太々しい対応で返されてしまう。


「実はキミとの対戦を楽しみにしていたんだ」

「それはそれは、何とも光栄なことで」


 全く光栄と思っていない苦笑と共にアヤトから手を差し出された。

 選抜戦では誰ともしなかった握手を、選考戦ではリース以外としているのでルイは特に何とも思わず差し出された手を握り替えした。


「少しは楽しんでもらえると良いがな」

「……本当に」


 最後まで軽口を叩きつつ早々に背を向けるアヤトに遅れてルイも距離を取るが、握り替えした手の感触から自然と緊張感が増していた。

 何故ならアヤトの手はルイに剣技を教えた精霊騎士のような感触がしたからだ。何十年も剣を振り続けた貫禄のある厚みを感じさせたのなら、少なくとも彼は恐ろしいまでに努力を重ねているのだろう。

 故に先ほどは軽口のつもりで口にしたが、アヤトとの対戦が本当に楽しみになり。

 それでも負けるわけにはいかないと二〇メルの距離で向き合い、剣を青眼に構えるルイに対し、アヤトは刀と呼ばれる武器を肩に乗せる独特の構えを取る。


『試合開始!』


「行くぞ――っ」


 そして合図と共に精霊力を解放、先制攻撃をしかるべく地を踏み――


「少しは楽しんでもらえたか」


「…………っ」


 蹴る寸前、左隣から聞こえる気怠げな声にルイは硬直。


『しょ、勝者アヤト=カルヴァシア!』


「それとも少しは時間を掛けた方がよかったか」


 審判の勝者宣言に合わせて、茫然としているルイの首筋に当てていた刀をアヤトはゆっくりとした動作で鞘に納めてしまう。


「だがま、運次第になるがそちらが望めば今後も遊ぶ機会もあるだろう。その時はよろしくな、ルイ先輩」


 最後に意味深な皮肉を交えて西口に戻るアヤトに声もかけられず、ようやくルイも剣を下げた。

 遠目からでもエレノアたちよりも速いと感じていたが、実際に対峙すれば全く別物で。

 確かめるどころかなにが起きたのかすら分からない内に終わってしまった。


「ルイ=フィン=リオンダート、次戦が控えている。早く下がりなさい」


「……はい」


 審判に促されてようやく我に返ったルイは実際に対峙したことで、よりアヤト=カルヴァシアという人物が分からなくなってしまった。


 しかし翌日、今期の序列が決定してから少しずつ知っていくことになる。



 

外伝その二はルイ&アヤトの組み合わせとなりました。

なので二人が最初に言葉を交わした内容から始まりましたが、まだ交流の少ない二人のやり取りやも含めて楽しんで頂ければと思います。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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