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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 それぞれの物語
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恩師 前編

アクセスありがとうございます!



 精霊暦九七八年


「……ラタニ=アーメリが?」

「そうだよ」


 年越し祭の余韻から日常の生活に戻り始めた頃、王城の談話室で第二王子のレイドとティータイムをしていたカイルは不意に告げられた情報に首を傾げてしまう。

 二人は王族、侯爵家の家柄や同い年ということで幼少期から面識があり、出会いから恭しい態度を取らず接してきたカイルをレイドが気に入り友人のような関係を築いていた。

 故に王城にも気軽に呼び出しお茶を飲んだり、時には共に勉学や訓練をしたり過ごしているのだがそれはさておき。

 今回の呼び出しはお茶ではなく、レイドの実技講師にラタニ=アーメリが加わるとの朗報らしい。


「ボクも来年からマイレーヌ学院に入学するだろう? まあ入学試験に受かればだけど、入学に備えて父上が講師を頼んだらしいよ。もちろんエレノアも参加するけどね」


 確かにレイドやエレノアの兄、アレクは今年入学予定でも精霊士。精霊術を教わる必要はなく、王族として恥じない実力を身に付けるならラタニほど相応しい講師はいない。

 なんせラタニ=アーメリは若干十六才で当時王国最強と呼ばれていた宮廷精霊術士団長のワイズ=フィン=オルセイヌを撃ち破り、学院生ながら王国軍にスカウトされた王国きっての逸材。


「ただアーメリ殿も忙しい方だからね。月に一度か二度、ボクらの訓練を見てくれる程度だ」


 また軍務と学院生の兼任なので頻繁ではないのも理解できる。

 ただ直接面識は無いが彼女の噂は嫌というほど耳にしているだけに、カイルは一抹の不安があった。


「お前はラタニ=アーメリと面識はあるのか」

「公的な場でなら何度かあるよ。だからどんな人か楽しみなんだ」

「……そうだな。お前はそういう奴だった」


 故に確認してみればワクワクとした笑みで返されカイルは肩を落とす。

 不運な事故で両親を亡くした経歴や嘘のような実力はまだしも、ラタニの噂は基本悪い物ばかり。

 なんせ去年辺りから王都を離れてセイーグに住居を構えたり、軍のスカウトを受ける条件として学院の卒業を希望して特別学院制度を作らせた変わり者。また国王に忠誠は誓えど貴族や軍上層部に対して軽薄な態度が目立ち、とにかく有力貴族や上層部には敵が多いと聞く。

 そんな人物を王族の講師として招けば波乱は避けられないが、王族関係なく気さくに接した自分を気に入るレイドなら実力以前に歓迎するだろう。


「父上が言うには近々アーメリ殿が王都に来るから、その時に紹介してくれるらしいよ。カイルも興味あるだろう?」

「つまり、俺もラタニ=アーメリの訓練に参加してもいいと」

「エレノアも是非と言っているし、アーメリ殿の了承を得られればね」


 そしてカイルも実際の人物像には興味があり、王国最強から訓練を受けられる機会を逃すはずもなく。


「決まりだね。じゃあその日に備えておこうか」

「なら今日はお前たちの訓練に参加させてもらう」

「もちろんどうぞ」


 元より自主訓練に参加するつもりだったカイルはレイドの提案に乗ったのは言うまでもない。



 ◇



 自主訓練といっても精霊術を扱う以上、講師の精霊術士は同伴する。

 またレイドやエレノアは精霊術だけでなく剣技も扱うのでその都度講師は変わるが、今日は精霊術メインの訓練。


「ではカイルさまも参加されるのですね」

「せっかくの機会だ。逃す理由はない……ラタニ=アーメリが了承すればの話になるか」

「侯爵家のカイルさまを拒む理由こそないでしょう」

「どうだろうね。噂通りの人なら身分関係なく決めるだろうから」


 なので元宮廷術士団の講師に立ち合いを頼み、エレノアにも声をかけて王城内にある屋外訓練場へ。

 エレノアも公的な場でしか面識がなく、レイドと違って立場を重視するだけにラタニの講師は複雑らしい。それは精霊術の講師も同じようで、国王の推薦が故に口にこそ出さないがしぶしぶ受け入れた様子が窺えた。

 それでも王国最強から直接教わる機会は魅力との向上心からエレノアも参加するようだ。


 などとラタニの指導について三者三様な感情を抱きつつ、今は自主訓練に集中することに。

 レイドやカイルは精霊術士に開花して四年、エレノアも二年となれば精霊術の基礎は充分。優秀な講師から教わっていれば尚更、同年代でも相当な実力は身に付けられる。



「さすがはレイド殿下、お見事でございます」

「ありがとう」


「レイドもやるな」

「さすがはお兄さまですね」


 特にレイドの実力は一つ抜けていて、精霊術を効率的に操る基礎訓練でも的に引かれた線を寸分違わず風刃で切り裂き講師も称賛。

 カイルやエレノアも負けじと訓練に勤しもうと――


「――なーにがお見事さね」


「「「!?」」」


「だ、誰だ――!?」


 ……するより先にどこからともなく聞こえた声にレイドも含めて驚愕、対する講師は三人を守るようにすぐさま精霊力を解放して周囲を警戒するが誰も居ない。


「ちょいとお邪魔するよん」


 そんな中、上空から颯爽と降り立ったのは自分たちよりも少し上ほどの若い女性。一つに纏めた髪や、切れ長の瞳はエメラルドよりも澄んだ翠から風の精霊術士と分かる。

 そして女性の年齢や精霊術士の属性、なにより肩に掛けた上位精霊術士の証であるローブから面識のないカイルでも彼女がラタニ=アーメリだと察することが出来た。

 しかし予定では王城に訪れるのは先だと聞いていただけに、レイドやエレノアも困惑しているがラタニは構わず講師に詰め寄った。


「からの~あんたがこの子らに精霊術教えてる先生かい?」

「なぜお前がここにいる!?」

「んなの今はどうでもいいから、どうなんだい?」

「どうでも良くない! そもそもここに居られるのは――」

「第二王子のレイちゃん、王女のエレちゃん、侯爵家次男坊のカイちゃんだろ。んなの言われんでも知ってるっての」

「…………っ」


 更に三人を前にしても挨拶どころか不敬な呼び方、これには講師も絶句してしまうがラタニは止まらない。


「そんでもって、あたしゃ国王さまからこの子らの講師をする条件に普段通り接してもオッケーて許可もらってんの。まあカイちゃんは別だけど、王族に遠慮なくなら侯爵家の次男坊にも構わんでしょ」


「…………」

「……お前は」

「いや……だって……っ」


 また噂以上の破天荒ぶりにエレノアも絶句しているが、ラタニの物言いや態度をむしろ面白いと笑いを堪えるレイドにカイルは呆れていたりする。


「理解したなら良いだろ。んで、どうなんだい? あんたが先生?」

「そうだが何か文句でもあるのか!」

「大ありさね。つーかあんたどのくらいこの子らの先生やってんの? そもそも普段からなに教えてんだい?」


 それはさておき我に返った講師の怒りも何のその、ラタニが一方的に責め立てる収集の付かない状況を立つようにレイドが挙手を。


「……アーメリ殿、ボクの精霊術に何か問題はありましたか」

「大ありさね。ではレイド殿下さまにご質問、あんた普段どれくらい基礎訓練やってる?」


「……適当な敬語だが、陛下が了承されているなら抑えろエレノア」

「わかっています……っ」


 また尊敬する兄にも変わらないラタニの軽率な態度に怒りを滲ませるエレノアを窘めるのに忙しいカイルを他所に、当のレイドは気にせず答えた。


「一時間ほど、でしょうか」

「それって制御の基礎だけ?」

「? そうですけど」

「やっぱね。ほんと今の風潮ってどうにかならんかね。つーか王族さまがまともにやってりゃ少しは考え変わるのか? まあそれこそ後で良いとして、あんたもいっぱしの精霊術士ならちゃんとガキ共の面倒見てやれよ」

「な――っ」


 するとラタニは嘆き、かと思えば講師を批判。


「相手が王族だろうと侯爵家だろうとガキのお守りする以上、媚び売るなって話だよ。それともあんた自身がその程度の精霊術士なのかい? だったら無理か、ごめんちゃい」

「く……この、いい加減に――」


「なんだい、あたしと遣り合うってか?」


『…………っ』


 侮辱発言にさすがの講師も限界が来たのか精霊術を放とうとするも、言葉が続かず手をかざした状態で硬直してしまう。

 というのもラタニがひと睨みした瞬間、圧倒的な精霊力を感じたからで。

 あまりの圧にレイドも、エレノアも、カイルも恐怖で強張るもその圧が不意に治まりラタニはため息一つ。


「たく……ガキの前ですぐさま癇癪おこすなよ。とにかくだ、さっきの精霊術で速攻で分かるわ。あんたは基礎が全然なってないんよ」


 直接圧を浴びて膝を突く講師を無視、改めてレイドと向き合い指摘を始める。


「的に当てるだけのぬっるい精霊術なのに精霊力を込めすぎなんよ。効率よく扱う訓練ならあと二割抑えても充分さね。つーか制御を意識しすぎて狙いも散漫。それこそ的に当てるだけならまだ良いけど、もし実戦で同じような精霊術をぶっ放せば暴発の可能性がある。そもそも意識しすぎてる時点で相手に当たらん」


 どうやら講師の称賛した精霊術はラタニからすれば改善点が多いらしいが、その一つ一つの指摘にカイルは目を見開く。

 登場の仕方から恐らく観覧席で観察していたはずなのに、レイドの精霊術から感じ取れる精霊力の問題点を細かく分析できる者など果たして国内に何人いるのか。


「要は無意識に扱えるくらい制御の訓練は必要なんよ。にも関わらずたった一時間って……しかもそれだけとか、マジなに教えてんだか」


 先ほど感じた精霊力の圧に加え、精霊力の感知能力でもレベルが違うとなればカイルも興味が湧いてしまう。


「もしよければあなたの実力を見せてもらえませんか」

「あん? レイちゃんはあたしと遣り合いたいのかい?」

「いえいえ、あたなの実力を見たことがないので……実際にあなたの精霊術を見たいなと」


 やはりレイドも同じようで、好奇心が抑えきれず提案。

 王国最強の精霊術士の実力はどれほどのものか。


「そういうことねん。まあ王子さまに頼まれちゃ断れんか。なら大サービスだ」


 その一片でも知りたいとエレノアでさえ怒りも忘れて注目する中、なにが可笑しいのかラタニはケラケラと笑いながら受け入れてくれた。


「ほいさね」


 続けて地面から拾い上げた小石を三つをおもむろに上空へ放るなり右手をかざす。


『パチン』


 ――パンッ


「「「な――っ!?」」」


 そして指を鳴らした瞬間、小石の一つが更に上空に弾かれ三人は驚愕。

 詩や言霊ではなく、音で精霊術を発動するなど未知の技術。しかも放られた小石を弾く精密な狙いや、割らないよう抑えた威力とこの時点でも神業と呼べる所業だ。


「からのー」


『パチン』

『パチン』


 にも関わらずラタニは左手をかざし、今度は指鳴らしの同時発動。他の小石二つが同じように弾けて最初の小石に追いつき。


『締めのー』

『パチン』

『パチン』


 最後は言霊ですらない、声に精霊力を乗せた同時発動で弾いた三つの小石が上空でぶつかり合った。


「「「…………」」」


「以上がラタニさんの精霊術でした」


 三方向に飛んでいく小石を茫然と眺める三人を他所に、精霊術を解放したラタニは自分たちに大道芸人のような一礼を。


「とまあ、こんな感じだけど少しは楽しめたかい?」


 これが噂以上に破天荒ぶりで、しかし想像すら許さない実力を秘めるラタニアーメリとカイル=フィン=アーヴァインの最初の出会いだった。




外伝最初はカイル&ラタニの組み合わせとなりました。

こちらは第十章『期待の追憶』の後書きでも予告していた内容ですね。ラタニさんは当時からラタニさんしていますはさて置いて。

レイドやエレノアにとってもラタニは恩師ですが、カイルにとって二人とは違う意味でもラタニを慕っているので、今回はカイルがメインとなります。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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