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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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恩返し

アクセスありがとうございます!



 ダラード帰還後、先に下がったラタニに代わり報告を終えたカナリアとモーエンも遅れて解放された。

 今後の予定が決まれば呼び出されるが二人も明日までは基本休暇。なのでは着替えを済ませる為に各々の宿泊部屋に戻り、再合流して食堂へ向かった。


「お疲れなのだ」

「……お疲れ」

「そっちもお疲れさん」


 しかし食堂前で待ち伏せしていたラズリエア兄妹にモーエンも労いの言葉を掛ける。

 カナリアもスレイの手にしているバスケットで察したのか方向転換、そのまま四人で向かったのは屋外訓練場の観覧席。

 ただ観覧席は入らず通路内でカナリアは立ち止まった。


「ジュシカ、疲れてるでしょうけどお願いできますか」

「問題ないのだ!」


 更にジュシカに風の膜を張るよう指示。これで膜外には四人の声が漏れることはなくなった。


「あれだけの不思議現象だ、警戒もするか」

「そういうことです」


 人気の無い場所を選び、万が一に備えた準備もモーエンは当然と受け入れる。

 なんせ今から話のはマヤの正体について、用心に越したことはない。また別行動中の情報を交換して認識を合わせておかなければならない。

 故に食堂を使えないとラズエリア兄妹も二人の食事を用意して待ち伏せしていたわけで。


「モーエン先輩もまだ聞いてないのだ?」

「そのつもりだったが救援部隊の到着が早くてな。カナリアからも長くなると言われてたし、お前さんらと一緒に聞こうと我慢してたんだよ」

「なら先にぼくたちから報告するよ……」


 バスケットからパン包みを手渡しながらまずはラズエリア兄妹から報告を。

 先にダラードへ戻った二人は、今は使われていない工場区の休憩小屋にアヤトとロロベリアの残して報告のためにナーダの元へ向かった。

 そして同じく休暇を言い渡された後、着替えを済ませて食料や毛布を購入して再び休憩小屋へ。ただ掃除道具一式を頼む辺りがアヤトだった。


「ロロベリアはまだ寝てたけど問題なさそうだったのだ。アヤトも移動中に少し眠ったみたいなのだ」

「本当に少しだけどぼくの乗りこごちが悪かったのかな。だったら申し訳ないな――」

「ただ買い出し中みんなから感謝されて大変だったのだ。どうもあたしたちは隊長の手助けをしたと思われてるのだ」

「実際に手助けしたのは坊主なんだがな……」


 それはさておき街の状況にモーエンは苦笑い。凱旋時でも多くの民衆から声援を送られたが、手助けどころか足手まといになっただけに居たたまれない。


「俺たちも坊主たちの様子は見に行くとして……そろそろ本題といこうか」

「カナリア先輩、お願いするのだ」

「……では私の知る限りになりますがお話しします」


 とにかくアヤトやロロベリアが問題ないと分かれば本題と、食事を終えたカナリアは順を追って三人に説明を始める。

 去年の教国での一件から保護者として登校する際、完全なサポートをする為にラタニからマヤの正体を知らされたこと。

 アヤトとマヤの本当の出会いや関係、また帝国の一件の裏でなにが起きていたのか。

 そして今回も神気のブローチで連絡を取り合っていたこと。ただギリギリまでマヤから返答が無かったので、ラタニやアヤトがどんなやり取りをしていたかは臆測になるが、一通りの説明を終えたカナリアはブローチを取り出した。


「こちらがそのブローチです。信じられないのであれば触れてマヤさんに語りかけてはどうですか」

「…………信じられない話ばかりだが、信じるしかないだろう」

「カナリアがぼくたちに嘘を吐くはずもないし辻褄も合うからね」

「神さまとか本当に居るのだ……」


 金縁に白銀の宝石が埋め込まれたブローチを見詰めつつ三人は何とか受け入れる。

 詳しい事情を知れば知るほこれまで不可解だった部分も解決していくわけで。


「にしてもマヤの嬢ちゃんがな……年の割には落ち着いていると思っていたが、まさか神さまとは……」

「私も驚きましたよ。とにかく私の知る限りは以上ですが……マヤさんは気まぐれな神さまなので隊長やアヤトさんも知らない部分が多いんですよ」

「教国にいた神さまやロロベリアがちょっとおかしいことなのだ?」

「マヤはともかくそっちが本当に神なのかも疑うぼくは心が汚れてるからかな」


 ただ知った分だけ新たな謎が増えていくばかり。特に教国の一件、教会派を裏で操っていた謎の存在やロロベリアの不可解な出来事の数々。

 しかしカナリアが補足するよう、ラタニやアヤトですら知らされていないのなら、ここで考えていても仕方がない。

 もちろん今後必要ならば三人もカナリアと同じく協力を惜しまない。加えて事情が事情とは言えカナリアのみ知らされていたことに思うところはない。


 それよりもカナリアも含めて四人が考えるのはこれからについて。

 今まで軍内で冷遇を受けていたラタニの昇進は確実。一定数の反発も予想されるが、さすがに精霊種の単独討伐という功績を無下にはできない。

 なによりミルバを始めとした今回の討伐に参加した者は既にラタニを認めている。昇進の話が上がっても当然と指示してくれるだろう。

 元より周囲の反発から見送られていただけで実力実績ともに昇進するには充分、今回の功績から中隊長どころか大隊長に抜擢される可能性もある。

 つまりラタニの昇進が見送られていたように、小隊長の話が見送られていた四人の昇進も現実味を帯びる。


「隊長が認められるのは嬉しいけど少し寂しいのだ……」

「すぐにとは行かなくても……私たちを取り巻く環境も変わるでしょう」


 故に喜ばしい話でもジュシカやカナリアの表情は優れない。

 精霊種の討伐もラタニとアヤトの功績なだけに気が引ける、というのもある。

 昇進が見送られた際、ラタニに伝えた通りにまだまだ学びたいとの気持ちもある。

 ただ純粋にラタニ小隊の居心地が良いだけに解散する寂しさがあった。軍に所属する者にとって間違った感情だと分かっていても、落ちこぼれとして自信を無くしていたところで手を差し伸べられたジュシカや、実の両親と折り合いが悪いだけに家族のような関係を築けている小隊はカナリアにとって大切な居場所なのだ。


「昇進がこれほど複雑に感じるとは思わなかったが、割り切るしかないだろう」


 そんな二人の気持ちを理解した上でモーエンは笑って見せる。もちろん限界を感じていた自分を諭し、最強の小隊として鍛えてくれたラタニには感謝してもしきれないが、だからこそと。


「むしろ隊長が安心して送り出せるよう残された時間を有効に使う。それがぼくらの恩返しだ」


 またスレイも普段の卑下を押さえ込み前向きな鼓舞を口にする。

 鍛えてもらったからこそ。

 尊い場所にしてもらったからこそ。

 自分たちが教わった全てを小隊長として教え広め、一人でも多くの命を救うことが最高の恩返しになるのなら。

 塞ぎ込まずラタニの部下として恥じぬように。


「明るく楽しくがラタニ小隊のモットーだ……なんてぼくが言うなって話だよねごめんなさいお荷物の副隊長が偉そうになに言ってるんだろうね反省するから許して下さい」


「兄ちゃん……最後までかっこよくして欲しいのだ」

「……ですね」


 ――最後までいかない辺りがスレイでも、気落ちしていた二人も笑顔を取り戻す。


「実際どうなるか分からんが、俺たちも隊長殿を見習って頑張りますか」

「おー! なのだ!」

「三人は間違いなく昇進するけどぼくは降格かもしれないけどね。それでもゴミ扱いでも良いから気に止めてくれると嬉しい――」

「ただし見習うべきところだけです。問題児まで見習わないで下さいよ」


 そしてラタニの理想に感銘を受けたからこそ、解散しても理想を諦めずそれぞれで邁進すると四人は誓い合った。




オマケのラストはカナリアたちの決意でした。

今回の一件でラタニを取り巻く環境が変わるのなら、部下四人の環境も変わりますからね。

またカナリアやジュシカの寂しさも……気苦労は絶えない、いざこざには巻き込まれるラタニ小隊ですが、ラタニさんの元で過ごす時間は成長できて楽しいだけに気持ちは分かりますね。ほんとラタニさんは言い上司だと思います。

ですが寂しがっている暇はありません。残された時間が限られているのなら最後まで成長して楽しむ、そして自分たちも部下に同じような気持ちにさせる。

それがラタニさんに対する最高の恩返しだと思います。

ちなみに本編でもですが、ちょいちょいスレイが良い仕事してますね。そんな資質もラタニさんは期待して副隊長にしたのかもです。


そしてこれにて本当に第十四章も終了です……が、次回からは久しぶりに外伝を予定。

謎の少女やロロの謎、ノア=スフィネが残した精霊石など様々な謎を残してここで? と思われる鴨ですが、今回の外伝はこのタイミングを逃すと入れるのが難しいんです……。

もちろんこの外伝を読めば次章以降をより楽しめる(はず)!

 

また今までの外伝とちょっと趣向を変えた、外伝『それぞれの物語』をお楽しみに!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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