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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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笑顔に込めて

アクセスありがとうございます!



「…………?」


 目を覚ましたロロベリアは周囲を見回し首を傾げていた。

 というのもノア=スフィネ討伐後、アヤトとラタニの話し合いから一度ダラードに戻ることになりジュシカにおぶってもらったまでは覚えているが、そこから先の記憶がない。

 恐らく向かっている途中で再び意識を失ったと思われる。ただ所々から漏れる淡い光だけではどこに居るのか把握できなかった。


「起きたか」


「いぃ――っ!?」


 とりあえず起き上がろうとした瞬間、すぐ近くから聞こえた声に驚き、続いて背中に走る痛みにも驚き悶絶。


「騒ぐな」

「だって背中が痛くて……」


 まあ気怠げな声音からアヤトだと分かったが、痛みは予想外とささやかな反論を。


「…………ここは?」


 からの、なんとか上体を起こしつつ周囲を見回しながらロロベリアは質問。

 どことなくシロの頃、反省しなさいと閉じ込められていた物置部屋を彷彿とさせるも、床や壁には穴が空き随分と痛んでいる。

 にも関わらず包まれていた毛布は真新しく、板張りの床は埃もなく清潔と妙にちぐはぐで。


「ダラードの工業区にある作業員用の休憩小屋だ」

「休憩小屋……?」

「元は付くがな」


 そんな疑問も部屋の隅に腰掛け、壁にもたれ掛かりあやとりに興じつつアヤトが経緯を教えてくれる。

 予想通りダラードに向かって間もなく自分は眠ってしまったらしいが、そのままダラードに到着するも問題があった。

 自分やアヤトはまだミューズ達と行動していることになっているので、出来る限り人目に付かないよう配慮しなければならない。しかし黒髪黒目や乳白色の髪は目立つ、特に国内では乳白色の髪から序列一位のロロベリアと確定される可能性は非常に高い。

 故に宿も利用できず、軍の宿泊施設も論外。まあアヤトなら忍び込めるが、やはり人の多い場所は避けるべき。

 もちろんアヤトも考慮した上でダラードで滞在するつもりなので、スレイから使われていない休憩小屋が工業区にあると聞いて利用しているらしいが――


「……どうしてスレイさまがここを知ってたの?」

「あいつは一人で愚痴るのが好きだからな。この手の場所に詳しいんだよ」

「…………」


 実にスレイらしい理由にロロベリアも納得はさておいて、長く使われていないだけに室内は埃まみれでもジュシカが風で換気を兼ねた掃除、更に食料や毛布の差し入れと一緒に雑巾等を希望したアヤトが拭き掃除までしたそうだ。なので真新しい毛布や室内の綺麗さも理解できた。

 また神気のブローチでミューズの居場所を把握したマヤ曰く、夕刻ごろダラードから馬車で半日ほどの場所で動きが止まったらしい。位置的に小さな村があるなら、そこで一泊して再び移動するつもりだろう。

 またその村も霊獣の大群の影響が及ぶため情報が伝わっている。つまりアヤトが急遽別行動をした理由をミューズは察したはず。

 恐らくミューズは深く追求しないが、当初の予定通り明朝こちらからも向かって合流するつもりで。


「つーわけで一晩ここで過ごすが、白いのなら構わんだろう」

「構わないけど……アヤトも一緒に?」

「嫌なら俺は外で過ごすが」

「そうじゃなくて……」


 もちろん気恥ずかしさはあるがそれはそれ、(残念ながら)アヤトが何かしてくるとは思えないし二人きりの時間はむしろ良い。


「なら飯でも食うか。さすがに腹が減っただろう」


 ただそれとは別に不満を抱くロロベリアを他所に、あやとり紐をポケットに押し込むなりアヤトは食料や飲み物を用意を始めた。

 ラタニとの共闘に憧れと同じだけ悔しさを抱いた。

 アヤトの背中を預けられたラタニに嫉妬して、いつも守られるだけの自分が不甲斐なくて。

 それでも必ず自分もあそこに並び立ち、守れる強さを手に入れると奮い立った。


「なんだ……体調に問題でもあるのか」


 しかし今は違う感情からアヤトの背中を目で追っていると面倒げに問いかけられてしまう。

 固い床で眠っていたので背中が痛み、疲労から体は重いがその程度。精霊力も回復しているので背中は治療すれば良いし、朝にはアヤトに背負ってもらわなくても一緒に走れるだろう。


「だったら飯を食え」


 なので問題ないと伝えれば食事を用意したアヤトは再び部屋の隅に移動してあやとりを始めてしまう。

 それは良く見る光景。ただ濡れタオルで顔や身体は拭いているも衣服はボロボロのまま。加えて王国の危機と知り、馬車で四日の距離を走り続けているのだ。


 霊獣の大群、精霊種の出現と未曽有の危機を被害なく乗り切ったダラードは今ごろお祭り騒ぎだろう。危機を通達されていた王都や町村も同じようにみなが歓喜し、尽力してくれた王国軍に感謝をしているはず。

 もちろん霊獣の大群を掃討した討伐部隊、ノア=スフィネを相手に時間稼ぎをしたラタニの共闘によって王国は守られた。

 それでもラタニに並ぶ功労者(アヤト)の活躍を知る者は自分たちのみ。それこそ状況や相手を踏まえれば国王にも報告できない。


 今回の一件だけじゃない。帝国でも教国でもアヤトは多くの人々を守っている。ただ自身の不遇な過去だけでなく、マヤとの契約で手に入れた力があるからこそ表立つことはない。

 故に陰ながらは仕方ない。しかし一部の人物しか知らない帝国や教国の事件とは違い、多くの人々に広まった事件だからこそ。

 今ごろラタニや討伐部隊に多大な感謝を抱き、守られた未来をみなが笑顔で過ごしているのに。


 ボロボロになりながらも守ってくれたアヤトがこんな場所で過ごしているのは胸が締め付けられる。


 例え本人が自分の為と言い張り、感謝は不要と本気で思っていようと。


 今まで以上に不遇な立場を強いられるのなら、せめて自分だけでも。


「……ありがとう」


 本来向けられるはずだった笑顔で感謝を伝えたい。

 例え今さらでも、たった一人の笑顔でも。

 今のロロベリアに出来ることで。


「アヤトが頑張ってくれてるから、みんなが笑顔でいられるんだよ」


 不遇な立場を、仕方ないという言葉で慣れないで欲しいと。


「誰も知らなくても、私は知ってるから。アヤトが頑張ってくれてること、いつもみんなを守ってくれてること。きっと私が知らないところでも……でも、知ってるから」


 これまで守り続けてきた誰かの、向けられなかった感謝の分も踏まえて。


「だから……ありがとう」


 そして今まで守ってくれた嬉しい気持ちを込めて、ロロベリアは笑顔で伝えた。

 対するアヤトと言えば見向きもせず、あやとりの指を止めてため息一つ。


 もちろんどう返されるかは予想済み。


「べ――」

「別に感謝されるいわれはねぇよ。なんせ俺が勝手にやっていることだ、でしょ?」

「…………」

「後は……白いのが察しが良いと雨が降るんだが、かな? それも知ってます」

「……妙な物まねはやめろ」


 故に先手を打てばようやくアヤトも顔を向けてくれた。


「それと同じ。私が勝手に感謝してるだけで、きっとこんな笑顔を向けてくれるよ、みたいな気持ちを伝えたかっただけ。だからどう捉えるかはお好きにどうぞ」

「白いのにしては言うもんだ」


 皮肉な笑みを返されたが、どんな笑顔でもお互いに向け合えたなら充分と。


「さてと……お腹も空いたし早く食べよ。アヤトはもう食べたの?」

「お前がグースカ寝てる間にな」

「いびきはかいてない……よね? ところでそんなに離れなくてもよくない?」

「白いのに襲われないか心配でな」

「なんで私が襲う側なのよ!」

「俺たちは潜んでいる立場だ。静かにしろ」

「……ごめん。でも食べ終わったらあやとり勝負しようね」

「たく……」

「目を覚ますなり構ってちゃんが絶好調だな、でしょ?」

「だから妙な物まねするんじゃねぇよ。つーか自分で言ってりゃ世話ねぇな」

「言わないとアヤトが構ってくれないからよ。どうせ私には明日も早いからさっさと寝ろって言うくせに、自分は寝ないつもりでしょ」

「さすがに徹夜するつもりはないんだがな」

「ならアヤトが休むまであやとり勝負は決定と」

「……やれやれ。ま、今回は白いのもそれなりに役だったからな、構ってやるか」

「なにより噛みつかれるし?」

「分かってるじゃねぇか」


 今は満足してロロベリアは二人の時間を楽しんだ。




作中でロロが感じていたように、立場上アヤトは陰で居るしかないんですよね。

でも、その立場を仕方ないで慣れない出欲しいと、ロロは敢えて労いや感謝の気持ちを言葉を伝えました。まあ予想通りの返答をされようと、気持ちを言葉にして伝えるのは大事ですからね。

そんなロロの気持ちをアヤトがどう捉えたかはご想像にお任せするとして、次回は終章となります。




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読んでいただき、ありがとうございました!



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