その時間を楽しみに
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マヤが消えて間もなく到着したのは、ラタニの予想通りナーダが派遣してくれた救援部隊だった。
精霊術士と精霊士で構成された十五人の部隊はラタニの勝利に歓喜に湧いて――
「ラタニ小隊長……我々には精霊種が消えたように見えましたが――こ、これは何ですか!?」
――いなく、遠目からでは突然ノア=スフィネが消失したように見えただけに困惑、更に死体ではなく巨大な精霊石らしき物を見るなり驚愕と混乱していたりする。
まあ当然の反応とカナリアやモーエンが苦笑する中、ラタニが簡潔に経緯を説明。ノア=スフィネの誕生について、散り際について再び困惑する面々も討伐完了の報を受けて遅ればせながら歓喜に湧いた。
また精霊種討伐の朗報を伝えるべくダラードに向かおうとした者には、予定通り救援部隊が控えていると知らずスレイとジュシカを既に向かわせていたと伝えた。どうやら二人が居ないのに気づかないほど困惑していたらしい。
とにかく精霊種ノア=スフィネを単独討伐という偉業を成し遂げたラタニだけでなく、偉業を支えたカナリアやモーエン、ここに居なくともスレイやジュシカは救援部隊か感謝と敬意を表された。
なら救援部隊はアヤトの存在に気づいていないわけで、内心ドキドキしていたカナリアも一先ず安心。
精霊種の死体を運搬する手筈が整うまでの監視込みで残る予定だった者が協力して巨大な精霊石らしき物を運び、ラタニたちは近くに待機させている馬車で帰路に就くことに。
つまり救援部隊は増援ではなく、あくまで討伐後の対処として派遣されていた。故に足手まといにならないよう遠方で待機、最後まで見守るよう命令していたらしい。
この命はナーダがラタニの勝利を信じていたからこそ。しかしナーダ以上に信じていたのはミルバを始めとした討伐部隊だった。
「精霊種はラタニ小隊長が必ず討伐すると約束してくれた。足手まといの我々は邪魔にならないよう帰還した、そうミルバ大隊長が仰っていました」
ミルバだけでなく居合わせた部隊の誰もが悔しげに、しかしラタニの勝利を疑わない堂々とした報告を聞いてナーダも迷わず救援部隊を送れたらしい。
加えて既に精霊種の存在を明かされて避難準備をしていた住民らも、ラタニが残ったと知るなり不安や恐怖もなく冷静に従ってくれたのが部隊長にとっても印象的だった。
それだけラタニに対する住民の信頼が大きいと改めて感じられた光景で。
「精霊種という危機を前にしても怯まず、みなを守ろうと勇敢にあなたは戦ってくださった。そして守り抜いた。私は今まであなたを誤解していたようです……申し訳ありません」
部隊長はもともとラタニを批判する側だったのか、共に戦ったミルバたちや平民の様子から気持ちを改め謝罪してくるもそこはラタニ。
「誤解もなにもあたしは知っての通りお気楽おふざけなラタニさんだ。つまり謝らなくても良いよん」
「……ですが」
「それよりもラタニさんお腹空いた~。つーかみんな喜んでくれるなら祝勝パーチーしてくれるよね? ならお酒飲み放題じゃね? こりゃ帰るの楽しみだっと」
「……そもそも精霊種を討伐しても霊獣の残党はまだ警戒する必要があるでしょう。つまりパーティーどころかお酒もダメです。というか隊長は休んでください」
「ラタニさんモーちゃんの奢り楽しみにしてたのに……カナちゃんはケチだにゃー」
「…………」
「ウチの隊長殿はこういう人なんでお気になさらず」
カナリアに咎められて本気でへこむラタニの様子に部隊長は言葉がなく、モーエンがフォローするいつもの光景。
それでもミルバに然り、部隊長に然り、これまで不遇な扱いを受けていたラタニの評価が見直されたのは確か。精霊種討伐という偉業を成し遂げれば当然の成果、これを気に軍内でもラタニの見方が変わっていくと感じられた。
またスレイやジュシカから既に精霊種討伐の朗報が伝わっていたダラードはまさにお祭り状態。
ラタニの凱旋を祝い多くの住民が出迎え、その列がダラード支部まで続いていた。
「……やっぱむず痒いねぇ。あたしだけ別行動とかできんだろうか」
「ダメに決まってるでしょう……」
「残された俺たちこそむず痒いんで我慢してください」
まさにパレード状態の中、逃げ出そうとするラタニだが、どちらにしても感謝からは逃れるはずもなく。
「ラタニ……本当に良くやってくれた。お前は王国の誇りだ……ありがとうっ」
「だからそういうのむず痒いんだってば……」
両肩を掴み涙を零して出迎えるナーダに拍手で出迎える幹部ら一同にラタニはゲンナリしていたりする。
しかも精霊種討伐の報を受けた王都ではラタニの功績を認めて近々勲章を授与すると国王が発表したらしい。
もちろん霊獣の大群を見事退けたダラード支部を始めとした討伐隊にも報償は出るも、やはり今回の功労者はラタニなので当然の発表で。
「なんせ精霊種という未曽有の事態を迎えても死者ゼロという功績を残したんだ。この功績でお前は王国の英雄として語り継がれるだろう。そうなれば私の元へ来やすくなるかもしれないな」
「……ほんと、勘弁してもらえんかね……」
軍内でもラタニが認められていく状況を自分のことのように嬉しいのか(一部打算的な理由もあるが)、上機嫌なナーダを他所に本人のテンションはどんどん下がっていく。
元よりこの手の扱いが苦手なのもあるが、ノア=スフィネの討伐はラタニの単独ではなくアヤトの功績でもある。
しかし真実を伝えられないもどかしさにラタニはノア=スフィネ戦以上に疲労困憊。
それはさておき祝勝ムードもここまで。カナリアがクギを刺したようにまだ霊獣の残党が周辺に居る可能性がある。また王都から派遣された増援部隊と連携して改めて霊獣地帯の調査、周辺地域の整備と戦後処理が山積みとナーダは統括としてまだ多忙を極める。
またラタニも激戦を終えたばかり。故に詳しい報告や労いは明日改めてとなり、今日はゆっくり休むよう言い渡された。
「やっと解放されたよ……」
「ナーダ総督に言われたよう、食事を終えたら大人しく休んでください。くれぐれも飲みに出たりしないように」
「坊主やロロベリアの嬢ちゃんについては、俺たちに任せて大人しく願いますよ」
「へいへい」
代わりに報告の為に残るカナリアとモーエンにもしっかりクギを刺された後、着替えのためラタニは宿泊施設に向かった。
「――帰還したか」
「ミルちゃんじゃん。てなわけで飲みに行こうぜ~」
「……なにがてなわけだ」
のだが、道中でミルバと出くわすなりクギを刺されたのを速攻で忘れるのがラタニだった。
「あたし約束果たしたでしょ? だからミルちゃんの奢りで飲むんだよね?」
「そのふざけた態度はどうにかならないのか……」
「だってもう感謝の雨あられでゲロ吐きそうなんよ。どうせなら美味しいお酒でゲロ吐きたいと思わんかね」
「……お前は本当に」
討伐部隊の指揮を任されたミルバも同じく休みを言い渡されているので外出は可能、共に軍務外なので口調や態度は見逃せてもそれはそれ。
そもそもラタニは戦地から帰還したばかり、衣服も含めてボロボロの状態で飲みに出るハズもなく。
「とにかくお前が約束を果たした以上、必ず私もダラード滞在中に約束を果たす。今くらいは大人しくしていろ」
「ちぇ……残念だけど後のお楽しみにしとくかにゃー」
元より受け入れられると思っていないのでラタニも素直に引き下がる中、ミルバは大きなため息一つ。
「多くの感謝にウンザリしているのなら私は控えよう」
「そうしてくれい」
「代わりに私の知らない父の話、そしてお前と飲む酒を楽しみにしている。だから今日くらいゆっくり休め」
しかし今まで向けていたしかめ面を緩め、初めて見せたミルバの微笑にラタニはケラケラと笑った。
「なら大隊長さまのお楽しみに備えて、今日のところは遠慮なく休ませてもらうよ」
アヤトと共闘したのもありますが、ラタニさんは何気に照れ屋ですからね。感謝責めはけっこう堪えたかもです。
代わりにミルバさんは感謝を伝えず改めて約束を交わしましたが、向けられた表情も踏まえてラタニさんは嬉しかったと思います。
なのでその日を楽しみに一先ずお疲れさまでしたということで、今章も残り僅か。
次回はもう一人の功労者サイドのお話しとなります。
ちなみにですがミルバさんも楽しみにしているラタニさんとの時間、ワイズさまについては後の機会を予定しています。
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