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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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偉業の後は

アクセスありがとうございます!



 ラタニの精霊虚域とアヤトの白夜、両者最強の切り札によって災厄級の精霊種ノア=スフィネは無事討伐された。


「――二人とも何を考えているんですか!」


 からの、王国の危機を救った英雄二人は現在、カナリアの治療術を受けながらお説教されていたりする。

 上空のノア=スフィネを討伐したコンビネーションは他者には真似できない、最強同士だからこそ可能としたもの。カナリアも驚きこそすれ二人の共闘には心を奪われ、討伐した時は歓喜したものだ。


 ただその直後――


『……隊長殿が精霊虚域を解除してるが、坊主はどうやって着地するつもりなんだ』


 周囲を漂う翠の煌めきが消滅、落下していくアヤトの様子にモーエンがボソリ。

 いくらアヤトでもあの高さから落ちれば無事なはずもなく、更に精霊力を解除したラタニを見るなり歓喜よりも取り乱したのは言うまでもない。


『兄様は落ち着いているようですし問題ないのでは?』

『そんなはずがないでしょう! ジュシカ、今すぐアヤトさんの救出を!』

『わ、分かったのだ――っ』


 ちなみにマヤのみクスクスと笑っていたのも言うまでもなく、地面に叩きつけられるギリギリでジュシカが救出したわけで。


「バカみたいな作戦を提案したのはアヤトだし」

「バカは余計だが、お前も楽しげに乗っただろ」

「それにあたしは約束通り一分保たせたよん」

「王国最強さまならその後も見越した計算だと信頼してたんだがな」

「まったく反省してませんね……。そもそも二人とも普段から考え無しな発言や行動で周囲に迷惑ばかりかけている自覚が――」


「精霊種を倒した直後に説教される功労者なんて、隊長殿と坊主以外に居ないだろうな」

「カナリア先輩が真の最強かもなのだ」


 挙げ句どちらに非があるの言い争いから無駄な延長戦を始めようとした二人に、カナリアがキレたのは無理もない。

 とにかくお説教を受けながらも治療術してもらったお陰でラタニもアヤトも回復。まあ心身の疲労は残っているが、逆にその程度で済んでいる辺りがバケモノと呼ばれる由縁か。

 そして回復するなり考察を始めるのも二人と言うべきか、ノア=スフィネの討伐後に現れた黒い精霊石のような物に目を向ける。


「アレは精霊石でいいのか」

「精霊力を感じられるけど、どうかにゃー」


 霊獣の体内に秘められている宝石のような結晶体を精霊石と呼ばれているが、地面に突き刺さっている二欠片は色こそ同じでも、所々が尖った歪な滴形をしていた。また従来の精霊石は手の平サイズ、しかしこちらは直径で二メルはある。

 ノア=スフィネが従来の霊獣えお遙かに超える巨体なのでサイズはともかく形が別物、なにより討伐後に身体が黒い霧となって消えてしまった。

 故にラタニが言うように精霊力こそ秘めているが、従来の精霊石と呼べるか判断するのは難しい。


「なんせ生まれ方がちょっとねー。さっき弾けた黒い霧みたいなのが見えただろ? そもそもアレが集まってトカゲさんが誕生したんよ」

「……あん?」

「だから普通に首ちょんぱしても倒せる微妙だったわけ。でも遊んでる最中に胸辺りから強い精霊力を感じてたから、とりあえずその辺が弱点っぽいと助言したんよ」

「マジ適当だったな」

「でもあたしの読み通りだっただろ」

「結果的だが生まれ方や死に際も踏まえてあのトカゲが精霊種と判断するのも難しいが……そもそも霊獣がどう生まれるかが謎か」

「あたしが見たような生まれ方の可能性もあるからねん」


 更にラタニから明かされた事実に謎が深まるばかり。

 しかしラタニが目撃した現象も含めて、この精霊石らしき物を調べれば今まで謎とされていた霊獣の生態について研究が進むかもしれない。


「一応聞くが、こいつは触っても問題なさそうか」

「感覚的に精霊石っぽいから一応程度の保証ならしたげるよん」

「なるほどな……」


 などと期待感を募らせるロロベリアたちを他所に、ラタニに確認したアヤトは精霊石らしき物の片割れに歩み寄り指先で軽く触れる。

 一応程度のお墨付きにしては無用心だと呆れる間もなく――


「これなら問題なさそうだ」


 キン――ッ


『なっ!?』


 アヤトは朧月を抜刀、棘の一部を両断してしまった。


「なにやってるんですかアヤトさん!」

「見ての通り斬ったんだよ」

「そうですけども! でも貴重な研究資料を――」

「いやマジで。あんたそれなにに使うんだい」

「貴重な研究資料だからこそ、こいつを直接ツキに視せるんだよ」

「なるほろ。確かに下手な研究者よりもツクちゃんの方が相応しいかもねん」


「…………」


 即座にカナリアは批判するもラタニとのやり取りで黙認するしかなくなった。

 貴重な研究資料だからこそダラード経由で王都の研究施設に運ばれる、つまり平民のツクヨは見る機会すらない。

 しかし精霊力を視認する特異性を持つツクヨなら、研究者とは違う観点で様々な判別が可能。本人の能力を広めず調べてもらうなら他に手はないわけで。

もちろん手に入れた情報はラタニが上手く伝えるだろう。ならば今後の為と割り切って強硬策も仕方ない。

 ただツクヨの能力を伏せるならもう少し自重して欲しい気持ちもある。


「……ツキってアヤトの刀を打った友だちなのだ?」

「正確には親父殿が打ったらしいが……なぜツクヨの嬢ちゃんなんだ。精霊学についても詳しいのか」

「……色々とありまして」


 現にジュシカやモーエンの疑問にロロベリアが返答に困っていた。

 まあ二人やスレイにはマヤについて事情を話す予定、ツクヨの了承が得られればこちらについても話す良い機会かも知れない。

 そんなカナリアの気苦労も知らず、斬り取った十センメルほどの欠片をコートのポケットに収めたアヤトは未だ顕現したままのマヤに目を向ける。


「お前が教えてくれるのが一番手っ取り早いんだがな」

「かもしれませんね」


 アヤトの嫌味も愛らしい笑みでさらりと交わしたマヤと言えば、何かを思いついたように両手をポンと合わせた。


「そちらについては対価次第となりますが、兄様やラタニさまには楽しませて頂きましたので、ご褒美として有益な情報を二つお伝えしましょう」

「それはそれは、随分と太っ腹なことだ」

「んで、どんなご褒美をくれるのかにゃー」


 相変わらずな気まぐれを起こすマヤに注目が集まる中――


「まだ遠方ではありますが、先ほどから待機していた大勢の人間がこちらに近づいています」

「総督さまが寄こしてくれた救援か。多分ノア=スフィネが消えたから来てくれてるんだうね」

「それとミューズさまもですね。ただ速度的に今日中の合流は難しいかと」

「フロッツにでも協力してもらったか。やんちゃな聖女さまらしいな」


「なぜマヤはそんなことが分かるのだ?」

「そういや坊主やロロベリアの嬢ちゃんはどうして別行動してたんだ?」

「そこも色々とありまして……」

「……詳しい説明は後ほどしますから」


 情報から冷静に判断するラタニやアヤトに対し、やはり疑問視する二人にロロベリアやカナリアは他に言葉が思いつかなかった。


「とりあえずあんたとロロちゃんはダラードにでも行くかい? ミューちゃんが来てるなら王都に戻るよりも合流しやすいし」

「一緒に戻ってきたことにできるしな。つーわけでマヤ、ミューズが近くまで報告しろ。それくらいのサービスなら構わんだろう」

「仕方ありませんね」


 それはさておき、有益な情報なのは確かとラタニとアヤトで方針を決めていく。

 アヤトとロロベリアがここに居ると救援部隊に知られるのは後ほど面倒な事態になる。また口裏を合わせる為にもマヤの協力は必要なので妥当なところ。


「でもロロちゃんはジューちゃんに送らせるからねん」

「白いのは俺が運べばいいだろう」


 しかし続く提案にアヤトは眉根を潜めてしまう。

 再びロロベリアを抱えて自分の足で戻るつもりらしいが、状況が状況なだけにラタニは引くつもりはない。


「それとあんたはスーちゃんにおぶってもらいな。()()()()()、理由は分かるだろう?」

「……仕方ねぇ」


 ロロベリアに視線を向ければ不満げでもアヤトは了承。

 なんせ表には出してないがアヤトの疲労も相当。そして王国内にはロロベリアを探す不審な少女が潜んでいる。

 相手の狙いや実力が定かではない以上、少しでも体調を整える必要性はアヤトも理解していた。


「てなわけで、救援に気づかず二人を討伐報告に向かわせたとしておくからスーちゃん、ジューちゃん、二人をよろしくねん」

「よく分からないが分かったのだ! ロロベリア、あたしにおぶさるのだ」

「……ありがとうございます」


 未だ少女の存在は知らなくともロロベリアは素直に従う。


「ノア=スフィネが出現してからモーエンは精霊の咆哮からみんなを守ってジュシカはアヤトを助けてカナリアは治療をしてと大活躍だけどぼくだけ何もしてなかったよね。やっぱりお荷物なぼくは副隊長に相応しくない――」

「兄ちゃんもいじけてないでアヤトを運ぶのだ! よく分からなくても隊長命令なのだ!」

「なるほどつまり役立たずなぼくは馬の役目が相応しいと。やったねぼくに相応しい大活躍の場だ。隊長ぼくみたいなゴミに役目を与えてくれてありがとうだからアヤトは遠慮なくぼくを踏んでくれ」

「……たく」


 そして今まで自虐に忙しく会話に参加していなかったスレイに、遅れながらアヤトも背負ってもらい四人は早々に離脱した。


「では、わたくしも失礼します」


 最後にマヤも姿を消し、残る三人と言えば――


「ロロベリアの嬢ちゃんが言っていた色々を、俺だけでも先に教えてもらえませんかね」

「ですね……ただその前にモーエンさんは隊長に伝えることがあるのでは?」

「そういや色々ありすぎて忘れてたな。隊長殿、ミルバ大隊長から言伝を預かってますよ」

「ミルちゃんから?」

「約束を守ればこれまでの不躾な発言、態度、小隊の命令違反も含めて不問とする。ただし酒を奢るのは私だそうです」

「わお、ミルちゃん太っ腹だにゃー。でもモーちゃんの酒代持ちは別だからねん」

「……そいつは残念だ」


 救援が到着するまでの時間を有効に使っていた。



ノア=スフィネ討伐という偉業後でもお説教されるのがこの二人で、普段から散々振り回されているカナリアですね。

また慌ただしくも気を抜かないのもこの二人。

ノア=スフィネが残した精霊石らしき物が今後どう繋がるのか。

また謎の少女の行方についても追々ということで。


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