天を穿つ白銀の雷光
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『お待たせん』
精霊虚域によって迫る黒刃の軌道を逸らしたラタニは時間を稼いでくれたアヤトに片目を閉じる。
『つーか随分とボロボロになっちゃって』
「……テメェが遅いからだろうが」
からの救出時に告げられた嫌味でお返しすれば、朧月と月守を鞘に納めつつアヤトも同じ返しで対抗。
『普段からえらっそーにしてるあたしたちがコレじゃあ立つ瀬ないねぇ』
「まったくだ」
『グゥ……ォォォォ――ッ』
などと呑気にやり取りをしている間にも黒刃を逸らされたノア=スフィネは追撃を計るべく口を開けた。
「故に些細ではあるが汚名返上といくか」
『そうしますかね。ちなみにアヤト、多分この辺りだけどやれるかい?』
「適当な助言どうも。ま、やるしかないだろう」
『だねん。なんせロロちゃんもやったんだ、あんたが出来なけりゃいい笑いもんだ』
にも関わらず胸元を指さすラタニに肩を竦めるアヤトと、二人は見向きもせず会話を続けていたりする。
なんせ精霊虚域内にラタニに死角はないからで――
パパパパパパン――ッ
『ゴアッ!?』
口を開くなりノア=スフィネの目前で何重も空弾が炸裂。突然の炸裂音にさすがのノア=スフィネも怯んだのか黒弾を放てず大きく仰け反った。
ただでさえ領域内の発動では精霊力の高まる予兆がない。地味な牽制でも精霊種と言えど精霊力を感知するノア=スフィネには充分な効果があるわけで。
「にしても無駄に広範囲に展開したな」
『相手はお空を自由に飛べるからねん。念のため……つーか無駄は余計さね』
「違いない」
怯んでいる間も二人は軽口を交わし合う。
ノア=スフィネまでの距離は直線でおよそ五〇メル、しかしラタニは万が一を考慮して倍の範囲まで領域を展開していた。
故に今も負担が辛く保っているのもやっとの状況。
またアヤトも心身の疲労に加えて時間稼ぎで所々負傷と共に限界は近い。
それでも普段通りの軽口を叩き合うのは互いに意識しているからこそ。
『なにより強がれって言ったのはそっちだろ』
遊びという名の模擬戦で互いの得意とする戦い方を覆し、『ざまあみろ』とバカにしたいだけで張り合っているように。
何がなんでも相手より先に弱音を吐かないと意地を張り合い高め合ってきた。
だからこそ信頼し合っている関係で。
『あたしはキッチリ一分強がってやるから、テメェも強がってきな』
「言われるまでもねぇよ――」
ラタニの挑発を受けたアヤトはノア=スフィネに向かって駆けた。
◇
ノア=スフィネを牽制した後、ラタニをその場に残してアヤトが飛び出した。
問題は五〇メル上空のノア=スフィネに対しどう仕掛けるのか、固唾を呑んでロロベリアたちが見守る中――
「――さて」
真下に移動するなりアヤトは跳躍。
しかし擬神化状態とは言え五〇メル先のノア=スフィネは届かないのか、徐々に失速していく。
『グオォォォ――――ッ』
更にアヤトの接近を嫌がりノア=スフィネは両翼を羽ばたかせ後退しながら黒刃を放つ。
「坊主!」
「無茶なのだ!」
無謀な策にモーエンやジュシカが叫ぶ。
なんせアヤトには空中で回避する術がない。ラタニが対処するにしても、接近すれば迎撃してくると知った上での行動に他の面々も理解ができなかった。
しかし次の瞬間、更に理解不能な出来事が起きた。
「よっと」
『――――っ!?』
接近する黒刃が逸れるのではなく空中でアヤトが方向転換。しかも次々と迫り来る黒刃を雷の如く左右に回避しながらノア=スフィネに迫っていく。
「まさか……隊長が精霊術で――」
「正解です。兄様の動きに合わせてラタニさまが空気を圧縮させています」
不可解な現象の正体に気づいたカナリアがラタニに視線を向けるなりクスクスとの笑い声が。
「その圧縮された空気を足場に兄様がピョンピョンと跳びはねているんですね。つまり精霊虚域を展開したのは兄様の速度に合わせて精霊術を顕現する為でしょう」
唯一状況を把握しているマヤの分析にカナリアだけでなく三人の小隊員は茫然自失。
確かに精霊虚域はラタニがイメージすれば言霊程度の精霊術を扱える上に、広げた精霊力を元に領域内を全て把握できる。また空気の歪みすら即座に察知できるアヤトなら見えずともラタニの作る空気の足場を把握できるだろう。
それでも無数に迫り来る黒刃の隙間を縫うように回避するアヤトの望む位置に、的確なタイミングで足場を作れるものなのか。
どちらかが僅かでもズレれば、お互いの判断が僅かでも遅れればアヤトは黒刃の雨に晒される。
こんな危険な方法を選び、実行した二人の神経を疑う四人を他所に。
「…………」
ロロベリアだけは純粋な尊敬と、僅かな嫉妬を滲ませながら魅入っていた。
◇
マヤの分析通り、アヤトの希望したノア=スフィネまでの道を作るためにラタニは精霊虚域を展開した。
飛翔術で運べないのなら自らの足で行く、実に面白い発想だと楽しくて。
いくら領域内を把握できようと、実に無茶な要求をして来たと呆れたものだ。
(でもまあ? 弟のデタラメな要求を叶えてやるのが格好いいお姉ちゃんってもんだからねん)
ただこの発想は自分に対する信頼の現れ、故にラタニが拒む理由はない。
むしろやる気になったのは言うまでもないわけで。
故に黒刃の数、角度、速度を元にアヤトが回避するであろう位置を読み取っていく。
アヤトを引き取ってから今まで成長を見守り続けていた。
訓練相手を始めてからは負けないよう意識してきた。
模擬戦で出し抜こうと常に分析してきた。
アヤトの体勢も正確に把握できる精霊虚域なら、望む位置に望むタイミングで空圧の足場を作るなど造作もない。
そしてラタニがアヤトの信頼に応えるのなら、必ずアヤトもラタニの信頼に応えてくれる。
『…………ッ。アァァァァ――――――!』
黒刃を物ともせず接近してくるアヤトから逃げるように、ノア=スフィネが後退する速度を上げた。
「逃がすかよっ」
対するアヤトは領域から出るより先に白銀を帯びた両手を合わせて白夜を抜いく。
黒刃をかいくぐりながら神気を集約させただけでなく、顕現した白夜の銀よりも白い刀身は十メルを越える長さ。
ノア=スフィネの誕生を目撃したラタニの予想が正しければ従来の白夜では弱点に届かない。
だから扱いが難しい神気だろうと関係なく、強がれと挑発で見送ったのだ。
「あの辺だったな」
『あの辺だよん』
期待通りの白夜を手に狙いを定めたアヤトの望む位置にラタニも足場を顕現。
そのままノア=スフィネを追い越す勢いで跳躍したアヤトはすれ違いざまに白夜を振るう。
対するノア=スフィネも全身に精霊力を纏わせて抵抗したが、神をも殺す白夜の斬撃を防げるはずもなく――
グォァァァァ――――ッ
「……最後までうるせぇ」
弱点と踏んでいた胸元ごと一刀の元に両断されたノア=スフィネの断末魔が響く中、上空で白夜を消失させつつアヤトは煩わしげに耳を塞ぐ。
「つーか……このトカゲはマジなんだったんだ」
ただ断末魔が止むなりノア=スフィネの身体が黒い霧として弾け、残されたのは二つに割れた黒い精霊石のような物。
割れたのは白夜の一刀によるもの。しかし黒い霧といい、巨大な精霊石といい、精霊種としても異質すぎた。
「だがま、これで遊びも終いか」
それでもノア=スフィネを討伐したのは確かとアヤトは擬神化を解いた。
のだが――
「そんでもって…………あたしの強がりも終了のお知らせだったり?」
展開してから既に一分、ラタニは精霊虚域どころか精霊力の解放も維持できなくなり膝を突く。
つまり残された二欠片の精霊石と共にアヤトも落下するわけで。
「テメェ……最後まで強がれねぇのか」
約束は果たせても九〇メルも上空に放置されたアヤトが批判するのも無理はなく。
精霊虚域がなければラタニも聞き取れないが批判は承知の上。
「だいじょぶじょぶ……あたしには頼もしい部下がいるからねん」
「――大丈夫なのだアヤト!?」
その期待に応えるよう、まさに飛翔術で跳んできたジュシカによってアヤトは救出されたがそれはさておき。
「なんでアホみたいに落下してたのだっ? まさか隊長も含めて討伐した後のこと何も考えてなかったのだっ?」
責め立てるジュシカに返す言葉もなく、アヤトとラタニは同時にため息一つ。
「最後の最後で互いに醜態さらしたな」
「ほんに締まらないねぇ……あたしら」
ラタニ&アヤトの共闘は如何でしたでしょうか。
デタラメな発想もですが、この作戦を当然のように受け入れたのはお互いを信頼しているからこそ。実力以前に、他の誰にも真似できない二人の関係が成功させたかもです。
まあ序盤でじゃれ合ってなければ最後まで格好いい姿を見せられたかもですが、これはこれで二人らしいオチとも思います。
また章代の輝きはラタニがミルバたちに見せた真の力、ラタニの窮地を救ったアヤトの擬神化の輝き、そして両者が協力してノア=スフィネを討ち取った雷光のような動きと、つまり章代も無事回収。
そのノア=スフィネの散り際については後ほど触れるとして、今章はもう少し続きます。最後までお楽しみに!
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