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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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意地の成果

アクセスありがとうございます!



「さてほて、どうやって遊んでやるかねぇ」


 ノア=スフィネの咆哮が周囲に響く中、相変わらず緊張感もなくラタニは身体を解すように伸びを一つ。


「なんせアヤチン飛べないし。白夜もあそこまで伸ばせんでしょ」

「アヤチンはやめろ」


 対するアヤトも両手をコートのポケットに入れたまま、ノア=スフィネを見上げて面倒げに息を吐いた。


「ノア=スフィネとやらまでの()()()()()()()()()()()()()

「……ほんと、やる気満々まんじゃまいか」


 端的な確認でも狙いを汲み取ったラタニは実に面白い発想と笑みを浮かべる。


「少しは休めたけどちょい時間は欲しいかにゃー。でも保って一分がいいとこだよん」

「充分だ」


 簡単な打ち合わせの間にもノア=スフィネは臨戦態勢に入り――


「そいでは頼んだよアヤチン」

「アヤチンをやめれば頼られてやるよ」


 真っ直ぐ前へ飛び出したアヤトに合わせてラタニは後方へ跳躍。


「そいでは、頑張って強がりますかね」


 更に二〇メル距離を取ったラタニは意識を集中するべく目を閉じた。



 ◇



『ゴゥ――ッ』


 向かってくるアヤトに向け、ノア=スフィネは両翼を羽ばたかせて黒刃を放つ。


「なるほどな」


 上空から不規則に襲いかかる無数の黒刃をアヤトは見向きもせず右へ左へ躱していく。


「確かにバカみたいな威力だが――」


『ヴオォォォ――――ッ』


「当たらなければやかましいだけか」


 続いて放たれる黒弾も速度を上げて安全圏まで一気に駆け抜けた。


「所詮は羽の生えたトカゲだな」


『グルルゥゥ…………ッ』


「……やはりアヤトさんの方が一枚上手ですね」


 挙げ句立ち止まり手招で挑発する始末、これには戦況を見守っていたカナリアも敬意を通り越して呆れてしまう。

 空中、地上を移動しつつ必要あれば精霊術を駆使してノア=スフィネの攻撃を回避していたラタニに対し、アヤトは地上を縦横無尽に駆け回りながら回避している。精霊術が扱えないのもあるが回避行動だけでも充分対処が出来る技能があってこそ。

 擬神化状態のアヤトはラタニの部分集約を遙かに上回る速度、加えて初見の攻撃だろうと緩急や左右の揺さぶりで対処できる戦闘センス。

 総合力ではラタニに劣るも、そのラタニに戦いの申し子と言わしめるだけあってアヤトの方が余裕を感じられた。


「――ラタニさまより兄様の方が陰険なのは今さらでは」


 などと感心している中、隣からある意味で同意の声が。


「今もノア=スフィネを振り回して楽しんでいますし。本当に兄様って性格が悪いですわ」

「……私はマヤさんと良い勝負だと思いますけど」

「酷いですわカナリアさま。わたくしちょっぴり傷つきました」


 傷ついたと言いながらクスクスと笑うマヤにジト目を向けつつカナリアはため息一つ。


「もう遠慮なく出てきますね」

「兄様には安易に姿を見せるなと言われていますが、元よりわたくしが従う必要はありませんので」

「本当に良い性格してますね」

「それでも今回ばかりは役だったでしょう?」

「…………」


 まあマヤの助力からラタニとアヤトも体勢を整える時間が出来たので否定はできないが、お陰で事情を知らないモーエン、スレイ、ジュシカは突然姿を現したマヤに再び絶句。

 そんな三人の心情を察してかマヤはペコリと頭を下げた。


「今まで正体を偽り申し訳ありませんでした。ですが兄様が仰ったように詳しい事情は後ほど、ロロベリアさまも体調が優れないようなのでもう少し距離を取ってはどうでしょうか」

「そうでした……っ。ロロベリアさん、大丈夫ですか?」

「……へいき、です」


 マヤの提案にカナリアも慌ててロロベリアに声を掛けるが、言葉とは裏腹に顔は青白く呼吸も荒い。

 ただでさえ体力、精霊力が消耗しているのにノア=スフィネの精霊力に当てられては負担は相当のはず。


「それよりも……見届けないと。カナリアさま……もう、立てますから」

「無茶しないでください」


 にも関わらずロロベリアは精霊力を解放、カナリアの制止も虚しく腕から降りてしまう。


「……せめて私の肩を使ってください」

「ありがとう……ございます」


 ロロベリアの気持ちも理解できるだけにカナリアも根負け、ロロベリアの好きにさせることに。

 なんせロロベリアの目標とする英雄が手を組み戦っているのだ。強さを求める彼女がこの機会を無駄にするはずもない。


「二人らしい戦い方でしょう?」

「はい……」


 もちろん巻き添えを食わないよう配慮しつつ、勝利を疑わず戦況を見守るロロベリアに同意を求める。

 霊獣戦において精霊士と精霊術士が組む場合、前衛の精霊士が霊獣の注意を惹きつけている間に精霊術士が詩を紡いで精霊術を放つのは基本中の基本。

 精霊士ではなくとも前衛を任されているアヤトがノア=スフィネを惹きつけ、ラタニは後方で精霊術の準備と基礎を重視する二人らしい戦術で。


「……だがノア=スフィネは随分と坊主にご執心だな」

「隊長が後ろにいったからなのだ?」


 不調でも尚、最後まで二人の戦いを見届ける覚悟を示すロロベリアに触発されたのか、ようやくモーエンやジュシカの意識も戦場に向けられた。


「それよりもわたくしが精霊種と対峙したからでしょう」

「……マヤが何者かは後でいいけどアヤトの白銀の変化が原因かな」

「その通りです」


 続くスレイの疑問にマヤは肯定。

 マヤの神気に当てられたノア=スフィネは擬神化により神気を解放したアヤトを脅威と認識したことで排除を優先している。

 また後方に下がったラタニが精霊力を抑えているのも要因の一つ。


「しかし距離を取ったとは言え、すぐ近くでドンパチやってるのに隊長殿もよく冷静でいられるもんだ」

「アヤトさんに対する信頼でしょう……けど、詩を紡ぐ素振りもしていませんね」


 今までラタニ以外でノア=スフィネと対等に渡り合えなかっただけに、詩を紡げずにいたがアヤトの参戦で解決している。

 問題は消耗している状態で精霊の咆哮すら通じない相手をラタニが撃ち破れるか否か。


「まさか……っ」

「これはこれは、ラタニさまも中々に興味深いですわ」


 そう注目するも、遠目からでも把握できるラタニの変化に五人が目を見開く中、マヤのみ興味津々に微笑んだ。



 ◇



(……そろそろいけるか)


 状況も無視して自身の内に秘める精霊力に意識を向けていたラタニは深呼吸息を繰り返す。

 一回、二回、三回と気持ちを落ち着かせ、徐々に呼吸が浅く、しかしゆったりと変わる感覚に合わせて詩を紡ぎ始めた。


『領域を脅かず・手を取り合うように・弾かれず・溶け込むように』


 本調子ならまだしも心身共に疲弊している状態で扱うのはリスクが高い精霊術。


『我は精霊の一部として・精霊は我の一部として』


 アヤトには一分が限界と見積もったが、実際はその半分くらいが精々。


『太古の昔・共存していた・友愛を今ここに』


 しかし慕ってくれる部下が、憧れてくれる後継者の前で無様な姿を見せるわけにはいかない。

 そして憎ったらしい弟の前では常に先を行く格好いい姉でいたいとの意地がある。


『一時の共有を我と共に繋ぐ約束と誓いを――』


『ガァァァァ――――ッ』


 詩を紡ぐ度に精霊力のみならずラタニ自身にも変化が起こり、その異質な感覚に反応したノア=スフィネは広範囲に黒刃を乱射。


「――自棄になりやがって」


 自分もろともラタニの排除にかかる多重攻撃にもアヤトは即座に反応。


「それとも俺一人では遊び足りねぇか――舐められたもんだっ」


 朧月と月守を抜きつつラタニの前に立ち塞がり、襲いくる黒刃を両断していく。

 完全には裁ききれず黒刃が身体を掠め鮮血が舞うのも構わず、致命傷だけは回避しながら背後に居るラタニを無傷のまま守りきるとの意地でアヤトは二刀を振るい続けた。

 

 対するラタニも一帯の地面が切り刻まれようと、周囲の喧騒も耳に入らず詩を紡ぐ。


 いつか自分の領域に踏み込んでくる好敵手(アヤト)だけを意識して編み出した、ラタニの最強の精霊術(とっておき)


『――精霊虚域(ディメラジン)』 


 その最終節を紡ぎ終えるなり両目を開ける。


 同時に迫り来る全ての黒刃が()()()()()()()()()()()()()()()




これまで半端に描いていたラタニさんのとっておきがついに御披露目。

ただこの精霊術を知るカナリアたちやロロにとっては意外な選択、まあマヤさんは変わらず楽しそうですけどそれはさておき。

互いの意地でアヤトは時間を稼ぎ、ラタニは危険な精霊術を発動させました。

その結果ラストで起きた変化も踏まえて『精霊虚域』の詳しい効果については次回となります。



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