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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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裏幕 期待に応える

アクセスありがとうございます!



 スフィアを出発して四日、王国領土に入り最初の町に到着して間もなく――


「ミューズさま、ロロベリアさま。如何なさいました」

「なにか気になる店でもあるのか?」

「お店ではなく……アヤトさまが」


 先導していたフロッツやレムアの問いにミューズが困惑するよう、最後尾を歩いていたアヤトが突然立ち止まり、声を掛けるも無言のまま動かないのだ。

 加えて面倒気な表情は変わらなくともロロベリアには徐々に気が立っているようにも感じる。ただでさえ一昨日から様子がおかしいと気になっていた中で、前触れなく奇妙な行動をされると何か起きるのではとビクビクしてしまう。


「……アヤトくんが意味不なことすると嫌な予感しかしないんだが」


 この数日、保護者として振り回されていたフロッツも同じようで、渋面でぼやくもそこはアヤト。


「……やれやれ」


 ため息と共に雰囲気が元の気怠げなものに変わったのもつかの間。


「フロッツ、その腕輪を貸してくれ」

「は……?」


 やはり前触れもなく頼み事をされたフロッツはキョトン。


「借りるからには礼はするし必ず返す」

「別に構わんけど……なんに使うんだ?」

「すまんな」


 とりあえず希望通り物体の重さを軽減する腕輪型の精霊器を外して手渡すも、受け取ったアヤトは質問を流してレムアの元へ。


「レムア、俺の荷物を預かってくれ」

「え……?」

「それとこいつもな」


 やはり頼み事をされてキョトンとなるレムアには荷物と腰に差していた柳雪を手渡す。

 ここまでの道中頑なに手放さなかった自身の荷物やダイチから預かった柳雪を預けたり、腕輪型の精霊器を借りたりと奇妙な行動が続くもアヤトは止まらない。


「俺と白いのは一足先に帰らせてもらう」


「「は?」」


「私も!?」


 急な申し出にフロッツやレムアは目を丸くするも、寝耳に水な予定変更にロロベリアはもっと驚くがアヤトは無視。


「故に白いのの荷物も頼む。つーわけで白いの、さっさと行くぞ」

「え? ちょっとアヤト、急にどうし――てぇ!」


 戸惑うロロベリアだったが抗議の言葉が続かない。

 何故なら有無を言わさず右手首に腕輪を装着させたと思えば、そのままお姫さま抱っこをしてきたのだ。

 これまで希望しても白いのだからと拒否されていたお姫さま抱っこを、何の前触れもなく町中でされてはさすがのロロベリアも嬉しいや羞恥よりも困惑から硬直してしまう。

 また意味不な行動が続きフロッツやレムアがポカンとなる中、唯一静観していたミューズが声を掛けた。


「何か……あったのですね」

「まあな」


 端的な返答にもミューズは納得したように頷く。

 いつもアヤトは周囲を呆れさせ、驚かせる不可解な振る舞いをするも、それは何かしら理由があってのこと。

 その振る舞いがいつも以上に強引に感じるのは急いで戻る必要があるからで。

 何らかの方法で緊急事態を知り、その事態に自分ではなくロロベリアの力が必要と判断したのだろう。

 なら今は醜い嫉妬も、力になれない悔しさも押し留めて。


「せっかくの旅路に水を差してすまんな」

「本当にそう思ってくださるのなら、後ほど埋め合わせをお願いします」

「へいよ」

「約束しましたよ。では……お気を付けて」


 少しだけ構ってちゃんな約束を交わしたミューズは、周囲の目も気にせずロロベリアと共に飛び立つアヤトを笑顔で見送った。



 ◇



 最短距離で町を後にしたアヤトは周囲の気配を確認して擬神化、そのまま街道を使わず南西に走りだした。


「時間が惜しい。無駄口叩かず今は話を聞け」

「…………」

「白いの……おい、聞いてんのか」

「え……あ……うん」


 ミューズとのやり取りも耳に入らないほど硬直していたロロベリアも声を掛けられ我に返るも、未だ心在らずで――


「たく……なにぼさっとしてんだ」

「…………」


 ――いたのだが、甘いムードもない鬱陶しげな態度でようやく現実に返された。


「それで……話ってなに」

「ラタニから連絡が入った」


 故に冷ややかな視線を返しながらも話を聞く態勢になれたロロベリアだったが、淡々と告げられた内容に表情が強ばっていく。

 なんせ二〇〇〇を越える霊獣が遠征訓練中のダラードに押し寄せている連絡だけでも異常事態なのに、原因が精霊種によるものとラタニが臆測しているからで。


「所詮は臆測だからな。何もなければ後でラタニに無駄に騒がせた詫びを入れさせれば済む話だ」

「……でも、お姉ちゃんの臆測通り異常事態の原因が精霊種だったら……」

「精霊種の情報は少ない。楽観視せずオマケ程度の保険だろうと用意したくもなるだろうよ」


 確かに精霊種の情報は少ないが、文献では小国を滅ぼしかけた脅威と記されている。また噂でも東国を滅ぼしたのも精霊種と言われているのだ。

 そんな脅威が霊獣の大群と共に現れればラタニを含めた軍の精鋭だろうと対処は困難、少しでも戦力が欲しいと望むのは当然。

 それがラタニに並ぶ実力を秘めたもう一人の王国最強アヤトなら尚さら呼び戻したくもなる。

 例え可能性だろうと被害が出てからでは遅い。ラタニの判断は正しいと納得できるが、ロロベリアは気になることが二つある。


「……間に合うの?」


 一つは現在地からダラードまではどれだけ急いでも馬車で四日の距離。いくらアヤトが擬神化で向かってもかなりの時間が必要な点。


「それに急いでるならどうして私も連れて行こうとするの?」


 そしてもう一つ、なぜ自分を同行させているかだ。

 フロッツから借りた精霊器を自分に付けたのなら重さは関係ない。しかし一秒でも早く到着するならアヤトが付けた方が速度も上がるはず。

 精霊種は当然、霊獣の大群の戦力にもならない自分を同行させている理由が分からない。


「仕方ないとは言え状況が状況だ。今から話すことは秘密にしろよ」

「……うん」

「精霊士や精霊術士が精霊力を解放することで身体能力だけでなく肉体強度も上がるだろう。故に向上した身体能力の動きにも身体が耐えられるが、持たぬ者の俺はそうもいかん」


 ロロベリアの疑問に対し、そう前置きしたアヤトが告げたのは自身の秘密について。

 精霊士や精霊術士が常人を越えた動きが出来るのは精霊力の恩恵があってこそ。だが実験の副作用で脳や神経、運動機能が異常発達したとはいえアヤトはその恩恵が受けられない。

 故に精霊力の恩恵がない状態で常人を越えた動きを可能とする為に、アヤトは筋肉や柔軟性を重視して身体を作り上げたが生身のままだと限界がある。

 つまり普段から身体が壊れない限界を見極めた動きをしているだけでしかなく。


「じゃあ……今までは本当の意味でアヤトの本気じゃなかったの」

「短時間ならそれなりに保つがな」


 よくよく思い返せばアヤトの素早さは初動なく最高速で動く技術的な強みと瞬発力で速く感じるが、実際の速度は自分と余り変わらないように感じていた。加えて鍔迫り合いなどでは押し勝てるように膂力はさほどではない。

 エニシやダリヤといった近接戦の強者には、肉体が保つ限界速度を要所で出しながら互角に渡り合えていたのか。


「擬神化をすれば多少はマシになるが、やはり精霊士や精霊術士ほどではないらしくてな。ま、変わりに精霊士や精霊術士にはない利点もあるが」

「利点?」

「気づいてねぇのか。擬神化の状態だとある程度ではあるが風を避けられるんだよ」

「……そう言えば」


 指摘されてロロベリアも風の音に遮られずアヤトと会話していることに気づく。

 それこそ自分が限界の速度で走れば風の抵抗を受けて周囲の音が聞き取れなくなるのに、それ以上の速度が出ているにも関わらず風の影響をほとんど感じられない。

 以前アヤトが擬神化をすると周囲の精霊力がざわつくように感じるとツクヨが教えてくれた。また白銀の変化をしたアヤトの周囲には精霊でさえ踏み込むことを許されない神聖な領域があるようとミューズは表現していた。

 ならこの現象は恐らく神気によるもの。自然現象に精霊が関わっているのなら神気を引き出した擬神化の場合のみ、自然の影響を受けにくくなるのはあり得るかもしれない。


 そしてマヤからも擬神化をすれば精霊術士のように身体能力が向上するが、アヤトに扱える神気の量は塩粒程度で精霊士が扱える精霊力の半分もないと聞いている。要は肉体強度も精霊士の半分程は上がるので従来よりも限界以上の動きは可能、しかしそれでもアヤトは本来の能力を完全に引き出せていないわけで。


 ならアヤトが同行させたのは、本来の速度を引き出しても肉体が壊れる前に治療術で回復させる為か。


「白いのが察しがいいと雨が降るんだがな」


 ここまでの情報を元に自分の役割を理解すればアヤトは嫌味で肯定。

 確かに風の影響を受けないなら疲労も軽減されて、治療術で本来の速度が出せれば時間短縮に繋がる。精霊器でひと人を抱える問題も解消されるなら試す価値は充分あるだろう。

 間に合うかどうか、ではなく少しでも速く到着する為に必要な処置だと理解はできた。

 だが理解できたからこそ新たな疑問が。

 少しでも速くならこの役割は自分よりもミューズが担うべき。保有量で四倍近い差があるなら治療術も長時間使えるのだ。

 臆測の域とは言え今は非常事態、ミューズなら擬神化の秘密やラタニとの連絡手段を話さなくても協力してくれる。むしろ非常事態だからこそ秘密に拘る必要もない――


「確かに保有量でいやミューズが多い。だが制御力はお前が上だろ」


 そう提案する前にロロベリアの心情を見透かしたようにアヤトは口を開く。


「精霊器の可動時間は二時間。いくらミューズの保有量が多くとも二時間休まず治療術をかけ続けるのは不可能だろ。なんせ俺の計算では二時間以内での到着は微妙なところだ」

「…………」

「だがま、制御力だけには定評のある白いのならその程度の調整なんざ余裕だろ」

「…………」

「要は俺が要求するのは壊れる前の治療役ではなく、壊れないよう二時間維持する治療役だ」


 アヤトの言う通りミューズの保有量でも二時間も治療術を維持するのは不可能。

 だが精霊力の微細な強弱まで調整できるロロベリアなら可能かもしれない。回復力は劣るが一時的に速度が増すよりも、長時間速度を維持する方が時間も短縮できるとアヤトは判断したのだろう。

 ただ治療術を二時間も維持し続けろとは無茶な要求。

 精霊力の前に気力が尽きて意識を失うと思わないのか。


 などと呆れはするがロロベリアに迷いはない。


「無理なら今からでもミューズと――」

「アヤト、おんぶして」

「あん?」


 故にアヤトが皮肉を告げるより先に行動に移す。


「両手が空いてる方が速く走れるでしょ。それとも実は私をお姫さま抱っこしたかったりする?」

「たく……望んでいたのはお前だろうが――」


「……へ?」


 更に皮肉で返せばアヤトはため息一つ、同時にロロベリアを前方へ放り投げた。


「故に無茶な要求をする代わりにご機嫌取りでもと思ったまでだ」

「せめて一声掛けてよ!」


 からの器用にロロベリアを背中に回し最小限のタイムロスで背負い直したが、デタラメなやり方に悲鳴を上げる暇すら無かったロロベリアは猛抗議。

 それはさておき、気を取り直したロロベリアはポケットに納めているあやとりの紐を全て取り出しアヤトに回している両手首を拘束するよう巻き付けた。


「これで私を支える必要もないでしょう」

「なるほどな。白いのにしては考えたじゃねぇか」


 ロロベリアの意図を察してアヤトもほくそ笑む。

 風の影響を受けず、自身の重みも精霊器で無くせるならあやとりの紐でも充分支えられる。これでアヤトはロロベリアを支える必要が完全になくなった。

 後は治療術を二時間も維持し続ける無茶な要求をやりきれるかだが、やれると判断してアヤトが要求したのなら。


(やれるかじゃない……やるんだっ)


 初めて期待された役割をやりきるのみ。


「二時間で着かなかったら私は捨てて良いから」


 そして足手まといにもならないと精霊力を解放。

 自分の役割は精霊器の稼働時間内まで治療術を続けること。その役割を終えればただの重りに過ぎない。


「お荷物は必要ないでしょ?」

「白いのにしては良い覚悟だ」


 ロロベリアの決意にアヤトは苦笑を返すのみで。


「始めろ」

「任せて!」


 精霊器を作動させたロロベリアは目を閉じ意識を集中させる。

 身体の重みを感じられないので全神経を精霊力の調整に回し、自身の保有量から割り出した二時間維持するに必要な治療術をかけていく。

 それ以外は一切なにも考えず、ひたすら続けていくのみ。


 故に精神がすり切れるような時間を続け――


「……ごめ……もう…………」


 時間の感覚も分からないほど集中していたが、精霊力の限界からロロベリアの意識も限界で。


「だか……わた…………すてて……」


 つまり今どこに居るのか、そもそも到着しているかも理解できないが故に。


「い……て…………」


 朦朧としながらもお荷物にだけはならないと伝えたロロベリアは意識を失った。



 ◇



「やれやれ」


 ロロベリアの意思を聞き届けたアヤトと言えば立ち止まるなりため息一つ。


「何重にも絡めやがって。ほどく身にもなれ」


 続けてロロベリアを地面に下ろし、両手首を拘束したあやとりの紐を面倒げに解いていく。


「――ロロベリアさまの要求通り捨て置かないのですか?」


 同時にクスクスと笑い声と共に顕現したマヤは興味津々に問いかける。


「そもそも急いでいるなら紐を斬れば済むのではないでしょうか」


「かもな」


 アヤトは真意を伝えず、全ての紐を解き終えるなりロロベリアを両手で抱きかかえ走り出した。


「つーか今さら白いのを捨てるられるか」 


「その結果、間に合わなくてもですか?」


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 わざわざ速度を合わせて目の前を浮遊するマヤに向けて言い切った。


「白いのは俺の期待に応えた。なら白いのが目標とする俺やラタニが期待に応えなければ合わせる顔がねぇだろ」


「そうですか」


「と言っても所詮はラタニの臆測だ。無駄足に終わる可能性もあるが、実際はどうなんだ? 神さま」


「さてさて、どうでしょうか」


「だろうな。なら邪魔だ、消えろ」


「はーい」


 そのままマヤが姿を消すのに合わせてアヤトは両腕の中で眠るロロベリアの顔を一瞥。

 治療術の効果も、精霊器の効果も失い速度が落ちようと構わず。


「いい気なもんだ」


 ロロベリアを抱きかかえたままラタニの元へ急いだ。




アヤトが予想以上の速さで到着した理由、またロロが意識を失っていた理由ですが……少し分かりにくいかもしれませんがどうでしょう(汗)。

要は擬神化による恩恵や肉体の限界を越える前に治療術でカバーし続けた結果なんですが、なぜ擬神化であのような恩恵があるのかは後ほどとして、ロロが知らないところでアヤトくんは変にデレをみせますね。マヤさんの質問に対するラタニへの信頼も含めて、ですけど。

とにかくロロが期待に応えたことでギリギリでもアヤトとラタニが合流、つまり次回からラタニ&アヤトVSノア=スフィネ戦となります。




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読んでいただき、ありがとうございました!



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