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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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失態が招いた好転

アクセスありがとうございます!



 カナリア、モーエン、スレイ、ジュシカがノア=スフィネを視認できた時には、既に戦闘は始まっていた。


 故に当初の予定通り足手まといにならないよう、戦況を把握できるギリギリの位置まで慎重に距離を詰めていく。

 戦闘の余波か、地上は所々が抉れ大小の岩が散乱しているので身を隠す場所も事欠かず、それでも気は抜かず見守っていた。


「……思ってたのと違うのだ?」


 のだが、戦況を眺めつつジュシカは困惑。

 戦闘が続いているのなら少なくとも予想していた最悪の結末、精霊術の暴発による自爆狙いではないのには安堵した。ただここまでラタニは飛翔術と避けきれない攻撃を逸らす精霊術しか使用せず、攻撃の素振りすら見せていない。

 精霊力の節約か度々地上に降りてはいるが、この戦法は精霊の咆哮から部隊を安全圏まで退避させる為の時間稼ぎのようで。


「もしかすると隊長殿はノア=スフィネの精霊力を削ろうとしてるのか……?」


 モーエンも同じ印象を抱いたようで推測を立てる。

 従来の霊獣とは違いノア=スフィネは黒弾や黒刃といった精霊力を利用した攻撃をしてくる。加えて精霊の咆哮を集約防御と同じ原理で防いだと聞く。

 つまり従来の霊獣が精霊士、ノア=スフィネが精霊術士と当てはめれば精霊力の枯渇という弱点はあり得るかもしれない。

 なら枯渇狙いとまではいかなくとも、精霊力を消耗させて弱体化したタイミングで全力を出すつもりか。

 だとすれば充分勝機はある。問題はノア=スフィネの精霊力が消耗しているかすら分からないほど膨大なこと。いくらラタニが節約していようと底が見えない相手に消耗戦を挑むのは大博打だ。


「可能性はあるだろうし隊長ならやりかねないよね。ノア=スフィネもだけど隊長の底も見えないよぼくみたいなゴミに見えるわけないけど本来なら精霊力どころか心身が保たないのに危なげなくやってるのが隊長だよねほんとすごいよ尊敬するよ。隊長みたいな人の次を任される副隊長がぼくでいいのかないいわけないよねだからモーエンがお願いします」

「それを決めるのはお前さんじゃなくて隊長殿だ」


 しかしスレイが自虐するようにラタニだからこそ可能な作戦かもしれない。

 そもそもこれまでラタニが使用した精霊術を考慮すれば、保有量に自信のある上位精霊術士だろうと既に枯渇している。にも関わらず未だ衰えを感じさせない精霊力、先ほど見せた本来の保有量を考慮すれば余力は充分あるだろう。

 更に単独で相手をしている結果、地上も使えるようになったことで飛翔術に拘らず部分集約で向上させた脚力で回避と精霊力を節約できるようになった。

 そして広範囲高威力を誇るノア=スフィネの攻撃に晒されながらも消耗戦を挑める精神力、最小限の精霊力で回避する判断力、それを可能とする基礎能力の高さ。

 保有量だけでは不可能な作戦をやりきれるのは大陸中を探してもラタニ以外に居ないだろう。

 まさに今まで学んだ教えを高次元で実行している雄志に、モーエンだけでなくスレイやジュシカも感嘆する中――


「…………っ」


 ただ一人、カナリアだけはこの戦況を別の視点で捉えていた。

 確かにあり得ない消耗戦だろうとラタニなら可能かもしれない。

 それでも時間稼ぎのような作戦や、少しずつ北東にノア=スフィネを誘導する動き。

 なにより三人が知らない、霊獣の大群に備えてラタニが用意した保険を知るからこそ。


 ラタニは保険を――アヤトの到着を待っている。


 だから自分一人で討伐する等の明確な発言を控えたのかもしれない。

 なんせ誘導しているのはアヤトが居るであろう方角。少しだろうとラタニ側が近づけばそれだけ早く到着できる。

 だとすればノア=スフィネの討伐にアヤトの協力が必要とラタニは判断したのか。

 そして間に合わなければ最悪な手段で討伐するつもりか。

 ただ最短ルートでも半日の距離、擬神化による短縮が計れないだけに無謀とは言い切れないが、連絡を入れたであろう時刻から既に二時間以上。

 いつ到着するか分からない状況下にカナリアは焦燥ばかりが募る。


(マヤさん返事をしてください! マヤさん……!)


 せめて現在地を知りたいのに、どれだけ呼びかけてもマヤから一切返答はなかった。



 ◇


『アアァァァァ――――ッ』


「とに……『好き放題やってくれるじゃまいか!』」


 四人が近くで戦況を見守っていると知らず、ノア=スフィネの猛攻をかいくぐりながらラタニは悪態を吐いていた。

 カナリアの読み通り僅かでもアヤトの到着を早めようと地上を駆けていたが前方に黒弾を放たれ、やむを得ず飛翔術で上空に回避する。

 そのまま誘導を試みるも、行く手を阻むよう四方から黒刃が襲いかかる。

 誘導を悟っての追撃ではなく、たんに獲物を逃がさないようにしているのだろう。

 僅かでも力を見せたことで脅威と感じたラタニを排除するためか。

 それとも精霊の咆哮を含め、散々痛め付けた元凶への怒りか。

 とにかく明確な殺意が向けられているのは確か。まあその程度で怯むラタニではないが、攻め方から導かれる成長が厄介で。


『ゴオゥ――ッ』


『これまたいやらしいタイミングさね!』


 黒刃の合間に放たれた黒弾を躱しきれず精霊術で何とか逸らすよう、ノア=スフィネの攻撃に変化が起きていた。

 序盤の攻防では膨大な精霊力を活かした無差別な攻撃。言ってしまえば数撃てば当たる大雑把なものだった。

 対し今はラタニの動きを意識して最小限の数で、的確に狙ってくる。威力も抑えられているからか速度も増している。

 

「よくよく考えりゃ『まだ生まれたてのほやほやだもんねぇ!』」 


 黒い霧らしきものが集約して形成された怪物を生まれ立てと表現するかは微妙だが、この変化はノア=スフィネが戦い方を学習しているからこそ。

 ただでさえ厄介な怪物が成長していくとなれば嘆きたくもなる。その成長を自分との戦いで促しているなら尚更だ。


 それでも相対しているのは誰もが認める王国最強のラタニ。


『グアオォォォ――――ッ』


「なら余計に『負けられるかよ!』」


『パチン』

『パチン』


 追撃の黒弾に合わせて風の壁を展開、更に自身にも風を纏わせ黒弾の勢いを利用して後方に退避。

 僅かでもタイミングや威力を見誤れば直撃は免れない神業で上手く誘導に成功。

 戦いにおける膨大な経験を前に、付け焼き刃な成長など些細な変化でしかない。

 事実、泥仕合のような繰り返しでもラタニはノア=スフィネの成長を上回る発想と技能で対応していく。

 十分、二〇分と経過しても危なげなく常人離れの気力、体力、精霊力で狙い通りの展開を続けていた。


 しかし三〇分を過ぎた頃、ついに危惧していた事態が訪れた。


「は……は……とに、タフだねぇ……っ」


 息を切らしながらも襲い来る黒刃をかいくぐり、ノア=スフィネの攻撃を予想している最中に起きた異変。


『ォォォォ――ッ』


「少しは『休もう――』」


 ――ズキッ


「――ぐっ!?」


 咆哮に合わせて飛翔術を使用した瞬間、全身を襲う痛みに集中が途切れたラタニは勢いのまま横転してしまう。


『く……そがぁぁぁ――!』


 だが前方に着弾した黒弾の余波に備え咄嗟に風を全身に纏わせ対応、吹き飛ばされてしまうが致命傷は何とか免れた。


「あ~……やっちまったか」


 今の痛みが僅かでも引き出した精霊力の弊害と悟りラタニは笑うしかない。

 こうならないよう極力精霊術を控えていたが、想像以上に負担が掛かっていたらしく。


「ほんに情けないねぇ……」


 このまま続ければ更に悪化するのは必至と、立ち上がりながらため息一つ。

 ならば手段は一つ、殺される前にノア=スフィネを確実に殺すしかない。

 お誂え向きに粘り続けたことでノア=スフィネの精霊力もそれなりに削られた。今なら最悪な手段を使わなくとも、精霊術の暴発で相討ちも不可能ではない。


 つまり最悪な結末は回避できるが自分の死は避けられない。


「昔のあたしなら躊躇わず選べたんだけど……弱くなったもんだ」


 古い約束を果たすための自己満足で生きていた以前の自分なら、これも自己満足の結果と割り切れていた。

 なのに今は慕ってくれる人々の顔が頭から離れなくて躊躇ってしまう。

 死別という恐怖からこの手段だけは選びたくない。


「情けないあたしを許してくれとは言わん。でも……頼むから傷つかんでくれ」


 それでもこの怪物を殺さなければ多くの命が奪われると、弱々しい笑みを浮かべながらラタニは覚悟を決めて――


「「「「隊長――――っ」」」」


「……っ」


 ノア=スフィネに特攻する寸前、自分を呼ぶ悲痛な声に開きかけた口が閉じられた。



 ◇



 足手まといになるつもりはなかった。

 最後までラタニの勝利を信じて見届けるつもりだった。


 それでも戦況が急変し、ラタニの覚悟が遠目からでも伝わったカナリア、モーエン、スレイ、ジュシカは胸騒ぎに駆り立てられるまま叫んでいた。


「なんであんた達がいるんだい!」


 その叫び声に唖然となり、自分たちを見るなりラタニは怒り任せに声を張り上げる。

 結果として致命的なスキが生まれてしまう。


 オォォォ――――ッ


 初めて見せたラタニのスキを見逃さず、ノア=スフィネは黒弾を放つ。


「しま――っ」


 速度重視でも充分な威力が込められた黒弾にラタニが飲み込まれ、続いて地面を抉る爆破と黒煙が立ち籠もった。



「「「「…………」」」」



 絶望的な光景を見届けた四人は言葉なく、爆破の余波を受けながら膝から崩れ落ちてしまう。

 自分たちが叫んだ為にラタニが死んだ。

 失態を悔やみボロボロと涙が零れていく。


 ただラタニを思う叫びが()()()()()()()()()()()()()()()()


『――呼びかけにお答えできなくて申し訳ございません、カナリアさま』


「マヤさん……!?」


 罪の意識に押しつぶされそうなカナリアの脳内に、何度も何度も呼び続けていたマヤの声が響く。


『こちらも少々立て込んでいたので……なんて、もう無視の必要がなくなっただけですけど』


「今ごろなにを……っ。隊長が……私たちのせいで隊長が……っ」


『その心配も必要ありませんよ。なんせラタニさまは――』



 ・

 ・

 ・



「しま――っ」


 ノア=スフィネの放つ黒弾に為す術なくラタニは死を覚悟した。



 ()()()()()()()()()()()



 しかし待っていたのは死ではなく、捻くれた物言いと共に襲う浮遊感で。


「つーか随分とボロボロじゃねぇか」

「……たくよー」


 茫然と黒弾が地面を抉る光景を遠目で眺めつつ、続く皮肉に全てを理解したラタニは小さく笑った。


「あんたが遅いからだよん」


「そりゃ悪かったな」

 

 その批判に全く悪いと思わせない謝罪が返されるように四人が叫び、僅かなやり取りをしなければ。


「これでもそれなりに急いできたんだがな」


 漆黒と白銀の双眸を向けてほくそ笑む、憎ったらしいアヤトの顔を見られなかっただろう。


「それなりに……ねぇ」


 ただそれはそれとしてラタニには気になることが。


「文句でもあるのか」

「文句はないけどさー」


 なんせ自分を抱える逆の腕にはもう一人、意識を失っているようでピクリともしない()()()()()()姿()()

 故にアヤトが間に合わせたデタラメな方法はこの際いいとしても。


「あんたロロちゃんになにしたよ」


 ロロベリアになにが起きたのか気になって仕方がなかった。




結果論になりますがカナリアたちの思いがラタニの自殺行為の相討ちを踏み止まらせました。

そしてこの展開も予想してたかもですが、ぎりぎりアヤトくんが間に合いましたね。

つまりオマケを含めて26話ぶりに主人公二人が登場……ですが、シリアス展開だろうと変に締まらないのがアヤトくんというかこの作品……なにかすみません(汗)。


とにかくラタニさんは気にしなかった予想を上回る時間で到着したアヤトくんの秘密も含めて、ロロが意識を失っている理由については次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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