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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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最高か最悪か

アクセスありがとうございます!



 精霊の咆哮が精霊種に着弾した際、戦況を見守っていたダラード支部も歓喜の渦に包まれていた。

 だが黒煙が晴れた先に精霊種の健在を確認して絶望。予想外の事態を前にナーダも窮地に立たされていた。

 次発までに時間が掛かる精霊の咆哮は使えないが、精霊力を利用した兵器は他にもある。ただ威力が劣る上に、射程距離から精霊種をダラードまで近づける必要があった。

 霊獣の大群を発見した時も、精霊種を確認した時も通信用の精霊器で王都に報告しているので増援部隊も既に向かっているはず。また万が一に備えて王都も防衛に備えているだろう。

 故に市民や学院生を増援部隊と合流するようダラードから避難させて、残る戦力での総力戦しかない。ここで精霊種を討伐しなければ多くの命が失われるのだ。


 後は前線の部隊が無理をせず撤退する時間稼ぎをラタニが担ってくれるのを願うばかりで。

 軍内で不遇な扱いを受けているラタニに、どこまでも重責を担わせる現状に口惜しさと申し訳なさに嘖まれつつ、ナーダは総力戦に備えた準備を指示していたが――


「どういうことだ……」


 前線の状況報告を受けたナーダは困惑していた。

 監視していた部下が言うには精霊の咆哮から無事退避したラタニが風の精霊術で精霊種を吹き飛ばし、更に一人で飛び去ったらしい。同時に部隊がダラードに撤退しているのなら、ナーダの願い通りラタニが時間を稼いでいるとも言える。

 しかし状況的に詩を紡ぐ時間もないなら言霊による発動、にも関わらず精霊種を監視範囲外まで吹き飛ばした状況が信じられない。いくらラタニでも言霊でそれだけの出力は不可能のはず。


 もしかするとナーダが知らないだけで可能にする実力を秘めていたのか。なんせ圧倒的すぎるが故に、これまでラタニに本気を出させる相手がいなかった。

 つまりラタニは精霊種に対して時間稼ぎをするのではなく、討伐するつもりか。だとすれば期待以上の展開、しかし精霊の咆哮が通じない精霊種を相手に一人で戦うのは無謀すぎる。


「……っ。今すぐ前線に使者を送れ!」


 とにかく情報が欲しいと撤退している部隊に合流を指示。ラタニと精霊種が監視範囲外に出てしまった今、他に戦況を把握する術がない。


「無理はするなよ……ラタニ」


 総力戦に備えた準備も進めつつ、今はそう願うばかりだった。



 ◇



「あの言伝を俺たちに託すなら、ミルバ大隊長も少しは隊長殿を認めてくれたってことでいいよな」

「いいと思いますよ」


 一方、撤退せずラタニの元へ向かうモーエンとカナリアは苦笑を漏らしていた。

 ノア=スフィネの全長なら多少離れていようと視認は可能なはず。にも関わらず未だ姿が見えないなら精霊術で吹き飛ばされて地上に降り立ったのか、それとも視認できない距離まで吹き飛ばしたのか。どちらにせよ改めてラタニのデタラメな力には恐れ入る。


 それはさておき、ラタニと交わした約束については分からなくとも共に酒を飲むならミルバも歩み寄ろうとしている証拠。両者の確執は主にミルバ側の問題、ならばどちらにとってもいい傾向だ。

 モーエンたちも何故ラタニが今まで真の力を隠していたのかは分からない。それでも窮地に立たされた中で出し惜しみせず、ノア=スフィネを相手にたった一人で立ち向かう頂点としての覚悟。誰も死なせたくないとの切実な望みを知ればミルバだけでなく、ラタニを快く思わない面々も多少なりとも為人を理解してくれただろう。

 更にノア=スフィネを討伐すれば軍全体の見方も変わるかもしれない。実力だけでなく、王国の未来を思い続けるラタニの真摯な気持ちが認められるのは部下としても喜ばしい流れ。


「でもさっきの隊長なにかおかしかったのだ」

「……ジュシカもそう感じたか」


 ただ珍しくジュシカも焦りを滲ませるように胸騒ぎが拭えない。

 自身の覚悟、願いを説く際、ラタニは守ると公言した。しかしそれ以上の言動は控えている。


「いつもの隊長なら終わったらみんなで祝いに酒でも飲もうとか言うはずなのに言わなかったからね。細かいことばかり気にしがちでうざったいぼくだから変に感じたのかもだけど守ると言い切ったなら討伐は間違いないけどどうやって討伐するか気になるんだよね。ほんと神経質な副隊長で申し訳ないよ――」

「あなただけではないので落ち着いてください」


 スレイも自虐しながら語る違和感をカナリアらも抱いていた。

 普段から周囲を呆れさせる言動が目立つラタニだが、自分で無理と判断した事柄は変に期待させないよう口にしない。特に重大な局面では尚更だ。

 なら隊員の大切なもの、未来を守ると口にしたならノア=スフィネという脅威を排除する自信はあるのだろう。しかし討伐して帰ってくるという先の結果を控えたのが引っかかっていた。

 

 その引っかかりからノア=スフィネとの相討ち――精霊術を暴発させた自爆という結末が四人の頭を過ぎったわけで。


 考えすぎかもしれないが些細な違和感から四人はラタニの元へ向かっている。

 もし最悪な結末を迎えるつもりでいるとして、なにが出来るかは分からない。むしろ足手まといになって更に最悪な結末が待っているかもしれない。

 それでも生きて帰る大切さを説いたラタニにそんな結末を迎えさせたくない一心で。


「取り越し苦労であって欲しいもんだ」


 モーエンの呟きに三人も頷くしかない。

 どうか最後までラタニの雄志を見届け、最初に労う最高の結末を迎えて欲しいと。



 ◇



「たく……ほんのちょっと引き出しただけでこれかい」


 そんなナーダや部下たちの心配を他所に、ラタニは別の心配をしていた。

 ミルバを含めた部隊を納得させるために見せた精霊力の弊害か、全身から感じる脱力感。今はまだ無視できるレベルでも、このまま戦闘を続ければ悪化は避けられないだろう。

 それでも無駄に命が失われていくよりは最善の手段だったと前向きに捉えるしかないわけで。


「なんにせよ、後は狙い通りやるだけさね」


 今はやるべき役割に集中とラタニは切り替える。

 ノア=スフィネを精霊術で無理矢理引き離したのは部隊が巻き添えに合わないようにとの配慮だけではない。


 精霊の咆哮が通じない今、残された保険を最高の形で迎える為であり。


 最悪の形で迎えた際、ノア=スフィネもろとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 まあ後者を迎えるくらいなら精霊術を暴発させた自爆を選ぶが、確実に討伐できるとは言い切れないのが悩ましく。

 とにかく問題は最高の形で迎えるには後どれだけの時間を有するか。

 連絡を入れてから体感でおよそ二時間。ラタニならそろそろ到着できるが、やはり無理があるようで。


「連絡取ろうにもブローチがないし……ほんと厄日だわ」


 などと愚痴るように神気のブローチは精霊の咆哮から退避する時に落としている。そもそもマヤが素直に対応してくれるかも微妙なところ。


『ガァァァァ――――ッ』


「なんだいなんだい。あたしに会いたくてそっちも来てたんかい?」


 咆哮を上げつつ飛翔してくるノア=スフィネを前にラタニはほくそ笑む。

 見たところ精霊の咆哮で負った傷以外の外傷はないが、端からダメージを与えられると期待していなかったので構わない。


「さてさて……やる気満々マンなところ悪いけど、しばらく遊びに付き合ってもらうよん」


 ノア=スフィネを迎え撃つべく、上空で停止したラタニは大きく伸びを一つ。


 保険が間に合い最高の結末を迎えるか。


 それとも間に合わず最悪の結末を迎えるか。


「つーわけで――ラタニさん頑張っちゃうよん!」


 今は間に合わせてくれると信じて粘るのみ。




ラタニさんが期待する保険については今さらなのでさらりと流して、葛藤していたように自爆以外にラタニさんだけでノア=スフィネの討伐は不可能ではありません。

その辺りの詳しい事情もさらりと流して、代償が大きすぎるので本当に最悪な手段と、カナリアたちが想像している以上の結末になるんですよね……。

とにかく次回はラタニVSノア=スフィネの第二ラウンドとなります。


ちなみにですがこんな状況下でも明るさを忘れないのがラタニさんの強さですね。


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読んでいただき、ありがとうございました!


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