頂点が担うもの
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切り札の精霊の咆哮も通じないノア=スフィネを前に部隊は絶望の淵に立たされていた。
しかし漂う絶望を振り払うようラタニが秘めていた精霊力を解放。その圧倒的な精霊力は言霊クラスの精霊術でノア=スフィネを吹き飛ばすほど。
『とまあ、これが現実ってやつだ』
視認できるほどの精霊力は成りを潜めたが、同じ人間とは思えない力を見せつけたラタニは飄々と言ってのける。
『もう分かったよねん。さすがのあたしもあの怪物を相手に、あんたらを気遣いながら戦う余裕がない。まあぶっちゃけちゃうと邪魔なんよ』
続く身も蓋もない発言、しかし反論できない。
今までも精霊の咆哮から避難する時間を稼ぐために、自分たちが蹂躙されないようラタニはたった一人でノア=スフィネに押し留めてくれた。
だが抑え込むではなく討伐する戦いに切り替えれば激戦は必至。最初から全力を出さなかったのも被害が及ばないよう配慮していたのか。
なんにせよラタニの言う通り、ここから先は人間の領域を越えた戦い。
唯一ノア=スフィネに対抗できるラタニに全てを任せた方が勝率も高まり、被害も最小限に済む。まさに現実を見せつけられた面々は邪魔にならないよう撤退するのが唯一の強力と受け入れるしかない。
『お前は……私たちに戦わずして逃げろと言うのかっ』
なのにミルバは正しい選択としても受け入れきれず声を張り上げて反論。
『今まで力を隠し、私たちを嘲笑っていたお前を信じて……王国の未来を託せというのか! ふざけるな!』
理由はどうあれラタニは自分たちを欺いていた。そんな奴を信頼できないと。
結局最後はラタニに頼るほか未来はないと頭で理解していようと。
父のワイズも、ミルバ自身も手を抜いて圧倒されたという事実が屈辱だった。
この感情がくだらない自尊心からくるものと理解しても反論せずにはいられない。
『あたしが隠し事してんのは事実だ。どう捉えられても言い訳しない』
感情剥き出しのミルバに対し、ラタニは潔く受け入れる。
例え嘲笑っていなくとも、そう捉えられるような態度を続けてきたのだ。自業自得と受け入れるしかない。
『それに信じてもらえないのもね。なんせあたしはミルちゃんの親父さんと違って、みんなの為にテメェを削って、辛いの必死に我慢して、強がりすらできんかったテメェ勝手な王国最強だ』
『父が……?』
ただ先代の王国最強と比較した自虐にミルバは目を見開く。
自分の知る父はいつも自信に満ちあふれ、誰にも媚びず、しかし強さをひけらかすような愚行はしない国民の模範となる強い人だった。
なのに一度の敗北で逃げるように隠居した。周囲の尊敬や期待を捨てて、目指していた息子の気持ちも知らず。
故に失望した。所詮は才能でのし上がった、苦労知らずの中身がない最強など尊敬する価値もないと。
そんな父が辛さを抱えながらも、必死に我慢して強がっていたとはどういうことか。
自分の知る父と印象が違いすぎて困惑するミルバを他所にラタニは苦笑を漏らす。
『でもねミルちゃん。戦うことだけが守ることじゃない』
更にこの場にいる者達を諭すよう自身の思いを言葉で紡ぐ。
命を賭してでも国を、多くの命を守るのが軍に籍を置く者の使命で、この場にいる誰もがその覚悟を胸に秘めている。
だからこそ守って欲しいと。
『生きて帰ってさ、大切なもんに笑顔でおかえりなさいって言わせるのも守ることなんだよ』
自分たちがなにを守る為に戦っているのか。
その根源となる家族、友人、恋人といった大切な人の笑顔を。
『もち大切な人じゃなくてもいいよん。大切にしてるお酒とか、趣味とかでもいい。後は大切にしたいにゃーって惚れてるパン屋の娘さんとかでもいい』
国の未来の前に、なによりも自分の未来を。
『とにかくテメェの大切にしてるなにか、これから大切になるかもしれない誰かと巡り会うテメェを今は守ってやろうぜ』
力はなくとも今の自分が守れるなにかを守ることは出来ると。
最強の小隊を作り上げると決めた際に語った理想、自分を含めた大切ななにかを守る為の強さを求めて欲しい。
なにより理想で終わるつもりはない。
本当の意味で大切な人の笑顔を、未来を守る為に。
『だから守る為の戦いはあたしに任せな。それが先代から最強の肩書きを受け継いだ、戦うしか能のないあたしの出来る唯一の証明だからねん』
理想を現実にする為に、ここにいる誰もが力の無い者に変わって戦い守ろうとしているのなら。
『つまり適材適所。あんたらはあんたらの守れるもんを守る』
ノア=スフィネと戦う力のない者に変わって。
『そんでもってあんたらの大切なもんを、あたしが全部背負って戦ってやるよ』
守る為の戦いは自分が受け持つと胸に拳を当て、返答も待たずラタニは飛び立ってしまう。
ここに居る全ての者の覚悟を背負い、ノア=スフィネと戦う為に。
そして国を、自分たちの大切ななにかを守る為に。
ラタニの覚悟に反論する者、不服を漏らす者は誰もいなかった。
「俺たちまで置いていくのはつれないですよ、隊長殿」
「隊長が戦うならあたしらも戦うのだ」
「言うまでもないけど……邪魔しないように。それが共に戦えないぼくたちが唯一できる戦いだ……からね」
変わりにラタニ直属の部下が命令違反をする気満々だったりする。
もちろんスレイがクギを刺すように遠くから戦いを見届けるに留めるつもりだ。
「……行くのか」
「隊長が軍に入隊した日から、私はお目付役なので」
四人の小隊員の決意を読み取り、確認するミルバに代表してカナリアが肯定。
「常日頃さんざん振り回されてますからね。私たちの命令違反に隊長も少しは思い知ればいいんです」
「……カナリアは素直じゃないねぇ」
まあ日頃の行いに対する私怨も含まれているがカナリアも気持ちは同じ。
いくらラタニでもノア=スフィネとの激戦後は疲労困憊のはず。
なら帰還する際、治療や肩を貸す役は必要だろう。
なにより最後まで雄志を見届け、最初にラタニを労うのは自分たちでありたい。
それともう一つ、ラタニの言い回しに引っかかりを感じたのも理由で。
そう言った意味でもお目付役は必要かもしれない。
「ならばラタニ小隊長に伝えておけ」
四人の決意を聞いたミルバも引き留めることなく、変わりに言伝を託す。
「約束を守ればこれまでの不躾な発言、態度、お前達の命令違反も含めて不問とする。ただし酒を奢るのは私だとな」
「隊長殿と飲む約束でもしてたんですかい?」
意外な言伝にキョトンとなるモーエンを無視してミルバは背を向けてしまう。
「まったく……半端な情報を伝えるだけ伝えて行くとは身勝手な奴だ。これでは気になって仕方がない」
ただこぼれる愚痴からは今までのような不快や敵意は感じられず、純粋にラタニの帰還を楽しみにしているようで。
「ミルバ大隊長も素直じゃないですね」
「いいから行け」
「了解しました。それじゃあ行きますか」
「ですね」
「モーエンも副隊長として様になってるよねやっぱりぼくが副隊長とか柄じゃないんだ――」
「兄ちゃんもいじけてないでいくのだ!」
茶化しにも背を向けたまま手を振るミルバに四人も背を向け精霊力を解放。
ラタニの後を追うよう駆け出す中、残されたミルバは精霊器を口に当てる。
『みなも戦う力がない自分を不甲斐なく思うのならば、今後はラタニ小隊長任せにならないよう精進すればいい』
同じく残された部隊に向けて指揮官としての鼓舞と、守ってくれるであろう未来の先にある自身の在り方を説き。
『故に今は前向きな覚悟で受け入れ、王国の未来はラタニ小隊長に託し、力のない我々は撤退する』
『了解しました!』
最後の命令を下すと部隊は敬礼で返す。
ただその敬礼にはラタニに向けた敬意が込められていた。
ミルバも含めて死を覚悟して戦うのをラタニは良しとせず、隠していた力を見せました。
ラタニの理想は第二章オマケでアヤトがシルヴィにした苦言と同じで、残された人の為にも生きて欲しい願いで、だからカナリアたちにも伝えていました。
そして理想を本当の意味で現実にするため、ワイズから受け継いだ王国最強として守る為の戦いをラタニが受け持ちました。
またカナリアたちは撤退せずラタニの元へ向かいましたが、四人が引っかかりを感じたラタニの言い回し、またミルバさんが気になって仕方ないワイズの為人……については後ほどということで。
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