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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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真の力

アクセスありがとうございます!



 ラタニの尽力とナーダの信頼によって対精霊種戦の切り札、精霊の咆哮(エクグニル)はノア=スフィネに直撃した。


 しかし歓喜もつかの間、憤怒の咆哮によって晴れた黒煙からノア=スフィネが姿を現した。

 手負いこそ負わせたものの討伐までは至らず、まさに悪夢を見ているようで。


「精霊の咆哮が……通じなかったの……ですか」

「結果的にそうなるかもねん」


 カナリアも信じられないと声を振るわせるがラタニは敢えて軽口で返す。

 精霊の咆哮が直撃する寸前、巻き込まれないようラタニは上空へ退避した。

 対するノア=スフィネは身体に黒い輝きを纏わせた。

 恐らく精霊力の集約防御と同じ原理だろう。皮膚に精霊力を集約させて防御力を引き上げ斬撃や精霊術を防ぐように、ノア=スフィネは全身に膨大な精霊力を纏わせて精霊の咆哮を防いだのだ。

 それでも完全に防げず手負いを負ったが、あのタイミングで瞬時に精霊力を纏わせられるのなら詩を紡げたところでラタニの精霊術も通用しない。

 文献とは違う姿、黒刃や黒弾と精霊力の扱いからしてやはり過去の精霊種とは別物か。はっきり言って小国の先鋭が束になって掛かろうと討伐できるとは思えない。

 加えて唯一手負いを負わせた精霊の咆哮はしばらく使えない。こうなると待っているのはノア=スフィネによる一方的な蹂躙だ。


「とにかく現状理解したなら――」


『ゴアァァァ――ッ』


 だからこその撤退と続ける間もなく、ノア=スフィネは咆哮と共に地上に向けて黒弾を放つ。


『まだあたしがお話ししてんのが分からんかね!』


 誰もが死を覚悟する中でもラタニは即座に対応。暴風を巻き起こして迫り来る黒弾の軌道を逸らして後方へ着弾させた。


「たくよー『せっかちさんはモテないぜ』」


 そのままノア=スフィネと対峙するよう飛翔術で上空へ。


『とまあ激オコのせっかちさんはあたしが面倒見るから、あんたらはさっさとダラードに撤退よろ』


 続けて精霊器で拡張した声で三度撤退命令を下すも従う者はいない。

 否、絶望に打ちひしがれて諦めている。

 切り札の通じない怪物を前に。

 逃げても無駄と痛感したからこそ取り乱すことすら出来なかった。

 カナリア、モーエン、スレイ、ジュシカもまた絶望感が拭えない。

 相手が悪すぎる上に、ノア=スフィネを惹きつけるために精霊力をかなり消耗させているはずで。

 共に満身創痍、しかしこのまま交戦してもラタニの精霊力が先に枯渇するのは目に見えている。


『撤退などできるものか!』


 そんな絶望感が漂う部隊で、ラタニに続いて奮起を促したのはミルバだった。


『精霊種も負傷している今がチャンスだ! みなで協力すればまだ勝機はある!』


 ラタニに対する敵対心か、それとも指揮官としての意地か。

 例え強がりだろうと奮い立つミルバを内心称賛しつつ、ラタニは苦笑で返した。


『ミルちゃんさー。もっと現実見ようぜ』


『お前こそ現実を見ろ! このまま精霊種を放置すればダラードだけでなく王国全てに甚大な被害をもたらす! ならば私たちの命に代えても今ここで確実に討伐しなければならない!』


『……あん?』


 だが続く力説にラタニの瞳がスッと細められた。

 確かに今ノア=スフィネを討伐できなければ多くの命が失われる。そんな悲劇を生まないよう命を賭してでも国を、多くの命を守るのが軍に籍を置く者の使命だ。

 この場にいる誰もがその覚悟を胸に秘めている。

 故にミルバの力説は間違っていない。


『理解したならお前たちも立って最後まで抗え! それでも国を守る誇り高き王国の軍人か!』


 だから絶望を乗り越えようとミルバの檄に恐怖に震える自分を叱咤しながら抗おうとしているのだろう。

 勝ち目のない戦いでも国を、多くの命を、大切ななにかを守る為に立ち上がろうとしている。

 その勇気を、覚悟を、ラタニも否定しない。


「こればっかりはやりたくなかったんだけど……仕方ないか」


 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()と目を閉じ、小さく息を吐く。


「ならその現実ってのを見せてやろうさね――」


『――――っ』


 そして目を開いた瞬間、ミルバを始めとした部隊は息を呑む。

 何故ならラタニから感じていた精霊力が爆発したように膨れあがり、伝わる圧が現実だと見せつけるよう彼女の周囲に焔のような翠の煌めきが帯びていた。


『ガァァァァ――――ッ』


「……今さらビビッても遅いよん」


 急激に高まった精霊力を脅威と捉え、排除するべく突進するノア=スフィネを見据えながらタニはほくそ笑み両手をかざす。


『ラタニさんを舐めくさった罰さね!』


『グゥ………………オォォォォ――ッ』


 叫びと共に顕現した巨大な竜巻にノア=スフィネの突進を防ぐだけでなく、後方へと吹き飛ばした。

 詩を紡がない精霊術とは思えないその威力に誰もが茫然自失。

 そもそもラタニの変化は暴解放によるもの。

 ただ暴解放は一時的に精霊力を高める解放、いくらラタニの保有量が他を圧倒していようと保って二〇秒が精々。ここまで消費した量を考えれば更に短くなり、精霊術を放てば枯渇は必至のはず。

 にも関わらず感じる精霊力は今も膨大なまま。

 もし今のラタニは暴解放ではなく、従来の解放を維持しているのなら。

 急激に精霊力が高まった理由は他にない。

 これまでの解放状態でも他を圧倒する精霊力ですら、少なく感じられるよう抑えていた。


 つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あ……な……」

「まさか……これが……」

「…………」

「隊長の底……」


 ジュシカ、モーエン、スレイ、カナリアですら初めて知る事実に圧倒されるも、当のラタニは苦悶の表情を浮かべながらため息一つ。


「きっつ……けど、やれやれさね」


 同時に感じていた精霊力の圧が治まり、周囲の煌めきも消えてしまうが解放状態を保ったまま精霊器を口に当て飄々と告げた。


『とまあ、これが現実ってやつだ』




霊獣の域を超えた精霊力の扱いを見せつけるノア=スフィネに対し、ラタニさんもついに秘めていた本来の力を見せつけました。つまりフロッツと同じように実はラタニさんも普段から精霊力を抑えていたんですね。

なぜこれまで敢えて精霊力を抑えていたのか、という理由について今はさらりと流すとして、なぜこのタイミングで隠していた力を見せつけたのかについては次回で。




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読んでいただき、ありがとうございました!



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