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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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帰還と撤退命令

アクセスありがとうございます!



 ミルバの撤退指示を受けた部隊はノア=スフィネから約三〇〇メルまで距離を空けた。

 もちろん怪我人も余力がある者が協力して、ダラードの位置を元に出来るだけ弾道の軌道も避けている。

 幸か不幸かノア=スフィネの位置は上空五〇メル、高低差も含めれば充分と判断。


『精霊力に余裕がある土の精霊術士は壁を作れ!』


 それでもミルバは部隊を覆う楕円の壁を顕現するよう指示を飛ばす。怪我人もいるなら爆風の余波を受け流し、飛来物から守る措置としては適切で。


「ですが……ラタニ小隊長は……」


 しかしノア=スフィネを留める為に未だラタニは交戦中。このままでは巻き込まれると躊躇いの声が――


「隊長ならご心配なく」

「なんせ隊長なのだ」

「ぼくと違ってすごい隊長だからね……」


 ……上がるもカナリアを始めとした直属の部下はしれっと放置。


「現に自ら撃てと急かしてるようだ。なら俺もお手伝いしますか――」


 直後、天に向けて雷の精霊術を放つラタニを確認したモーエンは両手を地面に付けて詩を紡ぐ。


『――黒剛層壁(ガォレジュリア)!』


「「「おお――っ」」」


 紡ぎ終えるなり部隊を覆うよう顕現されたのは高さ四メルの黒壁。指示通りの形だけでなく変換術で作られた堅牢な壁に歓声が上がった。


「お見事です。モーエンさん」

「だろう? だが、さすがに疲れたなっと……」


 カナリアの労いに苦笑を漏らしつつモーエンはその場に腰を下ろす。まあ残していた精霊力をほとんど注ぎ込んだので倦怠感も相当なので無理はない。


「ふん……『各自、余波に備えて身を低くしろ! 怪我人には――』」


「一言あってもいいと思うのだ」

「こんな扱いはいつもことだ。構わんさ」


 にも関わらずミルバは労いの声すらかけず立ち去ってしまい、不平を漏らすジュシカをモーエンが宥める形に。


「とにかく後は隊長殿を信じて俺たちは高みの見物といこうか」

「壁が高くて見えないのだ?」

「ジュシカ、今のは例えですよ」

「…………くる」


 などと談笑する間にスレイの視線がダラードの方角に向けられた瞬間、紫を帯びた巨大な精霊力の塊が高速で過ぎった。



 ドォ――――ッ



『…………っ』


 その塊が精霊の咆哮の砲弾と理解する間もなく、耳を劈く轟音や黒壁を打ち付ける暴風が巻き起こる。

 更に地響きが起こり、倒れながらも夢中で耳を塞ぎ耐え続け、やがて暴風や地響きも治まっていく。


「……なんとか持ちこたえたが……」

「…………これが精霊の咆哮……ですか」


 同時にボロボロと崩れていく黒壁の先に見える光景にモーエンやカナリアは言葉を失う。

 五〇メル上空のノア=スフィネに被弾したはずなのに地面が抉れ、巨大なクレーターが出来ていた。余波ですらこの衝撃、黒壁が無ければ吹き飛ばされていただろう。

 知識として知るも、実際に見た精霊の咆哮は余波の威力ですら凄まじく。


「やった……やったぞ!」


 だからこそ部隊の誰かが歓喜の声を上げるなり次々と歓声が広がっていく。

 ノア=スフィネがいた場所は未だ黒煙に覆われているが、実際に威力を目の当たりにしたこそ討伐成功は確実と疑わないのも当然で。


「隊長はどこにいるのだ……?」

「まあ……隊長ですから」

「問題ない……ぼくと違う」

「だな」


 ラタニの安否を気にせず歓喜に湧く面々に呆れつつそれぞれ安堵の息を漏らす。

 着弾のタイミングは見届けられなくてもラタニなら間違いなく安全圏まで退避したと四人とも疑わない。


「とりあえず作戦も完了、隊長殿を探しに――」


「――みんな無事かい!」


 故に歓喜に湧く部隊を無視してラタニの捜索に向かおうとしたが、上空から安否を問う声と共にボンと風が巻き起こった。


「隊長!?」


 今の風は落下から身を守る為の精霊術なのか、土煙の上がる先には捜索しようとしていたラタニの姿が。

 髪紐が解けて髪は乱れ放題、ローブも羽織ってなく所々が破けた服から見える肌は血で赤く染まり、顔も煤汚れや擦り傷だらけと満身創痍。さすがのラタニも無傷で退避できなかったらしいが、あの爆破を考えれば逆にこの程度で済んでいると驚くほど。

 しかし怪我は怪我とカナリアは労いも兼ねて治療術を施そうと――


「無事なら()()()()退()()()!」


「え……?」


 駆け寄るより先に四人の安否を自らの目で確認するなりラタニは右手を大きく振り退避命令を出した。


『お前らもダラードに撤退しな!』


 更に胸元から取り出した精霊器で声を拡散させて部隊全体に出す命令に、歓喜していた面々は水を差されたように静まり返ってしまう。


「ラタニ小隊長、なにを勝手に――」


『いいからさっさと逃げろってんだよ!』


 加えて指揮官を無視した命令にミルバが叱咤の声を上げるも、聞く耳もたずでラタニは怒声を返した。

 普段の態度からは想像も付かない焦燥感や苛立ちを前に否が応でも緊張感が高まっていく中、気を落ち着けるようにラタニは小さく息を吐く。


「たく……マジやんなるねぇ」


 ナーダとの打ち合わせ通り精霊の咆哮はノア=スフィネに直撃した。

 直前まで惹きつけていたラタニは想定外の余波を受けながらも、飛翔術と指鳴らしの精霊術を駆使してギリギリ上空へ退避した。


 ここまでは狙い通り――しかし最後の最後でノア=スフィネが取った想定外の対策をラタニは確認している。



 グルオォォォォォォォォォォ―――ッ



 予想通り未だ立ちこめる黒煙の中から憤怒の咆哮が響き渡る。

 咆哮の余波で晴れていく黒煙の向こうには頭部の角が一本折れ、所々負傷した満身創痍の姿でも。


「まだ遊び足りないんね――クソッたれ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




ラタニとナーダの作戦は成功しましたが……はい、予想されてたかもですが結果はノア=スフィネを討伐し切れませんでした。

つまりここからノア=スフィネ戦も第二ラウンド。切り札の精霊の咆哮も通用しない怪物を相手にどう立ち向かうかは次回からとなります。



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