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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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裏幕 最悪に備えて

アクセスありがとうございます!



 緊急招集後、ラタニは真っ先にナーダと接触していた。


 調査隊に合流するため準備を進め、総督として忙しい中で、わざわざ人気の無い場所まで移動してもらったのは自身の臆測を伝える為で。

 こんな状況下でもラタニの意見なら時間を割く価値があるとナーダも判断したが――


「……精霊種だと?」

「あくまで可能性の一つ、だけどねん」


 告げられた臆測にナーダの眉間にシワが寄るも、肩を竦めるラタニは飄々とした態度。


「根拠はなんだ」

「総督さまもご存じのように霊獣事態はいま前例にない状況だ」


 しかしこんな状況で冗談を言いに来るはずがないとナーダが説明を求めれば、ラタニなりの見解を伝えていく。

 霊獣地帯では浅瀬から奥に入るにつれて下位種、中位種、上位種との遭遇確率が増す。理由までは解明されてないが、ツクヨから聞いた話だと自然が多ければ多いほど自然界の精霊力が濃くなるらしい。

 なら奥に行けば行くほど精霊力に当てられて個体の強さが増すのか、単純に霊獣が精霊力の濃い場を好み、奥から順に強い個体の縄張りになっている可能性がある。

 また見習いの術士や精霊騎士が精霊地帯で調子を崩すのは霊獣の精霊力に当てられて起こる現象。にも関わらず今の霊獣地帯は実力も経験も豊富な討伐隊でも同じ現象を起こしている。


 もちろんツクヨの存在を伏せた上で、ラタニなりの臆測として交えたこの二つの異変を踏まえれば、今の霊獣地帯には上位種を含めた霊獣が縄張りを放棄し、熟練の調査隊すら調子を崩すほどの精霊力を秘めた存在が棲息している可能性がある。


「……その存在が精霊種か」

「先も言ったけど、あくまで可能性の一つ、だけどねん。唯一残された文献でも精霊種が出現した兆候について記されてないし、国内で最も警戒されてる広い広い霊獣地帯だからにゃー。ダラードのみんなも一生懸命討伐してるはずだ」


 確かに過去の出現と今回の異変を比較することが出来ず、国内で最も広大な霊獣地帯を管轄するダラード支部は充分な予算が与えられ、その期待に応えるべく調査や討伐を怠らない。公国領土にも面していることから公国の部隊とも連携したりと出来る限りのことはやっているとナーダも自負している。

 しかし広大だからこそ常に全範囲というのは難しい。特に上位種が棲息する奥地は危険度が増すだけに完璧な調査とはいかないのだ。


 故にラタニの臆測、精霊地帯の異常は精霊種によるもの、という可能性は捨てきれない。

 加えてわざわざ人気の無い場所でこの臆測を伝えた理由も納得。

 ただでさえ前例のない事態が起きている中で、例え可能性と言えど討伐部隊が知れば動揺してしまう。精霊種という脅威が潜んでいるのならと、精霊術士は精霊力の消費を躊躇うかもしれない。

 もし精霊種が存在しようとしていないとも、何より排除すべきなのは霊獣の大群。要は可能性でしかない脅威よりも、今は確かに存在している脅威に集中するべき。

 それでも可能性があるのならせめて総督だけは精霊種の存在を頭に入れておく方が、後の指揮がしやすいわけで。


「まだ霊獣の群れを把握しきれてない理由から、精霊の咆哮(エクグニル)を備えておくか」

「話が早くて助かるよん」


 特に対精霊種の切り札とも言える精霊の咆哮は即座に放てる兵器ではない。

 元より準備だけしておく予定でいたが、心構えとしてダラードに残る幹部や整備士には精霊種の可能性を伝える必要がある。

 監視塔の人員は念のため避難しているも、ダラードからでも調査隊と合流するポイントまでなら確認できる。

 精霊地帯の方角も常に監視させておけば状況に応じて対処しやすいと、今後の対策を講じていたナーダだったが問題が一つ。


「後は最悪な事態が起きたとして、放つタイミングをどうするか……だが」


 精霊の咆哮は着弾地点周辺を更地にするほどの威力がある。加えて一発放てば次発に時間がかかるのだ。

 初撃で確実に仕留めるには精霊種を一定の範囲に留める必要があり、尚且つ部隊を避難させなければ同士討ちは免れない。

 万が一精霊種が出現すればミルバもナーダが精霊の咆哮を放つ可能性を酌んでくれるだろう。だが打ち合わせもなく精霊種と交戦しつつ、タイミングを合わせて避難するのは至難の業。


「そこは問題ナッシング。そん時はあたしが何とかしてやるさね。だから総督さまは遠慮なく、あたしを巻き添えにするつもりでぶっ放せ!」

「そんな真似ができるか……と言いたいが、お前だからこそ遠慮はなしか」


 なのだが、ラタニのぶっ飛んだ提案に否定しかけるも最後は肩を竦めて受け入れた。

 もちろんラタニを犠牲に放つつもりはない。部隊が安全圏まで避難する間に単独で引き留め役を担いつつ、着弾までに自分も避難する自信があるからこその提案だ。

 ならナーダは信じて任せるのみで。

 

「お前なら精霊種ですら討伐しそうだが? どうなんだ、王国最強」

「さすがに国一つ滅ぼすってー霊獣さまをボコれる自信はないかにゃー。つーか精霊種なんて文献でしか知らんし、精霊の咆哮クラスの精霊術をぶっ放す自信もないんでエサ役を頑張りますかね」


 ついで程度に確認すればケラケラと笑いながら首を振られてしまう。

 まあラタニの言い分は最も。文献で簡潔にしか強さが記されていない精霊種が相手では王国最強も惹きつけ役が精一杯らしい。


「でもまあ? 一発でも放てばダラードの予算がすっ飛ぶからねん。そうなれば総督さまのお給料が減っちゃうかもだし、ボコれそうならボコってあげますかね」

「期待しているぞ」


 それでもラタニの実力を知るからこそ、どちらの意味でも期待せずにはいられなかった。

 とにかく簡潔ではあるが最悪の事態に関する打ち合わせも終了。


「お前の憶測が外れるのを祈るばかりだ」

「ほんにね~」


 それぞれの役割を全うするためナーダは司令室へ、ラタニは戦場へと向かった。



 しかしナーダの祈りは届かず、間もなく作戦が終了すると安堵している中で最悪な報告が入った。



「――精霊種が出現しましたが……総督、あれは……っ」

「……最悪の更に最悪の事態が起きたか」


 騒然となる司令室でナーダは強く拳を握る。

 ラタニの臆測通り精霊種は存在していた。

 だが文献に記された霊獣と比べものにならない災厄だ。

 そもそも霊獣なのかも怪しい存在。


「今すぐ精霊の咆哮の準備を! 監視エリアに向かう、私のタイミングに合わせて放てるようにしておけ!」

「畏まりました!」


 だが存在しているのなら道は一つ。


「頼んだぞ……王国最強(ラタニ)


 打ち合わせ通りに討伐するまでだ。



  

アヤトくん以外のラタニさんの保険、ナーダさまとのやり取りでした。

カナリアたちに伏せたのもラタニさんなりの理由からの配慮はさておいて、ツクヨの情報を元に霊獣地帯の異変は精霊種、という可能性をラタニさんは考えてしました。

まあ、ナーダさまじゃなければ伝えたところで一蹴されるか、余計な混乱を招くなと相手にもされなかったでしょうね……ダラードのトップがナーダさまだったのも最悪の中の幸運なのかもです。

ですが想定していた最悪な事態以上の最悪な状況を前に、二人の作戦は成功するのか。

それはもちろん次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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