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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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激戦開幕

アクセスありがとうございます!



 精霊種が最後に目撃されたのは一〇〇年以上も前。

 その損害から後に帝国に吸収された大陸の一角を占める小国で、生き残った僅かな国民から情報を集めて残した文献によれば、全身が黒い毛で覆われたトラのような霊獣だったらしい。

 ただ人を丸呑みできるほど巨大な体躯に見合う恐ろしい牙や爪、持たぬ者ですら否が応でも感じる精霊力で、一目見るだけで恐慌状態に陥いるほど。また後に調べたところ霊獣地帯と王都の間にある村や町は竜巻に見舞われたような惨劇だったことから、精霊種はその霊獣地帯から出てきたと予想される。

 そして王都を襲撃した精霊種、黒虎(ノア=テレィグ)に壊滅状態まで追い込まれるも、多くの精霊術士や精霊騎士の犠牲によって討伐された。ただ討伐するに術士団が自決覚悟の精霊術を放った為か、精霊種の死体や精霊石は残されていなかったと記されていた。

 また後に東国が滅びたのは精霊種によるものとされているが、死体や精霊石などが見当たらなかった理由までは不明のまま。


 とにかく唯一文献に残る精霊種の情報では突如出現したと記されているのみで、上位種からどう変化したのかは明確にされていない。

 そもそも成長過程そのものが謎の霊獣、下位種の誕生すら不明なので仕方ないが――


『精霊種だと!? なにをバカなことを――』


『バカなことで済ませればいいんだけどさ……残念ながらマジなんだわ』


 地上から飛ぶミルバの怒声にラタニは苦笑交じりに返答。

 もし遠方に浮かぶ存在が精霊種なら、ラタニは人類で初めて霊獣誕生を目撃したことになる。

 問題は本当にあの存在が精霊種ならの話だ。


『ただアレが本当に精霊種と呼んでもいいものか……ぶっちゃけ怪物だぜ』


 果たして黒い霧が集約して二〇メルを越える怪物になる現象を誕生と呼んでいいものか。

 文献で読んだ精霊種と唯一共通するのは全身が黒いことと、離れているのにビリビリと伝わる圧倒的な精霊力。

 しかし二〇メルの巨体に不釣り合いな短い手足に全身を覆う鱗のような模様。蜥蜴を彷彿とさせる胴体や尻尾、頭部に伸びる二本の角。加えて背中から伸びる蝙蝠のような大きな羽と、獣と呼ぶには異質すぎる。

 それこそラタニの知る限り、あの怪物と酷似している姿は御伽噺に登場する空想の生物――


『さしずめ黒竜(ノア=スフィネ)とでも呼ぶかい?』


 文献で名付けられた精霊種を元に怪物改め、ノア=スフィネと呼称しつつラタニは地上に目をやった。


「まあ名前なんてどーでもいいけど。つーか……どうやら霊獣の方が敏感みたいだねぇ」


 地上では動きを止めた霊獣を他所に、呆然としている部隊の面々が。

 自分の発言に部隊は驚愕しているようだが、霊獣の方は明らかにノア=スフィネの精霊力に当てられて動けないのだろう。


「つっても、あんな圧当てられりゃ恐慌にもなるだろね。なら生存本能が無意識に拒否らせてんのか? つまりラタニさんがビシビシ感じてるのはバケモノだからか? こりゃ一本取られたにゃー」


 なんにせよミルバを含めた部隊もノア=スフィネを視認すれば嫌でも危機感を持つと、自虐的な分析にケラケラと笑っていたラタニは視線を戻す。


『だからって放置する気はないけどねん――』


 さすがのラタニも飛翔術を駆使しながら強力な精霊術を放つ二重発動は不可能。

 故に詩を紡ぐ時間を稼ぐため更に上空へ。


『風王、雷王、我の呼びかけに応え――』


 落下しながら迫り来るノア=スフィネを迎撃するべく詩を紡ぎ始めた。


『ゴァ――ッ』


『――おいおい!』


 しかし紡ぎ終えるより先に大きく羽ばたく二対の羽から無数の黒い刃が顕現。


「……霊獣さまが精霊術使うとか反則じゃまいか」


 飛翔術で襲い来る黒刃を回避こそしたが、思わぬ反撃に吹き出る汗を拭いつつ些細な反論を。

 風刃から精霊力が感じられたのなら精霊術の一種か、エニシの秘伝と似た原理で精霊力を飛ばしたものか。


「それとも自慢の羽がただ羽ばたいただけってか? 『んじゃま、あたしも負けじと――』」


 どちらにせよ精霊術で撃退するのはほぼ不可能、ならば次の手段と飛翔術で突進。

 迎撃するよう襲いかかる黒刃をくぐり抜けながらノア=スフィネと距離を詰めていく。


『行かせるかトカゲ野郎――!』


『グォォォ――』


 腹部に入るなり精霊術を発動。ほぼゼロ距離からノア=スフィネの巨体を押し返すほどの暴風を放った。



 ◇



「あれが……精霊種、だと……」


 上空で交戦が始まり、ようやくミルバもノア=スフィネを視認した。

 ラタニの報告通りの、御伽噺に出てくるようなドラゴンが霊獣の一種など悪い夢でしかない。

 しかし存在しているなら、少なくともこの戦場に怪物がいる。

 そして認識したからこそ否が応でも伝わる存在感。

 生物としての次元が違う。

 上位種すら可愛く思える膨大な精霊力。

 正直なところなぜあの怪物に当てられて意識を失わないのか不思議なほど。

 噴き出す汗が止まらない。

 恐怖心から逃げ出したいのに全身の力が抜けしまう。


「ミルバ大隊長! あれは……あれ、は……っ」

「っ……狼狽えるな!」


 だが取り乱す副隊長の震える声にミルバは我に返る。

 部下の前で無様な姿を見せては示しが付かないと、自らを鼓舞するよう声を張り上げた。


『みなも狼狽えず今は役割を果たせ! 掃討が終わり次第ラタニ小隊長の援護に回れ!』


 そのまま精霊器で全体に士気を飛ばしつつ、掃討に加わるべく飛び出す一方で――


「ミルバ大隊長こそ狼狽えてるんじゃないか……分からんでもないが」

「……回れと言われても……どう回るのだ」


 空を眺めつつ、モーエンとジュシカは途方に暮れていたりする。

 両者が交戦しているのはおよそ四〇メル上空、地上から精霊術を放っても届かない距離でどう援護するのか。

 飛翔術を使えるほどジュシカも精霊力にはまだ余力はある。ただ援護に向かったところでラタニの邪魔になるのは火を見るよりも明らか。

 そもそもあの巨体を相手に応戦しているラタニが規格外すぎる。

 言ってしまえばラタニが指示したように撤退するのが部隊が出来る唯一の援護かもしれない。


「みんな……出来ることをだ。隊長が抑えている間に……ぼくらは掃討に回る」


 などと弱腰になる二人を鼓舞するようスレイがぼそり。


「でなければ隊長が安心して……戦えない」

「だな……俺たちに出来ることは隊長の理想を叶えることだ」

「兄ちゃん格好いいのだ!」


 か細くも強い意思が込められた声音に二人も気合いを入れた。

 スレイの言う通り、共に戦えなくても場を作ることは出来る。

 恐慌状態で霊獣の動きは鈍くとも気は抜けない。今やるべき事は誰も死なせず地上の霊獣を全て討伐することだ。

 普段は自虐ばかりのスレイだが、ラタニが副隊長に任命しただけあってここぞの時は頼もしいと――


「なんてぼくみたいなゴミに言われるまでもないよね調子のってごめんなさい。霊獣討伐が終わったら遠慮なくぼくもお掃除していいから今はお願い聞いてください――」


「ま、これも普段のスレイか」

「兄ちゃん……格好悪いのだ」


 関心していたが途端にいつものスレイに戻り苦笑い。

 それでもいい感じに肩の力が抜けたのは確か。


「とりあえず、もう一踏ん張りするか」

「おーなのだ!」

「やっぱりモーエンの方が様になるよね。だから副隊長はモーエンがやるべき――」


 故にいつもの調子で飛び出すも、カナリアの声がなかったとモーエンは足を止めた。


「カナリア……なにか心配事でもあるのか?」

「なんでもありません」


 少し距離を空けていたカナリアの表情が優れず、気に掛けるモーエンだが首を振られてしまう。


「それより私たちも早く参戦しましょう」

「……そうか?」


 勇ましく飛び出す様子に首を傾げつつモーエンも駆け出す中、カナリアは小さな舌打ちを一つ。

 ノア=スフィネの出現からラタニの意図を理解したからこそ、カナリアは神気のブローチでマヤを呼び出していた。

 だがどれだけ呼びかけてもマヤから返答が無く、アヤトに状況を伝えることも、いつ到着するか確認することもできず終い。


(……ロロベリアさんが言っていた通りですね)


 便利な連絡手段も神の気分次第と嘆くロロベリアの気持ちが大いに分かる。

 元より不可能な連絡手段、神の気分次第で使えないなら仕方がない。


「こんな時に――っ」


 それでも割り切れないカナリアは憤りを抑えられなかった。




精霊種改めノア=スフィネVSバケモノ改めラタニさんの激突となりました。

一方でカナリアさんが連絡を取っていましたが気まぐれなマヤさんですからね。

それはさておき次回はラタニさんが用意した保険についての内容となります。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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