役割と先制
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先行したミルバ大隊が調査隊と合流して間もなく、ダラードを発った残りの討伐部隊も次々と合流。
状況説明を受けた調査隊は既に配置済み、到着した部隊も次々とミルバの指示を受けて配置に就いていく。
なんせ予想では霊獣の到着はもう間もなく。万全の態勢で迎え撃つには迅速な行動が必要、故に作戦もナーダから通達されている。
基本は通常の霊獣討伐と同じ。前衛に精霊騎士を配置、後方を受け持つ精霊術士が精霊術で援護という流れ。
ただ今回は霊獣地帯のように一体、または少数の固体との接触ではなく大群で押し寄せてくるので陣形の最後尾を任されている精霊術士が大群に向けて精霊術を放ちつつ出来るだけ数を減らしてかく乱、分断された霊獣をそれぞれが討伐していく。また初手で精霊術を放った精霊術士はそのまま討ち漏らした霊獣を討伐や、後方支援に回る役割を担っている。
精霊術士は精霊騎士に比べて人員が少ない。加えて精霊術は強力でも精霊力は有限、後方を任される精霊術士の精霊力次第では交代する必要がある。
もちろん精霊騎士の枯渇は問題なくとも体力は有限。つまり早期殲滅が絶対条件なので主に治療役を務める水の精霊術士も最小限の総力戦となった。
また広範囲の戦場となるので陣頭指揮を任されたミルバは当然、他の隊長クラスにも声を拡張する精霊器を配付と配備して状況確認も出来るようにしていた。
『――もうすぐここは戦場となる! 我らが砦となりダラードを守り切るぞ!』
そして予想時間が迫り、ミルバの檄に討伐部隊も声を張り上げ応じる中――
「ある意味予定通りですか」
「つまらないのだ」
「ダメだよジュシカ。どんな役割でも不要なものはなにもないんだそうぼく意外は全て必要――」
陣形最後尾で盛り上がる部隊を眺めつつモーエンは苦笑、口をとがらせるジュシカを宥めながら自虐するスレイがいたりする。
位置で分かるようにラタニ小隊の役割は初手の精霊術と討ち漏らした霊獣の討伐。ミルバから他の部隊と連携経験のない小隊を前線に配置するのは危険と言われてしまえば仕方ない。事実ラタニ小隊は結成以降常に単独で霊獣地帯に赴いているのだが、言うまでもなくラタニが率いる小隊と関わりたくないと敬遠されているからで。
まあ後方支援も重要な役割に違いはないが、指示を出したミルバからは暗に余計な真似をするなとの感情がありありと伝わっただけに、こんな状況下でも嫌われてはもう笑うしかない。
「嫌われもんの隊長のせいでみんなの活躍の場をなくしちゃってごみーんね」
「本当に申し訳ないと思っています?」
そんな状況下でも気にせず渡された精霊器を弄ぶラタニにカナリアは嫌味を一つ。ただカナリアもラタニの日頃の行いが原因と呆れる反面、こんな状況下においても王国最強を後ろに控えさせるミルバや、功績を取られず安堵する他の部隊に嫌気が差していた。
だからこそ良い機会とも捉えられるわけで。
「でもでも? ミルバ隊長殿も分かってるじゃまいか。なんせあたしらを後方支援に回したんだ。ならリクエストにキッチリお答えしようじゃないの」
「隊長殿は前向きですね」
「了解なのだ!」
「もちろんです」
「ぼくに出来ることがあればいいけど不安だな微妙だななんせ小隊のお荷物だし――」
挑発的に笑うラタニに三人は頷き、スレイは自虐を続けているが同じ気持ちだろう。
軍内でもラタニの実力を知る者は多くいる。しかし敬遠されているだけに本当の意味で実力を知る者は少ない。それこそ直属の部下のカナリアたちですら未だラタニの底を知らないほど。
そして後方支援はある種ラタニ小隊が最も得意とする役割。
故にラタニ自身の実力、また手腕を実際目の当たりしていない者も、その片鱗しか知らない者にとって評価を改めさせる機会だ。
もちろん最優先は霊獣の殲滅、それでも自ずと改めざる得ないのなら作戦通り全力を尽くすのみ。
「……来たねぇ」
『――――っ』
などと集中力を高めている中、ラタニが呟くと同時に討伐部隊全体に緊張が走った。
今までに感じたことがない禍々しい精霊力の圧、続けて遠方から上がる土煙と地響き。
「……どう見ても二〇〇〇じゃ足りないのだ」
「距離があるから分からないけど……見える限りでも倍はある」
想像を超える光景にジュシカから笑みが消え、さすがのスレイも自虐を止めて険しい表情。二〇〇〇は元より発見時の数、遅れて霊獣地帯から溢れる霊獣も居るとは予想されていた。
だが予想以上の大群を前に、部隊内に動揺が走る。それこそ霊獣地帯に棲息する霊獣全てが溢れ出たのではと思わせる光景で、モーエンやカナリアからも及び腰な発言が漏れた。
「あれなら精霊の咆哮で殲滅となりませんかね」
「準備はされているとは思いますが、それは最終手段でしょう。使用には多くの精霊石を必要としますし……なにより一発では殲滅できない数です」
精霊の咆哮とは高濃度に圧縮された精霊力を放つ砲台の名称。威力は都市部を殲滅するほどで射程距離も数キメルまである。
ただ威力に耐えるだけの外装から運搬は不可。一発に膨大な精霊石を使用する上にクールダウンに数時間かかるまさに軍の最終兵器。
そして精霊の咆哮が開発されたのは帝国との戦争というより、一国を滅ぼしたとされる精霊種の出現を見越したものだ。
故に王都の他にダラードのように広大な精霊地帯を管理する都市に配備されているが、カナリアの言うように準備はされていても実際に利用するとは思えない。
コスト以前に霊獣の大群に放てば前線にいる部隊も巻き添えにあう。なら精霊の咆哮はあくまで最終手段なのだが、それでも頼りたくなるほどの光景が故に頭を過ぎるのは無理もない。
『何をしている! 後方支援は作戦通り精霊術を放ちかく乱しろ!』
そんな光景を前にしても檄を飛ばし鼓舞するのはミルバ。
声音に若干の焦りが滲むも冷静さを失わず任された役割を全うする辺り、今回の作戦において指揮官を任されているだけあった。
ミルバの檄を受け、呆然としていた面々も鼓舞されるまま押し寄せる大群に向けて次々と精霊術を放ち始める中――
「とにかくだ。精霊の咆哮には及ばんけど、あたしもぶっ放しますかね」
ラタニと言えば大きく伸びをしながら一歩前へ。全く緊張感のない姿勢がむしろ頼もしく、四人の緊張が自然と解れていた。
「隊長お一人ですかい?」
「精霊力は有限、それにみんなで無闇やたらにぶっ放してもあんまし意味ないからにゃー」
「……ですね」
故にケラケラと笑いながら指摘するラタニにモーエンも冷静に状況を分析できた。
いくらミルバの檄で持ち直してもやはり冷静ではいられないのか放たれる精霊術の狙いは散漫、威力重視のあまりこのままでは早々に枯渇する危険がある。
「それでは景気よくぶちかましてください」
「あいよん――『封じるは嵐・どこまでも強く・どこまでも小さく――』」
なによりラタニと共に放ったところで自分たちの精霊術は飲み込まれると理解したモーエンの檄を受けてラタニは詩を紡ぎ始めた。
同時にラタニの上空に三メルほどの風球が顕現。更に分離して一メルの風球が三つに。
『解き放たれし時・全てを蹂躙する風となれ――風牙舞踏!』
ラタニの詩が紡ぎ終えるなり三つの風球が三方向に分かれて飛び立った。
速度も遅く、放物線を描くように霊獣の群れに向かう様子は何とも弱々しい。
しかし群れの上空でパンと弾けた瞬間――踊り狂うように解き放たれた無数の風刃が周辺の霊獣に次々と襲いかかった。
上空から突如襲い来る風刃を受けた個体からは血飛沫が舞い、逃げ纏うよう我先にと四方へ散る霊獣同士でぶつかり合い、倒れたところを両断されてとまさに阿鼻叫喚の光景。
加えて着弾位置も計算に入れたのか、たった一発の精霊術で群れを理想的な形に分断していく。
『…………』
「まあ、こんなもんか」
一人で作戦通りの状況を作り上げたデタラメぶりに、部隊は先ほどとは別の理由で呆然となるもラタニは無視。
今は任された役割優先と四人の部下に微笑んだ。
「そいじゃま、ここはあたしに任せてみんな行ってらっしゃい」
「「「了解 (なのだ)!」」」
「邪魔しないように頑張らなきゃ……」
その微笑みに応えるよう、作戦通りに持ち場をラタニ一人に任せて四人は飛び出した。
冷遇されても関係ないのがラタニさんで鍛えられた小隊です。
また今までちょいちょい話題に上げていた精霊器の兵器が出てきましたがそれはさておき。
やはり今まで詳しく取り上げられなかったカナリア、モーエン、スレイ、ジュシカの実力が次回でお披露目となります。もちろんラタニさんほどではないですけど楽しみにして頂ければと……。
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