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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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緊急招集

アクセスありがとうございます!



 ダラード滞在四日目。


 昨日の内に討伐訓練の中止、遠征訓練の予定変更が告げられた学院生らは朝食後、いくつかのグループに分かれて術士団や精霊騎士団の訓練に参加していた。

 王都と同じスケジュールになってしまったが討伐訓練の延期理由は説明されなくても理由は察しているので問題なく、中には安堵している者もいた。貴重な経験と言えど霊獣地帯に踏み入れ、霊獣と戦うのは危険を伴う。いくら引率されていようと恐怖や緊張は拭えない。もちろん貴重な経験なので後日、改めて設けられるがもう少し実力や知識を付けてからとの気持ちがあるようだ。


 それに先輩術士や騎士との訓練もまた貴重、故に誰もが集中して訓練に勤しんでいた。


「こんなことならかぶり物もってくればよかったにゃー」

「……やめてください」


 のだが、そんな熱意ある様子を訓練場の隅で眺めつつぼやくラタニをカナリアは窘めていたりする。

 二人やモーエン、スレイ、ジュシカも術士団として学院生の訓練側に回されているが、ラタニ小隊が揃えば訓練が脱線すると危惧されてそれぞれ別のグループに加えられたがラタニが一人になればそれはそれで脱線するとの理由から王都と同じくカナリアがお目付役として同伴されていた。

 まあラタニの信用は今さらとしても、この扱いを受けている中で悪ふざけな訓練をすれば余計に目を付けられる。いくら効率的な訓練でもカナリアとしては御免被りたい。特に謎の少女や霊獣地帯の異変で緊張感が高まっている状況なら尚更だ。

 ただそれとは別にカナリアは気になることがあった。


「……なにかありました?」

「なにがってなんじゃらほい」

「その……不気味なほど大人しいので」


 躊躇いながらもカナリアは率直な意見を述べるが仕方のないこと。

 初日の会議後こそ勝手にいなくなり説教はしたが、以降は一度も問題を起こしていない。ミルバの件もあり、ダラード滞在中になにをやらかすか気が気では無かったカナリアとしては拍子抜け。現に今もダラード支部の術士団に大人しく観ていろと言われて素直に従っている。

 もちろん問題を起こさないのはいいこと。しかしラタニと関わるようになり、一日に一回は必ず説教をする事態を起こしているだけにカナリアとしては逆に不気味だった。


 状況が状況なだけに弁えている可能性もある。加えて謎の少女の一件でラタニは更に批判を浴びているのだ。

 というのも序列保持者と謎の少女が接触した頃、ラタニは討伐訓練の組み分けに関する会議に参加していた。だがエレノアが放った精霊術で騒然となる中、ラタニのみ動揺せず即座に現場に向かった。結果として大事に至らずに済んだとは言え、軍という組織での独断専行。更に少女を取り逃がしたことも問題視される始末。

 正直なところラタニのお陰で被害ゼロで済んだなら批判される筋合いはないはず。ナーダも状況や貢献から仕方ないと処罰なしで済ませてくれたが、ラタニを快く思わない者はここぞとばかりに批判する。

 まあ周囲の批判もいつものこと、ラタニが気にするとは思えないが普段はアレでおちゃらけな隊長でも軍務においては真面目なのだ。もしかすると少女を取り逃したことに責任を感じて自重しているとカナリアは感じていた。


「大人しくしろって言ったのはカナちゃんじゃん」

「そうですけど……」

「それに総督殿にもクギ刺されたからねん。さすがのあたしも良い子にしてるさね」


 若干腑に落ちない部分はあるもカナリアは納得。

 初日の行方不明でラタニがナーダに連行されて総督室でお茶をしていたのは説教時に聞いている。またラタニの両親が亡くなった後、身元引き受け人として真っ先に手を差し伸べてくれたがナーダなのもだ。

 以降も度々気に掛けてくれていることからナーダの顔を立ているのだろう。まあ普段から面倒を見ている自分にも少しは配慮して欲しくは思うが、親のような存在と比べるのも違うとカナリアはため息一つ。


「大人しいのは結構ですが、これ以上厄介ごとを引き込まないでくださいよ」

「今回の厄介ごとはあたしのせいになるね……」

「普段の隊長が隊長ですから。珍しいことをすれば雨が降る、みたいなものです」


 なので嫌味でささやかな仕返しをしつつ共に訓練の様子を眺めていたのだが――


「訓練は中止だ。学院生の諸君は食堂へ向かいなさい」


「……なにかあったのでしょうか」


 突然やってきた軍職員が引率の学院講師に声を掛けるなり中止の指示が飛び交いカナリアは首を傾げてしまう。学院生らも訝しみながら素直に従い移動する中、他の術士団にも声を掛けた軍職員がそのまま自分たちの元へ。


「ラタニ小隊長、並びカナリア小隊員。ナーダ総督から緊急招集です、今すぐ作戦室へ向かってください」


 そう告げるなり足早に移動する軍職員の様子からただごとではないと察しただけに。


「…………」


「……やっぱあたしのせいになるんね」


 自ずと向けられるカナリアの視線にラタニは肩を落とすしかなかった。



 ◇



 珍しく大人しくしていたラタニが招いた緊急事態かどうかはさておき、二人は迅速に作戦室へ向かい既に待機していたモーエン、スレイ、ジュシカと合流。


「いったい何があったのだ?」

「調査隊の報告にしては早すぎるか……」

「時間的に出発したばかりだからにゃー」

「きっとぼくのダメさ加減が広まってみんなで責め立てるつもりだよね。ごめんねぼくのせいでみんあに迷惑をかけて――」

「……静かにしてください」


 まだナーダの姿がないだけにそのまま談笑を始めるメンバーをカナリアが窘める。まあ同じく待機している面々も緊急招集について疑問から意見交換をしているので目くじらを立てるつもりはない。

 なによりモーエンの言うように霊獣地帯の調査結果が出たにしては早すぎる。謎の少女を捕縛したにせよ、発見したにせよ緊急招集を掛けるまでもないはず。

 故に嫌な予感を抱く間にもナーダを始めとしたダラード幹部が姿を見せるなり口を閉じ、敬礼と共に出迎えた。


「迅速な招集に感謝するが今は時間がない。早速だが本題に入らせてもらう」


 風の精霊器で拡張させたナーダの声が室内に響く。

 表情こそ落ち着いているようでも声音には焦りが滲み、否が応でも室内の緊張感が増していくが――


「先ほど霊獣地帯外にて、霊獣が発見されたと監視塔から報告が入った」


『…………』


 一泊分の間を置いて告げられた内容に室内は別の意味で静まり返る。

 確かに霊獣が外界に出てくるのは脅威。しかし緊急招集をするほどの案件でもない。


 だがそんな疑問視は次の情報によって驚愕へと変わった。


「目視が故に正確な数は判断できないが……少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい」


 一体や二体ではなく二〇〇〇以上の霊獣、まさに前例のない異常事態に室内が騒然となる中――


「……こいつはさすがにやばいかもしれんね」


 別の脅威が頭を過ぎり、ラタニは険しい顔つきに変わっていた。



 

霊獣地帯の異変から起きた異例の事態がアヤトくんに届いた報せですが、ラタニさんだけは別の視野から脅威を抱き王国の危機として伝えてます。

その辺りは後ほどとして次回から今章も本格化、どうかお楽しみに!



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読んでいただき、ありがとうございました!



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