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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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一難去って

アクセスありがとうございます!



 序列保持者の、ロロベリアのファンだと帝国からわざわざダラードまでやってきた白ローブの女性。

 しかしユースに矛盾を指摘され、問い詰められるなり穏やかな口調や雰囲気が豹変した。


「マジかよ……っ」


 だがなによりも信じられない変化にユースは焦燥感で表情が強ばっていた。

 ユースだけでなく女性に不審を抱いていたエレノアも、ディーンも、ランも、ジュードも、ルイも、リースでさえ驚愕で目を見開くほど。

 何故なら持たぬ者のはずの女性から()()()()()()()()()()()

 精霊力の隠蔽では最高クラスのエニシですら、僅か五メルの距離で微塵も感じ取らせないのは不可能。しかも感じ取れる精霊力はこの中でも最高値を誇るリースを凌駕している、尚さら持たぬ者と間違えるはずがない。


(なんだ……この感じ)


 加えて他の面々は気づいたのか分からないが、女性から精霊力を感じ取れた際、今までにない違和感をユースは感じていた。

 精霊士や精霊術士が解放する感覚とは違う、妙なざわつきがあった。


「――そこでなにをしている!」


 だが分析する間もなく咎める声が。

 女性の膨大な精霊力を巡廻していた警備兵も感じ取ったのだろう。有事を除き精霊士や精霊術士は精霊力の解放を禁止されている。ただでさえ遠征訓練中でエレノアを始めとした王国貴族の子息子女が街中にいる中で精霊力を解放した者が居れば機敏になるのは当然で。


「おい! そこの白いローブの者、今すぐ精霊力を解除しなさい!」


 故に何事かと集まり始める周辺にいた住民を押しのけ、女性を挟むように数名の警備兵が精霊力を解放して警告。


「……だから」


 しかし女性は苛立ちを露わに吐き捨てつつ両手を広げた。


「鬱陶しいって――『()()()()()()()()!』」


『――ごはぁ!?』



 叫びと同時にかざした手から突風が発生、更に圧縮された空気が放たれ警備兵を後方に吹き飛ばされた。

 その現象はまさに風の精霊術。街中で精霊術を使用し、警備兵に危害を加えたと理解するなり誰かが悲鳴を上げた。


「うわ――ぁ!」

「だ、誰か――っ!」


 その悲鳴が合図となり、周辺に集まっていた野次馬らも恐怖に急き立てられるように逃げ惑うも、ユースを始めとした序列保持者のみ恐怖とは別の理由から動けなかった。

 今のは言霊を使わない精霊術の発動法。自分たちの知る限りこの技能を習得しているのはラタニ、ベルーザ、ロロベリアのみ。

 だがなによりも七人の目を釘付けにしたのは技能ではない。

 発生させた突風でフードが巻き上げ、ようやく確認できた女性の顔。

 少なくとも自分たちよりも下、女性と言うより少女と呼ぶに相応しい幼い顔立ち。その顔立ちは作り物のように整い、肌も透けるように白い。

 また苛立ちから細める瞳や、ふわりと靡くツーテールの髪色はエメラルドのように澄んだ翠色は、まさに風の精霊術士が精霊力を解放した色合い。


 しかし瞳や髪は新解放の特徴、()()()()()()()()()()()


 新解放では精霊術を使えない。にも関わらず少女は新解放の状態で精霊術を放ったのだ。


(だから妙に感じた……じゃないっ)


 故に先ほどの違和感を感じたと無意識に分析していたユースは思い出したように首を振る。

 精霊力の隠蔽や精霊術の技能、保有量も含めて少女は桁違いの実力者。目的は分からなくとも平然と警備兵に危害を加えるのなら――


「エレノアさま、精霊術を放ってくれ!」


 いま必要なのは分析ではなく対策と即座に精霊力を解放、エレノアに指示を出す。


「ただこいつにじゃねぇ! 空に向かって花火みたいにど派手な奴だ! みんなは距離を取ってくれ!」

「な、なぜそんな――」

「いいから早く!」


「……任せろ! みなも今はユースに従え!」


 王族に対する不躾な支持にジュードが咎めるも、ユースの意図を理解したエレノアは精霊力を解放、指示通りの精霊術を上空へ放った。

 同時に残りのメンバーも精霊力を解放、女性を囲むように拡散する間にバンッ、と上空で火球が炸裂。


「いったいなんのまね?」


 牽制ですらない精霊術に見向きもせず少女はため息一つ。

 恐らく救援目的の精霊術と読まれている。ただどれだけ救援が来ようと女性にとっては関係ないのだろう。

 尊大な態度、見下す様子から自分たちなど敵ですら思っていない。


「まあいいわ。それよりもロロベリア=リーズベルトの居場所を教えなさい」


 その証拠に精霊術士や精霊士に囲まれた状況を前にしても余裕の表情。少女の興味はあくまでロロベリアにしかない。そしてロロベリアの居場所を知るまでは自分たちを生かすはず。

 狙い通りの展開にユースは内心ほくそ笑み、しかし緊張感を保ったまま時間稼ぎに集中する。


「教える前にオレの質問に答えてくれないっすかね。ロロベリアに何の用でしょうか?」

「あら? アタシは居場所を聞いてるの。痛い目を見たくないなら早く教えた方が身の為よ」

「だから交換条件でしょ。そっちの目的が分からない内は、こちらも会わせたくないしな」


 飄々とした受け答えに少女は苛立ちよりも面倒と目を細め、ユースに向けて右手をかざした。


「……ローゼアさまのご意思に背くけど仕方ないわね……今さらだし」


(ローゼアさま……?)


 その呟きを強化した聴覚でなんとか聞き取るも、次の展開に備えて夕雲に手を掛けた。


「少しは素直になってくれれば『いいけど』」


「だろうな!」


 警備兵を吹き飛ばした精霊術が放たれた瞬間、タイミングを合わせて夕雲を抜剣。迫り来る風の塊を切り裂いた。


「…………っ」


「少しは驚いてくれたようで」


 精霊術を斬る、という現象に目を見開く少女を他所に、精霊力を纏わせたままの夕雲をユースは手首で器用に回す。

 技能も保有量も桁違いな少女だが、精霊術の発動速度はロロベリアの方が上回っている。ならこの程度の対処は造作もない。


「アナタ……なに――」


「ちょっとユース! いつの間にそれ習得したの!?」


「「…………」」


 ……ないのだが、少女が口を開くより先にランが反応。

 確かにユースが秘伝を含めたこの技能を習得したのはつい最近。同じツクヨの武器を持つ者として、なにより精霊士としてランは何がなんでも習得したい技能の一つ。興味を示す気持ちはとてもよく分かる。


「……ラン先輩? もうちょっと時と場合を考えてもらえませんかね」


 ただ気持ちは分かるが今は警戒して欲しいとユースは脱力気味に窘める中、状況を無視したのはランだけではなかった。


「く――!?」


「……むう」


「姉貴も少しは警戒しろって!」


 少女の背後から紅暁で斬りかかるも、寸で躱され悔しげなリースに続けてユースは突っこんだ。


「よく分からないけどユースをいじめようとした」


 しかしリースは眠たげな瞳を少女に向けて紅暁を構える。


「お姉ちゃんとして許せない」


「ああくそ! こんな状況じゃなけりゃめっちゃ嬉しいのに!」


 状況無視の理由にユースは複雑でしかない。

 もちろん普段の扱いはアレでも姉が大切にしてくれてると理解している。こんな状況だからこそ本心とも捉えられるが、ユースとしてはこれ以上少女を挑発して欲しくない。


「ほんと……どいつもこいつも……」


 不意打ちが癪に障ったのか、少女は不満を露わにリースを睨み返し手をかざした。


「アタシを――『バカにするな!』」


「してない」


 対するリースも精霊力を纏わせた紅暁で冷静に風の塊を両断。


「許せないだけ」


 二つに別れた風が背後の建物を突き破るのも無視、纏わせた精霊力を振り払うように紅暁を振るった。


「リースまで習得してるし!」

「うん……お前はちょっと黙ってような」

「さすがに今ばかりはディーンに同感かな」

「……気を引き締めろ」


 からの、ユースのみならずリースまでも習得していると知り驚愕するランに今度はディーン、ルイ、ジュードが窘めるのは当然で。

 見下していた相手に二度も精霊術を防がれた上に、危機感なく周囲が騒げばどうなるか。


「いい気になるな……『劣等種の分際で!』」


 予想通りと言うべきか、プライドを傷つけられた少女は怒り任せに精霊術を発動。


「お前のせいでやばくなっただろ!」

「あたしのせい!?」

「言っている場合か! 倒れている警備兵を連れて逃げるぞ!」


 責任の押しつけを始めるランとディーンを叱咤しつつエレノアが指示を飛ばす。

 言霊を使わない発動とは思えない竜巻が少女の周囲を覆い、更に巨大化していく。

 それこそ周辺一帯を更地に変えるほどの威力、他に手段はないと思われていたが――


「……必要ないみたいっすよ」


 竜巻の範囲が建物を飲み込む寸前、少女の精霊力以上の圧を感じ取ったユースは安堵の息を漏らす。

 街中に配備されている警備兵が集っても状況は覆せないと理解しながら、この街に居るなら気づくと信じてエレノアに放ってもらった。

 なんせマヤを通じた連絡手段をユースは持ち合わせていない。


 つまりユースの対策は王国最強(ラタニ)の介入。


『――よく分かんないけど随分と楽しい自由時間を過ごしてるじゃまいか』


 状況を理解していなくとも、危機的状況にも関わらず上空から聞こえる楽しげな声。

 しかし今は頼もしいと空を見上げれば飛翔術を使用したまま、少女が顕現した竜巻を抑制するよう風で覆うデタラメな精霊術を駆使するラタニの姿が。

 更に抑制した状態から暴風を上空へ逃がすことで被害を防ぐ神業まで披露。


「ラタニさんも仲間にいーれて」


 完全に竜巻を消し去り降り立つ最強の援軍に、少女の捕縛は確実のはずだった。


「て、言いたいけど……ごみん、遅かったみたいだねぇ」

「……充分っすよ」


 申し訳なさそうに頭をかくラタニに夕雲を鞘に納めつつユースは首を振る。

 あの状況で被害ゼロなら充分すぎる成果だ。


「とりあえずユーちゃんや、なにがあったのか教えてちょ」


 精霊術の相殺中を狙われたのか、いつの間にか()()()姿()()()()()()()




前回同様ユースがお見事でしたね。

対してランがどんどんアホの子に……はさておいて。

白ローブの女性改め、白ローブの少女による脅威はラタニさんの介入によって防がれましたが、仕方ないとは言え取り逃がす結果に。

ただこの一件でご理解していただけたと思いますが、ロロに執着する謎の少女の存在、取り逃がした情報がマヤ伝手でアヤトに伝わりました。なので王国が近づくにつれてアヤトが警戒していたわけですね。


ちなみにニコレスカ姉弟がしれっと精霊力を纏わせていましたが、習得法も踏まえてオマケで描く予定です。



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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