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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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頂点が望む幸せ

アクセスありがとうございます!



 カナリアを中心に小隊員が必死にラタニ探索を続けている頃――


「入れ」

「失礼します」


 先にダラード統括、ナーダに捕まり大人しく統括室に連行されていたりする。

 ただラタニが何かをやらかした、からではなく別の理由があった。


「茶でも飲むか」

「わざわざ統括さまが煎れてくれるのかい?」

「お前が煎れる茶は不味い。どうせ飲むなら美味い方が良いだろう」

「こりゃ一本取られたなっと」


 故に体裁から統括と小隊長という立場を取り繕っていたが、二人きりになるなり共に肩書きを抜きにしたやり取りを。

 と言うのも二人は上司と部下以前に旧知の仲。ナーダの娘が現マイレーヌ学院の学院長を務めていることもあり、学院生の頃からワイズに続く偉才と評価されていたラタニに目を付けていたのが切っ掛け。

 そして六年前、不遇な事故で天涯孤独となったラタニを養子として迎え入れるとナーダは名乗り出てもいた。

 同情もあるがラタニの才能に目を付けていたからこそ打算的な考えもあった。まあ結果的にラタニはワイズを打ち破り、軍にスカウトされたので自立と養子の件は流れたが、以降もナーダは気に掛けていたこともあり、互いに忙しく滅多に会えないが実のところ軍内で数少ないラタニの味方だったりする。

 もちろん公私混同は控えているが周囲の目が無ければ遠慮も要らないとナーダ自らお茶を煎れる間、ラタニは近くのソファに腰を下ろした。


「そんで統括さま、こんなところまで連行してなんの用だい? あたしゃまだ叱られるようなことはしてないんだけど」

「……これからするような物言いをするな」

「いやいや、あたし的にはしてるつもりはないんよ。でもなんでか叱られるんよねー」

「その軽薄な態度とふざけた提案を改めれば叱られることもないだろう」

「またまた一本取られたなっと」

「久しぶりに顔を合わせたから話でもと誘ったんだが……その前に、ミルバと接触しようとしただろう」


 なので明け透けなやり取りを交わしつつ、カップをテーブルに置いたナーダは呆れながらも切りだした。

 なんせ会議終了後に誘おうと会議室に向かっていたナーダが見たのは、隊長室に向かうミルバに近づくラタニの姿。両者の因縁を知るだけに統括としても無闇な接触は控えて欲しいナーダが先に呼び止め、ここへ連行したりする。


「そだけどん? ミルちゃんとも六年ぶりだからねー。おひさって声かけるついでに親父さんのお話でも聞こうと思って」

「……やはり呼び止めて正解だったな」


 なのにラタニはしれっと返すのでナーダも頭を抱えてしまう。

 過去についてラタニは気にも止めないがミルバにすれば別。軍務として弁えている所にラタニが気楽に声を掛け、あまつさえ父親の話題を出すのは火に油だ。

 もちろんラタニとワイズの勝負は正統なもの、ワイズも若い世代の台頭に喜びながら次の世代に役目を託して身を引いたに過ぎない。しかし父親に憧れていたミルバとしては割り切れないもの。


「そもそもミルバに聞いても無駄だ。あいつはお前に敗北して以降、ワイズ殿に会っていないらしい」

「あん?」

「ここの大隊長として着任した際、私もワイズ殿の近況を聞いたが……一度の敗北で不抜けた父が何をしているかなど知りません、と言われたよ」


 そして憧れていたからこそ失望も大きかったのだろう。故にミルバは失望から父に見切りを付け、また父のように腑抜けず、ラタニに敗北した悔しさを糧に僅か六年で大隊長まで登り詰めたわけで。


「だからミルバの前でワイズ殿の話は控えろ。それと出来るだけ接触も控えろ。いくら私でも擁護しきれん」

「んじゃ、ここは統括さまのお顔を立てて、遠征訓練が終わったら飲みにでも誘うかねぇ」

「……相変わらずお前は……まあいい」


 にも関わらず接触を止めようとしないラタニにナーダは呆れ果ててしまう。

 まあ統括として私的な時間にまで口を出す権利もない。それにこのまま確執を残すよりもラタニから歩み寄るのは良い切っ掛けになるかもしれない。

 なにより二人の確執が緩和すれば後の提案がしやすいとナーダも割り切り、改めて本題に入ることに。


「そんでもって、あたしとお話ってのはやっぱアヤトのことかい?」


 したのだが、先にラタニから切り出されてしまった。


「お前と話をするのを純粋に楽しみにしていたが、否定はしない」

「だろうねん。せっかく統括さまにあたしの弟を紹介する機会だったんだけどねぇ」

「私もアヤト=カルヴァシアに会うのを楽しみにしていたから残念だよ」


 希にラタニと時間を共にする際、度々アヤトの話題は上がっていた。

 学院生と軍務を兼任する中でラタニがその才能を見込んで引き取った弟であり、同じく特別学院制度で学食の調理師と学院生を兼任する変わり者。

 しかし持たぬ者でありながら親善試合の代表に補欠入り、更には序列十位となった異質な存在。話は聞いていたが実際に会う機会が無かっただけに、ナーダは自らの目でアヤトの実力を見定めるつもりでいた。


 そして見定めるつもりでいただけに、ナーダはアヤトの過去を知らない。それでもラタニの実力だけでなく育成手腕も知るだけにもう一つの本題を切り出した。


「しかし実家に関わる私用なら仕方ない。次の機会を楽しみにしている……それよりもラタニ、お前はこれからどうするつもりだ」

「どうするってなんじゃらほい」

「いや……率直にいこう」


 普段の癖で探るように入ってしまったがラタニとの間では必要ない。むしろ回りくどいやり方を好まないと知るからこそ真っ向から向き合った。


「私の元へ来ないか」


 端的な誘いでも充分伝わるだけに、今まで適当な対応をしていたラタニも居住まいを正し聞く姿勢を取る。


「お前の部下も既に小隊長を任せるだけの実力、実績は充分だ。そろそろ次のステップに行っても良いだろう」

「つまりカナちゃんたちを小隊長にして、お払い箱のあたしはダラードで中隊長ってか?」

「もちろん私の一存では決められないが、そう言った声も上がっているはずだ」

「……ま、国王さまも含めて認めてくれる人は認めてくれてるけどねん」


 確認にされたラタニは観念したように認めるがナーダからすれば当然の声。

 ラタニの学院卒業を機に小隊長となり、四人の小隊員と共に活動を始めて四年。年月からすれば早い出世でも、それに見合う功績を挙げている。

 まず育成面では当時下位精霊術士のカナリアとジュシカを僅か一月で基準の中位精霊術士に昇格。更に一年後には既に中位精霊術士だったスレイと共に上位精霊術士に昇格させている。加えて上位精霊術士のモーエンは衰え始める年頃、しかし衰えるどころか小隊長クラスにまで能力を引き上げてしまった。


 この実績だけでも充分昇格に値するが、それ以上に評価されるのはラタニ小隊の実績。

 通常の半分以下の人数でこの二年、霊獣の討伐数が他の小隊どころか大隊に匹敵する。 なによりラタニ小隊は死者どころか負傷者すら出していない。

 未だ霊獣や霊獣地帯の調査が完璧ではないが故に討伐中は不測の事態が起こる、残念ながら年間で多くの負傷者だけでなく、少なからず死者も出ている現状なだけに奇跡的な実績と呼べるだろう。いくら王国最強が隊長を務めていようと部下の実力が伴ってなければこのような数字はあり得ないのだ。

 本人の実力は当然、育成においても期待以上の実績を上げたのなら、部下も含めてむしろ遅すぎる昇格で。


「もちカナちゃんたちには次のステップにいっても良い頃合いだから、カナちゃんたちが望むならあたしは喜んで応援するよ。ただなんでか、あの子たちはまだまだあたしの元で学びたいって言ってくれてるんよ」

「……それだけか」

「まあ統括さまなら気づくか。もちね、カナちゃんたちも本心で言ってくれるとは思うけど、それ以上に批判の声も上がりまくりなんよ。つまりせっかくの出世を袖にさせて申し訳ないにゃー」


 なのに現状維持なら他に無いと追求すれば予想通りの返答が。

 要は軍上層部の多くがラタニの昇格に異を唱えているだけ。そして隊長の実績を認めないから部下の実績も認めようとしない。部下もラタニと同じ平民なら尚更だ

 それほどまでラタニを煙たがっているのは統括のナーダも知るところ。だが国王を始め、ナーダを含めた数少ない上層部が強硬策に出るのも難しい。

 現にラタニの軍務と学院生の両立を認めた時も、小隊長に任命した時も多くの反発がありながら強硬策を取っている。故にこれ以上は軍内の士気に関わるのだ。

 だからと言ってラタニに態度を改めるよう注意しても現状は変わらない。もちろん認めない者たちのほとんどは名誉や格式を重んじる有力貴族や上層部、それなりに効果はあるだろう。


 しかしなによりも反感を買っているのはラタニの才能でしかない。

 長い王国の歴史でも彼女以上の精霊術士は居ないと言わしめるほどの実力、加えて若く平民出となれば否定したくもなる。

 その他にない眩い輝きはあまりに強すぎて直視できず、目を反らすように否定する。正直なところナーダも嫉妬心を抱いたのは一度や二度ではない。

 ただ普段は軽薄な態度が目立とうと、彼女なりに王国の未来を考えてくれているのは知るところ。人柄も含めて気に入っているからこそ養子の話を持ちかけ、今も親身に向き合っているわけで。

 王国の未来を思うならラタニという存在を認めるべきなのだが、嫉妬を抱く者らの気持ちも分かるだけに少しずつ改善していくしかない現状がもどかしいと表情をしかめるナーダの耳にため息が聞こえた。


「それに……ま、ぶっちゃけあたしは出世なんかに興味ないんよ。今以上に自由がきかないし、上に行けば行くほどやれることは増えるけど、同時にしがらみが増る。なによりあたしは地位やお金よりも心の幸せが欲しいタイプなんよ」

「心の幸せ?」

「例えば惚れた男とさ、公園のベンチかなんかで茶でも飲みながら『良い天気だにゃー』ってのんびりした時間の方が幸せだにゃーと思うわけだ」

「……意中の相手がいるのか」


 今まで色恋沙汰に縁がなく、興味を抱かないラタニらしからぬ発言にナーダは目を見開くもラタニはやれやれと首を振る。


「なに聞いてんだい? 今のは例えで、言うなれば普通の平民の、普通の幸せがあたしにゃ一番相応しいってお話だよん」


 そう軽口で纏めるも、普通という言葉を口にするラタニの笑顔がどこか弱々しいのは恐らく理解しているからだろう。


「……だが、お前の肩書きがそうさせてくれない」

「うん……まあ、それも分かってるけどねん」


 ラタニの幸せを認めたい反面、それは許されないとナーダは敢えてクギを刺す。

 ラタニの人生は普通ではない。両親を事故で亡くし、本人は半年にも及ぶ入院をすほどの重傷を負った。辛い死別やリハビリの日々は心から同情する。

 だが奇跡的に復活を遂げて今では王国最強の肩書きを背負い、期待以上の実績を上げてしまった。

 優秀が故に疎まれているのは知っている。

 いくら優秀だろうと二二才の若さで背負う重圧ではないとも理解している。


 しかし優秀だからこそ王国貴族としても、王国民を守る軍人としても、ラタニの幸せは受け入れられない。


 それだけラタニという存在は王国に必要で、本人も理解しているからこそ周囲に認められなくとも、疎まれようともその肩書きを背負い続けてくれている。

 だからこそ現状が歯痒いと悲痛な面持ちで目を伏せるナーダを他所に、先ほどの憂いが嘘のようにラタニはケラケラと笑った。

 


「だから今後もカナちゃんたちが納得するまでお付き合いするし、学院のひよっこ共を鍛えようかと思うさね。もち面倒だけどあたしなりに上手く立ち回りつつガキ共の未来を守るつもりだよん」

「……そうか」


 気を遣われたと不甲斐なく思いつつ、ナーダも笑った。

 不遇な過去、不遇な現状でも変わらず王国を思うその気持ちに報いるには、結局のところ軍内の改善しかない。

 それを可能とする地位にいる自分が塞ぎ込んでいる場合はないと気持ちを切り替え、ナーダは決意を新たに向き合うことに。


「なら私も出来る限りの立ち回りをしよう。ただ次は私の申し出を袖にするなよ」

「その節はありがとでした。あたしが大天才だったばっかりにすまんねぇ」

「自分で言うな……と言いたいが、お前の場合は自惚れでないから質が悪い」


 また引き抜きについてもクギを刺し、後はゆっくり談笑を楽しもうと新しいお茶を用意するべく立ち上がった。


「……あーごみん。そろそろカナちゃんがキレそうだから今日はここまでってことで」


 のだが、先にラタニがお開きを提案。

 実のところ今まさにマヤ伝手でカナリアからどこに居るとお叱りを受けていたりする。

 神気のブローチを利用する強行手段からカナリアの怒りが頂点と分かるだけに、ラタニも早々に戻る必要があるのだが、神さまによる連絡手段を知らないナーダは別の意味でキョトン。


「まさか部下に黙って別行動していたのか」

「だってミルちゃんに挨拶するって言ったらキレそうだもん」

「……はぁ。なら日を改めて時間を取ろう。早く戻ってやれ」

「度々すまんねぇ」


 予想通りの返答に呆れつつ見送るナーダに悪気もなくラタニは統括室を後に。


「……あいつが我が国の頂点で良かった」


 残されたナーダと言えばラタニの奔放さに部下も大変だと同情しながらも、小隊員含めて不遇な現状でも楽しそうだと笑いつつ残されたカップを片付けた。




ラタニさんの行き先でした。まあミルバに接触する前にナーダさんに連行されたわけですが、もしかしたら二人は母娘になっていたかもしれない関係でした。

だからこそラタニさんも珍しく愚痴ったのかもですね。ラタニさんだけでなくカナリアたちも現在は不遇な扱いを受けています……ほんと歯痒い現状です。


とにかくワイズ、ミルバ、ナーダ、ラタニ小隊の現状を少し知って頂いたところで次回はダラード遠征二日目。

つまり帰国途中のアヤトくんに最初の不穏な報せが届いた日となります。

王国サイドでなにが起きたのかはもちろん次回からと言うことで。



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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