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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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読めないお人

アクセスありがとうございます!



 ワイズ=フィン=オルセイヌ。


 オルセイヌ伯爵家の次男として産まれた彼は九才で火の精霊術士に開花。王国軍精霊術士団の小隊長に二三才で任命され、後の功績から僅か十年で宮廷精霊術士団長まで登り詰めた王国屈指の偉才。

 精霊術士としての実力だけでなく家柄や人格も申し分ない、まさに王国最強の称号に相応しい存在で多くの者から憧れと敬意を向けられていた。

 しかし宮廷精霊術士団長に就任した二七年後、不慮の事故によって半年間の休学から復帰した才女、ラタニ=アーメリに敗北。

 当時五〇才と全盛期は超えているも、未だ負け知らずのワイズが僅か十六才の学院生に手も足も出ない完敗という情報は王国のみならず国外にまで広まった。

 この敗北が原因か、ワイズは宮廷精霊術士団長を自らの意思で退き、隠居のため王都から強国との国境付近にある辺境の村に妻と共に移住。

 対するラタニは新たな王国最強としてワイズ以上に輝かしい功績を挙げていく。


 もちろん両者の勝負に不正はなく、言ってしまえばラタニの実力がワイズを圧倒していただけ。故にラタニに非はないが、実力は申し分なくとも破天荒な性格や名誉や格式を軽んじる姿勢。更に平民出ということもあって有力貴族や上層部からは煙たがられていた。


 その筆頭こそミルバ=フィン=オルセイヌ。


 ワイズと同じく次男として産まれ、九才で火の精霊術士に開花。才覚こそ父に劣るも二五才で小隊長に任命、以降も着々と功績を挙げて父から王国最強の称号を受け継ぐ精霊術士と期待されていた。また本人も父に憧れていたが故にその称号を受け継ぐ前に奪われ、引退にまで追い詰めたラタニに対して強い憤りを抱く。

 現にワイズの敗北後、ミルバもラタニに挑んでいるがその結果がより因縁生んでしまったわけで。

 それでも敗北を糧に更なる鍛練を積んだのか、三二才にしてダラードの術士団大隊長まで登り詰めたのは称賛に値する。


 ただ二人が顔を合わせるのはまさに六年ぶり。故に因縁深い相手との再会をカナリアを始めラタニを良く知る面々が懸念していた。


「心配しすぎじゃないか?」

「なにもなかった」


 のだが、ダラード統括のナーダ、遠征訓練の責任者ミルバとの顔合わせが終わり、会議室から食堂に移動しつつディーンは拍子抜け。

 事前に二人の関係性を聞いていただけにこの場で一騒動が起こると予想していたが特に問題なく無事終了。故に同意見なのかリースもうんうん頷く。


「……これだからこの先輩と姉貴は」


 対するユースはあまりの楽観ぶりにため息一つ。


「顔合わせでは主にナーダ統括やミルバ大隊長が私たち学院生に言葉をかけるだけ。先生が発言する機会もないし、ミルバ大隊長も弁えるだろう……問題はこの後だ」

「この後って飯の時間?」

「違う。この後、ミルバ大隊長を中心にダラードの術士団や精霊騎士団と、王都から派遣された引率メンバーで実地訓練について話し合いが行われる。先生は講師でありそのメンバーの一人だ」


 どこまでもお気楽なディーンに呆れながらエレノアが説くように両者に、主にミルバ側に因縁があろうと顔を合わせただけで問題が起こるはずもない。なにより学院生への顔合わせと言えどミルバにとっては軍務、その最中に私怨からケンカを売るような真似をする者に大隊長など勤まらないのだ。なのでラタニさえ大人しくしていれば問題はないと、カナリアは何度も注意していた。


 しかし遠征訓練について各々の持ち場、任務、また方針を話し合う会議は別。ミルバは責任者として、ラタニは王都から派遣された小隊長としてどうしても接点が出来る。

 もちろんラタニも軍務に関しては真面目で、それなりに弁えられるが王都の訓練時で披露した霊獣対策のような突拍子のない発言や提案で周囲を困惑させる傾向がある。理に適っていようとおふざけな面もあり、元より邪険にされているからこそ周囲は余計に反発してしまう。

 そこに因縁深いミルバが加われば更に荒れる可能性がある。軍関係者内で確執が生じれば学院生側も気が気ではなく安心して実地訓練に臨めないと、ようやく懸念を理解したディーンも苦渋の表情。


「……なんでアーメリさまが加わったんだ」

「仕方ないだろう。以前も話したが学院生の安全を考慮すれば、先生ほどの実力者を個人の感情で外すわけにもいかない。去年は特別講師として着任したばかりで仕方なく見送ったんだ」


 また一昨年は小隊長に任命したばかりで小隊員との訓練や任務を優先、更にその前はそもそも学院に在籍していたので術士団としての引率以前の問題。まあそれ以前にミルバがダラードに着任したのが三年前、二人が顔を合わせる機会は無かった。

 とにかく懸念はあろうとラタニという存在は何よりの保険。何が起こるか分からない霊獣地帯ならばこそ必要不可欠が故に学院サイドも、ダラードサイドも同行させたわけで。


「去年は小隊員のみ派遣されて問題はなかったが……今年は先生本人が来ているからな」

「アヤトとは違ってそれなりに場を弁えられるお人だけど学院生の居ない場で、他は元よりラタニさんに良い印象のない人ばかり」

「……もちろん場関係なくミルバ大隊長も弁えるだろうが……なんせ相手は先生だ」

「これまたアヤトとは違う読めないお人っすからね……さて、どうなることやら」


 意味合いは違うもミルバとラタニの自制心次第では最高の環境で実地訓練に挑めるのだが、ミルバ以上にラタニがどう動くか次第との意見に他の面々も祈るしかなかった。



 ◇



「では諸君らの健闘に期待する――解散」


 などと序列保持者の心配とは裏腹に、ミルバの宣言により会議は問題なく終了していた。

 懸念していたようにミルバとラタニでやり取りはあったが、予想していたようにラタニは軍務には真面目でそれなりに弁えられる。多少おちゃらけた発言はあったものの、ミルバが相手にせず会議を進めたのも大きい。

 まあラタニを含めた小隊員に任された任務などは他より冷遇されていたのは否めない。しかしこうした扱いはダラード関係なく受けている。

 いくらラタニは当然、四人の小隊員の実力が国内でも上位だろうと、信頼できない相手に重要な役割を任せられない。そういった評価も覚悟してカナリアたちもラタニの小隊に加わっていると、こうした弁えも出来ているわけで。


「……予想通りと言えば予想通りか」

「去年同様つまらないのだ」

「ごめんねぼくがいるからだよね。ゴミと一緒だからみんなの扱いも酷くなるんだよね――」


 なので会議室を後にしながらモーエンは苦笑い、ジュシカは不満そうに呟き、スレイは自虐と慣れたもの。


「無事終わりました……」


 またカナリアは冷遇よりも問題なく最初の山を越えた安堵しかない。まあ実地訓練が終わるまで気は抜けないが後は食事と就寝のみ、心身を休め明日に備え――


「……隊長はどこに行きましたか」


 ――ようとしたのだが、共に会議室を後にしたラタニの姿がいつの間にか消えていた。

 さすが師弟であり姉弟と言うべきか。


「どこって……どこだろうな」

「先に食堂に行ったのだ?」

「食堂に行ったならぼくらと同じ方向だから気づくはず……ああでもぼくのようなダメ人間が気づけるとは思えないつけ上がってごめんね――」

「…………とりあえず探すか」

「ですね……」


 アヤト同様、何をやらかすか全く読めないラタニの単独行動に嫌な予感を抱きながら、カナリアを中心に捜索を始めたのは言うまでもない。




簡潔ですがワイズさん、ミルバさんとラタニさんの因縁でした……もちろんラタニさんに非はないんですけどね。

それはさておき公国ではフロッツがアヤトに振り回されていたように、王国では部下(主にカナリア)がラタニさんに振り回されていました。本当に似た者同士ですが、アヤトくんよりはねぇ……。

とにかくアヤト同様行動が読めないラタニさんがどこに行ったのか、それはもちろん次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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