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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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因縁の相手

アクセスありがとうございます!



 遠征訓練六日目の朝、予定通りマイレーヌ学院の学院生らはそれぞれに用意されていた遠征先に出発。

 そんな中、精霊術クラスと精霊騎士クラス、二学生の序列保持者は王都から東に半日ほど先にあるダラードへ。


 ダラードは帝国との戦争時代、王都を守る最後の砦として機能したいわゆる城塞都市で軍事的な意味では王都に並ぶ重要性があった。またダラードより更に東へ二時間ほど移動した場所には海に沿って公国領土まで続く広大な霊獣地帯が広がっている。

 故に現在は王国領で最も危険な霊獣地帯を管轄する意味でダラードは重要な拠点となり、遠征訓練の拠点として毎年選ばれていた。


 そして合間の町や村で休憩を挟み夕刻、マイレーヌ学院一同はダラードに到着。


「ここに来るのも一年ぶりか~」


 馬車を降りるなりランは移動で固まった身体を解すように伸びを一つ。

 ランの他にエレノアやディーンも去年は序列保持者枠で遠征訓練に参加していたので一年ぶり。対する遠征訓練直前でロロベリアに敗北して序列の座を失ったジュード、まだ二学生だったルイはダラードに来たのは初めてで。


「オレたちは半年ぶりっすけど」

「そうなのかい?」


 ただ同じく遠征訓練初参戦のニコレスカ姉弟は訪れたことがあるらしく、ルイは父親の付き添いか何かと予想。


「ツクヨさんに会う道中で立ち寄ったんっすよ」

「ゼレナリアに向かうならここは寄り合い馬車の通過地点だからな」


 しかし理由を聞いてエレノアは納得。

 二人は去年の年末、ユース専用の武器を打ってもらうためにツクヨの暮らすゼレナリアに訪れている。王都からゼレナリアに向かうなら最初の宿泊場所はダラードだ。


「つっても本当に寝泊まりしただけで街並みは全然知らないんっすけど。それに姉貴も不調気味だったんでゆっくり見学する暇も無かったんすよ」

「体調を崩したのか?」

「ロロ成分が枯渇したとかなんとかで」

「……なんだその成分は」


 だがユースのぼやきにエレノアは脱力。リースを除く残りの序列保持者も理解しがたいのか眉根を潜めてしまう。


「でもまあ、今回は問題なさそうだ」


 気持ちは分かるとユースはリースをチラリ。

 半年前は初日からふて腐れ、五日目には心配するほど落ち込んでいたリースがロロベリアと別行動をして既に十日。にも関わらず王都の訓練も普段通りに受け、今も初めての街(前回はロロ成分が枯渇して余裕が無かったのか)に興味津々と周囲を見回している。

 選考戦後、自ら精霊騎士クラスに移動を決めたように、良い感じでロロベリア離れが出来ているのか精神面の成長が窺えた。


「……今ごろカルヴァシア達はなにしてんだろうな」


 それはさておきロロベリアの話題で思い出したのか、ディーンは不安そうに公国方面に視線を向ける。


「面会はとっくに済ませてる頃でしょうけど……」

「いくら血縁でもカルヴァシアのことだ、いつも通り好き勝手しているだろう」

「でも大きな問題は起こしてないはずだよ。エレノアさんの耳にも届いてないんだろう?」

「今のところは、だがな」


 ディーンの不安も分かると他の面々も呆れや心配の表情。

 なんせアヤトの欠席理由を知るだけに、公国の大貴族でもあるヒフィラナ家でやらかしていないか気にもなる。もしやらかしていれば少なくとも王族のエレノアには伝わるが、今のところは問題ない。しかし滞在期間が未定なだけに安心するにはまだ早く、大きなやらかしはしてなくとも小さなやらかしは度々しているだろう。その度にロロベリアやミューズ、同行者のフロッツやレムアに迷惑をかけていると不安も募る。


(その気持ちも分かるっすけどね)


 などと全く信頼されていないのはアヤトの自業自得、弁解の余地なしとユースは内心苦笑い。

 現に先輩方が心配するように小さなやらかしを度々しているとユースはラタニ伝手に聞いている。そのラタニもマヤから状況を聞いているだけに、ロロベリアですら知らないやらかしまでだ。

 また目的だった親孝行が終わったので、実は今日王都に向けて出発したことも。ただマヤ伝手の情報だからこそ伝えるわけにもいかず。


「まあなるようにしかならないってことで、今は自分たちの心配をしましょうよ」

「……確かにな」


 なので知らぬ存ぜぬを貫き提案すればエレノアは気持ちを切り替える。

 まだ遠征訓練中、というよりもうすぐ懸念している対面があるのだ。

 それほどラタニとダラードの責任者とは因縁が深い。ならラタニを引率させなければ良いと思うが王国最強の精霊術士が学院生を守る引率となれば、それだけ危険は減る。個々の因縁を理由にラタニを外すわけにもいかないのだ。


「こちらもなるようにしかならないが、今は先生を信じて私たちは私たちの時間に集中しよう」


 故に自らの気を引き締めるのも兼ねて同じ懸念を抱く面々を鼓舞した。



 ◇



 改めてダラードに到着した一同は移動を開始。

 城塞都市と呼ばれるだけあり、ラナクス並みの敷地面積はあれど住居区、商業区、工業区は小規模で、変わりに各区域を守るよう東側に大きな要塞がそびえていた。

 それこそ軍関係の規模で言えば王都以上、まさに最後の砦に相応しい物々しい街並み。ただ現在は広大な霊獣地帯を管理する為でしかなく、戦争時ほど殺伐とした雰囲気はない。

 そして向かった先は要塞近くの一角。主に訓練場や軍関係者の宿泊施設がある区間でダラードに滞在中、学院生や講師陣、また王都から派遣された引率を担う術士団や精霊騎士団は宿泊施設を使わせてもらう手筈になっていた。


 到着時間が時間なので今日は責任者との顔合わせ後、夕食を済ませて各々決められた部屋で就寝。

 翌日は軍施設の見学、午後からは街並みを見学する名目で各々自由な時間を与えられている。

 二日目は先発や後発メンバー、更にメンバー内の組み分けなどを決定。それぞれで連携訓練を行う間に出来るだけ危険がないよう、ギリギリまで霊獣地帯を調査する為の調査隊が送られ、三日目から先発メンバーが霊獣地帯に赴き、後発メンバーはそのまま訓練。また訓練も一日中ではなく、午後は休暇が与えられる。

 初めての霊獣地帯、初めての霊獣討伐となれば肉体以上に精神が疲弊する。故に先発後発と一日交替の実地訓練はそれぞれ二回ずつ。後発メンバーの実地訓練終了の翌日、王都に戻り遠征訓練も終了というスケジュール。


 故にまずは要塞内にある広々とした会議室へ。

 中央に学院生、左サイドに講師陣、右サイドに引率メンバーが並び待機……なのだが、今回は特別講師として引率しているラタニは引率を担う術士団や精霊騎士団側に待機。

 派遣された術士団にカナリアを始めとした小隊員がいるのもあるが、実地訓練中はラタニも術士団として引率を担う以外にもう一つ。


「隊長……分かっていますね」

「大丈夫だって。カナちゃんは心配性だにゃー」


 王都での遠征訓練同様、ラタニのお目付役としてカナリアが側にいるべきとの配慮だったりする。加えてエレノアらが懸念していた対面がこれから行われるとなればカナリアも念押ししたくなる。


「モーエンさん、スレイさん、ジュシカも大人しくしてください」

「元よりそのつもりだ」

「やっぱりぼくは心配されるほどダメなんだね知ってたけどそもそもどうしてぼくが副隊長をやってるんだろう? もうカナリアがやればいいし、ぼくなんかが副隊長とか場違い感が凄くない――」

「任せるのだ!」


 故に去年は大人しくしていた三人にも目を光らせる中、会議室のドアが開く。


「…………」


「隊長、大人しくしてください」

「……なにもしてないんだけどね」


 入室したのは男女一人ずつ。内一人、術士団隊長の制服を纏う男性に一瞥されるなりラタニは再度注意を受ける。

 その間に二人は壇上に立ち、まず女性が周囲を見回して微笑みかけた。


「マイレーヌ学院の諸君、ダラードにようこそ。私はダラード支部を統括しているナーダ=フィン=ディナンテです」


 歓迎の言葉を述べるナーダは侯爵家の子女として産まれ、しかし精霊士としての功績からダラード統括を任さるほどの実力者。五〇才を過ぎても衰えを感じさせない体躯や威厳に学院生は圧倒されるほど。


「それでは今回の遠征訓練中、あなたたちと直接関わる責任者を紹介します」


 そしてナーダに促されるまま一歩前へ立つ人物こそ、ラタニと因縁のある者で。


「術士団大隊長を務めているミルバ=フィン=オルセイヌだ。みなさんを歓迎する」


「歓迎しているみたいだよ?」

「……隊長以外を、でしょう」


 学院生を見回し微笑むミルバに軽口を叩くラタニだが、こちらに向けられた視線は明らかに敵意が感じられたとカナリアはうな垂れるしかない。

 なんせミルバ=フィン=オルセイヌの父親は元宮廷精霊術士団長。


 六年前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ワイズ=フィン=オルセイヌの息子だ。




前々話で話題に上がっていたラタニと因縁のあるミルバさんが登場しました。

同時に今まで存在のみ話題に出ていた元王国最強精霊術士の名前も明かされましたが、詳しくは次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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