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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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すれ違う陰

本日から更新再開です!

アクセスありがとうございます!



 王都での遠征訓練が一先ず終わり、各クラスが次の遠征先に移動を始めた頃――


「やあレーテくん、奇遇だね!」

「……ファルか」


 正午過ぎ、学院に向かう道中で背後から掛けられた高らかな声にレイティは苦々しい表情で振り返る。声の主はファルシアンで、レクリエーションやサクラ提案のお泊まり会の一件から共に訓練をする間柄になっていた。

 なので休養日の今日も共に学院の訓練場で一緒に訓練するため向かっていたが、伯爵家と男爵家では貴族区に住居を構えても区間が違う。しかし目的地が同じなら学院近くで良く会っていたりする。


 本来二人とも登下校は家の馬車を利用するが、軽い運動も兼ねて休養日のみ徒歩で登校。疲労もあるので下校は馬車を利用している。

 またファルシアンの屋敷には精霊結界を張れる訓練室があるので休養日にまで学院の訓練場を使用する必要はないが、レイティやエランとの合同訓練をする為にわざわざ足を運んでいた。まあ屋敷に訓練室があるので、予約が必要な学院の訓練場を利用せずとも二人を誘えばいい。現にファルシアンは何度も招待しているが二人揃って『お前の屋敷に誰が行くか』と全力拒否している結果だった。


「今日も良い天気だね! 清々しい空気のなんと美味なこと!」

「一緒に歩くのはもう諦めたが、せめて静か歩け。同類に思われたらどうする」


 それはさておきいつも通り芝居臭い仕草で声を張り上げるファルシアンから気持ち距離を空けてレイティはため息一つ。

 ファルシアンは自分を友人と思っているようで、学院内でも顔を合わせば馴れ馴れしく声を掛けてくる。無視をすれば無駄にでかい声で何度も名を呼びながら付きまとってくる。

 結果最低限の対応をした方が被害も最小限に抑えられると考えてはみたものの、どちらにしても目立つとなれば厄介この上なかった。

 なら合同訓練を止めればいいのだがファルシアンは打倒アヤトを志す者同士。レイティとしてはエランやファルシアンは同世代で唯一同格以上の相手、効率的に成長する為に必要なのでそうもいかず。


「ところでレーテはエランの愛称について何かアイデアはないだろうか? 私はエライストで良いと思うんだが、彼は絶対に嫌だと引かなくてね」

「無理して愛称で呼ぶ必要もないだろう」

「そうもいかない! なんせ私たちは同じ志を胸に研鑽する同志でありライバルであり心の友! 私たちが愛称で呼び合っているのにエランだけ愛称呼びをしなかったら可哀想じゃないか!」

「何度も言っているだろう。私はお前と友人になったつもりはない」

「ふふふ、相変わらずシャイだね君は」

「本心だ! そもそもお前を愛称で呼んでいるのも、私を愛称で呼ばせているのも仕方なくだろう!」

「その条件を飲んだのは他ならぬ君だよ」

「こいつ……っ」


 何よりアヤトよりも先にファルシアンをぼっこぼこにしないとレイティの気が済まないわけで。

 ただ痛い返しにレイティは怒りを滲ませながらも反論できなかった。と言うのも愛称で呼ぶようになったのは先の入れ替え戦の選抜戦でアヤトへの挑戦権を得た者の言うことを何でも聞く、というファルシアンの条件にレイティやエランが乗った結果だ。

 模擬戦でもレイティやエランは一度もファルシアンに勝利していないが、挑発されては引き下がれずと、要は二人の自業自得だった。


「そしてエランもだ。ただ私も相手の嫌がる愛称で呼ぶのも気が引けるからね。こうしてレーテに相談しているのさ」

「……ならエンでいいだろ」

「何を言うんだい!? 私たちがファル、レーテならエランも三文字にしないと可哀想じゃないか!」

「ならお前の勧めているエライストは五文字じゃないか!」


 故に投げ遣りでも提案すれば意味不明な否定をされる始末。


「でも元より三文字のエランに三文字の愛称を付けるのは難しいね……なんと厄介な」

「安心しろ。厄介にかけてはお前ほどじゃない」

「褒めないでくれたまえ」

「嫌味を言ったんだ!」


 そしてファルシアンに振り回され、いつも通り自分も充分目立っているとレイティは気づかぬまま学院の門が見えてきたが――


「……おや?」

「今度はなんだ……」


 不意に足を止めるファルシアンに面倒げに返せば前方を指さし、レイティの視線も前へ。

 先に到着したのか門の前に立つエランの姿が。


「……なにか気になることでも?」

「ああいえ、なんでもありません」


「……あれは?」


 ただ一人ではなく、誰かと話し込んでいるようでレイティは訝しみの表情。なんせ相手は白いフードを深く被っているので顔は見えないが小柄な体格で、微かに聞こえる声で女性だと分かるが服装からして学院生でも学院関係者でもない。

 まあファルシアンに振り回されている者同士として、純粋な友人となりつつあるエランとはいえレイティも他の友人関係まで把握していない。

 また未だ同じクラスにすら友人と呼べる者がいない二人に対し、エランはそれなりに交友関係が広い。


「……やっときたか」


 ならラナクスで出来た友人か何かだろうと納得していれば、こちらに気づいたエランの視線が向けられて。


「ご友人ですか? ならアタシはこれで。わざわざありがとうございました」

「そんな、お礼とかいいんで」


 同時に白いローブの人物が頭を下げ、商業区の方向へ行ってしまった。


「二人一緒だったんだな」

「心の友だからね!」

「だから、お前と友人になった覚えはない!」


 からの、手を上げるエランの元に歩み寄りとりあえず挨拶を交わし。


「今の女性は知り合いか?」

「俺が来た時に門前にいただけ。帝国から来たらしいんだけど――」

「帝国から?」

「なんか序列保持者のファンらしくて、一目見たくてわざわざラナクスまで来たそうだ。でもほら、序列保持者は遠征訓練で王都にいるだろ?」

「それは……」


 エランの説明にレイティも苦笑い。

 帝国からなら恐らく王都近くの港から入国したはず。時間的に直接寄り合い馬車で向かったのだろうが、直接向かわなければ序列保持者が滞在していると気づいた可能性もある。

 ファンだからこそ気持ちが先走ったのか、その情熱が残念なすれ違いを生んでしまったらしい。


「だがスケジュールでは今日から別の遠征先に向かうぞ」

「あ……」

「それにロロベリアさんやミューズさん、アヤトさんは私用で不参加だとも伝えているのか」

「……やば」

「お前な……」


 加えてレイティの指摘に更なるすれ違いを生ませたとエランは失態に気づく。なんせ序列保持者の内、三人は家の都合で遠征訓練に参加していない。つまり後を追っても三人とは会えないのだ。


 またエランたちは知らないが、アヤトの事情でロロベリアやミューズは共に公国に滞在中。もし王都に向かい、次の遠征先を知っても序列保持者全員とは会えず終いで。


「ま、まあ王都経由になるから二度手間にならないだろ。アヤト兄ちゃんたちは残念だけど運良ければロロ姉さんとは王都で会えるかもだし……それに……」

「何か気になることでもあるのか?」

「いや……序列保持者はいま遠征訓練で王都に居るって話した時に、あの人がクロがどうのって呟いてたんだよ」

「……黒と言えばアヤトさんだが……ああ、そう言えばロロベリアさんとアヤトさんは昔クロ、シロの愛称で呼び合ってたそうだな」


 ただエランなりに伝えそびれた理由もあるらしい。

 サクラ提案のお泊まり会の後、レイティもイルビナから二人の関係性は聞いた。

 そして女性がファンとしている序列保持者には過去シロ、クロと愛称で呼び合っていた二人がいる。


「で、序列保持者のファンだって言うもんだからちょっと気になって質問したんだけど、同時に二人が来たから伝える暇がなかったんだよ」

「そういうことか」


 まあクロという呟きが過去のアヤトを差しているとは限らない。帝国民の女性が二人の関係者でもないはずとレイティは首を振り、エランも女性には申し訳ないことをしたと肩を落とし――


「訓練の前にエランの愛称を決めようじゃないか!」


「「お前はいきなりなに言い出すんだ!」」


 今からでも追いかけて伝えようとしたが、今まで静かにしていたファルシアンの急な提案にレイティと共に突っこんだ。


「珍しく静かにしてたと思えばそんなアホみたいなこと考えてたのか?」

「レーテはエンと呼びたいらしいが君はどう思う?」

「聞けよ! ていうかレーテ、なんだよエンって!」

「思いつかなかったんだ……そもそもファル、私は呼びたいとまでは言ってない!」

「ふむ。では同じ文字数にするために私をファ、レーテをレテに変えるのはどうだろう?」


「「もう愛称に拘らずエランでいい!」」


 などとファルシアンに振り回されている内に午後の訓練場予約時間が迫り、慌てて向かう頃には女性のことをすっかり忘れていた。




お久しぶりな新入生トリオでした。

レイティは嫌顔ですが何だかんだでファルを認めているから一緒にいるんでしょうね。まあ先輩達とは違いますが、無理して仲良くする必要もありませんし、これはこれで良い関係だと思います。まあエランとは同志のような絆を育んでいますけどね。

そしてエランと一緒にいた女性については敢えて触れないまま、次回は再び遠征訓練の様子となります。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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