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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十四章 絶望を照らす輝き編
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嘆きと不安

アクセスありがとうございます!



 遠征訓練五日目。


 翌日から三学生と二学生の序列保持者は王都からそれぞれ決められた地域に赴く予定。

 そして遠征訓練中は実家が王都だろうと学院が利用している宿泊施設を利用。貴族平民問わず同じ待遇を受け、共に生活を通じて交友を深める意味合いもある。特に貴族家子息子女は自立心を育てる機会でもあった。

 故に基本団体行動になるが自由時間も設けられている。また明日から移動もあるので王都での実地は午前中で終了。

 午後からは自由な時間、もちろん自由とは言え訓練期間なので遊び呆けるのではなく、心身のリフレッシュを目的に気晴らしの買い物や外食を楽しむに留めている。


 その時間を利用してニコレスカ姉弟、ディーン、ジュード、レガートは商業区の食堂に来ていた。他の学院生と同じくリフレッシュも兼ねた待ち合わせをしていたからで。


「待たせたな」

「お久しぶり~」


『お久しぶりです』


 食堂に着いて間もなく待ち人のカイルとルビラが姿を見せるなり五人は立ち上がってお出迎え。

 遠征訓練で王都に滞在するなら、旧序列保持者や学院生会の先輩方と時間が合えば出来るだけ会おうと約束していた。

 まあ先輩方も忙しいので全員揃ってとはいかず、お互いに都合の合うタイミングになるわけで施設の案内役を勤めたティエッタ、フロイス、グリードや同じく王国軍に所属したミラーとは昼食時に。ズークと同じ研究施設に就職したシャルツとは遠征訓練前に二月ぶりの再会を果たしていた。

 そしてカイルは王国軍に所属しても訓練の都合から、官僚を目指して政務職に就いたルビラとはこのタイミングで昼食の約束をしていたわけで。

 ただ卒業後は本格的に王族として公務に関わり始めたレイドとは会えず終い。卒業生らでもカイルやルビラくらいしか会う機会がないほど多忙なので仕方がない。

 ちなみにエレノア、ラン、ルイ、シエン、イルビナは別件のため別行動中。終わり次第合流予定なのだがそれはさておき。

 ほとんどが貴族家なので個室を予約したが、気兼ねなく話が出来るのも理由で。


「エレノアちゃんたちは仕方ないとして、アヤトくんたちと会えないのは残念だな~」

「俺もだ」


 料理が運ばれて来るなり嘆息するルビラにカイルもしみじみと呟く。

 エレノア伝手でアヤトと懇意にしている先輩方にも遠征訓練の欠席理由は伝えていた。また理由が理由なだけにロロベリアやミューズの欠席理由も察するだろうと事実を伝えている。

 公国の大貴族ヒフィラナ家の血縁関係と聞いた二人は驚きよりも、アヤトが公国でなにをやらかすか心配する程度。むしろミューズの積極性に関心したくらいと、今さら貴族の血を引く可能性で驚きはしない。


「他の先輩方も残念がってましたよ。特にティエッタ先輩やフロイス先輩は久しぶりにアヤトと遊んでもらうつもりだったみたいですし」

「騎士クラスのカルヴァシアと遊ぶタイミングはないだろう」

「そんなこと言ってカイルくんも遊んで欲しかったんでしょ~」

「否定はしないが俺としてはリーズベルトとも手合わせしたかった」


 加えてロロベリアの同行も当然のように受け入れてはいるが、カイルからすれば在学時に出来なかった手合わせが叶わず肩を竦める。

 選考戦ではアヤトを除いて全勝、先日のレクリエーションではラタニの編み出した音の発動も習得したと聞く。だが自分も術士団で鍛えている。

 故に今回の遠征訓練で模擬戦を挑むつもりでいたが欠席ならば仕方ないと気を取り直し、ジュードに声をかけた。


「マルケス、カルヴァシアや先生に指導を受けているんだろう。二人の訓練はどうだ」


 ジュードとはロロベリアが序列入りするまでの仲、しかし以降も先輩として気にかけてはいた。加えて自分の知る彼はもっと固い印象があるも、今は良い意味で気持ちが緩んでいるように感じられる。


「厳しい訓練ですが、得るものは多くあります。どちらも態度を少しでも改めれば素直に尊敬できるのですが……」

「お前そればっかな」


 ディーンに呆れられるも、やはりアヤトやラタニの影響とカイルは苦笑。ジュードも愚痴を零しながらも認めているなら良い傾向で。

 ならばと今度は一人黙々と食べているリースに視線を向ける。

 リースとはそれなりに交友はあった。ただ卒業後の選考戦でアヤトに弟子入りした上に精霊術士でありながら精霊騎士クラスに所属。武器も槍からアヤトと同じ刀に変更とある意味一番変わったのは彼女だ。


 まあリースの変わりように興味を持っていたのはルビラも同じようで。


「リースちゃんはアヤトくんの弟子になったんでしょ~?」

「どんな師事を受けているんだ」


 興味津々に問いかけるルビラに続く形でカイルも質問を投げかける。

 アヤトには遊びと称した模擬戦で訓練をしてもらっていたが、師弟関係になればまた違うかもしれないと興味深い。


「うむ? んむんむ……なった……りました。基礎を細かく教わってるけど基本は模擬戦……です」

「でも精霊術士で精霊騎士クラスに転換って思い切ったね~。他の学院生がバッカみたいな文句とか言われてない~?」

「最初は言われたけど最近は特にない……です」

「学院の意識改革が上手く行っているらしいな。やはりその影響か」


 アヤトの教える基礎というのに興味はあるが、師弟の教えを根掘り葉掘り聞くのは無粋とルビラも追求せず、カイルも残念ながら話題変更を。


「恐らくですが。もちろんまだまだ道半ばなので、これからも最善を尽くすつもりです」

「アヤトくんと上手くやれてるようだね~」

「私としては上手くやっているつもりですが……なんともです。ですが彼と引き合わせてくれたルビラさんには感謝しかありません。お陰で刺激的な毎日を過ごしていますから」

「刺激って言うより心労だけどな……」


 ウキウキと語り合う新旧仕官クラス代表を尻目にぼやくディーンの気持ちがカイルもよく分かる。

 自分たちの代もレイドを始め癖の強いメンバーで構成された学院生会では主にカイルとグリードがよく振り回されていた。

 そして今期の学院生会もまた癖の強いメンバーだ。恐らく今期はエレノアとディーンが自分やグリードのポジションを受け持っているのだろう。

 ただ振り回されても良い思い出なのは確か。ディーンも卒業すれば今という時間が尊い物だと分かるはず。


「そう言えばカイル先輩、もうすぐ下位精霊術士の昇格試験を受けるらしいっすね」


 などと自身の後継者に内心エールを送るカイルにユースが話題を持ちかける。


「ロマネクトに聞いたか」

「フロイス先輩のさすがお嬢さまの流れからっすね」

「本来は一年かかる試験に三ヶ月って……お二人ともさすがと言うべきか。期待されてるんですね」

「だと良いがな……」


 ディーンの称賛にカイルはため息一つ。

 元より自分たちの世代、序列保持者は高い評価を受けていた。故に異例とも言える昇格試験の声をかけられたのは純粋に誇らしくある。

 しかしその反面、カイルやティエッタには別の期待も向けられている。

 現在王国の精霊術士、その頂点に君臨するラタニを快く思わない者が多いのだ。特に態度だけでなく平民出というのを貴族家の関係者が拘っている。

 要は素質のある侯爵家の自分や伯爵家のティエッタを持ち上げ、早急に貴族の威厳を取り戻したいだけと、軍内も学院と同じ問題を抱えていた。


「軍に所属して改めて先生の評価が低すぎると痛感した」

「今回の訓練でも面白いことしてたらしいね~。反発が凄いみたいだけど、多少の悪ふざけを目を瞑ってあげればいいのにな~」


 政務に就いたルビラも同じ見解なのか、ラタニ考案の霊獣対策を持ち出して愚痴を零す。

 カイルも霊獣について学んではいたが、学ぶと実際に対峙するのでは全くの別物で最初の討伐訓練も焦ったよく覚えている。特に人間とは違う精霊力の圧で足が竦んだものだ。

 だがラタニなら禍々しさはないものの精霊力の圧で言えば中位種以上。かぶり物はやり過ぎでも、事前に霊獣がどのような動きをするか、特性や対策などを実戦形式で教えるのは悪くない。

 ただ実戦形式で教えられるのはそれこそラタニくらい。故にかぶり物以前に認めない者が多いわけで。


「理にかなった訓練だと認めた上で、改善案を話し合えばいいんだが……なんせ先生には敵が多い。特に注意するべきは次の遠征先だろうな」


「「ああ……」」


 カイルの忠告にユースとジュードも表情を歪ませる。

 なんせ実地先の軍責任者は()()()()()()()()()()()。カナリアら小隊員が引率した去年は特に問題はなかったが本人と顔を合わせればどうなるか。


「その点も踏まえて今回ばかりはアヤトさんが欠席して正解だったかもしれません」


「「確かに……」」


 故にレガートの意見にも二人は同意。

 ただでさえラタニと因縁のある相手と、ラタニの弟子であり彼女以上に敵の多いアヤトが接触すれば嫌な予感どころではない。

 ただ貴族出身や軍関係者なら知る因縁なだけに二人の反応は当然なのだが――


「……なんの話?」

「? なんのこと……です?」


「ほんとこの姉貴は……」


 平民で軍関係者でもないディーンはまだしも、なぜ貴族令嬢で父が精霊騎士団長の姉も知らないとユースはうな垂れてしまう。


「――お待たせしました」

「遅れて申し訳ありません」

「でもあたし満足」

「良い時間でした」

「わかる」


 と、ここで別件で遅れていた五人も合流。


「で? で? エレノアちゃんどうだったの~」

「そうそう、聞いてくださいよカイルさん、ルビラさん!」

「……なぜレヒドが嬉しそうなんだ」


「結局のところ……なんの話だったんだ?」

「わからない」


「後で教えるから二人は飯でも食っててください……」


 結果話題が変わり、取り残されたままの二人にユースは投げ遣りに呟いた。




他の卒業生も今後登場予定ですが、今回はお久しぶりなカイルさんとルビラさんの登場でした。

学院を卒業してもカイルは相変わらずの苦労人のようですね。対するルビラさんは楽しそうですけどそれはさておき。

ラタニと因縁のある軍責任者やエレノア達の別件については後ほどガッツリ触れるとして、次回は遠征訓練とはあまり関係ない内容ですが、もちろん今章に関係する内容になっています。

詳しくはもちろん次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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