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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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三者三刃 敗北後の時間

アクセスありがとうございます!



 開始と同時に待ち構えるように動かないサーヴェルに対しダリヤは一足飛びで間合いに入った。


「は!」


 振り抜かれた煌刃をサーヴェルは烈火で冷静に防ぎ、続く連撃も対応。


「ぬあぁぁ――!」

「ぐ……っ」


 何度目かの斬り結びから気合いと共にサーヴェルは右腕で烈火を振り向き、勢いそのままダリヤは身体ごと後方へ飛ばされてしまう。


「むん!」


 距離が開くなり烈火を両手に持ち替えたサーヴェルは全力で振り下ろす。剣筋によって起きた衝撃波が真っ直ぐ襲いかかるも、着地と同時にダリヤはサイドステップで冷静に回避。


「さすがは剣聖殿! 恐るべき太刀筋よ!」

「そちらも恐ろしい一撃でした」


「……えぇ」

「全然見えなかった……」


 挨拶代わりの攻防を終え、称え合う様子にディーンとランは若干引いていた。

 というのも開始の合図と共に動いたダリヤの速度や剣筋は何をしているか分からないほど速い。そんな攻めを見事に防ぎきり、片腕一本で身体ごと吹き飛ばしただけで無く、振り下ろしで衝撃波まで発生させたサーヴェルの膂力。

 予想以上に高次元な戦いを前に他の面々も言葉を失うほど衝撃的で。


「……防御に徹してるからか」


 そんな中ユースは率直な感想を。部分集約で視力を強化していたお陰で一連の攻防を微かでも追えた。

 サーヴェルのデタラメな膂力は今さらとして、ダリヤの剣技は剣聖の称号に恥じぬ鋭さ。しかしそれ以上に目を見張るのは移動速度。現に初動は強化した視力でも見失うほど速かった。

 速さの質は違えど恐らくアヤト以上、それでもサーヴェルは剣戟も含めて全て対処した。

 三年前はアヤトの速度に終始翻弄されて何も出来ないまま敗北したと聞いているだけに、対処できたのは防御に集中していると予想。


「あのおっさんがなにもせず三年間を過ごすわけねぇよ」


 ユースの言わんとしている疑問を察してか、アヤトは冷ややかな声音で返す。

 むしろアヤトと初めて対戦したサーヴェルなら防御に徹しても防ぎきれなかっただろう。しかし今は反撃を加える余裕まであった。

 この違いは敗北からサーヴェルが三年間をどう過ごしたかだ。

 自分の子とそう年の変わらないアヤトに敗北しても腐ることなく、未熟さを反省して更なる高みを目指し続けた努力。

 またアヤトが持たぬ者でも関係なく精霊力や精霊術について調べ、対処する方法を模索したようにサーヴェルも模索し、精霊士だから精霊力の制御は必要ないとの固定概念を捨てて剣技だけでなく精霊力の習練を始めたらしい。


「少なくとも俺は口先だけでなく、全ての国民の笑顔を守る理想を諦めないおっさんらしい直向きさは敬意を表するがな」


 故に全盛期を超えても衰えるどころか成長しているからこそアヤトも新月を手に入れた際、立ち合いをサーヴェルに頼んだ。


「むろんダリヤの速度に追いつけず足を止めて対応したのもあるが、親父の努力も気づいてやれんとは薄情な息子だ」

「……すんません」


 アヤトの言い分にユースは反省。

 今の話を聞いていた他の序列保持者も学ばせてもらった。要は自分たちと同じようにアヤトにプライドも含めてボコボコにされて、弱さを受け入れても更なる成長を諦めなかった。

 王国最強の精霊騎士と謳われようと傲らず、必要であれば相手が子どもだろうと学ぼうとする姿勢。実力以上にその志が敬意に値する。


「やっぱりお父さまは格好いい」


 娘として誇らしいと胸を張るリースにロロベリアも同意。

 サーヴェルは敗北にもめげず、己の限界を超える努力を続けてきた。その強さを特に感じられたのは帰省時、烈火と雲水を渡された後に行われたツクヨとの模擬戦。


「お義父さまはツクヨさんの想像も超えましたからね」

「所詮はアタシも未熟ってことだけど、サーヴェルさんの勤勉さは確かに尊敬するわ」


 得意げに胸を張るロロベリアにツクヨもカラカラと笑うよう、サーヴェルの要望や自身で見定め打った烈火と雲水を想像以上に活かせたのはその勤勉さがあってこそ。

 更に精霊力の視認による優位性を物ともしない試合運び、サーヴェルは力だけの騎士ではないと痛感したものだ。


「でもま、アタシと剣聖さまじゃ比べものにならねーからな。さて、どうなることやら」



 ◇



「ふっ!」

「ぬう!」


 挨拶代わりの攻防後、両者は再び刃を交えていた。

 合間に剣だけで無く視線や身体の動きで細かなフェイントを織り交ぜながら猛攻を続けるダリヤに対しサーヴェルはどっしりと構え、スキあらば反撃を繰り出す。


(さすがは王国最強の精霊騎士……これでも崩しきれないか)


 剣技において他の追随を許さなかったダリヤにとって、これまで自分と互角以上に剣を交えられたのはアヤトのみ。ただ特性は真逆と遣りにくく、特に繰り出す一撃は経験したことがないほど重い。

 それでも速さと剣技ではこちらに分がある。故にダリヤも闇雲に攻めず、刃を交えながらサーヴェルの呼吸、癖などを探り続け――


「ふん!」


(ここ――っ)


 反撃のタイミングを完璧に掴み、振り抜かれる烈火をわざと足を滑らせ回避、サーヴェルの死角を自ら作り上げた。

 ゴウッ――と頭上を通過する暴風にも臆すことなく、半身の体勢だろうと繰り出された煌刃の一閃はまさに剣聖と呼ばれるに相応しい一振り。勝敗は決したと思われたが――


 ガキン――ッ


「づぅ……っ」


 寸でのところで蒼い刃に防がれダリヤは衝撃から表情を歪める。

 しかし咄嗟に左手を床に付け衝撃に逆らわず反転、更に着地と同時に後方へ大きく飛んだ。


「……見事なり」


 不意を突く防御に動揺よりもまず離脱を判断したダリヤの精神力や嗅覚にサーヴェルは素直に称賛。


「貴殿こそ……」


 対するダリヤも笑みで返す。

 今のは自ら死角を作りあげたのではなくサーヴェルの誘い。本命は烈火ではなく雲水の一撃で。


「ようやく本領発揮というわけですね」


 サーヴェルは王国剣術の使い手が故に一本の剣を扱うはずが今は右に烈火、左に雲水を手にしている。

 加えてあのタイミングで防げる技量、つまりサーヴェルは双剣使い。



 ◇



「だと思うよなぁ……」


 などとダリヤは考察しているであろうとツクヨはボリボリと頭をかく。

 と言うのもサーヴェルは生粋の王国剣術の使い手で、双剣を扱い始めたのは本当に最近のこと。

 元より体格通り剛の剣でありながら随所で柔の剣を扱うよう、見た目からは想像も出来ないほどサーヴェルは器用だった。それでもダリヤの剣技にも対応できたのは三年間の努力があってこそ。

 アヤトに敗北して以降、その模擬戦で利き手関係なく剣を振るう天衣無縫な剣技に感銘を受けたサーヴェルは左右関係なく剣を振るえるよう訓練を始めた。また体幹のバランスにも意識しながら鍛え直し、ユースを始めとした双剣使いの剣技も研究していた。

 その地道な努力を知ったツクヨが双剣使いを提案。精霊士の中でも群を抜いた一撃の破壊力からサーヴェルが扱う大剣はどうしても強度重視になり重量が増す。

 だがツクヨなら元々使っていた大剣よりも重量を抑え、サーヴェルの破壊力にも充分耐えられる武器が打てる。また器用だからこそ特性を変えた剣にした方が面白いと攻撃力特化の烈火には黒金石を、扱いやすさや切れ味特化の雲水には陽剛石を使用した。


 ちなみに双剣を提案した際、色についてはサーヴェルの要望を取り入れている。もちろん息子のユースが双剣使いならと色は娘のリースやロロベリアを意識して。

 実のところ命は妻のクローネがツクヨから東国の文字を教わり命名。自身の成長は家族の支えがあってこそとサーヴェルの希望を叶えた形だったりする。


 とにかく重量を抑えても片手で軽々振れる物ではないが、ツクヨの打つ武器の特性にサーヴェルの勤勉さが更なる可能性を生んだのは確かで。

 問題は所詮付け焼き刃の剣技、ダリヤ相手に通用するとは思えない。

 しかし双剣以外の切り札がサーヴェルにはある。


「にしても、サーヴェルさんも中々にしたたかだ」


 故に切り札の使い方次第で充分勝機があるとツクヨは楽しく見守っていた。



 ◇



 ダリヤ優勢と思われた攻防もサーヴェルが双剣に切り替えてからは互角の攻防。


「はぁ!」

「ふん!」


 そもそもサーヴェルクラスの双剣使いとダリヤは対峙した経験が無い。加えて片手で振るっているとは思えない一撃の重さで防ぐ度に握力が奪われてしまう。

 それでも徐々に対応しているのが剣聖と呼ばれる由縁。


(たたみ掛けるなら今しかない――)


 聖剣を失っても経験は残っている。

 また聖剣による増幅には劣るが、だからこそ経験から完全に扱える。

 精霊力を解放した状態からでも新解放を可能にするようダリヤは習練を重ねていた。


「あああぁぁ――っ」


 自身の状態、修正したタイミングからダリヤは距離を取るなり新解放を実行。アメジストよりも澄んだ紫の更なる煌めきを帯びた瞳でサーヴェルを見据え地を蹴った。

 瞬時に間合いをゼロに、更に増した剣速はサーヴェルでも反応できない――


()()()()()()()()()()()()()()


「…………な」


 ハズが煌刃の一閃は雲水によって完璧に防がれ、すぐさま烈火の刃をダリヤの首筋に添えてサーヴェルはしてやったりとほくそ笑む。

 ダリヤが新解放を隠していたようにサーヴェルが隠していた切り札は精霊力の部分集約。精霊力が高まるなり部分集約で強化した視覚でダリヤの動きを見切っていた。


「…………なるほど」


 ダリヤも精霊力の感じ方から部分集約によって防がれたと理解。


 勝敗を分けたのは隠していた切り札を切るタイミング。


 勝利を逸った自分に対し、最後まで耐え続けたサーヴェルが一枚上手だったと煌刃を鞘に納めつつ精霊力を解除。


「参りました」


 潔く敗北を認めるダリヤに続いてサーヴェルも烈火と雲水を鞘に納め精霊力を解除、差し出された手をガッチリと掴み。


「良き試合に感謝を」

「こちらこそ学ばせて頂き感謝を」


 最後は握手で健闘を称えあった。



 ◇



「しょ、勝者――サーヴェル=フィン=ニコレスカ!」


「……親父殿、いつの間に習得したんだよ」


 清々しい両者の握手に遅れながら勝利宣言をするエレノアを他所に肩を落とすユースにロロベリアは首を傾げる。


「お義父さまは私から部分集約について聞いてたけど、ユースさんは聞かれなかったの?」

「聞かれたけどよ……でも説明したところで意味不明だ、がっはっはって笑われて終わったんだぞ」

「そうなの? 私の説明は分かりやすいって褒めてくれたけど」

「姫ちゃんの説明で~?」

「……なんですかその顔は」

「いやだって……ねえ?」

「ロロベリアの説明って『こんな感じでー』とか『手を握る感覚でー』とかだもん」

「他には『うわー』や『ぐぬぬ』なんて言葉もあったね」


「…………」


 ユースのに同意を求められたランやルイの不満にロロベリアは何も言えなくなる。

 なんせロロベリアは元々精霊力を手足のように扱う感覚派。加えて説明下手なので今まで誰にも理解されなかったりする。

 そんな説明を理解したサーヴェルも感覚派なのか、単に波長が合ったのかは分からない。ただ精霊士でありながら制御の訓練をしていたからこそ部分集約を習得できたわけで。


「サーヴェルさんの意地が剣聖さまを上回ったか」

「かもな」


 両者の健闘とサーヴェルの三年間に敬意を表してツクヨとアヤトは拍手を送りつつ、手の痺れを取るためにミューズに治療術を施してもらっているダリヤへ視線を向けた。

 今回は試合運びも含めてサーヴェルが一枚上手だっただけ。二人の見立ててでもダリヤとの実力差はないに等しい。

 だが三強の中でも総合力、特に戦闘技能ではエニシが頭一つ抜けている。つまり二人はエニシ優勢と予想しているが――


「むろん剣聖さまもこのまま終わらんだろう」

「見応えある試合が続くな。マジ楽しいわ」


 この敗北をダリヤがどう活かすか次第との見解も一致していた。



 

まずはサーヴェルの勝利となりました。

これまでアヤトに手も足も出ず敗北した、との情報はありましたが、王国最強の精霊騎士と呼ばれながらもロロたちのように弱さを受け入れ、相手からもサーヴェルは学び続けたからこそダリヤを上回ったと思います。

この敗北後の三年間はまさにサーヴェルの強さでしたね。

そして次回で三強の戦いもラストとなります。最後までお楽しみに!



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読んでいただき、ありがとうございました!



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