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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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終章 始まりの日

アクセスありがとうございます!



 それは衝撃的な出来事だった。


『少なくともあなたの自分と相手を傷つけるやり方は間違っている』


 祖父が慈善活動の一環として保護したストリートチルドレンの一人で、最近雇われた一つ上の衛兵、程度の情報はあった。

 しかしその新人衛兵がなんの前触れもなく自分のやり方を否定してくれば、さすがに呆気に取られてしまった。

 にも関わらず新人衛兵は真っ直ぐな瞳を向けて、否定しているのになぜか悲しそうな表情で。


『何かを守ることは、まず自分が守られて学ぶものだ』


 かと思えば子どものようにニカッと笑い、よく分からない理を口にして。


『あなたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 雇われている貴族家子女に対するには不躾な口調で一方的に約束してきた。

 ただ呆気に取られてしまったが、元より頭は回る方なだけに。

 この新人衛兵が何を思い自分にこのような宣言をしたのかを理解して。

 何より身分差も関係なく、自分にこのような物言いが出来る面白さに。


『私を守るも何も、衛兵なのだから当然でしょう』


 祖父以外の前で笑ったのは初めてかもしれない。



 それから三年後――



「ワカ! よく頑張ったな!」

「アニィ……うるさい。静かにして」


 自分の手を取り励ます夫に感謝よりもまず憎まれ口が漏れてしまう。

 というのも出産を終えたばかりで疲労困憊、今まで苦痛に耐えていたからこそ精神的にも疲弊している中、耳元で叫ばれては堪ったものではない。


「あ……ああ、すまん。でもほら、俺たちの子どもだ」


 しかし嗜まれてシュンとするもすぐさま満面の笑みで夫が両手に抱える赤子を見せてくれて。


「目の色が黒いならワカ似だ。将来はきっと美人さんになるぞ!」

「……男の子と聞いたけど」


 なにより子どものようにはしゃぐ夫の姿に疲労も吹き飛び、笑みが浮かんでしまう。


「ふふ……本当に、私が母になるなんてね……」


 助産婦を務めてくれた町長の奥さんが気を利かせてくれたのか、片付けの為に退室してくれて親子三人で過ごす中、アースラから赤子を受け取りワカバは感慨深い気持ちに。

 アースラに恋をして恋仲となり、夫婦となり、今では子を産み母となった。

 貴族令嬢として産まれた以上、いつか通る人生の道筋。しかし義務ではなく自らの意思で選び、歩んだ道筋では満たされるものが違う。


「お爺さまにも……見せてあげたかったわ」


 ただその代償として失った時間もある。特に大好きな祖父にもこうして子を抱っこしてもらいたかった。


「奥さまやリョクアさまを忘れているぞ。君は不器用で捻くれていただけで、お二人も愛していたんだからな」

「そうね……お母さまやリョクアにも……」


 アースラに訂正されるままワカバは言葉を改めるも、ふと違和感を覚える。

 確かに祖父だけでなく母や弟も愛していた。

 しかし当時を知る者からすればむしろ逆に思うはず。

 それでもあの時あのような約束をしてきたアースラの心情は、当時の自分を照らし合わせればある程度の予想は付く。


「ねぇアニィ。あの時、どうして私を守るなんて言ってくれたの」


 故に三年越しの答え合わせと問いかけるワカバに対し、アースラも当時を思い返し僅かな間を空け口を開いた。


「奥さまやリョクアさまと顔を合わした後……それとシゼルさまに誘われたお茶を断った時も、ワカが寂しげな表情でため息を吐いていたから……だろうか」


 少し自信なさそうに、しかしワカバ本人すら気づいていなかった無意識な感情の吐露を指摘してくる。


「奥さまやリョクアさまにはいつも君から声をかけていた。お二人から声をかけるところを見たことがないだけかもしれないが……君は不器用だからうまく気持ちを伝えられず、それでも必死に歩み寄ろうとしていた証拠だ」


 その無意識な感情の吐露からアースラはやはり自分の心情を察してくれた。

 自分を異質に感じて遠ざける母、ライバル心を燃やして敵意剥き出しな弟。

 なにより捻くれているが故に愛情表現が下手で拗らせてばかりな自分を。


「他家の方々を遠ざけていたのも、自分の優秀さを理解していたからこそ利用されないように遠ざけていた。ただシゼルさまだけは本当に君を心配していたから、あのような表情をしていたと考えれば辻褄は合う」


 そして家族以外と接する時に敢えて遠ざけるように振る舞っていた理由も。

 公爵令嬢だからと、優秀だからと擦り寄ってくる連中に嫌気が差し、いつしか誰彼構わず不躾な対応ばかりしていた。

 その中でアースラの指摘通り、祖父が目にかけていたミフィラナ家の当主だけは純粋に気にかけてくれていると察していたから美味く取り繕えない自分に嫌気を差していた。


「ただ庭園の池に入ったり、雨の中で踊ったりの奇行も遠ざける為と考えていたが……君を知ることでただ面白そうだからやっていたんだろうと今なら分かる」


 まあ最後の理由は残念ながら少し違う。確かに面白そうも正しいが、そういった奇行を祖父も楽しんでくれるから。要は構って欲しさの行動でもあったがとにかく。

 避けられていると悟っていたからこそ、これ以上嫌われたくないと母や弟に素っ気ない態度を取っていた。また他者を遠ざけていたのも言ってみればワカバなりの自己防衛。


「だから私や相手を傷つける守り方は間違っているのね……アニィのくせに良く気づいたこと」


 それでも家族として愛されたいと歩み寄れば失敗ばかり。純粋な気持ちから歩み寄ろうとしているシゼルにまで遠ざけ、自分が傷つき、相手も傷つけるような自己防衛を見ていられなくてアースラは否定したと。

 ただ否定するだけでなく、誰も傷つかないよう守り方を教えるとの約束も踏まえて、真っ直ぐな気持ちで相手と向き合うアースラらしい真意で。


「……俺からも聞きたいんだが……なぜ俺だったんだ?」


 やはり予想通りと満足するワカバに、ならばとアースラも今さらな真意を問う。

 というのも一方的な約束を取り付けて以降も、自分たちは令嬢と衛兵という立場が続いていた。しかし一年後、いきなりワカバから婚約者になって欲しいと持ちかけられたのだ。

 最初はいつもの奇行か冗談かと捉えていた。なんせ相手は公爵令嬢、自分は平民、身分差がありすぎる上に、親密な関係でもなければ当然で。

 それでもワカバは何度も持ちかけ、初めて見た彼女の笑顔に惹かれて密かな恋心を抱いていたアースラに――


『私を守ると約束したでしょう? なら約束も守って欲しいわ』


 一年前の一方的な約束を覚えていてくれた嬉しさと。

 今後も彼女にあの寂しげな表情をさせるくらいなら、共に困難な道を歩む覚悟でその申し出を受け入れたのだが、やはりワカバの真意が気になるわけで。


「お爺さまが身分差の恋をして、お婆さまと結婚したのを知ってるでしょう」


 どんな理由で好意を抱いてくれたのか、真剣に耳を傾けるアースラを他所にワカバは赤子をあやしながらしれっと。


「馴れ初めを聞いて、素敵だなって。だから私も身分を超えた恋がしたいなって、柄にもなく夢見ていたのよ。それに学院を卒業すれば婚約者を当てられそうだったし……ならその前に自分で探そうと思ったの。で、私の夢にぴったりな相手が近くにいたなって」


「あれ……? 俺が平民だったからに聞こえる……」


 好意と言うより、とても単純な決め手を打ち明けられてアースラも微妙な気持ちに。


「切っ掛けは、そうかもね」


 複雑な感情で眉根を潜めるアースラを尻目に、ワカバは当時の自分を振り返っていた。


 自分の葛藤や孤独に気づいてくれて以降、徐々に意識するようになり。

 約束したからと言って擦り寄るでもなく、言葉通り静かに見守ってくれる眼差しに安らぎを感じるようになり。

 婚約者の話題が上がった時、最初にアースラの顔を思い浮かべたから。

 柄でもない夢を叶えるのなら、この人しかいないと捻くれたやり方ではあるが想いを伝えた。


 ただ祖父なら認めてくれると打ち明けたが、それは甘い考えで。

 最後の最後に軽率な甘えで裏切るような形で別れてしまった。

 愛されていただけに、祖父に辛い思いをさせてしまった後悔はある。


 しかしそれでも、今という時間を選んで。


 アースラを夢の相手として選んだ後悔はない。


「アヤトにも……そんな相手が現れるといいわね」


 故にこの子にも素敵な出会いが訪れるようにと、慈しみを込めて頭をそっと撫でた。

 すると気持ちよさそうに微笑む様子がまた幸せを実感させるも、しれっと名を呼んだワカバにアースラは首を傾げていた。


「アヤト? いつの間に名前を決めたんだ」

「最初からよ。息子ならアヤト、娘ならアヤトって」

「どちらでもアヤトじゃないか……」

「冗談よ。娘ならアヤリだったわ」


 もう孝行は出来なくても、愛する子を見せることは出来なくても。

 せめて愛する祖父との繋がりを残したいと。


「お爺さまから教わったあやとりに因んだ名前にしようって勝手に決めてたの」

「本当に勝手だな……でもまあ、俺が考えるよりはいいかもな」

「ちなみにアニィならどんな名前にする?」

「……もうアヤト以外に思いつかない」

「なら決定。あなたはアヤトよ」


 まあ多少捻くれた形でもアースラも認めてくれてワカバは改めて愛し子の名を呼び。


「私があなたのお母さんで」


 答えるようにきゃっきゃとはしゃぐアヤトをワカバは優しく抱き寄せる。


「俺がお前のお父さんだ」


 アースラはワカバと共にアヤトを抱きしめて――




アースラとワカバが夫と妻から父と母に変わり、アヤトという息子と共に親子として歩み始めたお話でした。同時に最後まで謎のままだった二人の出会いを含めた馴れ初めも少々ですね。

ワカバママらしく、アースラパパらしい出会いや惹かれた理由で、二人は本当に愛し合っていたんだと伝わればいいのですが……みなさまは如何でしたか。

ただもう少し二人とアヤトの時間を描いた回想を入れても良かったかな? と少しだけ思うので、どこかのオマケやSSで描くかもしれませんがとにかく、親子のお話で始まった十三章も親子のお話で完結。


…………なんですが、次回は繋がる終章となります。

つまり次章予告みたいなもう一つの終章を書いてきたように、十四章に繋がる内容なので繋がる終章なのはさておいて。

どのように十四章と繋がるかはもちろん次回と言うことで!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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