クアーラの感情
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待ち構えるように接触してきたクアーラがアヤトと向かったのは練武館だった。
ロロベリアから誘われてホノカも一緒に夕食を楽しんでいた際、明後日に帰国すると告げられたらしい。急な帰国にホノカはとても寂しがるも、明日の自主学習を早めに終えて午後から商業区を見て回る約束をして一先ず喜んでくれたがロロベリアにはサーシャやラストとの約束がある。
なのでアヤトとの立ち合いは明日の学院終了後に来られなければ無理だと伝えるようクアーラは頼まれたわけで。
しかしアヤトの実力に興味を示しているのは二人だけではない。つまりクアーラは一足先に立ち合いを申し込んできた。
「急な申し出を受け入れて頂き感謝します」
まあ興味があるのなら明日二人と一緒に済ませてもいいだけに、無理な申し出とクアーラも承知の上。故に理由も聞かず向き合ってくれたアヤトに感謝を告げる。
「ですが了承してもらえるとは意外でした」
だが無理な申し出の上に、二人きりの立ち合いを希望しても受け入れてもらえたのが予想外とクアーラは率直な疑問を続けた。
なんせ食事の席でもロロベリアからアヤトは基本面倒くさがりで、相手にしてくれるかどうかは確約できないと伝えるよう言われている。まだアヤトの為人を計れないクアーラもその評価に納得していただけに実のところ簡単に受け入れられて拍子抜けだった。
「主体性が乏しげなお前がわざわざ接触してきたんだ」
クアーラの疑問に対し面倒げにアヤトは一蹴。
「面倒だろうと断るわけにもいかんだろう」
「……どういう意味でしょう」
「さあな」
しかし意味深な口振りにクアーラは目を細めるもアヤトは無視。
「だが一つ言っておく。初めての酒でどうもハイになっているみたいでな。故に少々加減を間違えるかもしれん、そこは覚悟しておけ」
「王国でも飲酒は十八からと記憶していますが……」
「だから初の酒なんだろ」
いまいち話がかみ合わない中、アヤトは肩を竦めて話題を戻した。
「ま、水の精霊術士さまなら自分で治療も出来るか。邪魔が来る前にさっさと済ませるぞ」
「刀を抜かれないのですか」
「心配せずとも必要なら抜く」
「……わかりました」
精霊術士を相手に精霊結界の精霊器も所持せず、武器すら手にしないアヤトに躊躇はあれどクアーラは精霊力を解放。
「開始の合図は?」
「好きに始めろ」
「では――」
『蒼よ射貫け!』
希望通り遠慮なく精霊術を発動。顕現した水鏃が真っ直ぐアヤトに向けて放たれた。
「ほう?」
「――っ」
しかし着弾寸前、アヤトの姿を見失うと同時に背後から感心するような呟きが。
「俺のような持たぬ者に躊躇いなしか。やるじゃねぇか」
「……あなたの強さは本物だと先ほどお聞きしたので」
振り返ればほくそ笑むアヤトと目が合い、冷静に返すよう食事の席でミューズからある程度の実力を教えられた。
序列こそ十位でもアヤトは序列選考戦で上位九名に圧勝しているだけでなく、普段から鍛えてもらっているとも。
正直なところ信じがたい情報、それでもミューズは虚言を口にするタイプではない。加えてミューズの話に動揺するロロベリアの態度が真実だと物語っていた。
そもそもアヤトの実力が本物ならミューズのように事実を伝えてもいい。現にフロッツやレムアも疑問視こそすれ聞き流していた。
にも関わらずロロベリアは妙に濁し、まるでなにかを隠しているような反応を見せる。これではアヤトの強さに何らかの秘密があると伝えているようなもの。
恐らく三人が知らない秘密をロロベリアは知っている。隠そうとするならあまり好ましくない理由だろう。
もちろん理由までは察せられないが、秘密にするほどの理由から得た強さなら持たぬ者の常識を越えたもの。更にミューズの情報通りならアヤトの強さはロロベリア以上。
故に遠慮なく試せたが想像を軽く超える実力にクアーラは熱くもないのに汗が噴き出していた。
「ただ……想像以上で驚きました。あなたは本当に持たぬ者ですか」
「精霊術士さまなら分かるだろう」
「では、どのような訓練をすればそれほどの強さを身に付けられるのか。よければご教授願いたいものです」
「面倒だ」
一応質問してみるもまともな返答はない。
「そうですか……残念です」
好ましくない理由なら当然の対応。
だが、それほど重大な秘密をロロベリアだけは知っている。
他にはない親密な繋がりを改めて突きつけられたクアーラは、沸き上がる感情が抑えきれず――
『噴き上げろ!』
叫ぶように精霊術を発動、噴き上げる水流もアヤトは読んでいたかのように後方へ。
『降りそそげ!』
今度は動じず遠隔操作で水流から水鏃に変えて雨のように降らせるが驚異的な速度で回避されてしまう。
『阻め!』
それでも水壁を顕現して行く手を阻み、足止めしたところで地を蹴った。
『蒼き刃よ!』
「……たく」
更に水の剣を顕現、一目散にアヤト目がけて振り下ろすも再び姿を見失う。
「がはぁ!」
同時に背中に重い衝撃を受けたクアーラは突進の勢いも加わり壁面まで吹き飛んだ。
「げほ……っ。は……はぁ……」
「やはり加減を間違えたか」
背中や壁に打ち付けた痛みに堪らず治療術を施すクアーラを他所に、アヤトは右足を軽く踏みしめる。
その所作から背を蹴られたと理解はすれど、動きや蹴りの威力は持たぬ者の範疇を超えている。
理解に苦しむ実力を前に恐怖するもクアーラの闘争心は衰えない。
むしろ理解できないからこそ醜い感情が抑えられない。
アヤトの出生に関わる公国行きにわざわざ同行するなら、産まれた国は違えどミューズらもそれなりに親密な関係のはず。
なのにロロベリアだけが。
いくら二人の過去に複雑な事情があろうと。
いくら共に暮らしていようと。
「あなたはロロベリアさんを……どう思っているのですか……っ」
割り切れない感情を抱いているからこそクアーラは問いかける。
「どうと言われてもな。白いのは白いのだ」
対するアヤトは相手にしてないのか、それとも興味が無いのかおざなりな返答。
この対応がより感情を煽りクアーラは悔しさから目尻をつり上げる。
「……だから彼女の気持ちを無下にできるんですか」
「あん?」
「あなたも気づいているでしょう!」
ついには怒りを露わに立ち上がり、身体の痛みも忘れて訴えた。
ロロベリアは危ういほど感情が表に出るタイプ。現に僅かな時間でも彼女の想いにクアーラも気づいた。
そんなロロベリアと共に暮らすほど濃密な時間を共有しているアヤトが気づかないはずがない。
穏やかな性質のクアーラが見せる鬼気迫る訴えにアヤトは一瞥するなり苦笑を漏らす。
「無下にしていると言われれば否定はせん」
「だったらなぜ!」
「だがお前にとやかく言われる筋合いも、答えてやる義理もねぇよ」
認めた上で視線すら向けず一蹴。
確かにロロベリアとアヤトの関係、延いてはアヤトの本心をクアーラが言及する立場にない。
所詮は出会ってまだ四日程度。ロロベリアとも僅かな時間を共にした程度で、アヤトに至ってはまともに会話をしたのも今が初めて。
従兄弟と言えど他人に等しい間柄、このようなやり取りを煩わしく思われても仕方がない。
「分かっています……これが醜い嫉妬だと。でも、それでも許せないんです……っ」
だがそれでもクアーラは割り切れない。
出会ってまだ四日程度でも、僅かな時間しか共にしていなくとも。
「ロロベリアさんを愛しているからこそ……僕はあなたを許せない!」
初めて抱いた感情からアヤトの軽薄な行いが割り切れなかった。
お気づきだったかもですがクアーラはロロを好きになっていました。
なので……まあお門違いでもアヤトくんの態度は許せないでしょうね。その辺はアヤトくんの自業自得で、ロロはどこまで分かりやすいのかはさておいて。
クアーラの怒りとアヤトくんがどう向き合うかはもちろん次回で。
ちなみにクアーラの感情が明かされたところで、ミューズが読み取ったスフィラナ家のアヤトに向ける感情についてですが、ダイチは『期待』や『後ろめたさ』、リョクアは『敵意』や『虚しさ』、ミリアナは『不快』や『蔑み』、ホノカは『興味』や『恐れ』、そしてクアーラが『疑惑』や『嫉妬』でした。
まあ生き別れの親族に向ける感情にしてはアレですね。ミューズが念のための警戒として報告するのも分かります。
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