知るべきこと
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精霊力で強化した脚力で間合いを詰めたリースは貫く勢いで槍を突き出すも、アヤトは最小限の動作で躱す。
もちろんリースは驚かない。アヤトの実力はロロベリアから聞いている。
模擬戦も見ていたとすぐさま引いた槍を倍の速度で突く。
一、二、三、四、五と五連撃。
その全てを最小限の体捌きで躱される――しかし本命はここから。
最後の一撃を右へ躱されると同時にそのまま身体を回転させて柄の先端でアヤトの右脇腹を狙う。
突きから横薙ぎと点から線への転換は完全に虚を突く攻撃、刀が無ければ防御も出来ず、左腕で受け止めれば骨折は確実。
まさに肋骨を折る勢いで振り抜いた攻撃。
「――っ」
だがなんの手応えもなく振り抜く予想外な感触に体勢を崩し、慌てて踏ん張りをきかせ急停止。
「…………」
同時に額にトンとした感触、いつの間にかアヤトが目の前に現れ左手の人差し指で突いていた。
「もう終わりか?」
「…………っ」
今のが攻撃なのかと、苦笑も含めた挑発にリースは激怒。距離を取り再び攻め込む。
躊躇いなく突き出された槍の先端は目、喉、心臓と急所を三連撃で狙う。当たれば即死の攻撃をアヤトは強ばることなく上体を反らして躱す。
続けざま両肩、鳩尾と狙うもやはり最小限の動きで躱されてしまう。
しかも合間に先ほどと同じく額に感じる感触、見えないほどの速さで繰り出すことよりもこの態度に。
「ふざけるなっ」
この余裕を通り越したバカにする態度に歯ぎしり、リースは狙いを定めずスピード重視で絶え間なく槍を突き出せばアヤトが後退。
釣られるようにリースも一歩踏み出した。
「――っ」
だが着地と同時にアヤトは前方へ飛び込み間合いが一気に縮まり、更に勢いそのまま突き出された拳がリースの顔面を捉える。
「…………つまらんな」
しかしすんでの所で拳が開き、ため息と共に額へ人差し指を。
「やはり遊ぶ価値すらねぇ」
トンと触れるなり背を向け歩き出す。
「さすがの俺でも無手では白いのと遊ぶのは難しい。しかしお前は無手だろうと遊ぶ気力すら沸かん。それほど弱っちいんだよ」
無防備な背中に、退屈そうな声音に。
「とにかく少しは学べただろう。いくらバカなお前でもな」
何より眼中に無いとの態度に――リースは切れた。
「もう……知ったことか」
淡々とした声を漏らし左手を前へ。
避けられるなら避けられなくすればいい。
『燃やせ・焦がせ・溶かせ・全てを包む紅蓮の炎』
室内訓練場を覆い尽くすほどの炎を顕現する精霊力を詩を通して注ぎ込む。
これだけの精霊術を放てばたとえ精霊力を持つ自分の身もただでは済まない。それでも目の前にいる男の存在をこの世から消し去れるのなら安いものと、激情型のリースは後先考えず詩を紡ぐ。
「ではなぜお前が弱っちいのか、理由も学ばせてやるよ」
にも関わらずアヤトは振り返りもせず、ゆっくりと歩を進め。
『荒れ狂う朱の監ご――むぐっ!?』
しかし紡ぎ終える寸前アヤトの姿が消えて、同時に口元を塞がれてしまう。
「――ここで精霊術に頼るバカだからだ」
いつの間にか自分の左隣に立っていたアヤトが左手で口を塞いでいたと気づくもリースは力任せに床へ押し倒されて。
「ま、だからこそこれだけでは理解できんか。故にお前にも分かりやすく教えてやる」
勢いそのまま後頭部を床に打ち付けた衝撃で髪と瞳が従来の色へと戻るのを確認したアヤトは立ち上がり、が冷ややかな視線で見下ろす。
「まずお前は精霊力の制御が苦手で、槍術を優先して鍛錬をしているようだがなぜ今のようにここぞの場面で精霊術に頼る」
「…………」
「それはお前も精霊術の強さを自覚しているにすぎん。にも関わらず苦手と普段は目を背け、得意な槍術の鍛錬をする」
「…………」
「次にお前は白いのを通じ、俺の実力はそれなりに知っているはずだ。つまり俺と白いのとの間に圧倒的な差があると知り、白いのと自分の間にも差があると自覚している。ならここまで俺が告げたことは真実と理解できるはずだろ」
「…………」
「しかしお前は真実を挑発と捉え、簡単にキレる。俺の言い方か? それとも実力差を理解していないからか?」
「…………」
「違うな。テメェの弱さを受け入れてないからだ」
「…………」
「故に強くなる方法を苦手、得意という理由で目を背ける。俺の言葉を受け入れず短絡的にキレる」
「…………」
「そして敢えて言ってやるよ。お前の大好きな白いのは自分が弱いと受け入れ、自覚し、故に苦手だろうと何だろうと死ぬ気で模索し、強くなるために歩むからこそ俺と遊ぶほどにはマシになった。なら今回もバカなりにあいつは模索し、歩み、もう少しマシな遊び相手になるだろうよ」
「…………」
「もう理解できたか? お前は自分が弱いと本気で受け入れんから本気で強くなろうとしていない。その証拠に俺の実力をそれなりに知っているにも関わらず、学ぶ立場を受け入れてねぇ。この違いがお前と白いのと差だ」
「…………」
「言っておくがそんな中途半端な奴に俺の貴重な時間をくれてやるつもりはねぇよ。つまりだ」
視線と同じく冷ややかに、淡々と告げたアヤトが背を向けた。
「不服ならさっさと消えろ。お前は当日、数あわせに突っ立ってるだけで充分だ」
同時にリースの瞳から涙が溢れる。
反論できなかったのは、アヤトの言葉が真実だからで。
リースはアヤトの実力だけでなく、ロロベリアをわずか二ヶ月でエレノアに勝利するほどまで実力を伸ばした手腕も認めていた。むろん彼女の努力があってこそ。
しかしアヤトが居なければこの飛躍はない。
故に父から今回の指示を受け不服に思いながら、良い切っ掛けとも内心感じていた。
このまま親友に置いて行かれない為には、同じくアヤトに師事を受けるべきと。
ただやはりアヤトの態度や言葉遣いは嫌いで、その一言一言が事実と分かっていながら受け入れられなく、不遜な態度をとり続けていた。
恐らくアヤトは自分がなぜ父の指示とは言え受け入れたのか、その理由も察している。でなければここでロロベリアとの違いを持ち出さないだろう。
加えて最も胸に刺さった言葉。
自分の弱さを受け入れてない。
ロロベリアより、アヤトより弱いと自覚していた。
しかし本気で受け入れていない。
だから強くなる方法、精霊力の制御も苦手意識で疎かにし、得意で元々好きな槍術の鍛錬ばかりしていた。それが自分に向いていると、苦手意識を言い訳にして。
そしてロロベリアも、アヤトも自分の弱さを受け入れている。
特にラタニから聞いたようにアヤトは精霊力という才能がない自分を受け入れ、ならばどうすれば良いか、強くなれるかを模索し続けて規格外の強さを得ている。非合法の実験による副作用さえ物にして強さに変えて。
ならばここで受け入れなければ、もう親友と並べる強さを得られない気がして。
溢れる涙をごしごしと拭き、リースは立ち上がり。
「わたしは……あなたが苦手じゃなくて大嫌い」
「だろうな」
「偉そうで、なに考えてるか分からなくて、ロロを振り回してばかりで、むかつく」
「かもな」
立ち止まることなく脱いだコートを取りに向かうアヤトの背に、本心を伝えて。
「でも……実力は認めてる。だから……強くなる方法を……教えてください」
しかし父親に強制されたとの理由ではなく、自らの意思で特訓を申し出て、深く頭を下げた。
その申し出にようやく振り返ったアヤトは苦笑を浮かべていて。
「最初から学ばせてやると言ってやっただろう。やはりお前はバカだ」
「……やっぱり、むかつく」
やはり不服を口にするも、リースは初めてアヤトに笑顔を向けられていた。
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