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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十三章 叶わぬ夢を花束に編
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対峙と抑制

アクセスありがとうございます!



 派閥の定期集会を終えて帰宅する中、ガイラルドの気づいた違和感から馬車が停車。

 外の様子を確認しに出たガイラルドに変わって、馬車に入ってきたのは奇妙な仮面を被ったアヤトで。


「こちらも元より顔を隠したままお話するつもりはない」


 そのアヤトは言葉通り仮面を外し、続いて腰後ろの朧月と月守を外してドア付近に立てかける。


「とまあ目的はあんたとのお話し合いだが、信じられんのなら精霊力は解放したままでいいぞ」


 争うつもりがないと武器を手放し、先ほどガイラルドが座っていた対面に着席。

 現れ方に対してあまりに無防備な様子にアドリアは警戒心を強めるが手は出さない。


 正確には手を出そうにも出せない。


「むろんだからといって無抵抗とはいかん。そちらが仕掛けてくれば俺も相応の対応はさせてもらうがな」


 挑発的に笑いながら自分を見据える漆黒の双眸から伝わる圧。

 ガイラルドが忠告した言い表せない不気味さを今さらながらアドリアも感じ取っていた。


「……なら、お言葉に甘えようか」


 そもそも現れ方からして充分不気味。

 故に手は出さないが精霊力を解放したまま、自制心を総動員させながら落ち着いて対峙した。



 ◇



 一方、馬車から二〇〇メル近く引き離すのに成功したものの、ガイラルドに正体を看破されたフロッツと言えば――


「あ~もう……なんでバレちゃうんだよぉ……」


 肩を落として嘆きつつ、観念したように仮面を外していた。


「バレなきゃ俺だけでも免れると期待してたのに……やっぱ付け焼き刃のお祈りくらいじゃ神さまは許してくれないのか?」


 続けてぶつぶつと呟きながらフードを取ってため息一つ。


「ガイラルド殿はどう思う?」

「……ふざけるのも大概にしろ!」


 問われたガイラルドは軽薄な態度に怒り心頭、目をぎらつかせて怒声を浴びせるもフロッツはどこ吹く風で。


「そう怒らないでくれよ。俺も保護者として仕方なーく協力してるだけなんだからさ」

「協力だと……?」

「ああ、御者は気絶してるだけで外傷もないから安心してくれ。それとアドリアさまにも別に危害加えるとかじゃなくて、アヤトくんがお話ししてるだけだからそっちも安心……アドリアさまが手を出さなければだけど……変わらず静かならまあ一先ず問題ないだろ」

「……アヤト=カルヴァシア? あいつも居たのか」

「いや、だからこっちの目的はアドリアさまとのお話し合い。んで、俺はそれ終わるまであんたの引き留め役みたいなもんだ」

「…………」

「……ああ、うん。そりゃポカンとするよな。俺としてもアヤトくんのデタラメ加減に改めてポカンだったし」


 次々と語られる情報に理解が追いつかず唖然とするガイラルドを他所に、ここまでの経緯を思い返してフロッツも頭をかく。

 なんせアドリアやガイラルドの馬車を人気の無い場所まで移動させたのはほぼアヤトの仕業。


 まずアドリアが派閥の定期集会に出席する為、商業区にいるとの情報を得ていたアヤトは料理屋を出て間もなくフロッツを抱えて瞬時に御者台へ移動。

 御者が気づくより先に首筋に指を当てて昏倒、この時点で既にデタラメだったはさておき、抱えていたフロッツを御者台に下ろして離脱した。

 後はフロッツが手綱を握り馬車をここまで移動させたと、つまりフロッツの役割は御者役のみ。

 ガイラルドに気づかれた後は馬車を停めて後ろに待機、油断しているところを狙って飛翔術を駆使して引き離しに成功。


 ただ暗闇と走る音や振動で気づかれにくいとはいえ、走る馬車を乗っ取ったのだ。

 フロッツが精霊力を解放したまま近づけばガイラルドに気づかれると抱えてもらったが、腕輪方の精霊器で自身の重量を無くそうとひと一人を抱えて御者台に、しかも音も立てず移動した技量。

 ちなみに御者役を任されたのはアヤトが馬車を操れないとの理由から。あれほどの神業を成功させる技量を持ちながら御者が出来ないのもある意味デタラメな存在か。


(もしアヤトくんが暗殺者なら……うん、考えるのやめとこう)


 とにかくアヤトのお陰で不可能な馬車乗っ取りを成功させたわけで、もちろん人知れずこの場を用意したのは驚かせる為ではない。


「まあでも、これはそちらさんを思ってのことでもあるんだ。ここは一つ、お話し合いが終わるまで大人しく俺とお話しして待ってようぜ」


 かなり乱暴なやり方はスフィラナ家にとって利にもなるとフロッツは説得するが効果は無く。


「きさま……ふざけるのも大概にしろと言ったはずだ! このような所業をしでかして目的が話し合いだと? スフィラナ家の為だと? 何をバカなことを!」

「バカでもないんだなこれが。だから今は俺を信じてお喋りしながら待って――」


『もういい……っ』


「――くれないよね、やっぱ」



 むしろ飄々とした態度がガイラルドを完全に怒らせ、漆黒の槍を顕現させる結果に。


「これ以上きさまの戯れ言を聞くつもりはない。今すぐアヤト=カルヴァシアも捉えて衛兵に突き出してやる」

「公爵当主の馬車を襲撃だもんなぁ……。ほんと、ヤバイやんちゃだわ」


『聞くつもりはないといったはずだ!』


 それでも飄々とした態度を改めないフロッツに容赦なくガイラルドは精霊術を発動。四方を取り囲むように岩棘が飛び出した。

 

「ダイチさまも多少のやんちゃなら何とかしてくれるって言ってたけど……多少じゃないから無理か」


 対するフロッツは伸びきる前に上空へ回避。更に岩棘の一本を蹴りつけた反動で後方に降り立つ。


「ふん!」


 しかし発動と同時にガイラルドも飛び出し黒槍で追撃をかける。


「なら俺たちは牢獄行きか? いくら保護者でもそこまで一緒なのは勘弁して欲しいぜ」


(こいつ……っ)


 だが当たらない。軽口を叩きながらもフロッツは体捌きのみで躱し続ける。


「それに俺たちが牢獄行けばヒフィラナ家に迷惑かけるし――」


『舐めるなぁ!』


「――なによりダリーと会えなくなる」


 ならばと突き出した黒槍を至近距離で四散させるも、先読みしたように寸でのところでガイラルドと入れ替わるように横をすり抜けてしまった。


「会えてもめっちゃ叱られて俺の好感度だだ下がりじゃん……」


 すぐさま振り返り反撃に備えるも、数メル先で足を止めたフロッツは反撃する素振りすら見せずうな垂れるのみで。

 怒り任せの攻撃とは言え、一連の見切りや流れるような体捌きから只者ではないと感じ取ったガイラルドの心構えは否が応でも引きしまる。


「どうやら……噂以上の実力者らしいな」

「あれ? 俺のこと知ってんの?」

「保有量の多さや精霊術のセンスに長けた教国精霊術士団の有望株、くらいは私の耳にも届いている」

「そりゃ光栄なことで」

「だがそれ以上にサボり癖から十二分に才覚を発揮させられない堕落術士だとも届いている」

「……そりゃ光栄なことで」


 自身の評価にフロッツは苦笑を漏らすが、ガイラルドは緊張感を緩めない。

 解放したことで感じ取れる保有量は上位精霊術士の平均程度と噂ほどではないが、言霊で飛翔術を扱える精霊術のセンスは充分な才覚と言えるだろう。

 またへらへらと締まりのない表情や飄々とした態度から噂通りの人物と踏んでいたが、実力に関しては噂以上だ。


『……もう私に慢心はない』


 故に再び顕現した黒槍を握る佇まいは油断なく、見据える瞳も冷静で。


「やる気満々なところ悪いけど、俺がしたいのはお喋りなんだって」


 にも関わらずフロッツは変わらず軽口を止めようともしない。


「それにさ、明るみに出ればヤバイのはそっちも同じ」

「全力でいかせてもらう」


 目を細めるガイラルドの圧を受けながら、ため息交じりにフロッツは続けた。


「なんせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、スフィラナ家は終いだ」


「……なんだと?」 


 その言葉はガイラルドの気を引くには十分な効果があった。




アヤトくんとアドリアさま、フロッツとガイラルドがそれぞれ対峙。

馬車を誘導した理由は相変わらずなアヤトくんでしたはさておいて、まずはフロッツとガイラルドの様子からとなります。

またフロッツの実力が少しだけ描かれましたが、それよりもまずはガイラルドを抑制したミューズ襲撃の真相についてを次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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